ヒト遺伝子想定的生活様式実践法

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交感神経の緊張と自己免疫疾患(膠原病)

2012年06月03日 |  関連(生物学医学)

 酸化ストレスによる障害について生体のバランス論の観点から眺めるということで、免疫学に関する安保 徹氏(新潟大教授)の説を解説するとしていたはずなので(直前の記事は「交感神経の緊張と発がん」、ココ)、今回は、交感神経の緊張と自己免疫疾患(膠原病)との関係をみておこう。

 前回の記事では甲状腺の異常をみたけど(リンクはココ)、甲状腺の異常といえば「橋本病」だろう(理由は特にないけど日本人の名前が付いてるし・・・)。この疾患は、自己免疫疾患とか、膠原病とかの一種であり、最近は耳にする機会も多いのではないだろうか。

 とはいえ、自己免疫疾患といっても馴染みがない方もいると思うので、先ずは橋本病のおさらい。伊藤病院(東京渋谷区の甲状腺疾患専門)のサイトから、

橋本病とは
http://www.ito-hospital.jp/02_thyroid_disease/02_5_1about_hashimoto.html (リンクはココ

・・・橋本病は「慢性甲状腺炎」ともいいますが、この名はこの病気の成り立ちに由来するものであり、甲状腺に慢性の炎症が起きている病気という意味で、このように呼ばれることもあります。
甲状腺の病気は、どれも女性の方がかかりやすいのですが、橋本病は甲状腺の病気のなかでもとくに女性に多く、男女比は約1対20~30近くにもなります。また年齢では20歳代後半以降、とくに30、40歳代が多く、幼児や学童は大変まれです。

 橋本病は、甲状腺に炎症が起きている病気ですが、細菌が入り込んで化膿するといった炎症ではなく、「自己免疫」の異常が原因で起きる炎症です。自己免疫で起こる病気はいくつかありますが、何がきっかけでこのようなことが起こるのか、いまだにはっきりしていません。橋本病はある種のリンパ球が甲状腺組織を攻撃して起こるらしいといわれています。

いつも甲状腺が腫れているという病気で、特に女性に多いらしい。その原因は、自己免疫の異常とされている。次に、症状もみておくと、明確な甲状腺機能の低下症を示す人は、橋本病患者の約3割とされているようだ(逆に言えば約7割は機能は正常)。

橋本病-症状
http://www.ito-hospital.jp/02_thyroid_disease/02_5_2symptom_hashimoto.html (リンクはココ

□甲状腺機能低下による症状
 甲状腺機能低下症とは、血液中の甲状腺ホルモンが不足した状態をいいます。
 明らかな甲状腺機能低下症がある人は橋本病の約10%ほどで、さらに20%ほどの患者様では、血液検査をして初めて甲状腺ホルモンの不足があることがわかります。つまり、橋本病の人の約30%には、多かれ少なかれ機能低下があることになります。残りの70%は、甲状腺機能が正常です。


 本題に戻ると、安保氏によれば、発がんと同様に、自己免疫疾患も免疫抑制でおこるとされている。ここでいう「免疫」は、獲得免疫(あるいは後天性免疫)の趣旨である。これを模式的に書くと、
  
  過剰なストレス
     ↓
  交感神経の緊張
     ↓
  顆粒球増多 ───→ 獲得免疫の一部の抑制(進化したリンパ球)
     │            ↓
     │           易感染性
     ↓            ↓
  粘膜・組織破壊    感染(又は再活性化)による組織破壊
     └─────┬──────┘
             ↓
  獲得免疫の別の一部の活性化(古いリンパ球)→ 破壊組織の修復・感染防御
                                      ↓
                             炎症などの自己免疫疾患の症状


似たような図が何度か出てきているので、詳しい説明は省略しよう。ここでのポイントは、一部のリンパ球(進化したリンパ球)が抑制され、代わりに別の種類のリンパ球(古いリンパ球。後述する自己免疫応答性リンパ球のこと)が活性化し、何とか生体を防衛しようとするという点であろう。発がんの構図(詳細はココ。既出)との違いでいえば、発がんはこの古いリンパ球も抑制されてしまう免疫状態で起こるということだろう。

 関係部分を安保氏の著作「免疫革命」(講談社、2003.7月)から引用すると、

 難病といわれる膠原病でさえ、[交感神経の緊張が顆粒球増多をもたらして、組織破壊を行うとの説]で説明ができます。膠原病は、たいへんに症状に種類が多い病気です。五十を軽く越える種類があります。たとえば慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)、橋本氏病、甲状腺機能亢進症、シェーグレン病、ベーチェット病、紫斑病、自己免疫性肝炎など、いろいろな名前がついていますが、これらの病気がどうして起こっているかというと、ストレスで免疫が低下し、内在性のウイルスが活性化して、組織破壊が起こっているのです。組織破壊が起こるから修復しようとして血流がおしかけて炎症が起きているからぐあいが悪くなるのです。じっさい、膠原病の患者さんとじっくり話してみると、必ずストレスが聞きだせます。それに、発病のきっかけが風邪の症状、つまり発熱である場合が多いのです。つまり、ストレスによる極端な免疫力低下の事態が発病のきっかけになっといるのです。 (同書66頁。強調は引用者)

ここでは、自己免疫疾患の症状は、破壊されあるいは異常となった細胞を排除し、組織を修復するために起こっていると考えられているようだ。


 ここで、白血球の役割、種類とその進化について、簡単にまとめておこう。白血球は、安保氏によれば、進化によって4階層に機能分化してきたとされており、以下その解説をしていこう。内容を表でまとめておくと(予備知識のない方は、先に白血球のwikiでも眺めてからどうぞ)、

表 白血球の役割、種類とその進化(4つの階層)
    役   割      免疫系の区分       白血球の種類
 4 外来の小さい異物を処理  獲得免疫(液性)  進化したリンパ球(胸腺由来T細胞、B細胞) 
 3 自己の異常な細胞を処理  獲得免疫(細胞性) 古いリンパ球(NK細胞、胸腺外分化T細胞) 
 2 外来の細菌を処理      自然免疫      顆粒球(このうち好中球が9割以上) 
 1 基礎的な防衛・司令塔    自然免疫      単球/マクロファージ(単細胞時代の名残り)
出典)安保 徹「免疫革命」(主に第5章)。

 白血球は、大きくわけると単球/マクロファージ、顆粒球、リンパ球の3種類がある。進化上もっとも古いとされるのは、単球/マクロファージであり、ここから顆粒球、リンパ球が進化してきた。

 単球/マクロファージは、骨髄で生まれ、血管中を単球の状態で各組織へ移動し、血管外に出てマクロファージに分化する。マクロファージは、単細胞生物であるアメーバのように、生体に侵入してきた異物をのみ込み、除去する役割を担っている。

 マクロファージは、存在する組織によって形を変えるため、グリア細胞(脳)、肺胞マクロファージ、クッパー細胞(肝臓)などさまざまな名前で呼ばれている。また、赤血球などの血球細胞や血管を形成する血管内皮細胞も、マクロファージから進化したものである。

 白血球の機能において、マクロファージの貪食能(異物をのみ込み処理する機能)に特化して進化した白血球のサブ集団が、顆粒球であり、マクロファージの貪食能を退化させて獲得免疫(後天性免疫)をつかさどるようにした白血球のサブ集団がリンパ球である。血液中の白血球の割合を調べると、体質による個人差や採血時の体調などで変動しうるが、目安としては単球/マクロファージが約5%、顆粒球が約60%、リンパ球が約35%の比率となっている。

 顆粒球は、進化上マクロファージの次に現れたようだ。水中で単細胞から多細胞へと進化した後に細菌の侵入に悩まされたことから、外来の細菌侵入に対抗する防御体制として、マクロファージの貪食能をさらに高めた形で進化してきたのだろう。

 顆粒球は、マクロファージより一回り小さく(12~15μm。ちなみにマクロファージは20~30μm)、異物を丸ごとのみ込んで消化酵素と活性酸素を使って分解する形で処理している。細菌のような粒子の大きい異物(1~5μm程度。ちなみに大腸菌で2μm)を処理するのに適している(小さい異物は、例えばインフルエンザ・ウイルスは100nmと顆粒球の約100の1以下の大きさなので、効率的には処理が難しい)。

 顆粒球が細菌を処理している場所は、化膿性の炎症として現れる。膿は、顆粒球が侵入してきた細菌などを処理をした残骸である。白血球のうち顆粒球が最も多いということは、それだけ細菌の侵入の機会が多いことを示している。病的なものかどうかはさておき、顆粒球が炎症の6割を処理していると考えることもできる。

 顆粒球の働きの特徴は、進化上の古い形態なので、攻撃相手(抗原)を識別する仕組みが未発達という点である。主にDNAに記載された遺伝情報(記憶)に基づいて活動するのだろうが、細かいことは気にしない性格なのである。つまり、何らかの理由で顆粒球が過剰に集まった場合には、その場所に攻撃相手である細菌がいなければ、自己の組織の細胞であっても攻撃してしまい、破壊を引き起こしうることとなる。

 顆粒球に識別機能がない点を別の角度からみれば、顆粒球由来の病気は何度でも起こり得るということである。この点については、例えば、食中毒をみてみればわかるだろう。何らかの菌に汚染された食物を食べれば、食中毒を起こす。何度でも。

 リンパ球は、進化上マクロファージ・顆粒球の次に現れたようだ。リンパ球の働きの特徴は、マクロファージの貪食能を退化させて、接着分子(抗体)で異物(抗原)を捕らえるという新たな機能を発達させた点にある。

 古いリンパ球が先ず現れたようだ。その役割は、外来の侵入物への対処というより、多細胞生物として生体の内部での異常を監視することに主眼か置かれている点である。つまり、がん細胞などの異常な細胞への対策である。多細胞生物として複雑化していくと、全体の制御の下でそれぞれの機能に応じ各臓器が効率的に分散処理をしているので、統制されない異常な細胞は足手まといになるし、場合によっては生命の危険をもたらしかねないことになる。

 異常細胞の除去を顆粒球で対処すると、顆粒球は攻撃相手を識別しないので異常細胞と正常細胞の両方を攻撃・処理する形態となってしまい、これがはなはだ効率が悪かったのだろう。このため、別の仕組みでの対応が進化上必要とされ、それを発達させることに成功した種が最終的に繁栄したのであろう。

 古いリンパ球は、自己の異常細胞を効率的に処理・排除する目的のため、攻撃相手を識別する仕組みを持っている。この場合は、それ程複雑な仕組みではなく、攻撃相手が自己かどうかの識別のみである(自己応答性。自己に該当しなければ、非自己)。古いリンパ球は、非自己と認識された内部の細胞を処理・除去していくこととなる(このため「自己免疫応答性リンパ球」とも呼ばれる)。がん細胞や何らかの理由(老朽化、感染など)で正常に機能しなくなった細胞などを非自己と認識する仕組みになっているのだろう。つまり、身体の中で起こった異常を察知し、自己抗体を産生・活性化して、異常な部分を除去していくわけだ。

 最後に現れたのが、進化したリンパ球である。生物が水中で生活していた間は、マクロファージ、顆粒球、古いリンパ球で生体内部の防衛体制を構築していたらしい。しかし、生物が陸に上がると、水中と違い空気中だとやたらとウイルスの類い(小さい異物)が多くなったため、より効率的な防衛体制をとる必要に迫られたようだ。

 生物の進化をみると、生物が水棲から陸棲になり、T細胞やB細胞といった進化したリンパ球を育てる胸腺や骨髄という器官ができたとされている。進化したリンパ球を育てる胸腺ができて、攻撃相手を識別する複雑な仕組みができるとともに、感染した経験を免疫情報として記憶する仕組みも次第にできあがっていったのである。

 進化したリンパ球の働きの特徴は、小さな異物を処理するという役割を果たすため、接着分子で異物を捕らえるという新たな仕組みにある。つまり、進化したリンパ球(B細胞)は体液中に接着分子(抗体)を放出し、抗体が体液中を流れて異物(抗原)に接着し反応することとなる。これは、古いリンパ球による細胞ごと反応する細胞性免疫と区別して、液性免疫と呼ばれている。

 以上が、白血球の役割、種類とその進化について、安保説に関し自分が理解したところの簡単なまとめなのだけど、詳しく知りたい方は、参考とした安保氏の「免疫革命」を各自で読んでみてほしい。


 進化したリンパ球を育てる胸腺は、その機能を縮退させることがあるといわれている。身近なものでは、(1)老化したとき(加齢)、(2)ストレスを受けたとき、(3)妊娠したときであ。進化したリンパ球の活動が弱まると、代わりに古いリンパ球の出番となり、生体の防衛機構を維持しているようだ。
 
 老化による胸腺の縮退については、分かり易いだろう。加齢とともに活動力が落ち、生傷ができて細菌感染する機会も減る一方で、劣化した細胞も増え老廃物がたまりやすくなり、若いときと比較し細胞分裂の異常も起きやすくなるのだろう。従って、加齢とともに胸腺が縮退し、新しいリンパ球から古いリンパ球へ免疫の主役が移ることは、はなはだ合理的にできている仕組みといえるだろう。

 ストレスによる胸腺の縮退ついては、「免疫革命」から引用すると、

 新しい免疫系から古い免疫系へ、免疫の主役がうつるという状況は、ストレスがかかった緊急事態でも起こります。私たちはストレスがかかると顆粒球が増えて、組織が破壊されたり、組織の細胞の異常が起こったり、あるいは老廃物の分泌が抑制されたりします。ストレスがかかった状態がずっと続くと私たちはやつれてきます。これは、組織破壊、組織異常、老廃物の分泌の抑制が全身で起こっているからです。そういう状態では、問題は外来抗原ではなく体内の異常ですから、異常細胞、老廃物を古い免疫系で処理しなくてはいけないのです。

 また、ストレスが続いた果てには、ウイルス感染が起こります。ウイルスというのは、体の外から入ってくるだけではなくて、身体の中に潜伏しているものがたくさんあります。よく知られている例に、ヘルペスがあります。ヘルペスは、ヘルペスウイルスが体内に潜伏してていて、ストレスが続いて新しい免疫系の力がおちたとき、ふだんは活動できなかった内在性のウイルスが暴れだし、組織を破壊し、炎症を起こすのです。そういうときにできる異常細胞に対して戦うのも、古い免疫系です。 (同書256頁)

 ここまでくると、本題の最初で模式的に示した、交感神経の緊張と自己免疫疾患との関わりがみえてきたのではないだろうか。そう言えば、●の影響下にあると、何とかストレスというのが増加するとあったような・・・

 ついでに、妊娠による胸腺の縮退については、女性が妊娠すると、胎児に栄養補給するため母体のエネルギー消費が激しくなることから交感神経の緊張状態に傾き、胸腺が縮退するようである。もう長くなったので詳しく書かないけど、この交感神経の緊張状態では、胎児の細胞が胎盤を通じて母体にやってきて悪さをすることがないよう、古いリンパ球が主役となって胎盤で活動し、これを防いでいるようだ。女性は妊娠機能に付随したこのような免疫系のスイッチを持っているため、多分自己免疫疾患になりやすい傾向があるのだと思われる。
 

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