湘南ライナー日記 SHONAN LINER NOTES

会社帰りの湘南ライナーの中で書いていた日記を継続中

沖縄エピソード1 Her attack

2007-12-11 00:22:31 | 沖縄日記


乗客565名を乗せたJAL909便那覇行きは、機首を下げ既に着陸体勢に入っていた。
グガゴリゴリゴリ…
足下から車輪が出る鈍い音が響く。モニターに映し出される海面が、より鮮明になってきた。
ところが、ここから高度がなかなか下がらない。いや、再び上がっているようにも思える。
しばらくすると、機長のアナウンスが始まった。あきらかに慌ている様子だ。
直前に着陸した便のバードストライク(鳥がぶつかる、あるいはエンジンに巻き込む)で、滑走路が一時封鎖されたという。
そして、息遣いが荒いままに、機長はこう付け加えた。
「当機は燃料を十分積んでおります、心配はありません」
わざわざそんなこと言わなくてもなあと思っていたら、僕の目の前でこちらを向いて座っているフライトアテンダントが、飛びきりの笑顔で言った。
「そんなこと言われると、かえって心配になりますよねぇ」
機内に生じた緊張が一瞬でほどける。いつも乗っている人の口から出た冗談。実に気の利いた、またタイミングのいい一言だった。
飛行機には数えるほどしか乗ったことがないが、その度にフライトアテンダントの振る舞いには感心させられる。持ち上げる、軽くあしらう、毅然とする…。乗客に合わせて実に柔軟に対応するのだ。しかも、そのどれにもまったく嫌味がない。生まれ持った資質なのか、それとも訓練の賜物か。接客のエキスパート、気分よくさせる天才である。
だからこそ、彼女たちにやられてしまう(虜になってしまう)輩があとを絶たないのであろう。


そんなフライトアテンダントと向き合う形で座ることになったのは、今回で二度目。フライトアテンダントが好みのタイプか否かにかかわらず、この席は微妙である。
向かい合わせなのに、まともに目を合わせることができない。かといって、何もしゃべらないでいるというのもきわめて不自然。僕は人見知りなのだが、気まずい雰囲気に耐えかね、勇気を振り絞って言葉をかけることになる。今日の人が好みのタイプでないことだけが唯一の救いか。
離陸の際にも差し障りのない話をした。そして、さっきの一言である。
僕の並びに座っている社長が「降りれないなら、このままもう少し飛んで、台湾にでも行ったらどうだ」と軽口をたたく。
すると、彼女は両手をグーにして力を込め「降りましょうよ!」と。
その仕草が、妙に可愛い。改めてよく見てみると、品のある顔立ち。足の形もきれいだ。なんだか、もう少し向き合っていたくなった。そうだな、あと一時間ほど上空を旋回してくれれば、実務レベルの具体的交渉に入ることも可能なのではないか…
そう思い始めた頃には、何事もなかったかのように飛行機は那覇空港にソフトランディングしてしまうのだった。
そして、別れを惜しみながら僕は立ち上がり棚からバッグを下ろす。
すると、彼女が急に近づいてきてこう言ったのだ。
「そのバッグかわいいですね、私もOOOO大好きなんですよ」
お高くとまりがちなフライトアテンダントが、決して高価ではない、そして僕が好きなブランドが好きだなんて…。ひょっとしたら彼女、オレのこと好きなんじゃねえのか?
その後、僕はひとりフワフワと上空に舞い上がり、しばらく旋回してからようやく沖縄に着地したようだ。
果たして、その地はパラダイスであった。


※写真はすべて「壺屋やちむん通り」で。

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