CANONのメルマガに大石芳野さんのトークショーの案内があり、申し込んだら当たったので行って来た。私は写真が趣味ではないし特に興味もないが、写真家の大石さんはNHKの『ようこそ先輩』という番組で見て知った。
番組は大石さんが写真について子供たちに講義し、最後に子供たちがインスタントカメラでそれぞれの家族を写真に撮って展覧会を開く、というものだった。
家族を撮った写真のベタ焼きが出来上がり、その中から気に入った写真を選ぶとき一人の少女が机に突っ伏して泣いていた。少女の名前は中田さん、彼女の写真は二枚を残して残りはすべてストロボが光らず暗く写って失敗だったのだ。家族みんなに協力してもらって一所懸命撮ったのに・・・、何も言わなくても中田さんの涙がそう語っていた。
「どうした?大丈夫、写ってるよ。大丈夫、心配しないで。もう仕方ないわよ。もう終わっちゃったんだから。こういうことはよくあるの。私だってあるんだから。失敗することはあるのよ、だれにでも。でも、失敗になっていないわよ、おおきくしたら。だって、みんな、全部写ってても、結局は一枚選べばいいんだからね。ね、一枚でいいのよ。二枚あったじゃない。大丈夫、大丈夫。」大石先生は中田さんに語りかけた。
展覧会用に各人が選んだ写真は大きく引き伸ばされ、やはり各人が作った額縁で飾られて展示された。このときにはもう中田さんにも笑顔が戻っていた。
授業の最後に何人かの子が感想を言う中で中田さんが発言した。「写真はものとかそういうのを写すだけじゃなくて、人の心も写すんだなぁと思いました」。
あの番組が放送されてからもう10年、トークショーが終わって、その日購入した写真集にサインしてもらうとき、番組の本のコピーにもサインしていただいた。「これは?」(大石さん)。「ようこそ先輩、のです」(私)。「あぁ」(大石さん)。「あれからもう10年ですか、中田さんも大学を卒業する年頃ですね」。(私)。「そうなんです」(大石さん)。「そうなんです」(大石さん)。大石さんは二度も繰り返して言われた。もう少し話したかったのだが、後ろにサインを待つ人が並んでいたのでやむを得ずその場を離れた。大石さんはベトナムやカンボジアの子供たちを何年かにわたって見続けている方だから、おそらく中田さんの成長も見守り続けていたのだろうな、と思いつつ会場をあとにした。