Simplex's Memo

鉄道と本の話題を中心に、気の向くまま綴ります。

DMVを公共交通整備計画においてどう活用すれば良いか?

2005-02-22 06:41:24 | 鉄道(地方・専用線など)
前回DMV(デュアル・モード・ビークル、以下「DMV」)に触れた時は、鉄道会社側からの動きを中心に見た。
導入を検討している鉄道会社は、線路と道路を自由自在に動けるDMVの最大の長所から導入を検討しているのではなく、「安価に調達できる鉄道車両」という点から導入したいのではないかという趣旨のことを書いた。

DMVは線路と道路を自由に行き来できるため、従来の駅に拘らずに道路が渋滞している都市中心部は線路、スムーズな通行が可能な郊外部は道路を走るといった具合に柔軟性に富んだ新路線を比較的安価に構築できるのではないかと思っている。
しかし、それはJR北海道のようにグループ内にバス会社を持ち、地域の公共交通について独占的な地位にある企業でなければ難しいのではないか、とも思う。

鉄道事業のみ経営している第三セクター鉄道がDMVを用いて先述した路線を構築しようとしても、その目的、資本力、地域のバス会社との利害調整が必要となる点から難しい。
そもそも第三セクター鉄道の第一の使命は地域に密着した生活路線の維持であってそれを乗り越えて地域の公共交通再編の核になる役までは求められていない。しかもその路線の経営ですら青息吐息というのが現状である。
そう考えてみると、鉄道会社、特に第三セクターをはじめとする地方の中小私鉄がDMVを導入することはあるとしても、地域公共交通体系再編の核になる機会を得るのは極めて希ではないか。

では、本来、地域の公共交通体系を模索すべき行政がDMVの導入を考えたらどうなるか・・・?
そんな事を考えて自治体のHPを彷徨っていたら、興味深い事例を見つけた。
「富士市公共交通網整備に関する基本指針(案)に対する意見募集」

静岡県富士市が公共交通網整備に関して基本指針を策定しようとパブリックコメントを募集しているが、その中に中期~長期の整備目標として「道路と鉄道のシームレス化」を目的としてDMV導入を検討するという。
ちなみに、基本指針(案)中「中期」は5年~10年、「長期」は10年以上の期間内に導入を検討すべき施策として位置づけられている。

基本指針(案)におけるDMVの導入案を見ると、新富士駅と富士駅の間を結ぶ路線が一番現実味がありそうだ。
新富士駅から新設される中間駅までは道路を走る。中間駅で道路から線路へのモードチェンジを行い、ここから富士駅までは既存の工場専用線を走る。富士駅で再度モードチェンジを行って道路へ、はたまた岳南鉄道線へそのまま乗り入れて吉原へ、吉原でモードチェンジを行い道路を走り東田子の浦駅を結ぶ路線が構想されている。

構想を見ると、DMVの長所を上手く引き出している。正直、この時期にここまで詰められた構想が出てくるとは思わなかった。
構想の中ではモードインターチェンジの場所まで言及されており、事務的にはかなり詰まった案ではないかと思う。
後は「DMVはバスか鉄道車両か」といった法規上の解釈、従来の鉄道車両との混在走行は可能か、事業主体の検討、モードインターチェンジの用地取得といった問題、肝心のDMVの実用化の進行状況、という問題がある。
これらについては時間の中で解決されていくのだろう。

基本構想(案)では事業費に触れていない。中長期的に整備を検討すると位置づけされた計画であるため、現段階で事業費が出たとしても意味はあまりない。
ただ、モードインターチェンジ部分しか用地買収が必要でないこと、既存の線路・道路といったインフラを最大限活用するDMVの特性を考えると、新交通システムやモノレールのそれに比べて格段に安い、常識破りなまでに安価な事業費に収まるのではないか。

富士市の構想が実現すれば、既存の新交通システムやモノレールよりは遙かに安価で柔軟性に富んだ公共交通体系になるのではないだろうか。
それに、視線を上げなければ目に入ってこない新交通システムやモノレールに比べて、視線をちょっと左右に動かせば目に入り、どこへでも乗り換え不要で移動できるDMVの方がその効果を実感でき、身近で便利な交通機関に映る可能性はある。
新交通システムやモノレールが最初は物珍しさから利用されるが、後々建設コスト等の回収による高運賃がアダになり利用者数がジリ貧になるケースが多いことを考えると、建設コストが格段に安く(=運賃も格安に設定できる可能性がある)、路線設定も利用実態に合わせて柔軟に対応できるDMVの方が地方都市の公共交通機関に向いているのではないか。
もっとも、バスや電車に比べるとデザインの向上余地はあるが、そんな事より便利に使えることの方が大事だと思う。

そういえば、今月号の鉄道ファンにDMVの運行管理にGPSを活用することを決定し、2月15日から始まっている日高本線での運行試験の中でテストしている旨の記事が掲載されていた。その意味からも信号によって位置を管理する従来の鉄道車両とは一線を画している。

あと興味があるのは、先述した法解釈の問題がある。DMVがバスか鉄道車両か、この結果で定義されることになる。
DMVについては「NAVI」でも紹介されている記事を見たことがあり、鉄道車両ではなく車(バス)の一変種と見ることもできるなと改めて実感した。

法解釈の結果によっては鉄道趣味のカテゴリーに新たな分野が開拓されることになる。
その意味からも国土交通省の解釈が実に楽しみだ。

そして富士市に続いてDMVを公共交通整備の選択肢に挙げる自治体は出てくるのだろうか?

関連記事:「DMVはローカル線の救世主になるのか?」

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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
モードインターチェンジの用地 (富士市民)
2005-02-25 00:08:24
富士市の話題が出てたので、思わずコメントさせて頂きます。

検討がされてたのは知ってたんですが、ここまで考えてるとは思いませんでした。



見て思ったんですけどモードインターチェンジの用地って、全て私有地か鉄道会社の余ってる土地なんですよね。



富士駅-新富士間の中間駅は、大昭和製紙時代に日本製紙から買い取った土地で今再開発予定中ですし、岳南鉄道途中駅の所は、市が道路建設のために買い取った自動車学校の跡地(結構広い)ですし、岳鉄終着駅は、昔沼津までの延伸計画があったので、土地が余ってるし。



金かけないで結果が出るように考えてるなと思いました。
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貴重な情報、ありがとうございます。 (Simplex)
2005-02-26 21:12:06
はじめまして。

地元の貴重な情報ありがとうございました。



>モードインターチェンジの用地って、全て私有地か鉄道会社の余ってる土地なんですよね。



モードインターチェンジを整備するに当たって遊休地を有効に活用するのであれば用地買収費も安価で済むのであれば、殆ど事業化への障害はなさそうに思えます。

あとは、岳南鉄道が構想に乗ってくれるかどうかがカギになるのではないでしょうか。
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TBありがとうございました。 (sago)
2005-09-01 21:03:46
私からもさせていただきますね。富士市の記事を書くつもりが浜松でのLRTへの取り組みになってしまいましたが、いまだからこそ「路面電車」という発想が面白いですよね♪
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