森の詞

元ゲームシナリオライター篠森京夜の小説、企画書、制作日記、コラム等

2003年4月1日~4月15日

2008年04月15日 | あるシナリオライターの日常

2003年4月1日

 夢を見た。
 極めて長い夢だった。ごく一部しか思い出せないが、私は勇者の家系に生まれた青年だった。長きに渡り平和が続いた世界で、母親に鍛えられながら倒すべき魔王の出現を待つ、無邪気な青年だった。
 そして、願いは叶う。魔王とその息子が現れる。
 魔王は女性だった。母が対峙した。
 私は魔王の息子と対峙した。自分の代に戦うべき相手に巡り合えたことに歓喜し、好奇心から話をしてみたくなった。剣を抜かず、にこやかに話しかける。
 魔王の息子は無言で剣を振るった。軽く身体を動かし鎧で受け流し、それでも私は笑っていた。

 午前8時30分、起床。朝風呂。
 師からメール。弟子全員の作品講評課題。

 午前11時、出社。
 作品講評。

 望月女史にメール。今夜の待ち合わせについて。

 プログラム関連業務。
 シナリオからキャラクター毎にポーズパターン、表情パターンを抽出。

 午後7時30分、退社。徒歩で地下鉄京橋駅へ。
 午後8時10分の待ち合わせだが望月女史の姿なし。電話も繋がらず。
 午後8時30分、待機断念。
 午後9時、帰宅。

 午後9時10分、望月女史から謝罪の電話。

 『アンリミテッドサガ』をプレイ。

 午後11時30分、就寝。


2003年4月2日

 夢を見た。
 今日もまた、長い夢だった。
 詳細を覚えているだけに、とても書ききれるものではない。
 ただ、夢の中で夢を見、夢の中で現実を意識していた。

 午前7時30分、起床。朝風呂。
 師からメール。返信。

 午前11時、出社。

 プログラム関連業務。
 タイトル画面仮構築。

 社長からタイトルが気に入らない、もっとインパクトのあるものに変えろと指示。
 既に雑誌等にも発表しているのに、いまさらそんなことができるかどあほうが。

 午後8時15分、帰宅。

 ビデオに録画しておいた『NARUTO』を観つつ夕食。お好み焼き。
 6時でもゴールデンタイムでも、家にいなければ同じ。

 『アンリミテッドサガ』をプレイ。

 最近眠くなるのが異様に早い。何故だ?
 午後11時30分、就寝。


2003年4月3日

 午前7時30分、起床。朝風呂。

 午前10時30分、出社。

 独自のNScripterマニュアル作成開始。
 他人にわかりやすく解説する過程で、自ら知識と技術を吸収することが狙い。

 師からメール。特定の写真から400字のストーリーを紡ぐイメージトレーニング課題。

 『東京アンダーグラウンド』第10巻購入。
 午後8時15分、帰宅。
 『天使な小生意気』6巻をレンタル。原作の名シーンが省略されている。なんと勿体無いことをするのだ。

 『アンリミテッドサガ』をプレイ。間もなく眠気に襲われる。
 思い起こせば、私は朝刊配達のため、9時に寝て3時に起きる生活をしていた人間だった。身体が本来のリズムを取り戻したがっているということか。

 午前0時、就寝。


2003年4月4日

 午前7時30分、起床。
 迂闊にも偶然見つけたネット漫画にハマる。
 コンピューターとオセロ。3勝2敗。

 ……朝っぱらから私は何をしているのか。

 『ヒカルの碁』第21巻購入。
 午前10時30分、出社。

 プログラム関連業務。
 CG閲覧モード基礎プログラム構築。

 父からメール。日記を読んでの意見。
 引用許可をいただき、一部抜粋。

 (前略)「馬鹿者」と言いますが、響きも悪く、それに品がありません。京都では「スカタン」「間抜け」「阿保」「ド阿保」と使い分けをして、柔らかく非難します。(中略)言葉の文化を育んできた京都の歴史です。同じことを言うのにも角を立てず表面穏やかに腹の中で怒り心頭こそが権力に対する京都千年の智恵でありましょう。
 社長に「馬鹿者」では可愛相ではありませんか。仮に、その通りだとしても(笑)。


 4月2日の日記における「馬鹿者」を「どあほう」に修正。

 午後8時15分、帰宅。
 野菜炒め。

 師にメール。

 『アンリミテッドサガ』をプレイ。30分で撃沈。
 午前0時、就寝。


2003年4月5日

 午前7時、起床。朝風呂。
 師にメール。

 今日は花見の予定であったが生憎の雨天。

 レンと二人で産婦人科へ。
 七週四日目。

 名は明日葉。
 今日散っても、摘まれても、明日になればまた葉を繁らせる。そんな人間に育つようにとの願いを込めて。

 祖母に電話。
 師にメール。

 父から電話。

 作品講評。

 午後9時、外食。
 食後、レンと雨上がりの川沿いを散策。夜桜を愉しむ。

 午後11時30分、就寝。


2003年4月6日

 午前6時40分、起床。

 午前8時~午後8時、就業。
 午後8時30分、帰宅。

 午後11時30分、就寝。


2003年4月7日

 午前7時40分、起床。炊事。

 午前10時30分、出社。

 プログラム関連業務。
 CG閲覧モード構築。

 先輩から指示。

・差分を同枠に納めず、一枚ずつサムネイルを表示せよ
・キャラクターごとにページを分けるな


 理由はそれぞれ、

・枠をたくさん作ればCG枚数が多いと思わせられるから
・複数のキャラクターが描かれているCG、特定のキャラクターを対象としていないCGの展示場所に困るから


 同じような絵が何枚も並んでいても見苦しいだけ、ユーザーに無駄な動作を強いることになる、ユーザーが目的のCGを探す妨げになるという意見も、複数のキャラクターが描かれているならすべてのキャラクターの枠に展示すればいい、特定のキャラクターが対象でないCGは「その他」で納めればいいという案も無視される。
 理由はいつも同じだ。

「僕が気に入らないから」

 映画「ジャンヌ・ダルク」でフランス皇太后が口にした台詞を思い出す。

「お前の意見など聞いていない。私の意見ですらどうでもいい! 大切なのは民衆が何を求めているのかということです」

 小手先のごまかしに走る愚か者よ。
 何故この程度のことがわからないのか。

 声優事務所からデモCDが送られてくる。
 求められ、登場人物のキャスト候補を選出。
 が、またも感情論でことごとく却下される。
 参考にすらする気がないのなら最初から訊くな。

 午後8時15分、帰宅。炊事。

 録画しておいた『名探偵コナン ベイカーストリートの亡霊』を観つつ食事。
 諸星少年だけ成長していないのだが、それでいいのか。


2003年4月8日

 午前0時30分、就寝。
 午前7時40分、起床。炊事。
 師にメール。

 作品講評。

 午前10時30分、出社。

 プログラム関連業務。
 CG閲覧モード構築。ファイル名入力作業。数字とアルファベットの混成名ファイルを分類せずまとめて表示するため、一括処理計算が使えない。全処理を手打ち。これもまた愚か者の「僕がわかりにくいから」に端を発している。
 独自のNScripterマニュアルにおいて、キャラクター番号、変数、イベント番号、ファイル名の連動法則を確立。グローバル変数との兼ね合いがあるため一部汎用性に欠けるが、基本を押さえておけば今後様々な形に発展させられるだろう。

 午後8時15分、帰宅。炊事。
 『プロジェクトX』を観つつ食事。
 凄まじきかな日本人。

 テレビ版『X』最終巻を観賞。
 説明不足&ご都合主義。
 原作はどうなるのか。

 午前0時、就寝。


2003年4月9日

 午前9時、起床。異様に身体が重い。
 エイブル氏からメール。返信。

 午前10時30分、出社。

 ムービー作成用資料作成業務。

 プログラム関連業務。
 CG閲覧モード構築。仮完成。
 独自のNScripterマニュアルにおけるCG閲覧モードの項も完成。

 誰かが読むとも思えない、あとで書き換えられることがわかりきっている雑誌掲載用コメントの作成。虚しい。

 独自マニュアルの音楽鑑賞モードに着手。

 午後8時15分、帰宅。炊事。

 午後11時30分、就寝。


2003年4月10日

 午前9時、起床。炊事。

 欠勤。自宅作業。

 入浴。
 作品講評。
 声優事務所提出用資料作成業務。
 エイブル氏からメール。肉体的にも精神的にも限界が近いようだ。細心の注意を払い返信。
 現在完成分全20曲最終確認作業。ニ曲要修正。
 カジマ氏にメール。

 午後5時、頭痛悪化。昼寝。
 午後7時、買物。炊事。

 『どっちの料理ショースペシャル』を観つつ食事。

 師にメール。
 エイブル氏にメール。

 午後11時30分、就寝。


2003年4月11日

 午前7時30分、起床。
 朝風呂。炊事。
 師からメール。

 カジマ氏からメール。
 声優向け資料作成業務。

 午前10時30分、出社。

 午前11時、師から再度メール。究極の課題。
 ニ週間を期限に、完全なるプロットを構築せよ。
 明日は一日をこの課題に費やすことになる。

 先輩から先日の不採用通知に関する指示。

「未だ完全にプロとは言いがたい君が、こんな偉そうなことを書くな」

 ならば不採用理由など書かなければいいという意見はやはり却下。傷つけないよう、もっとやわらかく書けとのこと。
 くだらない。何を書こうと不採用は不採用。しかしせめてその労力に報いることができればと、不採用の理由にアドバイスを添えて書いているのだ。その言葉までオブラートに包んでどうする。
 私の実力がどうであろうと事実は変わらない。もし彼が私ごときに偉そうなことを言われたくないと思うとすれば、日本語規則も守らぬ輩に同情の目で見られることこそ耐えがたい屈辱だろう。
 そもそも、最終チェックに回してからニ週間も放置しておいたこと自体どうかしている。

 続いて声優向け資料に関する指示。
 これじゃあ見辛いから、もっと見やすいように作り直せとのこと。
 オーディション用資料と聞いていたので台詞部分を音読を前提とした構成にしたのだが、どうもそれが気に入らない様子。明確な理由があってこうしているのだ、と根拠と共に説明したところ、却って機嫌を損ねる。

「自分が見やすいかどうかじゃなくて、他人に見やすいかどうかを意識しなきゃダメなんだよ」

 仰ることはもっともだが、他人に見やすいという根拠は何処から持ってくるのか。少なくとも私には声優・アナウンサーの経験という根拠があるが、自分が見やすい=他人も見やすいというあなたの主張には根拠がない。

「君の意見はどうでもいいから。僕の言うとおりにすればいいんだ」

 上記の台詞を最後に先輩が席を外した後、グラフィッカーY氏から苦笑が漏れる。

「いつ殴りかかるかと思ってたよ。いつでも止めに入れるように身構えてた」

 殴ることでわかってくれるならそれでもいいのだが。

 雑誌掲載用コメント作成。砂の城。
 プログラム関連作業。
 独自のNScripterマニュアルにおける音楽鑑賞モード、及びシーン回想モードの項、完成。

 午後8時15分、帰宅。炊事。
 
 久々に『アンリミテッドサガ』をプレイ。1時間で撃沈。
 午後11時45分、就寝。


2003年4月12日

 午前7時30分、起床。朝風呂。炊事。

 骨格物語構築訓練。

 炊事。
 レンの希望で昼食はオムライス。

 骨格物語構築訓練。

 午後5時30分、『ゲットバッカーズ』観賞。
 午後6時、『ガンダムSEED』観賞。またしても総集編。いい加減くどい。

 骨格物語構築訓練。
 一作完成。師に提出。

 仲村佳樹『スキップ・ビート!』第3巻。ますますヒートアップ。目が離せない。
 復讐とはかくも凄まじき力を生み出すものか。

 午後8時、レンの母から差し入れ。夕食メニューが豪華に。

 三年前の今日、私はレンと出会った。
 出会いの奇跡に感謝。
 いま我々のもとで育まれつつある新たな生命にも、多くの奇跡が訪れますよう。


2003年4月13日

 絵夢羅『Wジュリエット』1~5巻。
 よくある男女入れ替えもの。主人公に武道の心得があり、腕力と技と意志とで障害を越えていくという設定・展開も王道だが、素直に面白い。王道とは、歴史が証明する「もっとも人々に受け入れられる一つの形」である。

 午前2時、就寝。
 午前6時40分、起床。炊事。

 午前8時~午後8時、就業。
 休憩時間中、絵夢羅『Wジュリエット』6~8巻読了。
 午後8時30分、帰宅。炊事。

 和泉氏からメール。
 和泉氏、暴力はよくありません。やるなら裏から手を回して社会的に抹殺しないと。
 ……自覚はあったが、私は敵に回すと厄介な人間だ。

 師からメール。いまだ不完全。
 期限まで残り12日。

 入浴中、吐き気に襲われる。

 『アンリミテッドサガ』をプレイ。30分で撃沈。
 午後11時30分、就寝。


2003年4月14日

 午前9時、覚醒。異様に身体が重い。頭痛。
 昨夜の吐き気は予兆か。

 欠勤。

 自身の適性に関する考察。
 二十四年間生きてきて、わかったことがある。
 私は小器用な人間だ。音楽と絵画に関してのみ恐ろしいほどに適性がないが、それ以外なら大抵のことはこなしてしまう。
 反面、なにかひとつを極めることには向いていない。短期の集中力には目を見張るものがあると自覚しているが、情熱は分散する傾向にある。見切りが早く、いつまでも一つのことにはこだわらない。
 私には非常に強い個性が備わっている。その個性が、人を惹きつける力となるようだ。そしてまた、それ以上に多くの敵を作る要因となる。敵を持つからこそ私に興味を持ち、近づいてくる人も現れる。私はそれを自覚し、常に自分が身を置く集団内での立ち位置を作り上げてきた。
 集団内に個性的な人間が現れれば、必然的に浮いた存在となる。日本社会において、浮いた存在は叩かれやすい。多くの場合、そうした人々は集団に溶け込むために処世術を身に着けるものだが、私のそれは逆だ。集団に溶け込まないことで集団での立場を確立する。勿論、それもまたひとつの「集団に属する形」ではあるのだけれど。
 傍目には真面目で優秀な人間に映るようだが、近しい人間は、私が見た目ほどには真面目でも優秀でもないことを知っている。学校やサークル、会社という中小規模の団体内ではともかく、社会規模で一つの分野に限定して見れば、せいぜい可に○がつく程度だろう。しかし母親とレン、そして師を別にすれば、それを口にする人はいない。私の底を誰よりも知っているであろう、あの海藤でさえ。
 不思議なことに、私を敵視する人々から私の底の浅さを指摘されたことはない。自分よりも若干優れている部分にばかり目が行き、自分のほうが優っている部分には気がつかないということか。
 私の個性は集団に埋もれない。同時に、私の個性は集団内にあらずして活きることがない。それらを考えると、ひとつの結論に辿り着く。

 私はバランサーに適しているのではないか。

 どんな個性にも流されず、潰されない個性。すべてに通じ、すべてを少しずつ把握し、広く全体を見る目。私は自覚さえしていれば、ひとつのことに秀でていない代わりに、ひとつのことに引きずられない。
 この個性、おそらくは多方面の分野、しかもその分野において明らかに私よりも優れた人間が集う組織においてこそ最大の力を発揮するはずだ。
 そんなことを考えているうち、眠りが訪れた。

 夢を見た。
 いいアイディアだ。これは、使える。

 午後7時、起床。
 夢の内容を走り書き。
 布団の中で考えていたことを日記にまとめる。
 和泉氏にメールするつもりだったが、言いたいことはすべて日記に書いてしまった。

 炊事。
 雑炊とほうれん草のバター炒め。

 絵夢羅『Wジュリエット』全巻読了。
 ファンの間から第二部連載の要望が多いようだ。個人的にもまだまだ読んでみたい作品だが、設定上主人公の加齢は危険だろう。引き際を誤ると、鳥山明『ドラゴンボール』のような醜態を晒してしまうことにもなりかねない。


2003年4月15日

 午前0時30分、就寝。
 午前7時30分、起床。朝風呂。炊事。

 午前10時30分、出社。

 雑誌掲載用コメント&不採用通知再編集。
 プログラム関連作業。
 エイブル氏にメール。
 カジマ氏にメール。

 午後8時15分、帰宅。

 『プロジェクトX』を観つつ食事。
 いつの日か、トロンがwindowsを駆逐し世界を席巻することを楽しみに。

 午後11時30分、就寝。

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