常熟の日系企業と言えば、かつては名前を言っても誰も知らないような中小企業が比較的多かったのだが、今や超一流どころも多くなり実にバラエティーに富んでいる。一流企業ともなれば、社長とまではいかずとも重役級のお偉い方々が工場視察などと称してやってくる機会も多いと聞く。現地赴任者の健康管理などの目的で人事部や組合の視察を受けることもあるらしい。要は日常業務に直接関与しない人々の訪問を受ける。
そのような"お客様"は浦東なり紅橋なりの国際空港に降り立ち、ひとたび空港外に出ると、当然のことのようにA4の紙に社名を大書した出迎えの者がおり、見れば即外資系企業のものとわかるワゴン車に乗せられ、常熟市内の皇冠(クラウンプラザ)なり天銘、シェラトンなどというホテルまで案内される。ホテルには当然のように高価な日本食レストランがあり、割安(日本に比べればの話であるが)の中国式マッサージなども体験できる。
翌日いざ工場へ出勤ということになれば、当然ホテル玄関には例のワゴン車が出迎え、会社へ着くと日本人及び日本語の堪能な中国人幹部との打ち合わせという段取りである。夜はこれまた市内の日本料理屋か、せっかく中国に来たのだからと食される中華料理も一般人の行きそうもない高級店が選ばれる。そのような日々が続き、来た時と同じ経路で空港へ。無事空港でのチェックインを見届けた現地赴任者がほっと胸をなでおろすのも何度繰り返された情景か。
要は、せっかく現地の状況を視察に来ていただいても、すべての行程を硬くガードされた隔壁の向こう側から体験することになる。これでは視察の意味はない。臨場感のある映画を見たようなものだなどと言えば極端かもしれないが、サファリパークを鉄格子のついたジープで一周したぐらいといっても決して誇張ではないのである。
生の中国を、生の常熟を見てくださいなどと言うつもりは毛頭ない。そんなことは不可能であるからだ。ただサファリパークへ行って大自然を目の当たりにしたと言う人はいないと同様、ガラス越しに常熟を眺めたからと言って駐在員生活を、現地子会社の実態を把握したなどと思うのは賢明ではないと思うだけである。常熟赴任者の勝手な暴言である。軽く読み飛ばしていただくことを希望する。
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