自転車での似島一周を終え、集落に戻ってきた。 さて、そろそろテントを張るか。
昼間に教えていただいた方向に歩いて行きながら、テントを張るのに良さそうな場所を探す。 住民の方の迷惑にならず、きれいで平らな場所。 『おー、ここなんか最高じゃん!』
ソロ用の小さなテントをパニアバッグから引っ張り出し、ポールを通して張る。 中にシートを敷き、マットを膨らませ、シュラフを広げると、アッと言う間に今日の寝床が完成。
どんな場所に旅しても、テントを張り終わるまではなんだか落ち着かない。 気に入った場所を見つけ、テントを張り終わると、ようやく自分の居場所が出来た感じがして、ホッと落ち着くのである。
しばらくすると、近くにある商店の前に置いてある椅子とテーブルに、漁から帰って来られた漁師さん達が三々五々集まり、宴会が始まった。 みるとそのなかに、昼間テントを張っても良いと言って下さったおねえさんが居られた。
『昼はありがとうございました。 ここに張ったんですが、良かったですか?』 『ここにしたん。 ここは潮は上がって来んかねえ?』と、周りの漁師さん達に聞いて下さる。
『なあに、潮が来てもプカプカ泳ぐ気じゃったらええじゃない』と、笑いながら漁師さん。 もう一人の方は、『今日は潮が大きゅうないけえ、大丈夫よ』
するとおねえさんは、『ちょっと北風があるが、大丈夫かねえ』 『ええ、ここならなんとか凌げると思います。 本当にありがとうございました』と私。
***
晩ご飯までは少し時間がある。 集落を散策してみるとしよう。
メインストリートを歩くと、肉屋さんが開いていた。 その近くには魚屋さんも営業中。
小さな島には魚屋さんがない所も多いのだが、ここには魚屋さんがあるんだ。 新たな発見。
似島峠にも上がってみた。
***
夕方、5時半過ぎ。 再び『みなとや食堂』の暖簾をくぐる。 店に入ると、いつもの席に。
『こんにちは。 来ました!』 『テントは張ったん?』
『はい、おかげさまで助かりました。 昼間にあの人に会えて良かったです』 『あの人は、ようここにも来るんよ。 あっさりしてええ人じゃろう』 『はい、ホンマですね。 夕方前から、近くの商店の前で、漁師さん達と楽しんでおられましたよ』
『何にする?』 『ビールとおでん。 おでんは何があります?』 『ここへ来て、好きなん選びんさい』
まずは瓶ビールをコップに注ぐ。 『トクトクトク。 シュワーッ』
『いただきます』 『ゴクリ、ゴクゴク。 プハーッ。 こりゃたまらんなあ』 おでんをつまみにビールを楽しむ。
***
店には、地元のおじさんとおばさん、そして私の3人の客。 おばちゃんと、他のお客さん達は、テレビを見ながら話している。 私も時々会話に加わりつつ、おでんを食べ、ビールを飲む。
『ここは、やっぱり夏が忙しいんですか?』 『いやあ、そうでもない。 キャンプや海水浴も、それほどじゃないよ』
『最近は、貝掘りをやらんようになったけえね』 『どうしたんですか?』 『貝があんまり育たんようになった』 『前はテレビで、エイが食べる言うとりましたね』 『そんなんもあるじゃろうね』
『民宿は人気があるようなよ。 広島から宴会に来る』 『予約しとらんとだめじゃけどね。 わしらも時々宴会をやるよ』
『餅撒きが有名じゃゆうてパンフレットに載っとりましたが』 『それが、最近はないんよ。 家を建てる人も少のうなったし、漁船を新造する人もあまり居らん』 『船を造ったときもやるんですか!』 『そうよ。 でも今の不景気じゃ、船を新しゅうつくろう言う人はおらんのじゃないか』 『そうですよねえ』
***
おでんがなくなり、ビールも空に。 『おばちゃん、何かご飯を作ってもらおう思うんじゃけど、何がええじゃろうか?』
『ほうじゃねえ、焼き飯を食べる人が多いよ』 『じゃあ、焼き飯。 ビールももう一本』
『あんたあ、釣りに来とるんか?』 『いいえ、違うんですよ。 先週、カヌーで来たんですが、キャンプできんかったから、今日は自転車で来てキャンプさしてもろうとるんです。 ここで一杯やりたかったんで』
『ほうね。 そういや、魚が好きなかったら、朝早うここに売りにくるで』 するとおばちゃんが、『今朝売りに来たけえ、明日はないよ』 『ほうか。 そりゃあ残念じゃったのう』
『ここに売りに来るんですか?』 『そうよ。 朝早いけどの』
『この時期は、牡蠣を焼いて食べるじゃろお。 昔はその時、いっしょに鳥を焼いて食べよった』 『鳥、ですか?』
『ほうよ、野鳥。 あれがおいしかったよ』
***
そのうちテレビでは、野球が始まった。 1回の日本の攻撃が終わったところで、心地良いほろ酔い状態に。
『ごちそうさまでした。 おいしかったです。 なんぼですか?』
支払いを終え、いろいろなお話を聞かせて下さったおじさんにも『おかげさまで、とても楽しかったです。 ありがとうございました』 そしておばちゃんには、『ありがとう。 また来ますけえ』
すると、『明日の朝ご飯は大丈夫?』 『はい、パンやうどんを買ってあります』
ふらりと立ち寄った一人の旅人の朝ご飯を心配して下さる。 必要なら、開店前に店を開けてご飯を作ってあげようかとの心遣い。 ほんとうに嬉しいことだ。 感謝感謝。来て良かった!
***
テントに戻り、シュラフに潜り込んで今日一日の出来事を思い出す。 至福の一時。
天気予報を確認した結果、急遽シーカヤックでのキャンプツーリングを取りやめて、自転車にテントをつんで訪れた似島。
様々な出合いに恵まれ、『あるくみるきく_旅するシーカヤックならぬ旅する自転車』となった、想い出深い旅に。
これまでシーカヤックで訪れた島は、瀬戸内だけで有人島/無人島含めて数年前の時点で100を越えている。 しかし今回の旅で再認識したのだが、その島を訪れたというだけではなく、訪れた島での様々な出合いを通じ、その島の歴史やそこに住む人々の生活を知り、あるくみるきくの精神で記憶にそして記録に残していく事にこそ価値があるのだと実感した。
それにしても似島は最高だ。 また一つ、お気に入りの島が増えたなあ。
*** はてさて、天気予報の結果は? ***
翌朝。 フェリーで呉に戻る途中、ケータイで風をチェック。
すると、広島湾は穏やかだが、予定していた島の付近では6m/sの強い北東風が吹いているとの事。 やはり、予定を変更していて正解だったようだ。
昼間に教えていただいた方向に歩いて行きながら、テントを張るのに良さそうな場所を探す。 住民の方の迷惑にならず、きれいで平らな場所。 『おー、ここなんか最高じゃん!』
ソロ用の小さなテントをパニアバッグから引っ張り出し、ポールを通して張る。 中にシートを敷き、マットを膨らませ、シュラフを広げると、アッと言う間に今日の寝床が完成。
どんな場所に旅しても、テントを張り終わるまではなんだか落ち着かない。 気に入った場所を見つけ、テントを張り終わると、ようやく自分の居場所が出来た感じがして、ホッと落ち着くのである。
しばらくすると、近くにある商店の前に置いてある椅子とテーブルに、漁から帰って来られた漁師さん達が三々五々集まり、宴会が始まった。 みるとそのなかに、昼間テントを張っても良いと言って下さったおねえさんが居られた。
『昼はありがとうございました。 ここに張ったんですが、良かったですか?』 『ここにしたん。 ここは潮は上がって来んかねえ?』と、周りの漁師さん達に聞いて下さる。
『なあに、潮が来てもプカプカ泳ぐ気じゃったらええじゃない』と、笑いながら漁師さん。 もう一人の方は、『今日は潮が大きゅうないけえ、大丈夫よ』
するとおねえさんは、『ちょっと北風があるが、大丈夫かねえ』 『ええ、ここならなんとか凌げると思います。 本当にありがとうございました』と私。
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晩ご飯までは少し時間がある。 集落を散策してみるとしよう。
メインストリートを歩くと、肉屋さんが開いていた。 その近くには魚屋さんも営業中。
小さな島には魚屋さんがない所も多いのだが、ここには魚屋さんがあるんだ。 新たな発見。
似島峠にも上がってみた。
***
夕方、5時半過ぎ。 再び『みなとや食堂』の暖簾をくぐる。 店に入ると、いつもの席に。
『こんにちは。 来ました!』 『テントは張ったん?』
『はい、おかげさまで助かりました。 昼間にあの人に会えて良かったです』 『あの人は、ようここにも来るんよ。 あっさりしてええ人じゃろう』 『はい、ホンマですね。 夕方前から、近くの商店の前で、漁師さん達と楽しんでおられましたよ』
『何にする?』 『ビールとおでん。 おでんは何があります?』 『ここへ来て、好きなん選びんさい』
まずは瓶ビールをコップに注ぐ。 『トクトクトク。 シュワーッ』
『いただきます』 『ゴクリ、ゴクゴク。 プハーッ。 こりゃたまらんなあ』 おでんをつまみにビールを楽しむ。
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店には、地元のおじさんとおばさん、そして私の3人の客。 おばちゃんと、他のお客さん達は、テレビを見ながら話している。 私も時々会話に加わりつつ、おでんを食べ、ビールを飲む。
『ここは、やっぱり夏が忙しいんですか?』 『いやあ、そうでもない。 キャンプや海水浴も、それほどじゃないよ』
『最近は、貝掘りをやらんようになったけえね』 『どうしたんですか?』 『貝があんまり育たんようになった』 『前はテレビで、エイが食べる言うとりましたね』 『そんなんもあるじゃろうね』
『民宿は人気があるようなよ。 広島から宴会に来る』 『予約しとらんとだめじゃけどね。 わしらも時々宴会をやるよ』
『餅撒きが有名じゃゆうてパンフレットに載っとりましたが』 『それが、最近はないんよ。 家を建てる人も少のうなったし、漁船を新造する人もあまり居らん』 『船を造ったときもやるんですか!』 『そうよ。 でも今の不景気じゃ、船を新しゅうつくろう言う人はおらんのじゃないか』 『そうですよねえ』
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おでんがなくなり、ビールも空に。 『おばちゃん、何かご飯を作ってもらおう思うんじゃけど、何がええじゃろうか?』
『ほうじゃねえ、焼き飯を食べる人が多いよ』 『じゃあ、焼き飯。 ビールももう一本』
『あんたあ、釣りに来とるんか?』 『いいえ、違うんですよ。 先週、カヌーで来たんですが、キャンプできんかったから、今日は自転車で来てキャンプさしてもろうとるんです。 ここで一杯やりたかったんで』
『ほうね。 そういや、魚が好きなかったら、朝早うここに売りにくるで』 するとおばちゃんが、『今朝売りに来たけえ、明日はないよ』 『ほうか。 そりゃあ残念じゃったのう』
『ここに売りに来るんですか?』 『そうよ。 朝早いけどの』
『この時期は、牡蠣を焼いて食べるじゃろお。 昔はその時、いっしょに鳥を焼いて食べよった』 『鳥、ですか?』
『ほうよ、野鳥。 あれがおいしかったよ』
***
そのうちテレビでは、野球が始まった。 1回の日本の攻撃が終わったところで、心地良いほろ酔い状態に。
『ごちそうさまでした。 おいしかったです。 なんぼですか?』
支払いを終え、いろいろなお話を聞かせて下さったおじさんにも『おかげさまで、とても楽しかったです。 ありがとうございました』 そしておばちゃんには、『ありがとう。 また来ますけえ』
すると、『明日の朝ご飯は大丈夫?』 『はい、パンやうどんを買ってあります』
ふらりと立ち寄った一人の旅人の朝ご飯を心配して下さる。 必要なら、開店前に店を開けてご飯を作ってあげようかとの心遣い。 ほんとうに嬉しいことだ。 感謝感謝。来て良かった!
***
テントに戻り、シュラフに潜り込んで今日一日の出来事を思い出す。 至福の一時。
天気予報を確認した結果、急遽シーカヤックでのキャンプツーリングを取りやめて、自転車にテントをつんで訪れた似島。
様々な出合いに恵まれ、『あるくみるきく_旅するシーカヤックならぬ旅する自転車』となった、想い出深い旅に。
これまでシーカヤックで訪れた島は、瀬戸内だけで有人島/無人島含めて数年前の時点で100を越えている。 しかし今回の旅で再認識したのだが、その島を訪れたというだけではなく、訪れた島での様々な出合いを通じ、その島の歴史やそこに住む人々の生活を知り、あるくみるきくの精神で記憶にそして記録に残していく事にこそ価値があるのだと実感した。
それにしても似島は最高だ。 また一つ、お気に入りの島が増えたなあ。
*** はてさて、天気予報の結果は? ***
翌朝。 フェリーで呉に戻る途中、ケータイで風をチェック。
すると、広島湾は穏やかだが、予定していた島の付近では6m/sの強い北東風が吹いているとの事。 やはり、予定を変更していて正解だったようだ。