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色んなことを投稿するブログ。現在は「東方野球の世界で幻想入り」を投稿したり、きまぐれに日々のことについて綴ったり。

第十三話(13-3)「同志の活躍」

2017-04-24 04:13:45 | 東方野球幻想入り物語

前回(13-2)

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 その日の作業はいつも以上に煮詰まっていた。
 だから、私には珍しくラジオを引っ張り出し、それを机から離れた流しに置き、かけっ放しにして作業をしていた。
 机に置くと、スペースを取る上に目につきやすく、それを避けたかったからである。
 まだまだ幻想郷に長くいるわけでもないから、幻想郷のラジオ事情は明るくない。DJが誰だかなんて当然知らないし、どんな内容をしゃべっているのかさえわからない。
 別に真剣に聞いているわけではないのだ。
 音が無い、そのことが逆に気になってしまうから、わざと音を出しているだけなのだ。
 いつものようにぶつぶつと疑問点を口にする。
 ふと流しの方へと注意を向けると、近くにあるラジオの内容が耳に入ってきた。
 本当に取りとめもないガールズトークだった。
 ――やっぱり、男性が女性をみるポイントと女性が男性をみるポイントって違うと思うんですよ。
 ――あ~、なら、ゆかりんが男性をみるポイントって何なのよ~
 ――それは決まっているわ。……爪よ!
「何じゃい、それは……」
 思わず、口から漏れる。
 何か情報を提供してくれるわけでもないし、ただただ、はがきの内容をきっかけにきゃいきゃいとオチなくしゃべっているだけ。
 ラジオに対しイライラが増してくるのが自分でもわかった。
 私は一旦ラジオから注意を外し、近くにあったコーヒー豆の袋に視線を移した。
「いったい、いつなくなっているだろうね~」
 思わず口に出てしまった。無論コーヒー豆の盗難についてだ。
 試合中、ここに通じる道は通行禁止になっており、誰かが侵入できるわけではない。
 となると、通行禁止が解除され、私も通れるような時間帯で、かつ私にも気付かれない時間帯ということになる。
 寝ている時間か、それとも出かけている時間か……。
 私は少し横になった。
 背後にあるラジオからは相変わらず、だらだらとしたガールズトークが聞こえてきた。
 いっそ消してしまおうかと思った瞬間――。
「え?」
 本当にラジオから音が止まった。
 おかしい。電源ボタンを押さない限り、ラジオを消すことなんてできないはず。
 故障でもしたかとラジオの方を振り向く。
「――――」
 すると、声にならない叫び声を出し、物凄い勢いで部屋から逃げていく小さな物体と目があった。
 あ、あれはル――。
 私の思考が追いつかない中、事態は急展開を見せていく。
 小さな物体が袋を抱えて部屋から出ていく…………が、焦ったのか、部屋のドアに顔をぶつけてしまう。直後、私の頭上を何かが通り過ぎた。
「捕まえたわよ」
「ひぃー」
 女の子の悲鳴が聞こえた。
 自分の頭を何が通ったのかと疑問が浮かぶ中、私は視線をそちらに向けると、いつの間にか背後にいた人――紫さんが小さな物体――ルナチャイルドさんを捕捉していることがわかった。
「……あなたは女の子同士がいちゃいちゃしているシーンが好きなのかしら?」
 しばらく呆然と立ち尽くしていると、紫さんが少し怒ったような口調でこちらに声をかけた。
 ようやく我に返ると私は急いで犯人の手を掴み、逃げられないように処置を施した。
「というか、君だったか……」
「し、知らないわよ。わ、私も盗まれたコーヒー豆が気になって、別のところに移動してあげようと」
 ルナチャイルドさんは綺麗に自爆した。
「何も言ってないけれど、何故私のコーヒー豆が減っていることについて知っているんだい? 私は誰にも教えていないはずだよ」
 優しく諭してあげる。
ルナチャイルドさんも自分の自爆に気付いたようで短く「あ……」という声が漏れた。
「これもタダではないんだからね」
 部屋が沈黙に包まれた。
 しばらくすると、紫さんは私に目配せをして、話を進めるように促した。私はルナチャイルドさんの近くまで歩を進め、彼女と同じ目線になるまで顔を下げた。
「は~、ちゃんと言ってくれれば分けてあげたのに。何故言ってくれなかったの?」
 あくまでも優しく。責める言葉を投げつつも怒らず、冷静に。
 ルナチャイルドさんは左を見たり、右を見たりしながら、ようやく口を開いた。
「だって、怖いし」
「……え、怖い?」
 予想しない言葉が出てくる。
「よくそういう話は聞くよ。だって、試合中はしゃべらないし、かと思えば、小声でぶつぶつ独り言を言っているって聞くし……」
 私は無言で頭を抱えた。
 紫さんは後ろでクスクスと笑っていたのが、私の気分を非常に害した。
 とりあえず、作業が終わっていないので、今日のところは彼女を解放し、後日詳しく話を聞くということになった。

 後日。同じ部屋にて。
「とりあえず、座ってくれ」
 試合前で色々雑用があったが、今日ばかりはそれをお休みして、事情聴取である。
 ルナチャイルドさんに座るように促す。
「コーヒー好きなんだよね?」
「はい」
「コーヒーを盗ったという事実は間違いないんだね」
「はい」
「…………」
 刑事ドラマの取調べかよというツッコミが適当だろうか。
 しかも、何故か相手は「はい」としか言わないし。一応、今回のことは言質を取ったので、話題を変えることにした。
「調べたら、他に余罪が出てきたんだけれど……」
「ごめんなさい。でも、お店に払うお金なんてありません」
(えぇ……)
 鎌をかけたら、本当に余罪まで出てきた。
 詳しく尋ねるとどうやらお茶屋さんのコーヒー豆の盗難はルナチャイルドさんの仕業らしい。
 しかし、私がコーヒー豆を買うようになってからは、わざわざお店まで言って盗む必要がなくなったので、私の部屋から調達するようになったらしい。
 だから、お店の盗難被害がなくなったのだ。
 私は頭を抱える。
(さて、どうすべきか……)
 私は記録員としての作業だけではなく、コーヒー豆盗難事件のことまで仕事を抱えることになった。

 後日。お茶屋さんにて。
「そ、そんな。まさか……」
 ノドカさんは前回とは打って変わって、声が途切れ途切れになっている。
 今の状況に思考がついていけないこと、ファンだと公言した選手が目の前にいることの緊張、色んな感情が混ざって、こんなノドカを構成しているのだろう。
 もう少し堂々としているかなと思っていた私は見事に期待を裏切られた。
「ルナチャイルドさん、例のモノをノドカさんに」
「はい」
 私がルナチャイルドさんに促した。
 例のモノとして渡したのは、「ノドカさんへ」と書かれたサインボールであった。
「え?」
 ノドカさんも突然のことで言葉に詰まっていた。
 私が考えた罰、それは謝罪行脚でもあり、熱狂的なファンとの交流でもあった。
「え、えっと……そ、その……い、いつも応援してくれて――」
「ありがとうございます」
 私はルナチャイルドさんの耳元で次に言うセリフを先出しする。もちろん小声で。
「ありがとうございます。そ、その……」
「これからも――」
「これからも!」
「応援して――」
「応援してください!」
「…………」
「…………」
「…………」
 お互いに沈黙。私やヨウコさんなどもいるから5人くらいが同時に沈黙していたことになる。
「きゃわいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
 そう言って、しばらく愛でる時間が続いた。やっていることはヨウコさんに対するものを大して変わったものではないので、説明は省略させてもらいたい。
「ね~」
 5分くらい二人だけの世界を堪能したであろうか、急に猫なで声で私に話かけてきた。ちなみに、なでられているルナチャイルドさんの方は既に白目になっている。
(め、面倒事だ……)
 私は恐る恐る「何ですか?」と聞くと、驚くべき言葉を口にした。
「うちの子にして、四六時中愛でていたいんだけど……ダメ?」
「ダメ」
 私も即答である。
「ケチ! ケチ~」
「ケチとか、そういう問題ではなく……」
 私もどう返していいのか判断に悩む有様であった。

「あ、あの……これでよかったのですか? ご主人の方は?」
 私はヨウコさんにそう言って、奥にいる店の主人の方へ視線をした。すると、ヨウコさんは私に小声で家庭内事情を話してくれた。
「家で一番権力があるのはお姉ちゃんなんです」
「でもノドカさん、さすがにお店のことはノータッチだと思いますが……」
「とんでもない。お姉ちゃんが仕入れとか特製ブレンドを作っているんですよ」
「な、なんだってー!」
 衝撃の事実。
 内緒話のはずが、私はつい大きな声を出してしまう。
 ヨウコさんも驚いて、私の口元を抑えに行きそうになる。
 私は謝りつつ、話の続きを促した。
「姉妹二人で接客すると以前のような『あの』態度でやってしまうから、私独りだけで接客するようになったんです」
「あー、そうだったんだ……」
 私の口から自然と納得した声が出た。
 そして、私たちはなんとなく視線をそちらの方へと向けると、
「やったー。今日は人生で最高の日よーーー」
 とか言いながらサインボールを大事そうに抱きしめているノドカさん。
 こういった言動だけ見ると色々と思うところが多いのだが、この後淹れてくれたブレンドは確かにおいしかった。
 見た目だけで判断してはいけない。
 その原因となった女性を脇目に見ながら私はそう思うのでした。

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