古稀の青春・喜寿傘寿の青春

「青春は人生のある時期でなく心の持ち方である。
信念とともに若く疑惑とともに老いる」を座右の銘に書き続けます。

手入れの思想(1)

2014-02-19 | 読書
養老孟司さんが『手入れの思想』(新潮文庫2013年11月刊)という本を出しました。氏の講演をまとめたものですが、養老節を堪能できる本でした。
 最初に養老さんの「人工と自然」観、
人工は人間が設計したものですから、人間の意のままに動かせる。しかし、自然は人間が設計したものでないから、人間の思うようにはならない。思うようにならないが、「手入れ」を続けて、何とか人間と折り合いをつけることができるようになる。

【二つ軸を考えます。一方の軸は人工(都市化)の軸です。「みなとみらい」でも天王洲でもいいし、新宿でもいい、ああいうふうな典型的な人工的な世界。もう一つの軸は自然。自然というと、屋久島の原生林、白神山地。これはアメリカ式の自然の定義。人間とできるだけかかわりのない所を自然というのです。
 だけど本当に人間とかかわりがないのなら、そんなものあってもなくても(人間にとって)同じではないかと私は思っています。日本人はそうではありません。日本人本来の自然に対する感覚の根本にあるのは「自然との折り合い」です。
 自然のままではどうにもならない、つまり屋久島、白神山地では使いようがありませんから、どうするかというと、これに「手入れ」をします。
 これは女の人が毎日経験していること。
 鏡の前に、極端な場合1時間も座っています。何をしているかというと、完全に手入れしないで放っておくと、屋久島、白神山地になっちゃう。それで思い切ってやる人は天王洲にしようとする。設計図を用いて美容整形に行くわけですが、いろいろと問題もありまして、私の女房の場合は結局、毎日毎日手入れをする。まぁ30年,40年やっていれば何とか人前に出して見られるようになる。
 子供も放っておけば野生児です。でどうするかというと、毎日毎日やかましく言う。これは「手入れ」です。】
お化粧も教育も「手入れ」であると、養老さんは言う。
これが、本書のタイトル「手入れの思想」の意味です。
 確かに、子供は設計できるものではないから「自然」です。「自然」ですから親の思うようには決してならない。親としては、なんとか「やかましく言って折り合いをつける」だけ、これは「手入れ」です。】
子供を育ててみると、「教育も手入れ」の意味が良くわかります。

 養老さんは、「都市化」について、こう述べます。
【東京でマムシにかまれると、だいたい「誰があんなところにマムシを置いた」。ジャワで青ハブにかまれてもそれは当たり前です。かまれた方が運が悪い。自然の中に暮しているときに不幸な出来事が起こりますと「それは仕方ない」。都会の中で不幸な出来事が起こると「誰のせいだ」ということになります。】
 戦後の日本は、ひたすら都市化を推し進めてきた。都会では何事も、ヒトの所為にします。戦後の日本人の態度の変化でいちばん目立つのは、何事も人のせいにする人が出てきたことということです。
 【中国では7,8割が農民だということ、私たちはちょっと誤解していまして、2,3割の都市こそ中国であると、どこかで思い込むところがあります。そう思い込んだ典型が日本の陸軍でした。ですから戦争中に、都市を全部占領して、その間の道路を封鎖したら中国人はへたばると考えたのです。それを戦後に毛沢東が笑いました。当たり前です。7割の人はよそに住んでいる。(現在も中国論というのは中国都市論になってきているような気がします。)】(つづく)