古稀の青春・喜寿傘寿の青春

「青春は人生のある時期でなく心の持ち方である。
信念とともに若く疑惑とともに老いる」を座右の銘に書き続けます。

アベノミクス批判

2014-09-25 | 読書
  かねてから経済学の泰斗と尊敬している伊東光晴京大名誉教授の新刊がでました。『アベノミクス批判」(岩波書店、2014年7月)です。
 第1章は「日銀の量的・質的緩和は景気浮揚につながらない」と、岩田理論を批判する。
 【不確かな理論に基づく政策の登場は、レーガノミックスとおなじである。レーガノミクスは、税率が下がれば税収が増えるという。そのための理論がラッファーカーブであり、税率ゼロなら税収はゼロ、税率100%なら、誰も働かないので税収ゼロ、その間に山形のカーブがあり、この最高点より現在の税率は右にあるとした。ラッファーカーブは実証されていないし、現在の税率の位置も実証されていなかった。アベノミクスも、実証に欠け無理論であると述べる。
 第2章「安倍・黒田氏は何もしていない」は、雑誌世界(2013年8月号所収)は、雑誌に載った時に紹介しています。http://blog.goo.ne.jp/snozue/d/20131228
第3章は第2の矢「国土強靭化」への批判です。
この政策は、自民党の支持基盤である利権集団への空手形であり、予想される南海トラフ巨大地震に伴う津波対策は、どのようなものなら実現可能かを論じています。
 この津波対策は10年間200兆円の対策費を投ずるという。しかし、財源を検討すると、年20兆円の公共投資は不可能です。 静岡から九州まではあまりにも長い。できるのはところどころであり、駒切れの堤防では、大津波を防ぐことはできない。著者の提案は、
 日本の現在の建築基準と建築技術で作るなら4階建ての鉄筋コンクリートの建物は大津波に耐えられる。海岸線沿いの土地に4階建ての公共住宅を建てる。の建物は海に近い所で働く人が住めるようにする。屋上は津波から身を護る避難所にする。堤防は巨額の費用をかけても家賃を産まない。すべてが連携しないと役立たずだが、こうした住宅は一つだけでも役立つ。
 第4章は「人口減少化の経済」。
 阿部所掌の第3の矢、成長戦略は、人口減少と言う日本経済の与件変化を考慮していないと批判する。
 当局は何を目的にして経済成長にこだわるのか。それは、経済生著王による税収の増加である。
 経済学者・ハロッドは、自然成長率という概念を提起する。自然成長率は人口の増加率と技術革新(労働者数辺り生産額の増加)によって決定される適正な経済成長率である。現実の成長率は、長期にわたって自然成長率を超えることはできない。と述べる
 日本の生産年齢人口のピークは、1995年で、2010年までの15年間に7%減少した。「この先は年1%ずつ生産年齢人口は減少する」と藻谷氏は言う。技術革新を年1%と仮定すると、自然成長率はゼロである。
 こうした日本経済の与件の変化に対応できる具体的なプランが第3の矢「日本産業再興プyンにはみられないと批判する。
 では、どうすればよいか?60年代の日本の高度成長は、高い経済成長の持続と分配の改善を推し進めた。現在、成長と分配の不平等が同時進行している。社会主義を標榜している中国の現状をみれば明らかであろう。格差拡大はあまりにも大きい。90年代以降、日本経済の分配関係が悪化し続けている。加えて財政赤字は先進国中最悪である。
 今必要なことは、第3の矢が志向する成長願望でなく、成熟社会に見合った施策であり、人口減少社会に軟着陸するための叡智である。少なくとも経済成長したとき、財政が黒字になる構造改革と、若年者に悲惨な生活を強いる派遣労働を禁止し、福祉社会を志向することである。
第5章で、日本の財政を分析し、第6章で安倍政権の三つの政策、原発輸出、労働政策、TPPを批判する。
そして、最終章で著者は、安倍首相が重点をおいているのは、経済政策ではなく、戦後“政治”の改変であると危惧している。
読み終わって感じたことは、問題は個々の政策ではなく、それらの政策の背後にある哲学が、安倍首相と伊東教授とは全く違うというとです。アベノミクス批判は、哲学からはじめなくてはならない。