「詩客」短歌時評

隔週で「詩客」短歌時評を掲載します。

短歌評 ホムラヒロシ? 何それ果物? 橘上

2016-03-05 08:51:35 | 短歌時評
 はじめに
 長くなったので時間ない人は青字の「要約します」からお読みください。



 しまった。諸事情(※つまんなかった)により最初にアップされた短歌時評書き直そうと思った矢先に、前のバージョンに工藤吉生さんから応答が来てしまった。
http://blog.livedoor.jp/mk7911/archives/52160336.html

 こういう場合どうすればいいの? 教えて神様!

神様「ま、それはそれとして何か書けば? だってあれ、かなりひどかったよ」
橘上「じゃあそうします」
神様「それでこそ詩人、いや橘上」
神様「そもそもお前は詩人ではない」
神様「人間であるかも怪しいぞ」
橘上「じゃそういうことで」
橘上「橘上の職業は橘上です」
群衆「デヴィ夫人の職業がデヴィ夫人みたいで素敵!」

読書「そもそも、その神ってのはお前だろ」

 そうだ橘上は神なのだ。
 というわけで以下は橘上が神ということを踏まえてお読みください。

「こういう時に神の話をする奴はダメだ」
「神の話もできないで詩を書くやつはダメさ」


 最初のバージョンも残しておくのでご覧になりたい方はこちらをご覧ください。
 例のつまんないやつ(編集部からも不評だった)↓
http://blog.goo.ne.jp/sikyakutammka/e/90344bbcd027f45edb3eabadf99a662d



   知らない
   俺は知らない
   知ってる
   お前は知ってる

   知ってる
   俺は知ってる
   知らない
   お前は知らない

   誰も知らない
   誰もが知ってる

   知るっていう字こんな字だったっけ?



短歌時評



 僕は二度にわたって詩客に穂村弘のことを書いた

短歌評
http://blog.goo.ne.jp/sikyakutammka/e/66098c3af1538b71df09f45cd70534f2

短歌評 穂村弘とは社会問題である~穂村弘3.0
http://blog.goo.ne.jp/sikyakutammka/e/ad5b85ee1f95597a07ebbf555a794853


 なぜ穂村弘かというと、僕でも知っているレベルの歌人であるからである。
 と同時に穂村弘はお笑いにおける松本人志、演劇における平田オリザに通ずる人物である。
(テレビコラムにおけるナンシー関、現代美術における会田誠とも言えるか?)
 つまり、a,そのジャンルに明確に変革をもたらしb.一般に知名度がありc.彼らをきっかけとしてそのジャンルを始めた若い人が多くd.それ故それから下の世代はその文体を基本としていると言えるぐらいの影響力を持った人物である。
 また彼らは、大仰さを嫌う、細かいディティールを追及する、他者との微妙な距離感、日常の中に生まれる虚無にも似たエアポケットのようなものを表現しているという点でも彼らは共通している。
 それは、過剰な装飾を嫌うノームコアが折檻するファッション業界、「空気読め」という言葉が無言の圧力として存在する時代の雰囲気、無害芸人としての内村光良の再評価などとも呼応している。


「なんか話すぐでかくするんだよな、この人」
「どうせロクにもの見てないんだろ」
「見てないやつだからこそ見えるものがある!」
「根拠ないけど」

 要するに。
「ニューウェイヴ短歌」の穂村弘がスタンダードになり、「アンチ吉本」のダウンタウンが「吉本の顔」になったり、「アンチスタニスラフスキー・システム」の平田オリザの「現代口語演劇」が普通の演劇として受用されてから、それより下はその影響下の作品しか出てないんじゃないの?ということだ

 だから何だ。
 「ホムラヒロシ? 何それ果物?」ぐらいの人がね、出てこないと、どうなんでしょう、根本的に違ったものって出てこないんじゃないかな?

 第三次世界大戦が起きたという嘘をつかれて、幼少期より地下の核シェルターに隔離され、僅かばかりの水と食料と紙とペン、魔法の言葉「五七五七七」を渡されて、去年シェルターからの脱出と同時に歌集を出版した、みたいな人ね。

 ちなみに松本人志の文体に染まってない芸人としてジャルジャルがあげられるので
(ジャルジャルはあまり松本人志の笑いに深く触れることはなかったらしい)
 きっと演劇にも短歌にもジャルジャル的な人はいるのでしょう。
 知らないだけで。


「そもそも穂村弘の影響を受けることの何がわるいんでしょうか?
 芸術は前の世代の影響を受け、反発と更新しながら変わるものでしょう」
「悪くないよ」
「絶対それは悪くない」
「でも今はそうじゃないものが読みたい」
「ポストでもアンチでもない、もっと別の・・・」

 長くなったんですいません。
 要約します。

いやー穂村弘(※)って読みやすいねー
それに影響受けた人らもおもしろいなー
大げさな感じやドヤ顔を嫌うフラットな文体共感できるしなー
でもちょっと作風似てる人多くない? (細部に神は宿る、けどね・・・)
穂村弘知らない人こそ新しいものをつくれるんじゃない?
フラットな文体、だけど政治や生や死をてらいなく扱うみたいな
頑張れ! その読んだことない人。
もうそういう人出てたらゴメンネ(教えてよ)

※平田オリザ、松本人志でも可



です。

(要約しますって言っているもので要約できてるものを見たことない)

こう書くと

「アララギ最高や!
 ニューウェイヴ短歌なんかいらんかったんや!」

って言いたい人だと思われがちですが
 別に僕は「反穂村」でもないですよ。
(橘上を政治利用しないで)
 あ、アララギは最高です。

 前述の要約に付け加えるなら、平田オリザはフラットな現代口語演劇の延長線上に「ロボット演劇」という実験を行っていて好評だし、松本人志(作風はリベラルかつ作家主義的なのに政治思想は保守という稀有な人)はディティールの細かい笑いの先に、政治を含めたリアリティの崩壊をダイナミックに描いた「大日本人」が賛否両輪だし(僕は好き)、フラットのその先を試みている。

 けど、現状穂村弘がフラットのその先を提出しているようには見えないし(ロクに読んでもないのによく言うわ)、若い世代がやってるのかな、「新鋭短歌シリーズ」読んでないしね。
(新鋭短歌シリーズを知ってるんならそれを読んだらいいのに(すでに読んでいそうだ)、知らないようなふりしている。知らないのはしょうがないけど「ふり」には感心しない。)

知ってるって言ったら
知ったかぶり
知らないって言ったら
知らないふり
って言われるんだぜ

それが世の常
人の常

マイケル・ジャクソン「怒ってないよ、愛してるんだよ!

 愛ってやすやすと言うやつは信頼できないねぇ。

 若手を知るのにもってこいの本、山田航さんの『桜前線開架宣言』が最近出たのにスルーだし。せっかく開架したのに。宣言してるのに。

 よし、このタイミングなら言える
 山田航さん、一昨年年賀状返さなくてすいませんでした。
 なんか右肘に違和感があったんです。
 でも他の誰にも返さなかったんで安心してください。
 おかげで今年はほとんど年賀状来ませんでした。
 今年もよろしくお願いします。


 あらためて短歌の若手って誰だよという問いに答えるなら、まずはさっきの山田航『桜前線開架宣言』を見てもらうのがいい。
目次を写すと、ようするに

大松達知/中澤系/松村正直/高木佳子/松木秀/横山未来子/しんくわ/松野志保/雪舟えま/笹公人/今橋愛/岡崎裕美子/兵庫ユカ/内山晶太/黒瀬珂瀾/齋藤芳生/田村元/澤村斉美/光森裕樹/石川美南/岡野大嗣/花山周子/永井祐/笹井宏之/山崎聡子/加藤千恵/堂園昌彦/平岡直子/瀬戸夏子/小島なお/望月裕二郎/吉岡太朗/野口あや子/服部真里子/木下龍也/大森静佳/藪内亮輔/吉田隼人/井上法子/小原奈実 (敬称略)


 といった方々が「短歌」の「若手」の「いいやつ」ということになる。

 じゃあこの中にその「穂村弘の影響を受けてない」「ジャルジャル」的な新しい人いるんですね。すいませんでした。

「謝ったら許されると思うなよ、この厚顔無恥が」
「厚顔無恥じゃなきゃこんな文書かないでしょ」
「礼儀正しい人、怒られない範囲でしか言わないじゃん」
「今こそ厚顔無恥が求められる」
「時が来た!」
「のか?」


 あ、「穂村弘の影響を受けてない真の新人歌人求む」とか言っといて、
 俺の名前出てねぇじゃねぇか、殺すぞ。

と思ったあなた、僕はあなたこそ待っているのです。(殺さないで)
 僕はあなたを応援してます。
 読んだことないけど。

 読んだことないやつ応援するってなめてんのか!
 読まれたことのないやつこそが真の新人でしょ

 ま、俺が読んだことない真の新人がこの文章読んでいるわけないと思うけど。
(読んでいたなら神に感謝)

 そういう人いたら私ですってコメント欄に書き込んでネ!
(いんたーねっとってべんりだね)


「さっきから教えてよとか書き込んでねとか」
「時評執筆者がそんな態度でいいのか?」
「むしろ教える立場じゃないのか?」
武田鉄矢「教えたくてたまらないんですね。人に教えたくてうずうずなさっている
武田鉄矢「人間というのは面白いもので、教えようとした時に必ず間違うんですよ
武田鉄矢「俺だけが知っているとか。こんな考え方も君たちはできないのかとか。人を導こうとか教えようとした時に、必ず人間は失言する

って武田鉄矢も言ってるので教わろうとしてる俺はセーフ。
「でも、この文章基本失言だよね」

「この自らに突っ込んでいくスタイル卑怯よね」
「予め批判的なワード入れ込むことで」
「批判受け入れるように見せかけといて」
「批判封じ込めるっていうか」

「橘上のこの作風にはSNSや2ちゃんねる以後のコミュニケーションを描こうとしている野心を感じる。
インターネットの再現をしているのではなく、インターネットから受けた影響を取捨選択し、あくまで作家の「オリジナリティー」として新たな文体を掴もうとしているのだ。
所謂、『オリジナリティー』を否定するためのインターネットでもなく、古き良き『作家主義』の復権でもない。
インターネットに自らを開示するのではなく、インターネットを自らに取り込もうとしているのだ」

って批評誰も書いてくれないから自分で書いちゃったよ!

「この厚顔無恥が!(二回目)」

 つーか短歌評なのにこんだけ自分の名前出す人もいないよね

「この厚顔無恥が!(三回目)」


 この文章はほとんど憶測で書いているが(100パーセント憶測と言えないあたり俺もまだまだだな)
 ま、言い訳というか俺が時評やる意味ってのは、こういうとこにあると思うので

「短歌と演劇、お笑いは関係ない」

 要するに現代って細分化してるよね。
Wikipedia「中世においては、物理学者は化学者・数学者・錬金術師・哲学者などを兼ねていたが
Wikipedia「20世紀になってから学問の専門化がいちじるしく進み、物理学者は物理学を学んで博士号などの学位を取得した者が主流となっている。
「現代にレオナルド・ダ・ヴィンチは生まれない」
「物理学者は物理学を追うのに精いっぱい」
「詩人は詩を」
「演劇人は演劇を」
「歌人は短歌を」
「芸人はお笑いを」
 なんとか追うのに精いっぱい。

「でもそれだけだとちょっと視野狭くないすか?」
「憶測で言うヤツよりはマシだろ?」
「いわゆる一つの蛸壺から出ないと」
「それはそれとして基本は押さえろよ」
「短歌・俳句・川柳・現代詩・小説・映画・演劇・舞踊・舞踏・狂言・能・コント・漫才・大喜利・バレエ・モダンバレエ・コンテンポラリーダンス・ジャズダンス・ヒップホップダンス・ソーラン節・安来節・根岸安来節会・口語自由律安来節運動・前衛安来節・ニューウェイヴ安来節・ポストニューウェイヴ安来節・かんたん安来節・ネット安来節・新鋭安来節シリーズ・野球・サッカー・クイズ・八百屋・パーマ液・ジッパーの基本抑えるだけで人生終わっちまうよ」
「それがお前の居直りか」
「言葉を発するというのは一つの居直りである」

 知ってるか?
 一説には
 角川短歌年間に載ってるだけでも2800歌人がいて、お笑い養成所に入学するものは一年間で1700人いる。

ジャン・レノ「死ぬまでにすべての映画を見るのは無理だな

「要するに他ジャンルにも目を向けろと?」
「いや、それでも足りない」
「コラボレーションって言ったって、所詮は文化やアートに興味のある界隈でしかやらないじゃん」
「でも芸人じゃなくても人は笑うよね?」
「役者じゃなくても人は演技するよね?」
「詩や歌だって多分、思いがけないところにあるよ」
「あーアレっすか? 生活の中にこそ芸術がある的な?」
「そんないい話に興味はないよ」
「いつだって足りない」
「今だって足りない」
「足りないのを前提に語るしかない」
「どんなことでも」
「これさえ押さえとけばOK!なんてライゼンスは存在しない」

知ったふりもできないし。
知らないふりもできないよ。

言葉はいつだって暴力だし、
歴史はいつだって勝者のものさ。

今に始まったことじゃないだろ?

足りない中でもなんとか語るしかないし、
その語りをつむいで歴史の糸をつなぐしかない。

時に知ったふりして。
時に知らないふりして。

じゃあ俺が知ってる限りの短歌を使って、
短歌の歴史をつむぎます。

橘上で「長歌」

長歌

鍵穴に満ちているのは月の匂い、わが衣手は露にぬれつつ
マガジンをまるめて歩く袋小路「読む」六点の凹凸が
衣干すてふ銀杏(ぎんなん)ひとつ雨にうたれてひとりかも寝む

われといふ時計は疾うに停止してオルゴール語はきらきらと待つ
真昼間に感電死する工夫あれ 珈琲の湯が沸くまでのねむたい遊び
山川に風のかけたるしがらみはだるいせつないこわいさみしい
日本脱出したし 皇帝ペンギンも夜明け前 見はてぬ夢のさむるなりけり
とにかく煙草ほどのけむりも出ないのだつたキリマンジャロに死すべくもなく

天の原ふりさけ見れば春日なる この谷のPARCO海の手前で瞬いている 
誰も守らぬ信号ぐんぐん朝はきてあるいは宇宙船かもしれない。
指先に無機質の塊の如くに並ぶサバンナの便器は氾濫したり
春過ぎて夏来にけらしダマスクス この夏を本一冊も読まず逝かしむ
小倉山峰の紅葉葉心あらば結婚はまだですかなんて聞かないで
花の色はうつりにけりないたづらにあたしはケンカつよいつよい
脇役のようにたたずむ 火星がなつかしいね くわがた
「淋しい」 を指す七通りの言い方を インクが足りないとプリンタが紙の呼吸をやめる

窓ごしに丸井愛子の尻ばかり乗せて皇帝ペンギン飼育係りも
誰にでもさみしいと言ふ癖のあるこの娘は死をすでに覚悟して
昨日といひ今日とくらしてたすけて枝毛姉さんたすけて
執刀の医師の握れるメスの先この子はもう帰って来ない
一瞬を不安よぎれり〈ローニン〉のドアノブ冷えて秋は悲しき
まる焼きの、かんぺきにまでまる焼きのうみがめのような子ら とても元気で良い子です
回る椅子ぽかんと回すははははははははははは母死んだ
死をすでに覚悟して入院したらしきブリキで焼いたカステイラです
母はいまだに母であらうか無量大数の脳が脳呼ぶ
そうですかきれいでしたか息子より私が傷ついてます

ひら仮名は凄(すさま)じきかな 「なぜにおまへは生きてゐるのだ?」
いい日だぜ象のうんこよ聞いてくれ風よりほかにとふ人もなし
さみしさのそのゆくすゑをゑゑゑゑゑゑゑゑゑひどい戦争だった
少女死するまで砕けてもぼくの体がわかるならをとめの姿初めての<青> 

WWWのかなた白きをみればカーテンが「し」の字になつたと人はいふなり



鈴木加成太、穂村弘、塚本邦雄、福島泰樹、大島史洋、加藤治郎、仙波龍英、杉本潤子、苅谷君代、工藤吉生、矢澤麻子、石井久美子、 花 凜、毛利さち子、宮地しもん、坂井修一、東直子、加藤久美子、雪舟えま、飯田有子、小野小町、春道列樹、壬生忠岑、天智天皇、持統天皇、安倍仲麿
僧正遍照、猿丸大夫、よみ人しらず各氏の短歌からの引用のみで構成。

 最後に長歌があったけど、どうなのかよくわからない。あれはいい長歌なんでしょうか。
 短歌は組み替えると駄作になるという証明でしょうか(笑)
 

     橘上の短歌時評~完~

本文中、赤字は工藤吉生▼存在しない何かへの憧れ/FC2版より「詩客 短歌時評「橘上の短歌放浪記」に応える/短歌の若手のいいやつって誰だろう」
http://blog.livedoor.jp/mk7911/archives/52160336.html
からの引用


橙字はマイケル・ジャクソン、武田鉄矢、ジャン・レノ、お世話になっているおじさん、Wikipedia物理学者の項目 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%89%A9%E7%90%86%E5%AD%A6%E8%80%85
からの引用

※引用文字の色わけは作者の指示によります。

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