しばらくSFから遠ざかりましたが...。(正直少し飽きていた)
とはいっても「日はまた昇る」を読んだ後、あまり硬いものを読む気にもならずで、なんとなく昨年ブックオフで買っておいた本書を手に取りました。
このブログを読んでいただいている会社の先輩から「最近ディックの短編を読みなおしている」という話をされ、「私も読んでみようかなぁ」という気分でもありました。
本書は映画「マイノリティ・レポート」公開に合わせて文庫未収録のものを中心に集めた短編集です。
同じく映画化された「トータル・リコール」の原作「追憶売ります」も収載されています。
「追憶売ります」は’12年ローカス誌中編オールタイムベスロ17位、「マイノリティ・レポート」が中長編の138位にランクされています。
ディックは90年代に評価が上がってきた作家ということもあり、私にとってそれほどファミリアな作家でなかったので短編を読むのは初めてです。
内容(裏表紙記載)
予知能力者を使う犯罪予防局が設立され、犯罪者はその犯行前に逮捕されるようになった。ところがある日、犯罪予防局長官アンダートンは思いもよらぬものを見た。こともあろうに自分が、見たことも聞いたこともない相手を、来週殺すと予知分析カードに出ていたのだ。なにかの陰謀にちがいないと考えたアンダートンは、警察に追われながら調査を開始するが…スピルバーグ監督による映画化原作の表題作ほか全7篇を収録。
全体的感想、ディックらしさは折り折り出てきますが、長編ほどの独特感は薄かったです。
ブラウンとアシモフの短編を足して2で割って、ディック風味をかけたというような感じでしょうか。
ディックも短編はお金を稼ぐ手段と割り切ってそれほど凝る気はなかなかったのかもしれませんね。
ただ所々アイディアや世界観に「さすがディック」という所を感じはしましたが….。
まぁ「普通のSF短編集」というのが正直な感想です。
各編紹介
「マイノリティ・リポート」1956年
裏表紙に内容紹介されている表題作です。
なんだか作中での時間経過が「変」なのと予知能力者の見る未来が多様であり現実性が崩れていくというような感覚がディック的ではありましたが、オチは途中から読めました。
そういう意味では「月並み」な作品でしょうか。
「ジェイムズ・P・クロウ」1954年
ロボットが実権を握り差別にあえぐ人間を解放しようという男のお話。
アシモフの作品といっても見分けがつかないかもしれない気がしました。
(三原則はないですが….)
ありがちといえばありがちな話ですが、「普通」にSFしています。
「世界をわが手に」1953年
太陽系を探検しつくし知的生命体が存在しないことを知った人類は、頽廃的になり「世界球」と呼ばれる小さな世界を造るものに夢中になっていたが…。
ラストはありがちといえばありがちなのですが、頽廃的雰因気と「世界球」のキラキラした描写・それが砕け散る感覚など魅かれるものがありました。
「水蜘蛛計画」1964年
恒星間飛行を成功させるためには20世紀の「予言者」=ポール・アンダーソンが必要ということになり、タイムマシンを使い連れてくるが…。
「タウ・ゼロ」でもいろいろ理論を駆使していましたが、確かにポール・アンダーソンならなにか考えてくれそうな気がしますね。(笑)
処理されずそのままになっている伏線(恒星に近づいた囚人たちの描写)などもあるような気がしましたが…。
まぁ肩の力を抜いたSFファンへのサービスのような作品でしょうからねぇ。
そういう意味では楽しめました。
ディックはあまり同業のSF作家やらファンに愛想がよくないようなイメージがあったのですが意外感のある作品でした。
「安定社会」
なにもかも「安定」が一番とされている世の中で男が発明したものは…。
巻末の解説によるとディックの死後に発表された作品だそうですが書いたのは最初期で処女作に近い作品のようです。
最初からなにやら不思議な雰因気で、ガラス玉を壊して最期に現れる工場とそこで機械の奴隷となって働く人間たちの姿は何の解説もなくなんとも不思議な気分にさせられます。
長編で感じるディック的な不思議な世界が展開されていて面白かったです。
「SF短編」として「売る」ためにはオチが必要だったのかもしれない…というのがこの作品で逆に理解できました。(オチがないと売れない?)
「火星潜入」1954年
火星に潜入した工作員は任務に成功するが...。
解説で「古きよき火星」と書かれていましたが確かに紋切型の火星が出てきていますねぇ。
「単純な冒険SF」という趣ですが、ここでも「ガラス玉」が重要な小道具として出て来ます。
ディック...ガラス玉になにか思い入れがあるのでしょうか?
「追憶売ります」1966年
映画「トータル・リコール」の原作。
火星旅行にどうしても行きたい男は、記憶を操作して行った気にさせてくれる「追憶屋」に頼むが….。
「記憶」と「人間」の関係になにやら考えさせる感はありますが、これもオチやら展開はいかにもありがちな「SF短編」という感じです。
映画は見ていませんがこの作品をどのように仕上げたのか興味があります。
私的に一番好きなのは「安定社会」なんだか割り切れない不思議な絵を見ているような感じがディックっぽい。
あと「世界をわが手に」もなんとも頽廃的雰囲気が好きです。
他は一般的SF短編として読めば十分面白いですが、ディックらしさを求めて読むと期待外れかもしれません。
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とはいっても「日はまた昇る」を読んだ後、あまり硬いものを読む気にもならずで、なんとなく昨年ブックオフで買っておいた本書を手に取りました。
このブログを読んでいただいている会社の先輩から「最近ディックの短編を読みなおしている」という話をされ、「私も読んでみようかなぁ」という気分でもありました。
本書は映画「マイノリティ・レポート」公開に合わせて文庫未収録のものを中心に集めた短編集です。
同じく映画化された「トータル・リコール」の原作「追憶売ります」も収載されています。
「追憶売ります」は’12年ローカス誌中編オールタイムベスロ17位、「マイノリティ・レポート」が中長編の138位にランクされています。
ディックは90年代に評価が上がってきた作家ということもあり、私にとってそれほどファミリアな作家でなかったので短編を読むのは初めてです。
内容(裏表紙記載)
予知能力者を使う犯罪予防局が設立され、犯罪者はその犯行前に逮捕されるようになった。ところがある日、犯罪予防局長官アンダートンは思いもよらぬものを見た。こともあろうに自分が、見たことも聞いたこともない相手を、来週殺すと予知分析カードに出ていたのだ。なにかの陰謀にちがいないと考えたアンダートンは、警察に追われながら調査を開始するが…スピルバーグ監督による映画化原作の表題作ほか全7篇を収録。
全体的感想、ディックらしさは折り折り出てきますが、長編ほどの独特感は薄かったです。
ブラウンとアシモフの短編を足して2で割って、ディック風味をかけたというような感じでしょうか。
ディックも短編はお金を稼ぐ手段と割り切ってそれほど凝る気はなかなかったのかもしれませんね。
ただ所々アイディアや世界観に「さすがディック」という所を感じはしましたが….。
まぁ「普通のSF短編集」というのが正直な感想です。
各編紹介
「マイノリティ・リポート」1956年
裏表紙に内容紹介されている表題作です。
なんだか作中での時間経過が「変」なのと予知能力者の見る未来が多様であり現実性が崩れていくというような感覚がディック的ではありましたが、オチは途中から読めました。
そういう意味では「月並み」な作品でしょうか。
「ジェイムズ・P・クロウ」1954年
ロボットが実権を握り差別にあえぐ人間を解放しようという男のお話。
アシモフの作品といっても見分けがつかないかもしれない気がしました。
(三原則はないですが….)
ありがちといえばありがちな話ですが、「普通」にSFしています。
「世界をわが手に」1953年
太陽系を探検しつくし知的生命体が存在しないことを知った人類は、頽廃的になり「世界球」と呼ばれる小さな世界を造るものに夢中になっていたが…。
ラストはありがちといえばありがちなのですが、頽廃的雰因気と「世界球」のキラキラした描写・それが砕け散る感覚など魅かれるものがありました。
「水蜘蛛計画」1964年
恒星間飛行を成功させるためには20世紀の「予言者」=ポール・アンダーソンが必要ということになり、タイムマシンを使い連れてくるが…。
「タウ・ゼロ」でもいろいろ理論を駆使していましたが、確かにポール・アンダーソンならなにか考えてくれそうな気がしますね。(笑)
処理されずそのままになっている伏線(恒星に近づいた囚人たちの描写)などもあるような気がしましたが…。
まぁ肩の力を抜いたSFファンへのサービスのような作品でしょうからねぇ。
そういう意味では楽しめました。
ディックはあまり同業のSF作家やらファンに愛想がよくないようなイメージがあったのですが意外感のある作品でした。
「安定社会」
なにもかも「安定」が一番とされている世の中で男が発明したものは…。
巻末の解説によるとディックの死後に発表された作品だそうですが書いたのは最初期で処女作に近い作品のようです。
最初からなにやら不思議な雰因気で、ガラス玉を壊して最期に現れる工場とそこで機械の奴隷となって働く人間たちの姿は何の解説もなくなんとも不思議な気分にさせられます。
長編で感じるディック的な不思議な世界が展開されていて面白かったです。
「SF短編」として「売る」ためにはオチが必要だったのかもしれない…というのがこの作品で逆に理解できました。(オチがないと売れない?)
「火星潜入」1954年
火星に潜入した工作員は任務に成功するが...。
解説で「古きよき火星」と書かれていましたが確かに紋切型の火星が出てきていますねぇ。
「単純な冒険SF」という趣ですが、ここでも「ガラス玉」が重要な小道具として出て来ます。
ディック...ガラス玉になにか思い入れがあるのでしょうか?
「追憶売ります」1966年
映画「トータル・リコール」の原作。
火星旅行にどうしても行きたい男は、記憶を操作して行った気にさせてくれる「追憶屋」に頼むが….。
「記憶」と「人間」の関係になにやら考えさせる感はありますが、これもオチやら展開はいかにもありがちな「SF短編」という感じです。
映画は見ていませんがこの作品をどのように仕上げたのか興味があります。
私的に一番好きなのは「安定社会」なんだか割り切れない不思議な絵を見ているような感じがディックっぽい。
あと「世界をわが手に」もなんとも頽廃的雰囲気が好きです。
他は一般的SF短編として読めば十分面白いですが、ディックらしさを求めて読むと期待外れかもしれません。
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