労働者のこだま(国内政治)

政治・経済問題を扱っています。筆者は主に横井邦彦です。

リトビネンコ事件の謎

2007-08-06 02:05:44 | Weblog
 イギリスに亡命したリトビネンコ氏が死亡した事件をめぐってイギリスとロシアが対立を深めている。そして、この事件にはポロニウム210という放射線物質が使用されたという点において興味深いものがある。
 
 イギリス政府はこの事件を基本的に毒殺と考えており、ロシアのルボゴイ氏がロンドンのホテルのバーでリトビネンコ氏の紅茶のカップにポロニウムを入れたというストーリーを組み立てているが、これはあまり現実的ではない。
 
 というのは、ポロニウムは重金属で比重が重く水にも溶けないために、ポロニウムを紅茶のなかに入れてそれをスプーンでかき混ぜても、ポロニウムはすぐにカップの底に沈殿してしまうので、例えリトビネンコ氏がポロニウム入りの紅茶を飲んだと仮定しても、彼が体内に摂取するのは紅茶だけで、ポロニウムはカップの底に沈殿したままになっているからである。だから、こういう方法では、リトビネンコ氏が紅茶を飲んだ後に、コップの底に残った残滓物を指ですくって、その指をペロペロ舐めないかぎり彼の体内には入らないであろう。(もちろん彼がそうしなかったという保証はないのだが)
 
 一方でリトビネンコ氏の尿からは確かにポロニウム210が検出されているので、それは何らかの形で彼の体内に摂取されたのである。
 
 また、ポロニウム210は彼が訪れた多くの場所からも検出されており、彼に会った人で急性放射線障害の兆候を見せている人も何人かいる。(イギリス当局から犯人と目されているルボゴイ氏もその一人である。)
 
 しかしこのことは毒殺とは違ったことを意味している。つまり、リトビネンコ氏は外部被爆もしているのではないかということである。彼の直近の場所で、ポロニウム210の粉末が飛散したので、彼の身体や衣服にポロニウム210が付着し、彼の訪れた先々からその痕跡が検出され、彼に接近した人が急性放射線障害になったと考えるのは自然なことである。
 
 特にリトビネンコ氏の頭髪が脱毛しているのは、頭部に放射線が照射されて頭皮細胞が死んだためであると考えられるので彼は外部被爆をしているのは間違いないと思われる。
 
 イギリスの新聞はこの二つを満足させるために、リトビネンコ氏はスプレーを使って紅茶にポロニウム210を吹きかけたといっているが、そういうものがあるなら、そういう間接的なことをしなくても、リトビネンコ氏の背後からでもそれを吹きかければ彼は死んでしまうのだから、なぜそうしなかったのかという疑問が残る。
 
 そしてもっと不思議なことは、この事件が起きたのは06年の11月1日で彼が死亡したのは11月23日であるということだ。
 
 これがなぜ不思議であるのかということは次の急性放射線障害の表を見れば理解できるであろう。
 
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単位はミリシーベルト (mSv)
 
実効線量 内訳
0.1~0.3 胸部X線撮影。
2.4 一年間に人が受ける放射線の世界平均。
4 胃のX線撮影。
7~20 CTスキャンによる撮影。
50 原子力関連業務につく人が一年間にさらされてよい放射線の限度。
250 白血球の減少。(一度にまとめて受けた場合、以下同じ)
500 リンパ球の減少。
1,000 急性放射線障害。悪心、嘔吐など。
2,000 出血、脱毛など。5%の人が死亡する。
3,000~5,000 50%の人が死亡する。
7,000~10,000 100%の人が死亡する。
 
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急性放射線症(きゅうせいほうしゃせんしょう、英 acute radiation syndrome. 急性放射線症候群とも)とは、人体が大量の放射線に被曝することによって数カ月以内に引き起こされる症状である。 一般的に、1Gy以上の急性全身被ばくを受けたときに発症する。
 
3~10シーベルトで骨髄死を起こし、白血病などになる。
10~100シーベルトで腸死を起こし、3日~4日で死亡する。
100シーベルト以上を被曝すると中枢神経死を起こして数時間~1日以内に全身けいれんなど中枢神経症状を起こして死亡する。
 
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 つまりこうだ、リトビネンコ氏の死因は100シーベルト以上の被爆をした中枢神経死だったのだが、このような重篤な放射線障害では、被爆直後に歩くことは不可能であろうということである。
 
 ところが入院した当時のリトビネンコ氏の症状はどう見ても1~2シーベルト被爆の急性放射線障害で、気分が悪いといいながらも歩行が可能であったのである。(1シーベルト=1000ミリシーベルト)
 
 そこで考えられることは、
 
① 何者かがリトビネンコ氏の直近でポロニウム210を飛散させた。
 
② 何者かがリトビネンコ氏の紅茶のなかにポロニウム210を注入した。
 
③ 何者かがリトビネンコ氏の体内に直接ポロニウム210を摂取させた。
 
 この三つの出来事は三つとも独立の事象として彼に起こったであろうということである。(もちろんこの「何者か?」のなかにはリトビネンコ氏自身も可能性として含まれるであろう。)
 
 そして直接の死因となった③は病院内で起こったと思われる。     

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