前回:(7-1)
思い出せない程、前に書いた作品の続き。
完全に読者無視ですな。 orz
ここから~~
しかし、この阪神戦以降はそんな心配を余所に以降、魔理沙さんの力投が続いた。先の完投勝利がきっかけとなり、いい方向に働いたのであろう。
力勝負が多いのが難点だが、よく試合を作ってくれるようになった。
スコアラーの観点からこうした好成績について分析させてもらうと、配球表が4スミに散っており、ピンチの方でもその傾向は続いた。だから、私も魔理沙さんの投球を安心して見られるものになっていった。
私はこの間、「今回もコントールが良かったな」「変化球が低めに決まっていたぞ」と力勝負以外のところをほめるようにした。
ただ、本人がこれをどう感じたかはわからない。
◇
ここで同じ時期にあったことで、本筋とは逸れるが話すことがある。
こうやって尾張が魔理沙さんのことについて頭を悩ましている間に、彼はこれまでのミーティングで言ったことや野球に関する考えをまとめてみることにした。ちょうど交流戦も終わりに近づき、再び同じリーグ戦へ移る間にまとまった時間が取れる。
ということで尾張は早速、執筆作業に当たった。
ここ幻想郷内ではちょっと前にサッカーが流行したこともあり、スポーツへの関心が高かったので、ここで一つ彼は自分の見聞きした野球への考えというものを提言してみることにしたのだ。
また他にも、なんとなく観戦している野球について、見るべきポイントやより面白く観戦するためのコツなどを彼なりにわかりやすくまとめた。
射命丸文から頼まれ、尾張は匿名であることを条件にタートルズの試合解説の記事を書いたことがあったので、今度は逆に彼の方からこの原稿を何部か印刷してくれないかとお願いしたのであった。
「……ということで、すいませんがお願いできませんか?」
「いいですけれど、それってどんな原稿ですか?」
「こんな感じです」
尾張が文に原稿を手渡す。
「ふむふむ」
その後、彼女は内容の感想を述べ、ここはこう直した方がいいとか、ここに関する記述が足りないとアドバイスをくれた。尾張がこれを印刷し、広く幻想郷の人に読んで欲しいと語ったら大いに喜び、これの印刷を引き受けてくれた。
修正稿を完成させると、数日後、試しということで5冊の本を持ってきてくれた。
「でましたよ~」
そう言って手渡される。
「おお!」
尾張はぺらぺらとめくると印刷されたインクの臭いと共に、自分の文章が目に飛び込んでくるのを感じた。
彼にとっては、自分の文章が印刷されるなんて中学の卒業文集以来なので、恥ずかしいという思いが半分。これを読んで読者がどんな影響を受けてくれるのかを期待する気持ちが半分。こうした二つの矛盾した気持ちがして、彼はどう表現したらいいかわからないようだ。
「実はもう少し刷ったのですが、これは私の方でばら撒いておきますので」
「お願いします」
実はこの本、ペナントレースが終盤に近づく間に、それが写本され、色んな人の手に渡ったという。彼が数ヵ月後スポンサーの方に会った際は、この写本を通して尾張忠実を知っており、よそ者に関わらずご好意をよせてもらうこともあった。しまいには、これが『外来野球事情』という名前で書店にも発売されていると聞き、卒倒したという。
なお、こうした時期と前後して局地的な地震が発生し、博麗神社が倒壊しているが、球宴異変とはあまり関係ないので、ここでは語らないとする。
◇
魔理沙さんは交流戦を過ぎると、またどこかおかしくなってきた。
6月30日(土)対中日戦。
この日は本当に散々だった。初回、李にタイムリーを浴びるとその後も福留のホームランを浴び、4回5失点。ノックアウトされてしまった。
試合後。
「どうした、説教か?」
私と顔があった魔理沙さんは、こう切り出した。
表情もいつものようなものとは程遠く、態度もデータ重視を謳う私に対し突っかかるようなものではなかった。
「まさか。今日はどうにもならなかったよ。こういう日もあるさ。」
両方の手のひらを上に向けて、策がなかったことを打ち明ける。
「意外だな」
そう言えば、確かに面と向かってフォローを口にしたのは初めてかもしれない。
好投しても注文ばかりだったし。
振り返ると、こうした対応が対決姿勢の原因かもしれないと、ふと思った。
「……切り替えて次は好投してくれ。配球表は明日までには渡すからちゃんと反省しておいて」
「ん、わかった」
「次こそは完封だろ、期待しているから」
「…………」
「どうした?」
「あ、いや、なんでもない。任せろ」
確か、その日はそう言って別れたはずだ。
こういったのが契機であろうか?これ以降はちゃんと話せるようになった。
魔理沙さんには悪いが、私にとってこれは大きな事だった。
本人にも言った通り、次は取り返してくれるはずだろう。そう思っていた。
しかし、次の試合も6回5失点。再びローテから外される危機にさらされたのだった。
で、その翌日。
形式にもなった私の部屋でのスコアシートの受け渡し。
「打たれた日こそよ~く目を通してくれ」
「了解した。じゃ」
そう言うとお互い背中を向ける。
魔理沙は退室するため、ドアの方へ向き、私は仕事の続きをしようと机がある窓の方へ体を向けた。
「……」
窓からは小雨が降っているのが見えた。
すると、
「これ借りていくぜ」
魔理沙さんが後ろから声をかけてくる。
「ああ、いいよ」
雨が降っているので傘のことだと思い、相手の顔も見ずに返事をした。
バタンという音がして、彼女が退室した。
「う~ん、どうやったらいいピッチングをしてくれるかな~」
コントロール良し悪しで試合が決まる投手だからこそ、口酸っぱく「制球、制球、コントロール」といい続けているんだが、力勝負でも結果を残す時はあるし、封印させることもできない。
魔理沙さんの成績を安定させるための糸口を探そうと、私は再び頭を働かせようとする。
「忠実君、そろそろ帰るから後の事……って、何これ?」
「はい?」
ちょうどその時、着替えや後片付けを終えて、帰宅しようとしているアリスさんが私の仕事部屋を訪れたのだ。
開口一番、「何これ?」とは少し傷ついた。
「部屋一面、資料だらけじゃない!ちゃんと片づけなさい」
ただ、床が資料の紙で一杯になっていれば普通は怒られる。
「あ~い」
「…………」
「…………可及的速やかに片付けます」
適当に返事をかわそうとしたら、物凄い殺気を伴った視線を浴びたので、軌道修正。
すぐに椅子から立ち上がって、資料を集め始める。
「これじゃ魔理沙みたいよ」
この様子を見て、アリスさんも近くにあった物を拾ってくれている。
「汚いの、家?」
「あれはひどかったわ」
「…………」
何気なく聞いた事だが、一体どれくらいひどいのであろうか。
「ってか、床に落ちていた資料って皆魔理沙が登板した試合じゃない」
「そうですよ。安定しない投球の原因を探そうと思って」
「何かわかった?」
首を横に振る。
「そう。いい日の投球をもう一度、洗い直してみたら?」
「一応、やっているつもりでしたが」
「なら私のいる今一度」
「まじで?」
「新しい視点が必要でしょ。そもそも一人でできる作業?」
「……いいえ」
「じゃ、手伝うから」
「でも、せっかく試合が早めに終わったんですから、寝た方がいいですよ?」
「…………いいわよ。そんな気を使わなくたって」
「こういう時に使わないと使う機会が無いのです」
「でも本当に大丈夫だから」
1時間後……。
「なんとかまとめ終わったわね」
「でも、抑え方はバラバラですよ。これは低めに決まったから抑えられたやつ。こっちは力でねじ伏せたやつ。一貫性がありません」
他にも相手の打ちミスも考えられ、判然としないのが印象だ。
「相性の関係とか?」
「前者も後者も左右、だいたい似たような数ですよ」
「イニングとかは?」
「それもこれといった特徴には……」
「そう言われると、普通に見ていてもそういう感じじゃなかったわね」
「ではいっそ打順や打者のタイプごとで――」
「あった」
「え?」
「状況よ」
「はい?」
「ランナーがいない状態なら丁寧な投球で行けばいいけれど、ピンチの時は球に力がないから打たれる。逆に、ランナー無しでの力勝負は打たれると尾を引いて、その後も打たれ続けるのよ」
「確かに、ピンチとそれ以外とではフルカウントの被打率には差がありますね。では、これって――」
「推測に過ぎないけれど、ピンチの時の方がマスタースパークにも力が入って抑えられているのかも」
「ですが、問題が……。この仮説が合っているかどうかがわかりません。せめて1試合くらい……」
良かった時はピンチでも4スミに決まっていることもあったので、アリスさんの仮説が復調のきっかけになるとは限らないのだ。
「次の登板で確認してみましょう」
「ちょうどローテも入れ替えようと思っていたし、あいつを焚きつけるにはぴったりね」
「ハハハハハ……」
ごめん、魔理沙さん。何か試合前に言われていたとしたら、100パー、私のせいだ。
アリスさん帰宅後、しばらくしてコーヒーが飲みたくなり、お湯を沸かしにドアの方へ向かうと、
「あれ?」
異変に気づく。
傘立てには私の傘が刺さっていたのだ。
もちろん私の傘は一本しかない。この日の夜は雨が降ったために、魔理沙さんに貸したはずなのに……。
「おっかしいな~?」
不可思議な光景に思わず独り言が出る。
やっぱりやめたのか、それとも……。
~~ここまで
続く
次回:第七話(7-3)
web拍手を送る
思い出せない程、前に書いた作品の続き。
完全に読者無視ですな。 orz
ここから~~
しかし、この阪神戦以降はそんな心配を余所に以降、魔理沙さんの力投が続いた。先の完投勝利がきっかけとなり、いい方向に働いたのであろう。
力勝負が多いのが難点だが、よく試合を作ってくれるようになった。
スコアラーの観点からこうした好成績について分析させてもらうと、配球表が4スミに散っており、ピンチの方でもその傾向は続いた。だから、私も魔理沙さんの投球を安心して見られるものになっていった。
私はこの間、「今回もコントールが良かったな」「変化球が低めに決まっていたぞ」と力勝負以外のところをほめるようにした。
ただ、本人がこれをどう感じたかはわからない。
◇
ここで同じ時期にあったことで、本筋とは逸れるが話すことがある。
こうやって尾張が魔理沙さんのことについて頭を悩ましている間に、彼はこれまでのミーティングで言ったことや野球に関する考えをまとめてみることにした。ちょうど交流戦も終わりに近づき、再び同じリーグ戦へ移る間にまとまった時間が取れる。
ということで尾張は早速、執筆作業に当たった。
ここ幻想郷内ではちょっと前にサッカーが流行したこともあり、スポーツへの関心が高かったので、ここで一つ彼は自分の見聞きした野球への考えというものを提言してみることにしたのだ。
また他にも、なんとなく観戦している野球について、見るべきポイントやより面白く観戦するためのコツなどを彼なりにわかりやすくまとめた。
射命丸文から頼まれ、尾張は匿名であることを条件にタートルズの試合解説の記事を書いたことがあったので、今度は逆に彼の方からこの原稿を何部か印刷してくれないかとお願いしたのであった。
「……ということで、すいませんがお願いできませんか?」
「いいですけれど、それってどんな原稿ですか?」
「こんな感じです」
尾張が文に原稿を手渡す。
「ふむふむ」
その後、彼女は内容の感想を述べ、ここはこう直した方がいいとか、ここに関する記述が足りないとアドバイスをくれた。尾張がこれを印刷し、広く幻想郷の人に読んで欲しいと語ったら大いに喜び、これの印刷を引き受けてくれた。
修正稿を完成させると、数日後、試しということで5冊の本を持ってきてくれた。
「でましたよ~」
そう言って手渡される。
「おお!」
尾張はぺらぺらとめくると印刷されたインクの臭いと共に、自分の文章が目に飛び込んでくるのを感じた。
彼にとっては、自分の文章が印刷されるなんて中学の卒業文集以来なので、恥ずかしいという思いが半分。これを読んで読者がどんな影響を受けてくれるのかを期待する気持ちが半分。こうした二つの矛盾した気持ちがして、彼はどう表現したらいいかわからないようだ。
「実はもう少し刷ったのですが、これは私の方でばら撒いておきますので」
「お願いします」
実はこの本、ペナントレースが終盤に近づく間に、それが写本され、色んな人の手に渡ったという。彼が数ヵ月後スポンサーの方に会った際は、この写本を通して尾張忠実を知っており、よそ者に関わらずご好意をよせてもらうこともあった。しまいには、これが『外来野球事情』という名前で書店にも発売されていると聞き、卒倒したという。
なお、こうした時期と前後して局地的な地震が発生し、博麗神社が倒壊しているが、球宴異変とはあまり関係ないので、ここでは語らないとする。
◇
魔理沙さんは交流戦を過ぎると、またどこかおかしくなってきた。
6月30日(土)対中日戦。
この日は本当に散々だった。初回、李にタイムリーを浴びるとその後も福留のホームランを浴び、4回5失点。ノックアウトされてしまった。
試合後。
「どうした、説教か?」
私と顔があった魔理沙さんは、こう切り出した。
表情もいつものようなものとは程遠く、態度もデータ重視を謳う私に対し突っかかるようなものではなかった。
「まさか。今日はどうにもならなかったよ。こういう日もあるさ。」
両方の手のひらを上に向けて、策がなかったことを打ち明ける。
「意外だな」
そう言えば、確かに面と向かってフォローを口にしたのは初めてかもしれない。
好投しても注文ばかりだったし。
振り返ると、こうした対応が対決姿勢の原因かもしれないと、ふと思った。
「……切り替えて次は好投してくれ。配球表は明日までには渡すからちゃんと反省しておいて」
「ん、わかった」
「次こそは完封だろ、期待しているから」
「…………」
「どうした?」
「あ、いや、なんでもない。任せろ」
確か、その日はそう言って別れたはずだ。
こういったのが契機であろうか?これ以降はちゃんと話せるようになった。
魔理沙さんには悪いが、私にとってこれは大きな事だった。
本人にも言った通り、次は取り返してくれるはずだろう。そう思っていた。
しかし、次の試合も6回5失点。再びローテから外される危機にさらされたのだった。
で、その翌日。
形式にもなった私の部屋でのスコアシートの受け渡し。
「打たれた日こそよ~く目を通してくれ」
「了解した。じゃ」
そう言うとお互い背中を向ける。
魔理沙は退室するため、ドアの方へ向き、私は仕事の続きをしようと机がある窓の方へ体を向けた。
「……」
窓からは小雨が降っているのが見えた。
すると、
「これ借りていくぜ」
魔理沙さんが後ろから声をかけてくる。
「ああ、いいよ」
雨が降っているので傘のことだと思い、相手の顔も見ずに返事をした。
バタンという音がして、彼女が退室した。
「う~ん、どうやったらいいピッチングをしてくれるかな~」
コントロール良し悪しで試合が決まる投手だからこそ、口酸っぱく「制球、制球、コントロール」といい続けているんだが、力勝負でも結果を残す時はあるし、封印させることもできない。
魔理沙さんの成績を安定させるための糸口を探そうと、私は再び頭を働かせようとする。
「忠実君、そろそろ帰るから後の事……って、何これ?」
「はい?」
ちょうどその時、着替えや後片付けを終えて、帰宅しようとしているアリスさんが私の仕事部屋を訪れたのだ。
開口一番、「何これ?」とは少し傷ついた。
「部屋一面、資料だらけじゃない!ちゃんと片づけなさい」
ただ、床が資料の紙で一杯になっていれば普通は怒られる。
「あ~い」
「…………」
「…………可及的速やかに片付けます」
適当に返事をかわそうとしたら、物凄い殺気を伴った視線を浴びたので、軌道修正。
すぐに椅子から立ち上がって、資料を集め始める。
「これじゃ魔理沙みたいよ」
この様子を見て、アリスさんも近くにあった物を拾ってくれている。
「汚いの、家?」
「あれはひどかったわ」
「…………」
何気なく聞いた事だが、一体どれくらいひどいのであろうか。
「ってか、床に落ちていた資料って皆魔理沙が登板した試合じゃない」
「そうですよ。安定しない投球の原因を探そうと思って」
「何かわかった?」
首を横に振る。
「そう。いい日の投球をもう一度、洗い直してみたら?」
「一応、やっているつもりでしたが」
「なら私のいる今一度」
「まじで?」
「新しい視点が必要でしょ。そもそも一人でできる作業?」
「……いいえ」
「じゃ、手伝うから」
「でも、せっかく試合が早めに終わったんですから、寝た方がいいですよ?」
「…………いいわよ。そんな気を使わなくたって」
「こういう時に使わないと使う機会が無いのです」
「でも本当に大丈夫だから」
1時間後……。
「なんとかまとめ終わったわね」
「でも、抑え方はバラバラですよ。これは低めに決まったから抑えられたやつ。こっちは力でねじ伏せたやつ。一貫性がありません」
他にも相手の打ちミスも考えられ、判然としないのが印象だ。
「相性の関係とか?」
「前者も後者も左右、だいたい似たような数ですよ」
「イニングとかは?」
「それもこれといった特徴には……」
「そう言われると、普通に見ていてもそういう感じじゃなかったわね」
「ではいっそ打順や打者のタイプごとで――」
「あった」
「え?」
「状況よ」
「はい?」
「ランナーがいない状態なら丁寧な投球で行けばいいけれど、ピンチの時は球に力がないから打たれる。逆に、ランナー無しでの力勝負は打たれると尾を引いて、その後も打たれ続けるのよ」
「確かに、ピンチとそれ以外とではフルカウントの被打率には差がありますね。では、これって――」
「推測に過ぎないけれど、ピンチの時の方がマスタースパークにも力が入って抑えられているのかも」
「ですが、問題が……。この仮説が合っているかどうかがわかりません。せめて1試合くらい……」
良かった時はピンチでも4スミに決まっていることもあったので、アリスさんの仮説が復調のきっかけになるとは限らないのだ。
「次の登板で確認してみましょう」
「ちょうどローテも入れ替えようと思っていたし、あいつを焚きつけるにはぴったりね」
「ハハハハハ……」
ごめん、魔理沙さん。何か試合前に言われていたとしたら、100パー、私のせいだ。
アリスさん帰宅後、しばらくしてコーヒーが飲みたくなり、お湯を沸かしにドアの方へ向かうと、
「あれ?」
異変に気づく。
傘立てには私の傘が刺さっていたのだ。
もちろん私の傘は一本しかない。この日の夜は雨が降ったために、魔理沙さんに貸したはずなのに……。
「おっかしいな~?」
不可思議な光景に思わず独り言が出る。
やっぱりやめたのか、それとも……。
~~ここまで
続く
次回:第七話(7-3)
web拍手を送る