ソーシャルワークの TOMORROW LAND ・・・白澤政和のブログ

ソーシャルワーカーや社会福祉士の今後を、期待をもって綴っていきます。夢のあるソーシャルワークの未来を考えましょう。

回想法で「まちづくり」は可能か

2009年08月24日 | 社会福祉士
 滋賀県高島市社会福祉協議会が地域の風景画を描いた絵屏風を使って、介護保険の機関やふれあいサロンで回想法を進めている。この回想法を使って、さらにふくしのまちづくりを進めることを目指している。これは、日生財団の助成で行っているものである。

 このことで、脳学者の茂木健一郎さんに基調講演をお願いし、実践報告とシンポジウムが開催された。このプロジェクトは2年半の事業であり、今回は中間報告であり、最後まで後1年を残している。そこで、日生財団の審査委員でもあることから、本プロジェクトに対する講評を依頼され、参加させていただいた。

 茂木さんの講演は、「思い出」について話して頂いたが、脳というのは、里山と同じで、できる限り自然にしておき、時々手入れをすることであるという。この手入れとは、思い出すことであるという。現代人は、インターネットの時代を迎えて、思い出すことの訓練ができにくい環境にいるという。思い出すことを繰り返すことで、脳の活性化ができるという。

 このような思い出を高島市のなかで過去に作られてきた絵屏風を使って話し合ったり、あるいは絵屏風を作ることで、回想法を行っている。これが、介護予防や認知症予防ということであれば理解できるが、このような活動からいかにまちづくりを行っていくのであろうか。

 これは、シンポジウムと実践報告で分かってきたが、回想法は、高齢者が語り合うことがポイントであり、お互いが理解し合うことになり、個々人が介護予防や認知症予防をできたということを超えて、地域での活動に広がっていくことができるという。この評価については、残りの1年間で一層促進して頂くことであろう。さらに、社会福祉協議会は「思い出ガイド養成講座」を行っていくということである。

 個々の地域で高齢者が話し合うことを進めていき、思い出ガイドが、地域の子どもとの交流に活用されることができれば、介護や認知症予防を超えて、ふくしのまちづくりにつながっていくことになろう。今後の活動に期待したい。

定年を数年後にひかえて、博士学位の授与に向けての指導

2009年08月22日 | 社会福祉士
 大阪市立大学の定年は63歳であり、残り2年半に迫り、博士課程の大学院生の学位授与に向けて、指導のピッチを上げている。

 今まで多くの博士課程学生を指導し、最近では、1年に平均2人程度の学生に、博士の学位を授与するよう指導してきた。既に、10名程度を指導し、博士の学位授与に至っている。彼らは、現在大学で教鞭をとっている者がほとんどであるが、その中では韓国からの留学生も3名おり、その内の1人は母国に帰り、教鞭をとっている。また、アメリカの大学でリサーチ・フェローをしている者もいる。一方、大学教員への就職難が福祉分野でも顕著になり、オーバードクターも一人いる。厳しい時代である。

 今後、残りの2年半を考えると、現在私のもので在籍している学生が、博士の2回生から3回生(現実は6回生)まで10数名(2回生4名、3回生4名、3回生以上7名)が残っており、彼らをできる限り博士の学位を授与できるところまで育てる責任があると思っている。

 私の信条は、指導の残りの期間が短くなろうとも、安易に学位を出すことはなく、よりレベルの高い論文を集積し、体系化する指導を行っていきといと思っている。何らかの事情で時間に間に合わない者もでてくることも考えられるが、よく言われる、定年直前での「かけこみ学位」といったものは、絶対に許されないと思っている。そのため、学生には早くからハッパをかけている。

 現状では、大学院を既に単位取得退学している者も含めて、3名が10月の学位授与を目指して申請をしている。8月26日には生活科学研究科の大会議室で、朝の9時30分から夜の7時30分まで、私が主査の3名に、私が副査のもう1名を加えた公聴会である。関心のある方は是非出席して頂きたい。

 さらに、今年度の3月末めどに、学位申請に向けて現在進行形で進んでいるが、もう3~4名ほどいる。学生には、「後1年半で3年以上になり、その間に論文が完成するよう」にと指導している。私の研究科の学位論文のレベルは極めて高いと言われている。私が指導している学生についても、最低4報から5報の論文(多くは、学会誌掲載論文)をコーディネートしたものが学位論文であり、博士の学位授与者として、自信を持って社会に送り出せると思っている。その意味では、若手研究者としてはばたいて頂きたいと願っている。

 さて、来週の公聴会に向けて、もう一度、3人の論文の再点検をしておきたい。

「介護労働者の人材確保に関する特別措置法(案)」の再確認を

2009年08月21日 | ケアや介護
 総選挙に向けて、それぞれの地域で激戦が繰り返されている。マスコミの下馬評では、民主党が圧倒的に有利ということらしい。そこで、介護保険の近未来を探る上で、マニフェストも大事であるが、民主党、共産党、社民党、国民新党の野党連合で提出した法案も点検しておくことが、介護保険制度の今後を予測できるのではないかと考える。これは廃案になっているが、次は、政府案として再登場してくるかも分からないからである。

 それは、自民党が追加緊急経済対策で、ぶちあげた「介護職員待遇改善給付金」の常勤換算で月1万5千円アップの対比として、民主党を中心で野党から出された「介護労働者の人材確保に関する特別措置法(案)」はマークしておいた方が良いと判断した。これは、民主党が多数を取った場合に実現する可能性があるからである。また、介護保険制度に対する今回の民主党のマニフェストの土台にもなっている。

 本法案は、介護労働者の待遇改善のために、介護報酬を加算することを義務づけるものである。一方、事業主に対して、介護職員の賃金の引上げ等の努力義務を課し、その実効性を担保するために、毎年、現行の公表制度に加え、待遇改善の状況の市町村への報告を義務づけている。

 ここでの介護事業者は、居宅サービス事業者、地域密着型サービス事業者、居宅介護支援事業者、介護保険施設、およびこれらで介護予防をする事業者であり、そのような介護事業者が行う福祉サービスや保健医療サービスの業務に従事する者を介護労働者としている。そのため、介護労働者にはケアマネジャーや訪問看護師も含まれることにはなるが、7%の介護報酬アップということで支給されることになる。それを介護労働者の待遇改善に結びつけるために、介護事業者は介護労働者の労働条件改善の内容を、市町村に届けることになっている。

 この増額分がすべて人件費にまわった場合には、介護労働者約80 万人(常勤換算)に対して、一人当たり月額4万円程度の賃金引き上げが可能になるとしている。このことは、民主党のマニフェストと符合することである。なお、法案では、この特別措置は、介護を担う優れた人材の確保に支障がなくなった時に廃止となるとしている。


「ストレングスモデルーその実践と検証」シンポジウムに参加して

2009年08月20日 | 社会福祉士
 カンサス大学のソーシャルワーク大学院のチャールス・ラップ教授を迎えて、早稲田大学で「C.ラップ先生来日記念学術フォーラム」というテーマでストレングスモデルについてのシンポジウムに参加した。この日の参加者は、チャールス・ラップ教授が基調講演とコメンテーターとなり、シンポジストは、谷中輝男日本精神保健福祉士養成校協会会長、野中猛日本精神障害者リハビリテーション学会会長、岩上洋一日本精神保健福祉士協会からの代表、大島巌地域精神保健福祉機構代表理事と私であった。座長は野田文隆大正大学教授・ブリテッシュコロンビア大学特任教授であった。

 それなりの、意義ある議論ができたと思ったが、ここでの大きなテーマは、ストレングスモデルは日本で定着できるのか。定着できるためには、何が必要かというテーマであった様な気がする。

 私は、思想的に利用者の能力や意欲といったストレングスを理解する理念については、日本ではさほど難しくなく定着すると思っている。逆に、日本人はそうした人々の強さを捉える能力が長けており、問題はないと感じている。問題の第一は、利用者がそうしたストレングスを出すことが少ないのが日本人の特質ではないかと思っている。多文化社会のアメリカでは、人々は自己主張が当たり前であり、その意味では、ストレングスを余り表出しない日本では、いかにそれを発見していくかが、ストレングスモデルが定着する課題であるように思う。これは、アメリでの支援者と利用者の関係は言語的コミュニケーションが中心であり、アメリカに比べて日本では非言語的なコミュニケーションが大きな要素になっていると言える。

 そのため日本では、利用者に対する観察を通じて感じたり、気づくことが、ストレングスモデルには不可欠であると思った。同時に、そうした感じたりすることは、日本人の場合には、アメリカ社会に比べて、国民は共通の文化や価値をもっており、気づきや感じることは容易であると考えている。さらに言えば、日本の支援者はそうした方法を有しており、そうした方法をアメリカ等に逆輸入していくべきであると考えている。

 第二の日本で定着する条件は、ストレングスモデルはリスクと直結していることである。例えば、精神障害をもつ利用者が、30歳になり「高等学校に行きたい」というストレングスを有しているとしよう。これを実現するために、ストレングスモデルではケアプランを作成することになる。その結果、利用者が学校に行くことから生じてくるリスクの管理が必要になる。これがアメリカであれば、利用者が自己決定し、自己責任としてのケアプランになる。そのため、リスク管理さえ十分行っており、契約をしていれば、ストレングスモデルは、スムーズに活用されることになる。

 ところが、日本でストレングスモデルを貫徹し、万が一リスクが生じた場合には、おそらく支援者側が責任を取らされることになる可能性が高い。それは、例え、利用者との契約をきちっと行っていた、様々なリスク管理の工夫をしていても、である。そのため、支援者は、ストレングスを活用するよりも、「転ばぬ先の杖」という安全なケアプラン作成になってしまい、ストレングスモデルの定着は難しいと言える。

 それでは、日本ではどのようにしてこのような状況を克服していき、ストレングスモデルを定着させていけば良いのであろうか。

 そのためには、日本に自己責任の文化を創っていることも大切である。同時に、支援者には、専門職としてリスクをできる限り回避するための対応を十分に行っておき、さらにそうしたリスクが生じた場合に、そうした専門職を守る保険等のシステムを職能団体が作り上げる必要があろう。

「在宅ケア新時代」の確立を(「日本在宅ケア学会誌」巻頭言)

2009年08月19日 | 論説等の原稿(既発表)
 日本在宅ケア学会の今後についての抱負を書いたが、この学会は、看護の皆さんが多く入会していただいているが、他の医学、リハビリ関係、介護、福祉の領域の皆さんに入会し、活躍していただきたいと願っている。また、もっと実践現場で働いている方々にご参加願いたいと思っている。そこで、学会誌の巻頭言を再掲しておく。

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「在宅ケア新時代」の確立を 

 今年度から2012年度のまでの3年間,当日本在宅ケア学会の第5期理事長を,第4期に続いてお引き受けすることになった.次の3年間に,日本の在宅ケアの研究・教育は何を目指し,そこから,どのような在宅ケアの実践を拡大・深化させていくことが必要であろうか,またそこから,日本の在宅ケアに関する研究・教育者と実務者が集う本学会およびその会員の担うべき使命について考えてみたい.

1.日本における在宅ケアの現状

 本学会は,介護保険制度の創設と期を一にしており,介護保険法が成立した1997年の1年前の1996年に誕生した.それは,介護保険制度は高齢者の在宅ケアを推進するという理念のもとで作られ,それを理論的に支え,在宅ケアを推進していこうという熱意ある仲間が,保健・医療・福祉に関わる様々な領域の方々に呼びかけ,学会を立ち上げたと言える.

 そして,本学会が創設され,13年の歳月が流れたが,在宅ケアの研究・実践は確かに進み,介護保険制度での,施設ケアに比較される在宅ケアに占める財源割合は,創設時は4割であったが,2008年度でみると6割弱にまで伸びてきている.同時に在宅生活をしている要介護者・要支援者数も,1,840人から2,637万人に増えてきている.このような表面的な成果はあるとしても,現実の在宅ケアには,様々な課題が横たわっていることも事実であり,学会としてはそれらの課題に対応した研究を一層推進し,在宅ケアを量的な観点からでなく,地域で住んでいる高齢者の生活の質という観点から,貢献している責務を負っている.

2.本学会に求められる研究課題
 
 具体的な研究課題としては,地域での医師と看護師の連携のあり方,看護と介護の機能的な役割分担,ケアマネジャーと医師・看護師・介護福祉士だけでなく,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,管理栄養士,薬剤師等専門職だけでなく,多様な専門職との連携方法のあり方,病院や老人保健施設とそこの退院者を円滑に地域で受け入れるべくサービス・デリバリー・システムの確立,さらには病院と診療所の病診連携のあり方といった基本的な問題をさらに究明し,あるべき方向を示していくことが急務となっている.

 同時に,こうした在宅ケアを担う専門職の確保と人材育成の課題が横たわっている.とりわけ,昨今介護職の離職と人材不足が緊急課題となっているが,こうした課題に対して,エビデンスに基づき,地域ケアを担う人材養成に対して提言をしていく役割を担っていかなければならない.これについては,制度面での待遇改善といった社会に向けての課題と,学校教育とその連続する継続教育についての課題,さらにはスーパービジョン体制といった職場環境にもメスをいれていく研究課題がある.

 さらに,地域で高齢者が生活するためには,介護保険制度のサービスは勿論であるが,在宅医療を進めていくサービスや高齢者の権利擁護に関する制度,また住宅サービスの充実が不可欠であるが,そうしたサービスに関する研究を一層推進し,個々のサービス内容の質的充実を図っていくとともに,それを支える財源拡大にも寄与できることが,本学会の役割である.これら制度・サービス面での課題を解明していくことに加えて,現実の在宅ケアの大きな担い手となっている家族にも照準を当て,家族介護者のあるべき方法に関する研究を深めていかなければならない.同時に,在宅ケアは海外では広くコミュニティ・ケアでもって総称されるが,近隣,NPO,ボランティアといった人々を含めたコミュニティのあり方についての研究課題を有している.

 在宅ケアは高齢者だけでなく,身体・知的・精神といった障害者(児)の課題でもある.おりしも,2006年に障害者自立支援法が成立したが,ここでは障害者の地域での自立生活を支援することを理念にしている.そのため,本学会も高齢者に加えて,障害者領域での在宅ケアに関する研究にも関心を拡げていくことが求められる.この場合の在宅ケアでは,医療・保健・福祉・介護・住宅といった領域だけでなく,就労・教育や社会参加といった領域が不可欠な要素になってくる.このような専門家を一層会員として迎え入れ,研究の幅を拡げていかなければならない時期にきている.

3.本学会の特徴と使命

 以上のような研究課題を総括すると,日本の在宅ケアは,在宅ケア利用者を増やしていく量の時代から,一人ひとりの利用者が質の高い生活を確立していく「在宅ケア新時代」を迎えている.これを実現するためには,本学会は,会員全員の努力でもって,「在宅ケア新時代」の牽引者としての役割を果たしていかなければならないと考えている.

 そのためには,本学会は自らが有している特徴を大いに活かし,「在宅ケア新時代」に向けて貢献していくことが大切である.その特徴の第一は,在宅ケアに関わり医学,看護学,保健学,理学療法,作業療法,栄養学等の医療系の方々と,社会福祉学や介護学といった福祉系の方々が参加し,交流することで,在宅ケアの水準を高めていく学際学会であることである.この特徴を活かし,これら以外の在宅ケアに関わる専門領域の方々,また現在会員割合が低い福祉系の専門職に参加を得て,学際的に深みと広がりのある研究集団になっていくことである.

 本学会の第二の特徴は,研究者と実務者を擁していることである.このことは,両者が学会を介して,在宅ケアに関する実践と理論の橋渡しをすることができることにある.この利点を活かし,実践現場と教育現場との両者が共同研究等を通して一層交流を深め,多くの在宅ケアに関するエビデンスを蓄積してことを願っています.そのため,現状では,研究者の割合が7割程度と少し高く,実務者の入会が最近は増加していますが,実践現場からの参加者を増やしていく必要があると考えています.

4.本学会の具体的な活動に向けて

 こうした学会の特徴を活かすために,一つは,実務者の会員数を増やしていく中で,在宅ケアの事例なり症例研究の雑誌の刊行ができないかと考えている.これが刊行できれば,学際的な在宅ケアの専門誌として,研究面だけでなく,日本の在宅ケアの実践・制度面にも大きく寄与できると考えている.

 二つめの提案は,本学会で明らかになったエビデンスを社会的に明らかにしていくことで,実践や政策の発展に寄与することである.実践の発展への寄与については,学会の社会貢献でもある公開講座を実務者や市民向けに開催していくことである.これについては,本学会はこうした活動に取り組んではいるが,十分ではなく,この充実を図り,広く在宅ケアに関わっている専門家や地域住民に対する啓発的・教育的機能を果たしていく必要がある.

 一方,研究成果を介護保険制度や医療保険制度に活かしていくために,看護学では看護系学会等社会保険連合が(社)日本看護協会のもとで組織され,活動を始めている.本学会もこの看護系学会等社会保険連合に参加しているが,学会の研究成果が体系的・円滑に研究と政策が繋がっていく仕組みを作りことに,本学会は積極的に関与していく必要があると認識している.そのため,福祉系においても,このような団体が作られことに関心を向け,積極的にこのような研究集団である学会と実務者集団である団体が一体となり,研究成果が政策にも影響していく時代を作っていかなければならないと思っている.

 以上のような活動を進めるために,今期から理事定数を4名増やし,16名とし,評議員も10名増やし,40名にした.理事や評議員の皆さんに加えて,学会の主役である会員の皆さんと一緒になり,日本在宅ケア学会が学問的にも社会的にも一層発展することに力を尽くしていきたいと思っている.


「主任介護支援専門員」研修会の位置づけの不思議

2009年08月18日 | ケアや介護
 多くの都道府県では、今年の主任介護支援専門員研修会は回数や定員を倍増して実施している。いくつかの研修会に講師として伺ったが、いずれも大盛況である。それは、特定事業者加算Ⅱをとるために必要であるからである。さらに、加算の関係もあり、厚生労働省は、受講希望者を拒んではならないと指導している。

 主任介護支援専門員研修の受講者層はこの4年間で、目まぐるしく変化してきた。4年前の改正で新たに地域包括支援センターができ、初年度の受講者は、当然のことであるが、受講者は地域包括支援センターに配属される主任介護支援専門員の資格を求めてのものであった。

 ところが、その後の2年間は、地域包括支援センターの職員というよりは、居宅介護支援事業者のケアマネジャーが圧倒的に多くなっていた。この受講理由は、ケアマネジャーが自らの能力を高めたいがためであった。さらには、地域に中でリーダーなりスーパーバイザー的役割を果たしたいという思いからであった。例えば、大阪府の主任介護支援専門員研修での受講者資格には、地域のリーダーとなっているか、なる自覚があるかどうかが、、研修会受講の1つの条件になっていた。

 しかし、今回の介護報酬改訂で、特定事業者加算の敷居を低くするⅡが新設され、この加算を取りたい事業者のケアマネジャーが多数参加している状況である。そのため、受講対象者は、猫の目のように毎年のように変わっている。そのため、受講生の視点からすれば、講義内容も毎年のように変えざるを得ない側面もある。

 この主任介護支援専門員の法的根拠をみると、まずは地域包括支援センターに配置することが「介護保険法」に位置づけられており、そこでの研修の要件や内容が「主任介護支援専門員研修要綱」に明記されているに過ぎない。その意味では、介護報酬の特定事業者加算の要件に主任介護支援専門員が位置づけられてはいるが、法的には、地域包括支援センター職員としてのものであり、ケアマネジャーとしての水準を高め、スーパバイザーとして養成していくことを目指すことを目的にしたものではない。

 その意味では、「つぎはぎ」的に主任介護支援専門員を位置づけるのではなく、ケアマネジャーのキャリアパスの一貫として位置づけ、研修内容は居宅介護支援事業者や地域でのスーパーバイザーとしてだけでなく、施設の管理者としても育成していくカリキュラムを構築していく必要があるのではないか。当然、この研修を構造化することで、ケアマネジャーの社会的地位や待遇を高めることに位置づけるべきである。

ケアマネジメントとソーシャルワーの関係31まとめ(完)

2009年08月17日 | 社会福祉士
 「ソーシャルワークとケアマネジメントの関係」の最終回に当たって、両者の関係については整理できたが、今回は現実にソーシャルワーカーとケアマネジャーという職種が現実に存在しているが、両職種の相違について考えてみたい。

 ある掲示板で、「社会福祉士」と名乗ってする仕事がほとんど無いことが指摘されていた。このことは、「社会福祉士」やソーシャルワーカーという名称で仕事が出来る場を、制度的にも、社会的にも広げていくことが求められているということである。

 一方、ケアマネジャーの強みは、介護支援専門員をモデルにして、多様な領域で今後ますます高まるものと予想できる。根本的には制度の裏付けの有無に起因している。社会福祉士はやっと3年半前に、地域包括支援センターへの配置が制度化された。これは画期的なことであるが、相当努力をしなければ、将来的な展望があるわけではない。

 ケアマネジメントとソーシャルワークを比較すると、ソーシャルワーカーは実践力を高めると共に、組織としての政治力が必要であると思う。これを一歩、一歩積み上げていくより他ない。ただし、政治力は、社会的正義を貫いての、媚びることのなく、実践として政治的な力を得ていくことである。

 現場のソーシャルワーカーもそのように理解していることが、人気のブログ「MSW Lab Blog」の古くなるが4月11日の「箱入りソーシャルワーカーと介護支援専門員」からも理解できた。そこでは、以下のようなソーシャルワークに対する痛烈な批判をし、あるべき方向づけを行っている。


 「自分自身が経営者だったら、ソーシャルワーカーにケアマネも兼務させて仕事をさせるであろう。「医療職→MSW→ケアマネ」というルートは介在する人が多すぎてまどろっこしい。そう言われるのが嫌であれば、地域に出て、地域を知って、ネットワーキングを体現すること。こういうルートでやる方がお互いにメリットがあると思われるような仕事をしなければいけない。

 知識だけだったら、他職種でも多少勉強すれば知ることが出来る。知識だけでなく、それらを本人・家族の具体的利益となる様にマネジメントし、ネットワーキングする。そしてその技術を他職種にアピールし、診療・介護報酬に反映されるようロビーイングする。それが箱入りソーシャルワーカーが生き抜くための必要条件であろう。」

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 同感である。同時に、この責任の多くは大学等の教員が負わなければならないと思っている。それは、実践を理論化六課・普遍化する作業を疎かにしてきたことが大きく、今後はソーシャルワークが社会から評価され、その成果がでるよう、やれることは何でもやっていきたいと決意している。

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 これで、「ソーシャルワークとケアマネジメントの関係」を終了します。次の連載については、現在構想中ですが、近々始める予定です。2つの構想があり、1つは、「社会福祉士の可能性」、もう一つが「岡村理論とソーシャルワーク」ですが、思案をしている。


介護保険施設や訪問介護事業者の離職要因について②

2009年08月15日 | ケアや介護
2 訪問介護事業者における職場の特徴と施設職員の離職との関係<施設管理者への調査をもとに>

 訪問介護事業者では担当ヘルパーの雇用が難しい状況がある。本研究では、担当ヘルパーが長期に雇用されるためには、どのような職場環境が必要であるかを明らかにすることにある。

 調査方法は、大阪市の訪問介護事業者1191箇所の管理者を対象に調査し、35.9%の有効票を回収した。

 調査結果として、管理職の離職意識として、離職が「大変高い」4.0%、「高い」26.6%、「低い」38.6%、「大変低い」28.5%となっていた。事業者により意識の差が大きいが、低いとする割合が3分の2近くもあることは注目に値する。

 管理者の捉える職場の特徴は因子分析の結果、職場内外の「職員の研修に対する体制整備」、給与・福利厚生等の「職員への待遇」、上司や仲間との関係や有給休暇や公正な人事といった「職場内の環境」、職場の社会からの評価といった「職場外との関係」の4因子に分かれた。

 次に、管理者の離職意識について、4つの因子でt検定をみると、「職場内の環境」のみに有意差がみられた。その結果、上司や仲間との関係を良くし、公正な人事や有給休暇といった制度を取り入れていくことが、担当ヘルパーの継続した雇用につながると意識していることが分かった。

 そのため、訪問介護事業者の職場内の環境を作り上げるために、職場内での職員を指導や支援していくスーバイザーの配置や、できる限りガラス張りの運営が求められる。管理者の意識として、これらが確立すれば、担当ヘルパーの定着率が高まることにつながることが分かった。

 これは、管理職の意識調査であり、離職者調査でない限界はあるが、管理職の意識として、国なり訪問介護事業者がどのような施策を行う必要があるかが明らかになった。

 今年度は、いくつかの訪問介護事業者にモデル的にお願いして、これらの明らかになった課題を具体的に解決していくことで、離職率に抑えることができるかを検証してみたいと思っている。

 最後になったが、調査にご協力いただいた皆さんに、心より感謝申し上げる次第である。有り難うございました。

介護保険施設や訪問介護事業者の離職要因について①

2009年08月14日 | ケアや介護
 介護職の離職や高いということで介護職が集まらないということで、大阪府下の特別養護老人ホームと老人保健施設の介護保健施設を悉皆で調査した。他方、大阪市内の在宅の訪問介護事業者を悉皆で調査した。これは、事業者の管理者を対象にした実態・意識調査であるが、調査にお応えいただいた皆さんに感謝する次第である。

 そこで、介護保険施設と訪問介護事業者の2回に分けて、調査結果のポイントと課題について示しておきたい。

1 介護施設における職場の特徴と施設職員の離職との関係<施設管理者への調査をもとに>

 介護保険施設の需要が高まっているが、介護施設における職員の離職率が高く、問題となっている。本研究では、施設管理者に対する調査をもとに、どのような職場の特徴が、職員離職率に関連しているかを明らかにし、施設における職員定着率を向上させるための提言を行う。

 調査方法は、大阪府の介護保険施設527ヵ所の管理者に郵送調査を実施し、回収率は29.6%(N=156)だった。

 調査の結果、離職割合について、「大変高い」が4.1%、「高い」が47.6%、「低い」40.4%、「とても低い」が4.8%と管理職が意識しており、離職意識に介護保険施設間で大きな差があることが分かった。

 管理者の捉える介護保険施設の状況について因子分析にかけた結果、「職場内外での関係」、「職場の研修体制」、「職員の待遇」、「事業所としての支援体制」、「職員に対する尊重」の5因子が抽出された。すなわち、管理職の意識として、上司や同僚や地域の人の評価といった「職場内外との関係」、職場内と外での「研修体制の整備」、給与等の「職員の待遇」、休暇等の「事業所としての支援体制」、職員の意見の反映といった「職員に対する尊重」の5つでもって、介護保険施設の構造としていることが分かった。

 この5因子を従属変数、離職状況を独立変数としてt検定を行った結果、「職場内外の関係」と「職員の待遇」において高い有意差が示された。これにより、施設内において良好な人間関係を保つことや、利用者・地域からの高い評価を得ること、職員に対する給与や福利厚生を充実させることが、施設の介護職の離職を改善することに有効であることが分かった。

 これは、管理職の意識調査であり、離職者調査でない限界はあるが、管理職の意識として、国なり介護保険施設がどのような施策を行う必要があるかが明らかになった。

 今年度は、いくつかの介護保険事業所にモデル的にお願いして、これらの明らかになった課題を具体的に解決していくことで、離職率に抑えることができるかを検証してみたいと思っている。

居宅介護支援事業者の「特定事業者加算Ⅱ」はどこがとるのか 報酬単価のアップが基本

2009年08月13日 | 論説等の原稿(既発表)
「シルバー産業新聞」に連載の「介護保険10年 ケアマネジメントいまとこれから 白澤教授の快刀乱麻」の第5回が掲載されたので、再掲します。

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第5回 居宅介護支援事業者の「特定事業者加算Ⅱ」はどこがとるのか 報酬単価のアップが基本

 今回の介護報酬改定の最も大きな特徴は、40数個の加算制度を創ったことである。居宅介護支援事業者についても、8つの加算がある。その内で経営に大きく影響し、事業者間の経営的な格差を生み出す「特定事業者加算Ⅰ」や「特定事業者加算Ⅱ」がある。後者の加算は今回の介護報酬改正で新たに創設されたものであり、一定の体制を整えたうえで、常勤・専従のケアマネジャー2名以上と主任介護支援専門員が配置されていることを要件にしている。

 この「特定事業者加算Ⅱ」は、従来の「特定事業者加算Ⅰ」はごく少数の事業所しかとれず、敷居を低くし、取りやすくしたものである。ただ、このⅡの加算がどの程度の事業者がとれるかと言えば、これもごく僅かに過ぎない。

 私事であるが、昨年度に大阪市の居宅介護支援事業者を対象に悉皆調査を行ったが、その結果、3人以上の常勤職員を雇用している事業者は、2割弱に過ぎず、ほとんどが零細事業者であることが分かった。そのため、「特定事業者加算Ⅰ」ほどではないとしても、現状では2割弱程度しか加算をとれないのではないかと推測していた。

 さらに、主任介護支援専門員研修会が始まり、特定事業者加算Ⅱを取る予定の事業者を優先して受講を認めることになっている。大阪府を例にすると、特定事業者加算取得での受講者数は約400人(前半)であり、大阪府にある約2740ヵ所の居宅介護支援事業者の内の、各事業者が1名のみを受講派遣していると仮定し、多く見積もっても2割弱程度しか「特定事業者加算Ⅱ」は取れない。

 このような結果をみるにつけ、今回の介護報酬は何を意味するのであろうか。規模の大きい事業者が必ずしも質の高いサービスを提供しているとは限らない。逆に言えば、独立型の一人ケアマネの事業者では、サービスの質とは言わないが、中立公正が担保されていることは確かであり、こうした事業所への加算の話はどこに行ったのであろうか。

 その意味では、居宅介護支援事業者の特定事業者加算は、ごく一部の規模の大きい事業者に限定して、介護報酬のパイを分配したことになる。さらに問題になることは、特定事業者加算がとれた場合でも、利用者負担には関係がなく、利用者からの評価を受けなくて済むことである。これは、他のサービス事業者での加算と根本的に異なることである。

 利用者に質の高いサービスを提供するという加算の根拠が十分でない場合には、介護報酬の基本単価を上げることを基本にすべきであるというのが、私の主張である。ましてや、居宅介護支援事業者はほぼ全てが赤字であり、経営面で根本的な底上げをしなければならないならない時期にあると認識している。

 今回の「特定事業者加算Ⅱ」を、介護報酬単価に戻してみると、まずは20%の要介護者について、300単位の「特定事業者加算Ⅱ」が付いたと仮定し、これを全要介護者に分配すれば、1事例60単位に相当する。この結果、現状の要介護1~2は1000単位から1060単位、要介護3~5は1300単位から1360単位となり、介護報酬単価は5%程度アップすることになる。もう一つ、150単位がついている「独居高齢者加算」や「認知症加算」が全事例の3割を占めていると仮定すれば、これを全ケースに配分すれば45単位となり、両者の加算を合わせると、介護報酬の基本単価を1割近いアップが図れたはずである。

 改定前の居宅介護支援事業者の収支差率は、-17~18%であり、ここで仮定した単価をアップしたところで、なお赤字は続くであろう。そのため、介護報酬単価を土俵に乗せて、黒字転換に向けて改定議論をしていくことが不可欠である。その意味では、今回の「特定事業者加算」は規模の大きい事業者に有利に働き、規模の小さい事業者に不利に働くことが鮮明になり、両者間で経営面での格差を生み出すことになってしまった。

要介護度認定の見直しに係る検証・検討会の結末について

2009年08月12日 | ケアや介護
 4月から始まった新たに要介護認定について、大幅に改正され、一部の基準は4月以前に戻すことが、7月28日に開かれた要介護認定の見直しに係る検証・検討会で決まった。私自身も3月に「介護保険を維持・発展する1000万人の輪」として、凍結を舛添厚生労働大臣に要望した立場からすると、考えさせられるものがある。

 今回の検証・検討会の結論は、ある意味では画期的なことであり、別の意味では反省すべきことの多いものであった。画期的なこととは、国が一度決めたことをここまで変えるのかという驚きである。このようなことはあまり見たことがなく、良い意味では、国も事実に合わせて柔軟な対応ができるものと評価できるし、悪い意味では、プリテストもなく新制度の実施に踏み切った慎重さを欠いたことが非難されることになる。

反省すべきことには、こうした制度改革には、ユーザー参加の下で、慎重な審議の下で進められなければならないことが、第1に挙げられる。第2に、今回の改正は、地域による要介護度認定のバラツキを少なくすることが目的としながらも、万が一要介護度の軽度化を意図していたとするならば、これは戒めなければならない。要介護度はそのものが国民にとって現状ではファジーなものに映っており、これを操作することで、財源の抑制を図ることになれば、国民から介護保険制度に対する基本的な信頼を失っていくことになると考える。

 但し、介護保険においては、財源問題は極めて大切なテーマである。これについては、正々堂々と、保険料、公費負担、要支援者、自己負担といった国民に見えるテーマで議論し、国民が納得いく形で財源問題の解決を図っていくべきである。

 ただ、要介護認定については、まだまだ課題が多い。本当に利用者のための介護保険制度にしていくために、短期の課題、中期の課題。長期の課題に分けて整理しておきたい。

 短期の課題は、10月から新しい要介護認定制度を活用することになるが、これで本当に適切な認定がなされるかかのチェックが不可欠である。今回は、軽度者について、従来に比べて軽度に出る部分に焦点が当てられたが、重度の要介護者と軽度の要介護者が逆転していないかや、それぞれの要介護・支援者にとって適切な認定結果に収まっているか、の検証を続けていく必要がある。

 中期の課題は、今回の要介護認定の改正の基礎には、従来の、利用者の能力から要介護度を判定する基準から、「介助の方法」(どの程度介助が必要か)という名称で、介護の必要度を調査項目に入れたが、このような判定基準はとりわけ、在宅の高齢者にとっては不可欠であり、評価するものである。しかしながら、こうした項目をもとにすると、家族の介護力が間違いなく大きく影響することになる。そうすれば、従来介護保険においては、理論上は家族の介護力に関係なく、サービスを利用できるとしてきた理論上の問題について、どのような対応するかの議論が生じてくる。その結果、「保険か税(消費税)か」といった議論にも繋がっていき、国民のコンセンサスを得るためには、社会全体で議論することが大切である。

 長期的な課題では、要介護認定制度そのものの必要性についてである。基本的に、ケアマネジャーも財源を適正に活用するためのゲートキーパー(門番)的な役割を果たしており、同時に要介護認定制度を実施することは、二重の門番制度をもっていることになり、効率的な仕組みではない。さらに、この検証・検討会に稲城市での在宅者の支給限度額と実際の利用額を比較したデータが資料として提出されていたが、現実には要介護2で47.5%と最も高いが、要介護5では17.9%であり、ほとんど大多数の利用者は支給限度額にははるか及ばない利用実績である。こうした実態からしても、要介護認定制度の在り方を見直すべく、検討が必要である。

各党のマニフェスト比較③障害者自立支援法の今後について

2009年08月11日 | 社会福祉士
 今回の衆議院解散で、流れてしまった法律の一つに「障害者自立支援法の改正」がある。この法律改正の争点は、法律ができる以前は、サービスを利用する際に、障害者本人や家族の所得による「応能負担」であったが、障害者自立支援法では、基本的に、一定の所得がある者であれば、1割の自己負担をする「応益負担」になっていた。これに対して、サービスが利用できないと言った批判が障害者から多くでており、日本国憲法での最低生活保障に対する違憲であるとの裁判が行われている状況にある。そこで再度「応能負担」に戻していくことを主として意図した改正であった。

 この改正に対して、各政党は、どのような政策をもっているのかを、見てみたい。

 自民党 今回の法改正案の骨子である、応能負担への転換、相談支援体制の強化、障害児の放課後のデイサービス利用を示している。

 公明党 障害者自立支援法の改正についてはふれていないが、障害者福祉に多くのスペースをとり、「障がい福祉ゴールドプラン」を作成し、そこでのグループホームやケアホームの緊急整備、地域相談支援体制の強化でもって、障害者自立支援法での改正内容を謳っている。

 民主党 「障害者自立支援法」は廃止し、現在障害者福祉から除外されている人々も加えて、サービスの利用者負担を応能負担とする「障がい者総合福祉法」の制定を言っている。

 共産党 障害者自立支援法を廃止し、「応益負担」を即刻撤廃し、福祉施設・作業所への報酬の枠組を日払い制度を廃止し、大幅に引き上げるとしているまた、障害雇用では、国の責任で3万円以上に引き上げるとしている。

 社民党 障害者自立支援法を一旦廃止し、利用料を応能負担の仕組みに戻すとしている。

 国民新党 障害者福祉については記載がない。

 以上が、マニフェストの内容であるが、いずれの政党も応能負担に戻すことでは一致しており、あまり違いが分からない。その意味では、障害者自立支援法を廃止するのか、改正するのかは別にして、障害者の就労や地域生活をどのように支えるのかを具体的に提案していただきたいものである。同時に、障害者施設の報酬についても、突っ込んだ提案を頂きたいものである。各政党ともに、告示日までに追加や修正を願いたいものである。

訪問介護サービスも老老介護

2009年08月10日 | ケアや介護
 現在、訪問介護事業者を中心に、民間の在宅介護サービス事業者の高齢者雇用の実態に関する研究会に入って勉強している。そこで、訪問介護事業者での担当ヘルパーの年齢構成のヒヤリング結果を聞いて、驚いた。ある大手の事業者では、登録ヘルパーは60歳以上70歳未満が28.3%、70歳以上が3.8%を占め、80歳以上の方も数名いるという。この事業者程ではないが、他の事業者でも同じような傾向が見られた。ある程度は予測していたが、ここまでヘルパーの高齢化が進んでいるとは思っていなかった。

 この結果、個々の家族内で老老介護がなされているだけでなく、介護保険という社会制度においても、老老介護が行われているということである。今回の研究は、高齢者雇用の促進ということがテーマであるため、非常勤・パートの担当ヘルパーの高齢雇用は相当進んでおり、それなりの評価が得られるものである。

 さらに、雇用されている高齢の登録ヘルパーのヒヤリング結果では、仕事に生きがいを有しており、給与とかの問題は出ていない。その意味では、日本の高齢化を考えると、こうした人々が増加することで、年金や税を使う人といった高齢者から、できる限り働き、税金を払う高齢者への方向を修正している企業集団であるとも評価できる。
 
 一方、高齢者が中心になっている担当ヘルパーについて、配慮しなければならないことも、多く浮かび上がってくる。

①現状での訪問介護において、どのような内容の介護が高齢者には適切か? 

 加齢により身体面での体力が衰えていくことはいがめない。そのため、身体介護というよりは 家事などの生活介護が中心にならざるを得ない。また、長年の経験をうまく生かすことができれば、認知症介護にも効果は大きいといえる。ただし、こうした高齢者が多いことを考慮したリスク管理が必要になっている。

②逆に、若い担当ヘルパーが少ないことをどのように考えるのか?さらには、どうすれば増えるのか?

 これには、おそらく多くのヘルパーは子育てが終わった層が、2級等のヘルパー資格を取得し、再雇用されている場合が多い。その際に、非常勤・パートタイムという職であり、相当給与が低いことが予想され、この仕事で家族を養っていくことは不可能であろう。そうすれば、誰か一家の大黒柱が別にいて、家計を補完する位置で仕事をしていることになる。ある意味では、「生き甲斐」で仕事をしていることが多い。

 これであれば、若い学生が卒業して、このような非常勤・パートタイムで働いてくれることが、土台無理であり、現実にもそうした人はほとんどいないのが現実である。そのため、非常勤・パートタイムを基本にするとしても、一定の収入が得られることが必要であり、そのための介護報酬アップが求められる。今回の介護職員処遇改善給付金では、15%程度の収入増が確保されることは意味があるといえる。

③こうした人々に介護福祉士資格の取得を求めるのか?

 現実に担当ヘルパーは密室での1対1のケアであるため、専門性の担保が不可欠である。厚生労働省でも、ヘルパーが介護福祉士資格取得までもっていこうとしているが、困難が予想される。子育てが終わった時点で、2級ヘルパーを取り、それからさらに国家資格取得となれば、どの程度の者がそこまで辿り着けるかに問題がある。そのため、2級資格ヘルパーをベースに、義務化された継続教育でもって、水準を高めていく方法がベストのような気がする。但し、介護福祉士資格取得を決して拒むものではないことも、追加しておきたい。

④若いサービス提供責任者と高齢の担当ヘルパーの関係をどのように作るのか?

 短期大学等を卒業してくる若い方は、常勤職で採用されることになり、早い時期にサービス提供責任者となる。そのため、若いサービス提供責任者が高齢の担当ヘルパーを支援・指導する立場になる。このことが、社会経験も加味した仕事であるホームヘルパー業務において、両者の関係が円滑に進むのかという不安がある。その意味では、子育てが終わって担当ヘルパーになった者についても、サービス提供責任者になる機会を、継続教育の中で作り上げていく必要がある。

 以上のことを考えると、基本的にホームヘルパーの業務には、キャリアパスの仕組みがほとんど確立されていないことになる。サービス提供責任者の終着点は決して介護支援専門員になることではなく、ホームヘルプ業務の中で、熟練し、管理者になっていくステップアップを作っていくことが大切である。その際に、常勤職と非常勤・パート職の2本のキャリアパスを作り、さらには、ある時期には、非常勤・パート職から常勤職へ、パスが移れる仕組みも大切である。


各党のマニフェスト比較②介護保険制度での公費比率の変更について

2009年08月08日 | ケアや介護
5月13日に開かれた6党の討論会では、介護保険財源が厳しい状況を迎えているという認識を、すべての党から理解が得られたと思っている。ここに、各党がどのように公費負担、特に国費負担をアップしていこうとしているかを、マニフェストから覗いてみたい。なお、現在この公費負担は、国が25%、都道府県と市町村がそれぞれ12.5%となっている(施設等給付金分については、国20%、都道府県および市町村はそれぞれ17.5%)。

自民党 公費比率の変更については記述していない。但し、「平成24年度の介護報酬改訂において、介護保険料の上昇を抑制しつつ、介護報酬を引き上げる」としており、保険料を上げないで介護報酬を上げるためには、どう見ても公費負担を増やすか、あるいは要支援者をカットするか、自己負担比率10%をアップするしか方法が考えられない。

公明党 「「新介護ゴールドプラン」を策定し、公費負担割合の引き上げなどにより、介護保険財源の安定化を図る」としており、公費負担割合の引き上げを明記している。

民主党 公費負担の変更については記述無し。全体として、「認定事業者に対する介護報酬を加算し、介護労働者の賃金を月額4万円引き上げる」と書かれているが、恐らく認定事業者は介護保険事業者のことであると思われるが、どのように介護報酬を上げるのかは不明である。

共産党 「介護給付費の国庫負担割合を計画的に50%まで引き上げ」、「当面ただちに5%引きあげ」と明確にしている。

社民党 概要版であり、今後詳細な内容が示されると思うが、「医療・介護保険の国の負担割合の引き上げ」と、介護保険同様に医療保険も公費負担をアップするとしている。

国民新党 介護保険での公費負担については記述無し。しかし、介護の現場で劣悪な条件で働く人の給与を一般公務員並に引き上げる(30%増)としているが、その財源はどこから出すのだろうか。

これらのマニフェストは、公費財源(租税分)をどこから確保できるのかについては不明瞭ではあるが、8月18日の選挙公示日までに、より詳細の内容を提示してくれることを期待したい。

 各党のマニフェスト比較①(介護職員処遇改善給付金)

2009年08月07日 | ケアや介護
 「介護保険を維持・発展させる1000万人の輪」が6党の介護保険担当者にご参加いただき、「介護保険の未来」ということで公開シンポジウムを開催したのは5月13日のことだったが、このシンポジウムに参加していた立場からは、1つの大きな衆議院選挙の争点になるのは、景気対策として緊急に実施させる「介護職員処遇改善給付金」があると思った。それは、今年の10月からスタートするものであり、8月30日の投票で、それぞれが責任政党となった時に、10月からどのような対応をするのかが関心があったからである。

 さらに、長期的には、介護保険制度の公費負担の割合をどうしていくのかも大きな関心事である。その場合に、この給付金部分は、継続して実施されることになれば、公費に転化する可能性も高いからである。

 そのため、衆議院選挙に向けて各党が出揃ったマニフェストで、「介護職員処遇改善給付金」制度をどのように位置づけているかを整理した。その結果は、以下の通りである。

 介護職員処遇改善給付金について、自民党は従来通りであり、介護職員の平均1万5千円をアップするものである。公明党は、介護従事者(この用語は、一般に、介護職員以外に、ケアマネジャーや看護師も含む)の賃金の引き上げやキャリアアップ支援としているが、具体的なアップの額は示されていない。

 野党でみると、民主党は、新たに「介護労働者」という新たな用語を使い、月4万円のアップを言っている。この「介護労働者」については、「介護職員」や「介護従事者」とどう違うのかが、明確でない。共産党も同様に「介護労働者」という用語を使い、月3万円のアップをいっている。社民党は、概要版であり、8月18日から詳細なマニフェストを配布するとのことであり、看護師、福祉や介護職員の待遇の改善をいっている。国民新党は、介護の現場で劣悪な条件で働く人の給与を一般公務員並に引き上げる(30%増)としている。

 それぞれの政党の公約の詳細は読んでいただきたい。また、内容に対する個人的なコメントは控えるが、気になることが2点ある。この給付金は現状では10月から2年半で終わりことになっているが、これについて文書で、それ以降も継続していくことを明記している政党のマニフェストはない。これについて、各政党に応えて貰いたいものである。これが、永遠のものになると、自ずから、公費(国費)負担分が増加することになるからである。

 もう1点は、民主党や社民党がいっている介護労働者とは誰を指すのかを、明確にして貰いたいものである。これは、2回の介護報酬改定で、介護支援専門員等の給与が下がっており、介護職員に加えて介護保険制度に従事する者の待遇改善が必要であると思うからである。

6党のマニフェストのアドレスは、以下の通りです。
自民党 http://www.jimin.jp/sen_syu45/seisaku/pdf/2009_bank.pdf
公明党 http://www.komei.or.jp/policy/policy/pdf/manifesto2009_forweb.pdf
民主党 http://www.dpj.or.jp/special/manifesto2009/pdf/manifesto_2009.pdf
共産党 http://www.jcp.or.jp/seisaku/2009/syuuin/20090728_kihon_1.html
社民党 http://www5.sdp.or.jp/policy/policy/election/manifesto01.htm
国民新党 http://www.kokumin.or.jp/seiken-seisaku/pdf/kouysku-seiji-public-seiki.pdf