Route 53

今日も私は、この道を歩いて往く

社説【入管難民法】

2005-07-22 | 社説
毎日新聞 2005年7月17日社説【人身売買 新法と意識改革で一掃を】
 外国人を性的な目的や臓器摘出などのために日本に送り込む人身売買(トラフィッキング)の撲滅を目指す改正刑法・入管難民法が施行された。「人身売買罪」の新設で、摘発が強化されるものと期待されている。いまどき人を奴隷扱いする人身売買がこの日本で横行しているとは、信じがたい話だ。米国務省が自国の人身売買犠牲者保護法に基づく「人身売買報告書」で、4年連続して日本の対応を不十分と酷評したことにも、得心できぬ向きが多かったに違いない。
 出入国管理法や売春防止法による摘発には、限界があると指摘されていた。それだけではない。売春を必要悪ととらえる風潮が、依然としてまん延している影響を看過してはならない。トラフィッキングが暴力団の資金源となっている事実も、日本人の評判を悪化させているアジア諸国などへの“買春ツアー”と同根であることも、改めて指摘するまでもあるまい。人身売買罪の制定を機に現実を直視し、性的搾取を一掃する機運を醸成していきたいものだ。


新潟日報 2005年7月14日社説【外国人犯罪 指紋採取を急ぐよりも】
 政府が新たな入国管理制度の導入に踏み出す背景には、来日外国人の犯罪が急増し、治安の悪化に歯止めがかからないことがある。昨年の外国人犯罪は四万七千件と十年前の二倍以上になった。指紋採取と顔写真撮影は、外国人犯罪対策の決め手として打ち出されたといっていい。入国の際に指紋を採って要注意人物リストと照合すれば、水際で入国を阻止することも可能だ。
 ただ、刑事訴訟法は令状なしで指紋を採取できるのは「身体の拘束を受けている被疑者」に限定している。なぜ外国人だけに指紋採取を義務付けるのか。人権問題が派生する。そればかりではない。外国人登録の際の指紋押なつが「外国人差別の象徴」と批判され、廃止された歴史もある。対応を誤れば、ただでさえぎくしゃくしている日中関係をはじめアジアとの関係が一段と冷え込む恐れもある。むしろ急ぐべきは、刑事事件での国際的な捜査協力や迅速な捜査に役立つ二国間の共助条約の締結ではないのか。政府は指紋採取にとらわれず、もっと多角的に議論を進める必要がある。


京都新聞 2005年7月18日社説【入国管理 指紋採取はより慎重に】
 政府が入国管理制度の見直しを進める背景には、来日外国人の犯罪が増え続け、国内の治安悪化に深刻な影響が出ているからだ。昨年1年間に警察が摘発した来日外国人は約2万2000人に上り、4年連続の過去最多を更新した。このうち不法滞在者は56%を超し外国人犯罪の温床になっているとされる。その対策の大きな焦点が入国審査の強化だ。入国の際の指紋採取や顔写真による照合は、外国人犯罪を水際で防ぐうえで極めて有効な手段といえよう。だが懸念されるのが人権問題だ。外国人登録をする際の指紋押なつは「外国人差別の象徴」「外国人を犯罪者扱いする」と批判され、6年前に廃止されたばかりだ。新制度は指紋採取の復活である。
 日本は、海外からの観光客を増やす「観光立国」を進めている。アジアの諸国からは自由貿易協定(FTA)に基づく外国人労働者の受け入れも迫られている。指紋採取が各国の反発を招き、わが国の「門戸開放」のデメリットになっては元も子もない。国際社会の理解と協力を得るためにも、人権への最大限の配慮が欠かせない。



 ロンドン同時多発テロから約2週間が過ぎ、犯人像が明らかにされてきた。すでに実行犯の英国籍の4人は特定されている。街中に張り巡らされた監視カメラが犯人割り出しに貢献したようです。
 日本では、入管難民法が見直されています。日本国民の不安要素である「治安の悪さ」の解消に繋がるのか?入管難民法について考えてみたいです。

 出入国管理及び難民認定法は、大きく分けて「人身売買対策」と「テロ(外国人犯罪)対策」と言えます。3つの社説を参考にします。

【毎日新聞】~人身売買対策~
 タイなどでおいしい話を持ちかけられた少女が日本で借金漬けにされ売り飛ばされる、そんな事件が現に起きている。米国務省の人身売買報告書では、4年連続で「日本は、人身売買撲滅の最低基準を満たしていない」と酷評されています。人身売買は、日本人を国外に連れ出す行為を禁じる「国外移送目的略取・誘拐罪」、被害者が満18歳未満の場合に適用される「児童売春・児童ポルノ罪」などがあるだけで直接人身売買を取り締まる法律がないことが問題とされてきました。

 人身売買が撲滅できない理由は幾つか挙げられます。一つに「売春=必要悪」という風潮、つまり外国人女性の売春行為を出稼ぎと割り切って「女を性欲の捌け口とする男の存在」がある。人身売買は主に暴力団の資金源となっていることも許されません。そうやって、欲望が日本の評判を悪くしているのです。

 今年上半期で29件の人身取引事件が摘発され、その約半分は自ら警察や入国管理局などへ助けを求めています。それ以外は、不法滞在の「容疑者」として事情聴取の際に被害者であることが分かったケースです。被害者意識がありながら、事件解決に結びつかないのは「不法滞在が分かったら強制送還され、家族などに危害が及ぶのではないか」という心理があるようです。

 改正入管難民法のメリットは、人身取引被害者を保護する点にあります。(入国管理局HPより)

○上陸特別許可・・・【上陸申請段階において現に人身取引等の被害に遭っている者からの保護要求に対処するため、「人身取引等により他人の支配下に置かれて本邦に入ったものであるとき」には、上陸特別許可をすることができる。】

○在留特別許可・・・【人身取引等により他人の支配下に置かれたために不法滞在状態に陥った者などについても我が国に滞在できるようにするため、「人身取引等により他人の支配下に置かれて本邦に在留するもの」には、在留特別許可をすることができる。】

 被害者が保護されるのは当然ながら、これだけで人身取引がなくなるわけではありません。人権問題にも発展する事件が見逃されているのは許せないことです。


【新潟日報】【京都新聞】~テロ(外国人犯罪)対策~
 テロを始めとする外国人犯罪を防止するために、来年にも入管難民法の改正案が提出される見通しとなった。その内容は、日本に入国する外国人(特別永住者は除く)の指紋採取と顔写真を義務付けるというもの。しかし、そう簡単に防犯対策が行えるわけではありません。

 まずは平成16年の日本への入国者数を見てみましょう。(入国管理局HPより)

1 韓国 177万人
2 台湾 111万人
3 米国  78万人
4 中国  74万人
 その他 235万人
 合 計 675万人

 全体の93%にあたる人が「観光」「親族訪問」などの短期滞在です。外国人入国者数が年間600万人とは、世界ランクで32位です。最も多いのは、フランスの年間7500万人、急成長を遂げる中国は5位で年間3300万人です。何より、経済主要国(G7)や国連安保理常任理事国(P5)は、全てトップ10に入っているという事実も見逃せません。日本も遅れをとるまいと「観光立国」「観光は平和のパスポート」などと公言し、観光客誘致を行っています。中国側では2003年9月より日本人の訪中観光はビザ免除になっていることからも、日本側で中国全土に観光ビザ配給が行われ日中友好の掛け橋に観光の発展を目指している状況です。

 一方で防犯対策、もう一方で観光客誘致。両立するには問題が山積みです。新潟日報では刑事訴訟法を取り上げ、「令状なしで指紋を採取できるのは身体の拘束を受けている被疑者に限定している」という現状から「外国人入国者に疑いをかけるのは人権問題が派生する」と述べている。指紋押捺が「外国人差別の象徴」と批判され、6年前に廃止された歴史もあります。米国では昨年1月より、入国する外国人の指紋採取と顔写真撮影を義務付けていますが、ブラジルなどからの批判が多く、米国への観光客や留学生が減少したとも言われている。しかし、昨年に日本で摘発された外国人の過半数が不法滞在であり、日本が「外国人犯罪の温床」となっているのも事実です。京都新聞では、「観光立国を掲げる日本にとって、指紋採取が懸念材料になるのではないか」と慎重論である。


産経新聞7月21日社説には英国の「新テロ法」について取り上げられています。
 ロンドンで起きた同時爆破テロに対する英国政府の一連の素早い対応には、重ねて驚かされる。監視カメラが容疑者をいち早く割り出したのに続いて、「新テロ法」でも与野党がたちまち基本合意した。
 英国は、移民・難民への寛容な政策がアルカーイダのような国際テロ組織の活動を野放しにしている-との厳しい批判を受け、二〇〇〇年に「反テロ法」を制定した。さらに米中枢同時テロ後には「反テロ・犯罪・警備法」も設けた。警察当局などは、テロリストと合理的に疑われる者については、令状なしに拘束できるなどの厳しい法律で、テロを封じ込めてきた。
 野党などには、新テロ法は人権侵害につながる-という反対意見もある。しかし、テロ防止には強力なテロ対策が必要との世論が、早急な法整備制定に向かわせたといえる。また、全国に四百万台あるという監視カメラで容疑者を突き止め、ビデオを素早く公開するなどの情報開示の手法も参考にすべき点だろう。


 日本も参考にすべきことですが、21日午後1時(日本時間同9時)に再びロンドンの地下鉄3駅とバスで爆発が起きています。現時点でテロかどうかはまだ分かっていない。爆発は小規模であり、負傷者数名が出ているようです。

 
 人身売買に関しては、被害者保護という許容の広がりが見えますが、入国管理体制は簡単ではありません。移民・難民に寛容である英国が標的にされている現状からも、日本は観光客誘致だけの推進ではなく、同時に防犯対策も考えなければならない。産経新聞には「英国の素早い対応」と述べられていますが、その英国でさえ、テロ・事件は防げないでいる。米英がイラク戦争で率先して侵攻した、という背景があるわけですが、日本は大丈夫なんだろうか?被害者が出るまで適確な対策が行えないことに対して、人々の理解が求められます。まだまだ、不安は拭えそうにありません。