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曽田修司の備忘録&日々の発見報告集

マネジメントと経済学

2005-10-29 01:03:01 | アーツマネジメント
昨日のブログ記事の続き(補足)。

NPO法人トリトン・アーツ・ネットワーク(TAN)の第一期評価委員の一人である早稲田大学経営専門職大学院(ビジネススクール)教授の平野雅章氏が、評価事業報告書の中で次のように述べている。

(以下引用)
経済学は、社会全体の厚生(welfare)を極大化し、それをどのように社会的正義に基づいて分配するかということを考える学問である。一方、組織の目的をどのようにしたら極大化できるかということを考えるのが経営学やマネジメント(である)(引用終わり)

平野氏がこのように述べているのは、「TANに限らず、アートの分野では経済学と経営学のアプロウチの区別があまり意識されていないのではないか」という問題提起のためである。このあと、TANの経営にももう少し経営学的な(マネジメントの)発想を強く取り入れるべきではないか、という趣旨の論が続く。
具体的には、マネジメントを考える条件として、「目的(ミッション)」、「戦略」、「評価尺度」の3つの局面に分け、目的(ミッション)を明確にすること、顧客の視点を重視すること、競争を意識すること、価値創造を目指すこと、などがあげられている。

私は、これを大変おもしろく読んだ。

というのは、このような定義に照らし合わせてみると、私が在籍している跡見女子大学マネジメント学部における「マネジメント」はずいぶん変り種ということになるのではないかと思ったからである。
跡見のマネジメント学部は、従来の経営学部で主に扱っているような民間企業の経営に関する事柄とともに、公共マネジメントというくくりで行政機関や市民参加などのマネジメントを、さらには、文化マネジメント(アーツマネジメント)をも対象領域として取り上げている。
ということは、跡見でいうマネジメントは、それらを統合的に考えれば、従来の「経営学」(「マネジメント」)の範囲を超えて、「経済学」のアプローチに接近していることにならないだろうか。そして、この場合、「経済学」の中身は当然これまでのそれとは違っていることになる。

だが、逆に、公共(政府)部門のマネジメントに民間企業の経営手法を適用するニューパブリックマネジメント(NPM)の動向を考えてみると、公共(政府)部門にも文化マネジメントにも、もっと民間ビジネスの手法を取り入れるべきだという主張の方が現在の大きな社会的潮流であると言えるだろう。そうすると、むしろ、これまで経済学がもっぱら守備範囲としていた対象やアプローチについても、かなりの部分が経営学のそれに取って変わられつつあると考えた方が実態に近いのだろうか。

私は、アートの分野において、とかく経営学の発想なり手法なりが欠落しがちではないか、という意見には賛成しつつも、それを取り入れることによって目指されるものが従来の経済学のアプローチ(社会全体の厚生最大化の追求)に近づいていくことについては、正直なところ、特に違和感は感じない。

政府におけるニュー・パブリック・マネジメント(NPM)、企業におけるCSR経営、NPOにおける事業化の推進とガバナンスの向上(自立化)は、実は同じ方向を向いているのに、これまでのところ、それらがばらばらに語られ、全体的な統合がイメージされていないように私には思われる。

組織経営の立場に立つのと、社会全体の厚生の極大化をはかる立場とは、おのおの主体が違うはずだと考えるべきなのかも知れないが、それを前提とした上で、企業や行政機関(政府)やNPO、市民団体など異なる立場の主体同士が、互いに対立することなくバランスを保って共存するシステムをつくることは出来ないだろうか。

そのようなしくみが実現されたときには、今までとは次元の違う、非常にパワフルなアートNPO(ただし、分野はアートに限定されるものではない)が出現することになるだろう。
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