古稀の青春・喜寿傘寿の青春

「青春は人生のある時期でなく心の持ち方である。
信念とともに若く疑惑とともに老いる」を座右の銘に書き続けます。

「記憶力を強くする」(脳の勉強2)

2014-07-08 | 読書
「記憶力を強くする」(池谷雄二著、講談社ブルーバック)を読んでみました。
最終章で、記憶力を良くする薬について述べています。この種の薬ができれば、認知症に有効ですが、これは。知能のドーピングを意味するから、使用には慎重になるべきだという意見が出ると思います。しかし、スポーツでドーピングが問題になるのは、ドーピング薬に毒性があるからです。安全性が保障されれば、知能のドーピングは問題ないと筆者は言います。
 しかし、みんなが平等に知能のドーピング剤を使えば、差がつかないから意味がないという人がいるかもしれません。しかし、筆者は言う。知能の増強で期待される効果は、テストの成績の上昇や出世だけでない。記憶力が良くなれば、勉学に使う時間が少なくて済みますから、余った時間を趣味や家庭サービスに使えます。
 薬以外にも脳を増強する方法があります。減少した脳細胞を移植することです。その候補として注目されているのが、海馬の顆粒細胞です。この細胞だけが、脳細胞の中で、増殖機能を持つからです。しかしこれらの薬、手術が有効なのは、記憶の「獲得」と「固定」です。
 記憶には、「学習すること」、「記憶を蓄えること」、「思い出すこと」という三つの段階があります。これらの段階は、それぞれ記憶の「獲得」、「固定」、「再生」と呼ばれます。この本では「再生」についてはほとんど触れていません。その理由は、現代の脳科学がまだ「再生」という現象をほとんど解明していないからです。海馬はLTPを使って情報の取捨選択「獲得」を行い、完成した記憶を側頭葉に保存するというように「獲得」や「固定」については、LTPという現象を調査してかなり詳しく解き明かされてきました。
73年、スウェーデンの神経学者ブリスとレモは、ウサギの海馬でシナプス可塑性を発見しました。彼らの発見はこうです。
海馬の歯状回(を構成する回路の神経細胞)のシナプスを高い周波数で刺激すると、シナプス伝達の効率が上昇し、この現象は刺激の後、長時間持続した。このことを「長期増強(LTP)と言います。ウサギだけでなく、ヒトを含むすべての動物の海馬で確かめらえました。そして、LTPの生じた神経細胞では、信号は早くかつ強くつたわるのです。、
しかし「再生」になると、脳科学は口を閉ざしています。その理由は、「再生」という行為には、「記憶」以外の脳の機能が関与しているからです。
 「思い出す」という行為は、脳にとって想像を絶するほど煩雑な仕事なのです。保存されている無数の記憶を「検索」して、その中から目的の記憶を探り出すのです。つまり、「思い出せ」という指令を数pp九の神経回路に次々送ることで、必要とされている神経回路を発見する必要がある。脳には神経回路が無数にあるから、全く関係のない神経回路を検索していたら、いつ目的の回路に行きあたるかわからない。でたらめに回路を検索していたら、検索の成功確率はとても低くなります。これを克服するため、脳は互いに連絡のある神経回路にそって記憶を検索します。「忘れる」とは記憶が「固定」されているのに、「再生」できないことです。
 以上の「再生」の説明で、脳科学は「再生」を解明していると言えるか?Noです。再生とは「思い出せ」という指令で、必要な情報の書き込まれた神経回路を発見することですが、「思い出せ」という指令とは何か。これは意識(意思)です。「意識」について、換言すると「こころ」について脳科学の解明が全く進んでいないのです。
私見ですが、「こころ」は「記憶」の累積で生まれるものと考えます。そうだとすれば、「海馬」「LTP」、「記憶」と解明してきた脳科学が「こころ」を解明する時もいずれ訪れると考えます。
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記憶力をつよくする」