渡辺玄英「シンゴジラへの道」全4回

2016年12月から2017年3月第4土曜日の4回渡辺玄英「シンゴジラへの道」を掲載いたします。

連載エッセー シン・ゴジラへの道 第1回キング・コングの価値 渡辺 玄英

2017-02-06 20:28:52 | 日記
 『シン・ゴジラ』は単純におもしろいというだけでなく、観る者に多くを喚起させる作品だった。現代状況の反映と、それへの批評的な眼差し。物語から提出されたのは、表層においては〈希望〉と〈絶望〉がセットになったひとつの形態だったかもしれないが、結論めかしていうならば、〈死んだ希望の形〉と〈保留された絶望の形〉であり、あるいは〈死んだ未来〉と〈生きながらえた過去〉の混淆だったと思っている。
 本作は当然ながら、これまでの「ゴジラ・シリーズ」からの引用や様々なオマージュに満ちている。とりわけ初代と比較すると多くのことが語れるだろう。
 むろん、この2016年の作品には、2011年の東日本大震災の強い影響下にあり、その映像のあり方は地震と津波を彷彿させ、ゴジラ自体が原発の喩になっている。それは作中、本作ゴジラの出現日「11月3日」が、震災発生日「3月11日」を反転させたものであることからも分かる。さらに、ゴジラの上陸進路からも、東日本大震災を強烈に意識していることが分かる。ゴジラは、太田区から東京駅方向への直線的に進行しており、この直線を延々と伸ばしていくと、ほぼ福島原発に到達する。つまり本作の「ゴジラ」は「フクシマ」への軸線上にあったわけで、ドラマ内での終末カウントダウンのみならず、フクシマへのカウントも刻んでいたのである。

 『シン・ゴジラ』(庵野秀明総監督、樋口真嗣監督、2016年)と東日本大震災の問題は改めて触れることになるだろうが、このエッセーでは時代をさかのぼって、初代の『ゴジラ』(本多猪四郎監督、円谷英二特技監督、1954年)と、それから初代ゴジラが多大な影響を受けたはずの『キング・コング』(1933年アメリカ映画)について、まず押さえておきたい。
 1933年、メリアン・C・クーパーとアーネスト・B・シェードザックが監督した本作は、異界の怪獣が文明社会の中で暴れるというものであり、世界的にヒットしたためその後の作品に大きな影響を及ぼしている。また、『ゴジラ』の特撮を担当した円谷英二が、『キング・コング』に感動してその道を志したということもあり、初代『ゴジラ』の重要な先行作品として位置づけられる。
 『キング・コング』が大ヒットし、当時の人々が熱狂した様は、この巨大な猿の怪獣は実際にいるものなのか、といったたくさんの問い合わせが映画会社に寄せられたことや、その後のシリーズ化、そして怪獣映画というコンテンツの隆盛からも想像できる。
 また、興味深い事実としては、非常に有名なUMA(未確認生物)の〈ネス湖のネッシー〉が、現代史の上で最初に目撃されたのが1933年ということだ。つまりこう推測できないだろうか。まず当時『キング・コング』の世界的ヒットがあり、大衆はこの世界にはまだ秘境があって、未知の怪獣が生息しているのではないか、という思いに強く囚われた。そのためスコットランドの当時は片田舎で自然豊かな湖に、怪獣の幻想を見てしまったのではないだろうか。そう考えなくては、映画がヒットした1933年を境にいきなり多くの目撃者が現れるのは不自然なことだ。いわば『キング・コング』が〈ネッシー〉という怪物を作ったのである。
 このことは、1933年当時、まだ人類には現在とは比較にならないほど広大な秘境や未知が残されていた、ということでもあるだろう。つまり、当時の人々が「キング・コング」、「ネッシー」にリアリティを感じることが出来たのは、怪獣が未知の世界、反文明=秘境・自然の喩として成立したからだ。このことはその後の怪獣映画を考えるうえで重要な要素になる。例えば、「ゴジラ」をはじめ日本の【怪獣】映画(TV作品も含む)が1950年代から1960年代にかけて多作され、1970年代から(正確には1972年の『仮面ライダー』の登場をもって)その主役の座を【怪人】に奪われていくのは、怪獣=未知=反文明=自然といった視点で考えなくては説明が難しい。
ともあれ、次回のこのエッセーでは、映画『キング・コング』の成立について、怪獣=未知=反文明=自然という視点から見てみることにしたい。
(第一回 了)
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