Simplex's Memo

鉄道と本の話題を中心に、気の向くまま綴ります。

地方鉄道・路面電車と地域の活性化に関する二冊の本。

2005-01-06 23:15:00 | 読書録(鉄道)
バブル崩壊以降、地方鉄道・路面電車の存廃が議論されるようになって久しい。
現に岐阜県では岐阜市の路面電車がその幕を下ろそうとしているし、県内の第3セクターも青息吐息の状態が続いている。

年末に、これら地方鉄道・路面電車の存続には何が必要かをまとめた本が二冊出た。

(1)「プロブレムQ&A どうする?鉄道の未来」
 帯に「鉄道を再生・活用するための市民運動マニュアル」とあるように、存続に向けたマニュアル的な色彩が強い。このため、数値的な裏付けよりも事実の列挙に終始しており、新味は薄い。
内容的にも他の交通手段に対して鉄道の環境面での優位アピールに終始し、「どう運動を進めれば良いか」に重きを置いている。このため、あまり興味が持って読めなかった。もっとも、市民運動の考え方は理解できたけれども。
また、「市民運動マニュアル」というキャッチコピーに政党色を感じてしまったのもマイナス点だと思う。

(2)「ローカル線に明日はあるか 実態検証!地方鉄道・路面電車」
 こちらはローカル線の現状を検証・分析し、存続にはどういった手だてが必要かまとめている。その意味では前者と被る要素は多い。
 ただ、こちらは帯に「鉄道経営の学術書」とあるように、数値と技術的な話が頻出し、分析面に重きが置かれている。しかし、読みにくいかと言えば、そんな事は全くなく実に平易にまとめられていて実に読みやすかった。
特に「回帰分析」によるローカル線のあり方については、非常に参考になった。
 鉄道ファンが読むならこちらの方が良いのではないだろうか。

この二冊に共通するのは、「地域住民の強力なバックアップがなければ地方鉄道(路面電車含む)の存続はあり得ない」ということだろうか。あくまでも「鉄道ファン」ではなく「住民」である。
現に廃止の危機を脱した万葉線やえちぜん鉄道の事例では住民が知恵を出して行政を動かし、結果として存続に繋げている。
逆に「住民のバックアップが得られない鉄道」は存続できないということでもある。
現に岐阜の路面電車がそうなりつつある。

そのことが改めてよく理解できる2冊だった。個人的には「ローカル線に明日はあるか 実態検証!地方鉄道・路面電車」の方が事例を多く、かつ具体的に分析しているため面白く読めた。
こちらの方が安い分、手にとりやすいと思う。

<データ>
「プロブレムQ&A どうする?鉄道の未来」緑風出版
鉄道まちづくり会議・編
価格1,800円(本体)

「ローカル線に明日はあるか 実態検証!地方鉄道・路面電車」交通新聞社
浅井康次
価格1,238円(本体)


 

最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
深謝 (浅井康次)
2005-03-02 11:01:31
「ローカル線に明日はあるか」著者の浅井でございます。有り難い書評を頂きまして恐縮の限りです。堅い職業柄、小職には数字の解説しか書けませんが、本書は、有田鉄道の廃止に涙し、鉄道に架ける人達の熱き心の部分を前面に出すべくコラムなどを多く設けました。採算性のみで事業の存廃を論じて行きますと、鉄路は新幹線と一部の都市圏鉄道だけになり、路面電車やローカル鉄道は近い将来姿を消すでしょう。このような強い危機感から上梓に至ったものであります。とりあえず、お読み頂いたことに深く感謝致します。
返信する
こちらこそ恐縮です。 (Simplex)
2005-03-03 20:50:55
初めまして。

著者の方から直接コメントを頂けるとは思いも寄りませんでした。

本書からは路面電車やローカル鉄道の今後に関する強い危機感を見て取ることができました。

残念ながら、非常に厳しい状況が続いていますが、これが好転する日は来るのだろうかと思うと何ともやりきれない気持ちになりました。



昨年読んだ鉄道関係の本では個人的に上位にランクされる本だと思いました。

次作を楽しみにしております。
返信する