Simplex's Memo

鉄道と本の話題を中心に、気の向くまま綴ります。

三岐鉄道・北勢線の乗客増。しかし・・・。

2006-06-01 06:14:25 | 鉄道(地方・専用線など)
昨年の今頃、三岐鉄道北勢線の乗客増に関する記事を書いた。
同線の昨年度の実績はどうだったのだろう・・・と思っていたが、こんな記事を見つけた。

「三岐鉄道・北勢線の旅客数 昨年度は7%増」(中日新聞、5/31)

記事の要旨を整理してみる。
○昨年度の北勢線利用者数は前年度比7%、13.5万人増の約206万人。特に定期外利用者が11.2万人増の67.8万人と大幅に増えた。
乗客増の理由として三岐鉄道側は駅舎のリニューアル・ダイヤ編成の充実に加えて愛・地球博をはじめとする一時的な外出に利用されたと分析している。
 今年度は列車増発などの施策で更なる乗客増を図るとしていたが、脱線事故の影響から今年4月の利用実績は昨年同月の実績から2%減少した。
○営業損失は約4.6億円の赤字、営業費は約7.8億円に上っている。旅客収入自体は前年度比10.7%、0.3億円の増加。

駅舎のリニューアル、ダイヤ編成の充実などの施策が着実に旅客増に結びついているものの、まだ投資を回収するには至っていないことが読みとれる。
ただ、北勢線発足時に沿線自治体が「10年間で55億円、このうち赤字補填は同じ期間で20億円程度」の財政支援を行うことが約束事となっているが、想定では年間2億円の赤字が実際は倍以上という状況に変化がないことが気にかかる。
このままの収支であれば、沿線自治体の追加出資は避けられないので10年後に議論が出るのは必至だろう。

それからもう一つ。
北勢線の終点、阿下喜駅に保存されている蒸気機関車「弁慶号」の処遇を巡り沿線自治体と三岐鉄道で組織する「北勢線対策推進協議会」と同会から「弁慶号」の管理を委託されていた「北勢線とまち育みを考える会」の対立が決定的になったことを知る。

「北勢線SLの管理委託解除 長年保存の下松工業会、対立で困惑」(中日新聞、5/31)

事の発端は「北勢線とまち育みを考える会」が「北勢線対策推進協議会」の数度に亘る中止要請を無視する形で「弁慶号」に火入れを行ったというものだが、これに対して北勢線対策推進協議会が管理委託を解除に踏み切った。

経緯を見ると「動かすことに対応した保険も適用が受けられない。安全面も煙害の関係も前提条件がクリアできない」とする「北勢線対策推進協議会」の主張にはそれなりに筋が通っているように思えるが、前者については保険会社との交渉になるだろうし、安全面についても三岐鉄道を関与させて責任を分担する、煙害については事前に説明を行う、といった対応が必要ではなかったかと考えてみたりもする。
しかし、推進協議会の側から見れば管理委託先が独走したという思いがある以上、そういった対応は取れなかったのだろう。

一方、管理を委託された「北勢線とまち育みを考える会」の主張は「火入れをしないと腐食が進む上、蒸気ブレーキも使えないため危険が増す。協議会は無知がひどすぎる」というもの。
引いた目で見ると自己主張が強すぎるような気もする。
普通、「火入れ」をする前に推進協議会に相談するものと思うが、それもしなかったのだろうか。
仮に相談して蹴られたからと言って、妥協点を見いだすのが普通だが、それを強行して話し合いの余地を自ら狭めるのもいかがなものか、という気もする。

結局、推進協議会にしてみれば「中止要請」を蹴られて面子を潰されたから管理委託を解除、対して「北勢線とまち育みを考える会」にしてみれば、推進協議会がわからず屋だから強行したに過ぎない、そんなわからず屋が自分たちの主張も聞かずに管理委託を一方的に解除するとは何事、ということなのだろう。

・・・と書いてみたが、とても「大人」の対応とは思えない。
両者が双方の面子に拘ったが故に生じた事態という印象しか受けないのだが。

趣味的には来年三月の「弁慶号」の返還期限を待たずに、本来の保存先である山口県下松市へ返還される可能性が出てきたことが残念でならない。
仮に返還が繰り上がらなかったとしても、「非公開」になってしまう可能性もある。

月に一度公開される「弁慶号」を目当てに阿下喜までやってくるお客さんのことを考えると、これらはプラス要素とはとても言えない。
双方、何とか歩み寄りを見せて欲しいものだが、記事を読む限り難しそうだ。

ただ、行政と鉄道に関心を持つ住民団体が対立しても長期的には何ら益をもたらさない。
そのことは確かだろう。

最新の画像もっと見る