10月28日、正確には27日夜、福島県南会津から火おこしチャンピオンの大西さんが
目黒にやってきた。バックパックに宝物である火お越し棒と、大きな鳥の羽を刺したいでたち
でバスに乗り現れた。日曜日午前中に学童の親子に火の話と火おこしの指導をしてもらう
予定だが、前の火にスタッフと話してもらったほうが流れがスムーズになる。
火おこしの道具はすでに宅急便で我が家に届いていて、口で説明していた
大西さんは、そのうち「まあ見てください」と実物を取り出してくれた。
「火おこしの棒は60センチぐらいがいい。長すぎると回転させたときにぶれる
し短すぎると、使いにくい」
「下に置く木は彫刻刀などで少し穴を開けたもの。ポイントは木のくずが下にたまるように
穴の横に三角形の隙間を開けること」
うんぬん。何も隠すことなく丁寧に説明してくれる。
マジックではないので方法を誰かに知られても何も問題ない。理屈が分かったからと言って、できるわけではない。むしろ多くの人に知ってもらいたい、という熱意を感じる。
大西さんを最初に知ったのは、2001年。テレビチャンピオンをサバイバル王選手権の参加依頼が
テレビ局から来たときだった。「どんな人が出るんですか?」と電話で聞くとADと思われる人が、
たしか「レスキュー隊員。リバーカヤックガイド、OOO、火おこしチャンピオン」と答えた。
「えっ? 火おこしチャンピオンって何ですか?」と問うと「火おこし選手権のチャンピオンです」という
答えで、意味がよく分からず逆にもの凄く気になってしまった。
結局、出ても何もできずに恥をかきそうだったのと、OO月O日に鹿児島の島まできてください。という
テレビ局の一方的な依頼の無茶ぶりにあきれて参加を見合わせた。
放映されたテレビを見て、出なくてよかったと思った。でも、そこで披露された大西さんの火おこし
には素直に驚かされた。
時は流れ、2006年、地平線会議に大西さんがやってきて、普通の会議室でものの30秒ほどで
火おこしの見本を見せてくれた。あまりの速さにあっけに取られると同時に「できる」ということの
力。どんだけ理論やうんちくがすごくても、そんなものは「できる」にはかなわない。「技」は言葉を
越えて、一瞬で人を黙らせることができる。つくづくそう思った。そのとき語られた話も実に魅力的
で、もっとこの人の話を聞いてみたい。と思った。
2010年。「こどもたちよ冒険しよう」という本を出したさいに、大西さんのところにも送ってみた。
すぐに丁寧なお礼の電話がきた。以後、大西さんのNPO、森の遊学舎が東京で総会を開くときに
何度か顔を出した。何度か行くうちに、ますます目黒のこどもたちに火おこしの話を聞いてもらい
目の前で見せて、自分でできたならきっと喜ぶだろうと思いが強くなった。
それがようやく実現した。大人も子供も驚いたし、楽しそうだった。