わがまま日記~外伝~

徒然なるままに日々のこと、熱く、ロマンティックに、毒をもって、心のままに書き綴ります。

「オレステス」in大阪 10月14日&16日

2006-10-16 23:56:56 | 舞台
蜷川幸雄演出、藤原竜也主演「オレステス」を観て参りました。
まずは演出なんですが、ぐるりと舞台を囲むように灰色の壁が城壁のように巡らされ、その中心部の扉の部分にXのマークが入れられていました。そして特筆すべきは、舞台に雨が降るということ。蜷川さん、降らせ物が好きなんでしょうか。「夏の夜の夢」の時は、舞台を石庭に見立てて、上から砂が降ってきましたし、「卒塔婆小町」の時は、椿の花、リチャード三世の時は、馬の死骸だの、人間の死骸だの、ゴミだのがドサッとオープニングに上から落ちて参りました。今回の蜷川は雨を降らせたのでございます。なんでも、極限の状態で、俳優陣に葛藤してもらおうと考えたとか…まあ、インパクトと、陰鬱な感じはよく出てたと思うのですが、もう少し、水量が少ない方がいいですね。だって、うるさいんですよ、雨音。後方の席の人って、雨が降っている間の台詞って聞こえない部分もあると思いますよ。役者に負荷を課す為の演出って、どうなのかな?と、正直思いました。後、女性のコロス達が、鈴のついた傘をさして登場するのも、どーなんだと。500円の透明のビニール傘ですわ。で、また、この傘に当ると雨音がさらに大きくなるんですよね。それに負けないくらいの声を張れということでしょうか?ただ、この安物の傘、舞台が進んでいくにつれ、結構、面白く使われています。朝晩、めっきり涼しい今日この頃、ずぶ濡れになった役者陣達、千秋楽が終った後は、病人続出じゃないかな?と、心配になりました。
で、その極限状態に追い込まれた主役お二人、藤原竜也君と中嶋朋子さんなんですが、雨なんか降らせなくても、充分に心の葛藤を演じられたと思いますよ。冒頭の中嶋さんの独白は、掴みとしては、申し分ない貫録でした。ギリシア悲劇は「グリークス」と「オイディプス王」しか知らないのですが、この中嶋さんの独白は、まさに今からギリシア悲劇が始る、と宣言されたような重厚さを持っていました。そして、竜也君なんですが、その歳に似合わないかもしれないけれど、「ミスター悲劇」と呼びたいような、そんな気が致しました。吉田鋼太郎さんや、嵯川哲朗さんのような大御所2人と対峙しても、パワフルだし、迫力があるし、若々しいのに妖艶な成熟感があり、それでいて、清潔感があって、美しい。あのお顔がついていなくても、台詞だけを聞いていても、美しいなぁと感じることが出来る。また、姉弟とは思えない絡みとか、男同士とは思えない絡みとか、そういうエロティックな場面で、竜っくんの体のしなやかさが、またまた美しく妖しさを高めて、ドキドキさせてもらえました。悩める若者の叙情さは、竜っくんでないと、表現出来ないっ!と断言したいですね。
取りあえず、雨音がうるさいし、500円のビニール傘に苦笑しつつも、最後まで、引込まれて観ていました。それは、不条理に?雨に打たされている役者陣の熱演(特に、ずーっと舞台に出ずっぱりのコロス達)が良かったし、またストーリー的にも、どうなる?どう生きる道を見つける、オレステス?という、ストーリー展開が楽しめたこと。しかーしっ!最後の最後に、アポロン(寺泉憲の声だけ)が出てきて、オレステスは無罪放免、それぞれの登場人物にも、幸せな人生を約束して終り…おいおーいっ!今までの皆さんのご苦労はどーなるっ!とかなり疑問な、大団円となって終る…解せん、解せないぞっ!と怒るも、これが「機械仕掛けの神」という、ギリシア悲劇の様式の1つだということです。ふーん、そーなんだ。と後からパンフレットを読んで、知識を得ました。このパンフ、初心者がギリシア悲劇に近づける、よい教科書になっていると思います。まあ、様式なんだったら仕方ないわな、と思うも、「めでたし、めでたしで終りたくない」という蜷川さんの演出が、最後に国旗のチラシをばらまくという…アメリカの星条旗以外は、イスラエル等の中東の国旗。これは、復讐の連鎖を断ち切ることは困難であるということなんでしょうか?「機械仕掛けの神」は、実社会には永遠に存在しないという…