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19GOGO [ okadashumi ] 何でもないけどとんでもない ちょっとした事たいした事

「ささやきが聞こえて」

2006年06月28日 | Weblog

以前住んでいたマンションはとても便利で1階はベーカリー、
となりが夜11時まで営業するスーパー。おまけに角をまがると
小さなビデオ店があって、実はこのビデオ店のおかげでたらふく
映画三昧が出来た。しかしウインドウはほとんどアダルトビデオ、
どうにも店に入るのが気恥ずかしいが、この店なぜか受けない
極上の珍ビデオがころがっていて僕的にはしごく重宝だった。

そこである夜、期待もせず「幸福の選択」なるビデオを借りた。
当時、デミ・ムーアの「幸福の条件」が世を騒がせていて、何とも
紛らわしい便乗タイトルなのだが、主演はジョン・マルコビッチと
アンディー・マクダウェル。ともに好きな役者。
パッケージのライナーノーツを見るとロンドンでホテル住まいをする
スノッブなカップルのファッショナブルなライフスタイル??とある。
しかも『あなたとは「SEX」と「靴」と「外食」はおしまないと言われたから
一緒になったのよ』とマクダウェルの台詞。
う~む。これは寝ころんで見るにちょうどいいと持ち帰る。

ところが以外。
ようはこうだ。

世界に20体しかないヘンリー・ムーアの小さなブロンズ像をめぐる話だ。
それは無骨でごろんとした不恰好なトロフィーの出来損ない。

これがある日盗まれる。
それはアンディが別れたXハズからプレゼントされたもので一応大切に
ホテルのベッドサイドに飾っていたもの。
おりしも、彼(マルコビッチ)のビジネスが資金繰りに窮する事態。
ふたりはブロンズ像を質草にして急場をしのごうと話していた矢先だけに
双方疑心暗偽におちいる。
保険会社の調査員は資金繰りに困るふたりと、この部屋のベッドメークを
担当するメイドの小娘を疑うのだが。
メイドの彼女は忍(差別用語承知ですみません)。
口の不自由な。つまり耳が聞こえなから喋れない。

実は、彼女は一晩のつもりでブロンズ像を家に持ちかえっていた。
翌日、出勤時には元どおりに返しておこうと思いながら。
彼女は姉1人弟1人の貧乏暮らし。
彼女の稼ぎで何とかパンクな弟を学校に通わせている。
そのパンクな弟が帰宅後、無造作にテーブルに置かれていた無骨な金属の
物体を見つけるや、金にならないかと悪仲間のボス、八百屋の兄貴の所へ
持ち込んでみるが・・・・・
「こんなガラクタ盗むひまあるなら銀のスプーンでも持ってきなっ」と一笑にふされ
パンクな弟は悪がき仲間と一銭にもならない無骨な物体でキャッチボール
まがいの遊びの果てに、場末のゴミ溜めにほうりすてて帰宅してしまう。

翌朝、新聞は「5万ポンドもするヘンリー・ムーアのブロンズ像盗難!」と
事件を大きく報じる。しかも発見者には賞金が。
慌てた八百屋の悪兄貴、パンクな弟を呼びつけるや
「あのガラクタどこへやった」「早く持ってこい」「少しは金をやるから」と
冷静を装いながらも目を血走らせて探させるのだが。
そのブロンズ像は翌日も誰の目にも止まらずゴミ溜めでゴミと同化していた。

そのころ、ホテルでは担当メイドの姉が疑われる大騒ぎに。
姉は人知れず帰そうと慌てて帰宅し、ブロンズ像を探すがどこにもない。
そこへ帰宅した弟を問い詰めた挙句、弟は場末のゴミ溜めから無事持ち帰る。
そうして翌朝、何事もなかったかのごとく姉はベットサイドに戻すことができた。
ここで事件は一件落着。なのだが。。。

保険会社の調査員は調書作成のため、彼女の自宅へ事情聴取に尋ねてくる。
そこで、調査員「どうして盗んだのだね」
忍(耳も聞こえず喋ることもできない)の彼女はおもむろに紙を持ち出し書き始める。
画面はそのメモをクローズアップ。
そこにはたった一言「ささやきが聞こえて」と。
劇中、彼女が初めて発した言葉、唯一の台詞が「ささやきが聞こえて」なのだ。

金持ちや知識人たちにとって、ヘンリー・ムーアの彫刻は5万ポンドの価値がある。
貧乏人や無知なやからには、そのブロンズ像は銀器に劣るただのガラクタ、ゴミだ。
しかし、ひとたび、それが高名な作家の彫刻と知れば、ガラクタは宝と化し血走る。

ところが、無学で教養などまるっきしない忍の姉には
それは、彫刻でも、ヘンリー・ムーアでも、5万ポンドでも、ガラクタでも、ゴミでもない。
ただただ純粋に 「ささやきが聞こえた」 生きた何者かだったのだ。

彫刻家が魂を込めた像のささやき。
ヘンリー・ムーアのささやき。
彼女は、そのささやきが聞こえた唯一人だったのだ。

事の物の人の真贋。

世の大方は、有識者も無学な者も、外見、姿かたち、背景、肩書き、が決めてだ。
つまり何もわかっちゃいないのが世の常。

価値を見極める、嗅ぎ分ける、感じ取れる、そこにはそもそも知識も教養も情報も
必要ない。「聞こえるか聞こえないか」「見えるか見えないか」「感じるか感じないか」。

さて、あなたはどちらだ?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


【本日のおすすめ】

◆邦題「幸福の選択」1990
邦題にだまされ、テンポはバットだが原題どうりで納得。
"The Object of Beauty"
ジョン・マルコヴィッチ
アンディ・マクダウェル

ヘンリー・ムーア財団
Henry Spencer Moore



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6 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (miri)
2006-06-28 15:07:05
すごく引き込まれました。。

私も映画、観てみます。



私は…

「聞こえたい、見たい、感じたい」…。



いつも意識的に感覚に身を委ねようと思います。
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Unknown (stimulis)
2006-06-28 15:59:20


◆miriさんやい♪



映画は決してラブロマンス、ラブコメディー

じゃ~ないし、英独合作でイマイチ展開がとろいけど

ブログに書いたとおりの趣旨の映画なので

その点を楽しめれば◎。

あと、僕的にはラストシーンが好き。

なんでもない、サルジニア島でのバカンスシーンが。





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Unknown (michiko)
2006-06-28 21:14:16
うまく言えませんが、

最近、匂いがとっても気になります。

どんなに話が楽しくても、どんなに魅力的な外見でも

一緒に居る時の「匂い」相手の熱とともに発せられる

匂いを一番の価値として大切にしているような気がします。

まったく検討違いなコメントでスイマセン!

実に聞こえない、見えないはずからのささやきは本質の声なんでしょうね。

本質を感じ取れるようになりたいです。

まだまだ外の声に負ける日々ですが.....。



真っ暗な夜の海に飛込むと真っ黒い水のなかで「何か」がわかって聞こえるような気がします。

いまだ残念ながら「気」だけですが。

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Unknown (stimulis)
2006-06-29 00:18:31


◆mihoさん!

「匂い」かぁ~ 気になる話だ。

変な話、自分の匂い結構気にしているのですが

こればかりは親しい女性ではなく

他人の女性からの感想をもらわないと

わからないですよね。

*いい年で、叔父さん臭

*タバコを吸うからタバ臭

*季節柄、スエット臭も加わるし



ところで「香」についてはブログの「夢の元」に

夢として目に見えない「香」の力について書いてます。





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Unknown (mihciko)
2006-06-30 10:55:33
「香」のブログ早速拝見しました。

素敵な夢です!

私はその逆で、せっかく女性に生まれたので

私だけの香りをつくってもらうのは夢なんです。

自分が好む香りと、「私」の香りって違うのでしょうか....

いずれ叶うといいなぁ。

香りってシーンをスイッチする大切な道具ですよね。
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Unknown (stimulis)
2006-06-30 14:12:09
◆michikoさん



「香りってシーンをスイッチする大切な道具」

名台詞ですね。

シーンをスイッチする大切な道具

ほかに何があるでしょう?

ちょっと考えたくなるお題だなぁ~



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