「詩客」短歌時評

隔週で「詩客」短歌時評を掲載します。

短歌時評第120回 あなたはどこで短歌と出会うんだろう 田丸 まひる 

2016-03-25 13:43:48 | 短歌時評
-『大人になるまでに読みたい 15歳の短歌・俳句・川柳』を中心に

 「春がきた。短歌を始めよう」というわけにはいかないかもしれないが、宝島社のファッション誌「リンネル」2016年4月号において、特集の「春からはじめる素敵な新習慣!」のひとつとして、「日常のワンシーンや心の揺れを表現する手段として、最近ブームになっている短歌」が東直子の担当による見開き一ページで紹介されている。ふんわりとした雰囲気の誌面は眺めているだけで楽しく、短歌に興味を持ってくれるひとが増えることを期待している。
 また、2015年12月に上梓された山田航・編著の若手歌人のアンソロジー『桜前線開架宣言 Born after 1970 現代短歌日本代表』(左右社)は、書店だけではなくヴィレッジヴァンガードなどでも平積みで置かれ、新聞や週刊誌、文芸誌のみならず、前述の「リンネル」のほかに「装苑」2016年3月号(文化出版局)、「GINGER」2016年4月号(幻冬舎)などのファッション誌においても紹介されるなど、今まで短歌に親しみがなかったかもしれないひとたちの目に触れる機会が増えているようで頼もしい。『桜前線開架宣言』のあざやかなピンク色の表紙に心惹かれて手に取ってくれるひとがたくさんいることを願う。
 そんななか、ゆまに書房から『大人になるまでに読みたい 15歳の短歌・俳句・川柳』(「愛と恋」「生と夢」「なやみと力」全3巻)の刊行が開始された。中高生に読んでほしい短歌を黒瀬珂瀾、俳句を佐藤文香、川柳をなかはられいこが選出しており、その一首一句ずつに短いが丁寧な解説が書かれていて読みやすい。中高生向けということで語り口はやわらかいが、作品の内容を生き生きとひも解いてくれていて、大人として読んでも、また15歳の頃の感覚を思い出しながら読んでも魅力的だ。3冊セットでいま思春期を生きているひとや、過去に思春期を過ごしてきたひとにプレゼントして一緒に読みたい、学校の図書館に置いてほしいと思った。
 「愛と恋」から、短歌を少し見てみよう。引かれた作品には、次のような解説がつけられている。

 五線紙にのりさうだなと聞いてゐる遠い電話に弾むきみの声
小野茂樹『羊雲離散』


 恋人は今、遠いところにいる。電話でしか話ができないけれど、電話する時間の、なんと楽しいこと。あっという間に時間がすぎてしまう。たわいない話をするきみがうれしそうに、電話の向こうで声をはずませる。その声は、ぼくにはまるで、美しい音楽のように聞こえるんだ。きみの声のメロディーはそのまま、五線紙に音符で書けそうだね。

 作品の主人公の「ぼく」として書かれた文章には臨場感があり、作品世界に入り込んでいくことができる。「聞こえるんだ」「書けそうだね」という「きみ」への語りかけがそのまま解説文となっているのが特徴的で、さわやかな気分にさせてもらえる。
 もちろん、15歳の知る愛や恋は、さわやかだったり穏やかだったりするものだけではない。

 吾がために死なむと云ひし男らのみなながらへぬおもしろきかな

原 阿佐緒『涙痕』


 おもしろいじゃないですか。かつて、わたしに恋をして「あなたのためなら死んでもいい」と言った何人もの男たちが、みんな死なずにのうのうと生きている。恋の言葉など馬鹿らしいものだ。原阿佐緒は著名な学者との恋愛事件を起こして、短歌の師匠から破門され、新聞や雑誌に書き立てられ、そうかと思うと映画女優に転身するなど、はげしい生涯を送りました。

 「おもしろいじゃないですか」と言ってくれることがおもしろい。中学生や高校生と接していると時折、学校とSNSが、家庭が、部活動が、目の前の恋が、世界のすべてだと思っていてその世界でばかり希望や絶望を感じている子に出会う。そうじゃない。あなたの目にうつっているものや、指先でふれられるものだけが、世界のすべてではない。いつでも、そこから飛び出すことができる。そして、あなたが見ている世界を越えても、希望も絶望もあなたを待っている。越えた世界を振り返って、「おもしろきかな」と言ってもいい。

 ひかり野へ君なら蝶に乗れるだろう
折笠美秋『君なら蝶に』


 お別れに光の缶詰を開ける
松岡瑞枝『光の缶詰』


 まだ見ぬ希望のような「ひかり野」も、「光の缶詰」のような思い出も、確かにそこにあることを短歌も俳句も川柳も教えてくれる。小さな詩形ひとつは、人生に押し寄せてくる波からわたしたちを救ってくれるわけではない。しかし、その波のなかを進むための櫂のひとつにはなり得るのではないか。この本が、だれかの櫂になることを願っている。「愛と恋」の巻末のエッセイで、黒瀬珂瀾は「小さな短詩形にその思いが乗ると、不思議と多くの人に伝わる言葉になるし、作った自分にとっても時を超えて過去の自分の心を教えてくれるタイムカプセルになったりして、とにかく大切なんです」と述べている。「とにかく大切なんです」に強く同意する。15歳のひとにも、15歳を過ぎてしまったひとにも、とにかく大切な心のタイムカプセル、心の櫂としての小さな詩形に出会ってほしい。あなたはどこで短歌と出会うんだろう。

#略歴
田丸まひる(たまるまひる)
1983年生まれ。未来短歌会所属。「七曜」同人。短歌ユニット「ぺんぎんぱんつ」の妹。歌集『晴れのち神様』『硝子のボレット』
ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 短歌評 ホムラヒロシ? 何... | トップ | 短歌評 ラムネ、図書館、み... »

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

関連するみんなの記事

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
  • 30日以上前の記事に対するトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • このブログへのリンクがない記事からのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。