前回:第九話(9-2)
ここから~~
忠実のサイン見破り講座が終ってから数分後――。
彼は既に紙に何かを書きとめる作業に戻っており、早苗は早苗で先ほど彼から教わった見破り方を実践していたようだった。
忠実もあまり意味はないとは言ったが、どのタイミングで動くのか知ることができるのは参考になるからと、その後にフォローを入れており、早苗も気を取り直して、タートルズの視察をしているようだ。
「…………」
「どうかしたの?」
そうした2人とは別に、諏訪子は黙り込んでグラウンドを眺めている神奈子に気付き、声をかけた。
どうも一生懸命に野球を観ているようには見えなかったのだ。
「いや、ね。惜しいな~、って」
やはり、神奈子は何か考え事をしていたようで、諏訪子はさらに「何が?」と深く掘り下げてみた。
「彼を今回の話に巻き込ませる事はさせたくなかったけれど、私たちの方で保護していたら面白いことになっていただろうな、ってさ。彼、野球に異常なほど詳しいし」
「元の世界で野球をやっていたらしいしね」
諏訪子も同意はしておく。特に神奈子は年期の入った――特に戦前と呼ばれた時期の――プロ野球ファンだし、彼は神奈子にとっても良い話し相手になってくれそうだしねと心の中で呟いておく。
「ま、少なくとも早苗には同世代くらいの友人ができたようだし、今日は来てよかったよ」
神奈子一人で納得しているようであったが、諏訪子は改めて忠実たちの方を見て、「ねぇねぇ、神奈子。あれ見てみてよ」と声をかけた。
「ん?」
「仲の良い兄妹にも見えない?」
ちょうど、早苗が見つけたサインを忠実自身に確認しているようで、二人、顔を近づけて話をしている様子は、諏訪子の言うように兄妹にも見えた。
神奈子は思わず、「ほ~」と声を出した後に、「そうだね。つくづく既に連中の知り合いだというのが残念だ」と言った。
しかし、そんな呟きは近くにいた諏訪子に辛うじて聞こえたくらいで、歓声にかき消されてしまっていた。
◇
魔理沙が選手の交代を審判に告げに言った際、ある風景が見えた。
「ん、あれは?」
山にある神社の連中と忠実が仲良くしゃべっているのが見えたのだ。
「あ、あいつ……」
しかも、彼は鼻を伸ばしていた。事情を知らないためか色々としゃべってそうな気がする。勘とかは巫女の領域だが、魔理沙でもピーンと来るものがあった。
(試合後にでも呼び出して、とっちめてやるか)
などと考え、ベンチまで戻ると、投手用にアイシングの氷を持ってきたチルノが視界に入ってきた。魔理沙はコイツを忠実を呼び出す用のパシリに使うことを閃いた。
「お~い、チルノ、ちょっとお願いがあるんだ」
で、早速、用を伝えるため声をかけた。
これからただのパシリに使われるだけなのに何も知らず、「なに~、あたいにできることなら何でも任せなさい」と、呑気に返事をする氷精。これに対して魔理沙は「ああ、お前にしかできないことだZE☆」と、作り笑顔を浮かべていた。
◇
試合終了だ。
結局、8回裏の美鈴さんのタイムリーヒットが決勝打となって「3-2」で紅組が勝利した。接戦だったため、途中で席を立つ人も少なく、試合終了をもって一斉に観客が帰宅の途につく。
私もスコアブックの整理が終わり、そろそろ席を立とうかなと思い、なんとなく観客席にある出入り口の方に目を移す。すると、見たくない人(いや、厳密には妖精)が見えた。
「お~い!」
チルノさんだ。
その見たくなかった妖精がこちらに声をかけてきたが、うん、アレは無視しておこう。気づかなかったことにしておけば、何とかなりそうだ。
あの妖精は他の妖精と比べて、格別頭が悪いので大丈夫だろうと高を括った。
「ところで『楽天』ファンなのですか?」
「えっ、どうしてそれを?」
「今日の試合は『楽天のために』とかしゃべっていたのが聞こえてしまいまして」
「そ、それは……ええっと……」
私が正直に話すと、なぜか向こう側――3人が3人とも――が急に慌て出していた。
しかし、この時はその様子に気付かず、私はそのまま自分が話したいことを続けた。
特にここ(幻想郷)では貴重な楽天のファンだというのだから、その楽天ファンがしゃべりやすい話題で会話を盛り上げたいという思いが働いたのだった。
「いいですよね、楽天! 実は私、楽天の監督を尊敬してまして」
「え? そ、そうなんですか?」
ということで、監督ネタを喋り始めた頃、この時には既に3人から動揺の色は消えていた。今にして思えば、私自らが話を逸らしてしまい、自分たちの事情を話さなくてもよくなったからだろう。
「ええ。そうそう、ここの楽天は首位を走っているらしいじゃないですか? 監督さんが好きで気にかけていたから何だか、すごく嬉しくって」
ちなみに、厳密に言えば古田さんが球団設立に関わったから、それよりも前から気にかけてはいるのだが、ここでは説明が面倒だから私がヤクルトファンであることは言わなかった。
「そのよう……ですね。私も楽天を『応援』してますから――」
とここで話は中断してしまう。
「返事しろよ、忠実」
チルノさんが声をかけに来たからだ。しかも直接服を引っ張って――。やめろ、服が伸びる。
「…………。おう、どうかしました?」
私はこれ以上無視ができなくなったため、仕方なく反応する。
大方、試合も終わった事だし、片付けを手伝うようにとか言われるのであろう。ああ、もう少し話をしておきたかったな~。
「魔理沙がね、聞きたいことがあるからすぐ来て欲しいって」
「ああ、はいはい。すぐ、行くと伝えて」
私の予想は呼び出し相手から確信へと変わった。ま、いい。スポンサーさんの方々ならまた会えるだろう。とりあえず適当にあしらって、この場から去らないと……。
「あの~」
早苗さんが私に呼びかけた。「はい」と返事をする私。
「タートルズの監督の知り合いだとは伺っていたのですが、他の選手とも知り合いだったのですか?」
私の正体に関する核心に触れる質問。心の中で「うっ、まずい」と呟いた。
「ええっと……」
などと答えに窮していたら
「こいつはあたいらのスニーカーなんだよ」
と勝手に答える妖精が一匹。言わずもがな、チルノさんである。
「スニーカー?」
首を傾げる早苗さん。
チルノさん、スニーカーちゃうスコアラーや。「ス」しか合ってないぞ。
「あ、スコアラーだった。ま、あたいの手下みたいなもんだよ」
(お前はーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!)
自分の間違いを察し、訂正したのは頭が良いと思うが、ここで間違いを訂正し、正しい情報を与えるのは、どう考えても、身分がばれるタイミングが最悪すぎる。これではわざとやったとしか思えないぞ。
聞いていなかったとは思うが、楽天ファンなんて言っている人たちにタートルズの身内だなんて言ったらダメだろう。
「え、連中のスコアラー?」
ほら、早苗さんがドン引きしてるぞ。
「…………」
もうここで変に誤魔化すのはやめよう。こうなってしまった以上、ちゃんと挨拶しておくしかない。
「…………改めまして、タートルズの専属スコアラー尾張忠実と申します。早苗さん、ごめんなさい。別に騙すつもりはありませんでしたが、結果的にはそうなってしまいました。本当にすいません」
「まさか、私たちの計画を邪魔しようとスパイを」
「いえ、そんなつもりは……」
ああ、フラグが折れる音がした。
ん、ちょっと待って。計画って何よ? いや、それは置いといて、とりあえず、今後の怨恨を残さないようにしないと。
私は自分の誠意を見せることに。
「こんな形にはなってしまいましたが、私としては敵味方関係なく、野球好き同士仲良くやっていきたいと思いますので、よろしくお願いします」
ひどく自分勝手な言い草であり、自己嫌悪に陥るが、ここで敵を作るわけにはいかなかった。
すると、ここでまたもや妖精が口を挟む。
「おい、ストーカー。早くしろと白黒に言われてんだから、急ぎなさいよ」
(このKYがーーーーーー!)
あくまで、心の中での叫びである。
「ああ、じゃ、すいません。また会うと思いますので、今日はこれで失礼します」
被っていた帽子を取り、頭を下げた。そして、スコアブックや撮影機器を素早く片付け、移動するための準備を整える……。
『…………』
背後にいるはずの3人が沈黙している中、私は足早にその場を後にしたのだった。
◇
(まさかチーム関係者だったとはね。確かに、そう言われれば納得できるね)
せっかく仲のいい友人ができたと思ったら、ああいう立場の人間だったとは……。早苗もショックだろうと神奈子は気遣った。
「早苗……」
「はい」
諏訪子も声をかける。
「大丈夫?」
「はい。気にはしていません。スパイ映画とかだったら、よくある話じゃないですか。親切だったり、主人公の味方だった人に限って、敵の大本だったみたいなオチが」
「早苗……」
やけに饒舌なのが、無理している感じを強調しているように見えた。
さすがに、神奈子もかける声をなくしていた。だが、彼もそうだと察する情報もあったし、私たちの正体も知らず、色々と連中の情報を教えてくれたじゃないか。ただ、ここに至るまでに見破ることができなかったのが悔しかった。
そして、何よりも早苗に大きな傷を――、
「尾張忠実……。ふふっ、覚えましたよ。あの人が連中の団結に一役かっていたのですね。わかりましたよ。連中がチームとしてまとまり始め、勝ち続けている理由が……」
残していなかった!
「おーい、早苗戻ってきてーー」
「ありゃ、ダメだね。水を得た魚状態になっている。改めて連中の様子がわかったことで、やる気に火がついてしまったようだね~」
「神奈子様、諏訪子様――」
「?」
「これでやっと敵の正体がはっきりしました。こうなったら何が何でも楽天を日本一にして、信仰を集めましょう。連中に勝って、彼の鼻をあかしてやるんです」
『ええっ!?』
突拍子のない発言に驚く2人。
だが、その様子に気づかず、早苗は続ける。
「こうなった、毎回試合を観に行って、連中のことを研究しないと。後半戦の開始からまた忙しくなりますよ~」
『…………』
構図としては、俄然やる気を出し始めた少女とそれに置いてけぼりを食らう保護者たち……。
「ショックを受けてなさそうなのはよかったが、何でまた……」
神奈子が頭を抱え、そう呟くのがやっとだった。
◇
人々の帰宅へと向かう流れに逆らって、私はダグアウトへと続く廊下まで歩いていった。
「お疲れさま~」
「お疲れ様ッス」
入り口に立っていた椛さんと挨拶を交わし、奥へと歩いていく。
「…………」
少しずつ冷静になってなってくると、あの家族に関して、話をしていた時に考えもしなかったことについて考えが及ぶ。
そう言えば、あの家族自体のことについて何も聞かないまま分かれてしまったな、とか……。スポンサーをやっているなんて余程の事だし……。
ま、スポンサーだし、いつか知る機会も来るだろう。そう結論付け、ダグアウトの入り口に手をかけた。
「――チルノに氷付けにされる権獲得だぜ。さ、逝こうか……」
「ぎゃ~~~~~っ! 殺される~~~」
「…………」
指示通りダグアウトまで戻ると、どうやら今現在お取り込み中だったようだ。
物凄いタイミングに来てしまったようで、美鈴さんが他の選手たちによって問答無用に連れてかれる。
すれ違いざま美鈴さんは私に助けて下さいとアイコンタクトを送ったが、私にはどうすることもできず、ただただ見送るばかり。
「忠実さん……」
涙目で訴えてくるが、その惨状っぷりに、私はとうとう顔を背けてしまった。
ごめんなさい、美鈴さん。後で何かフォローしておきます。ナムナム。
「おっ、お前も来たか」
やっと私の存在に気付いたようで、声をかけてきてくれた。私が無言のまま何度も頷いた。魔理沙さんが……怖い。
ただ、さっきまでと同じく、私にも笑顔を見せていたので、これは何か怒られるとは思っていた。
「な~、忠実」
「は、はい?」
私の声が震えていた。やばい、今日は敗軍の将でもあるので、機嫌がさらに悪いそうだ。
「ベンチから見えていたんだが、一緒に居た人たちはどうしたんだ?」
しかし、そんな私の不安とは裏腹に比較的穏やかに聞いてきたので、私は嘘偽りなく答えてしまった。
「ああ、スポンサーの方々ですよ。いや~、女性なのに野球が詳しい人ばかりでしてね~。色々と野球談義に華を咲かせてしまいましたよ~」
「ふんふん、それで? スポンサーには失礼がないようにやったんだろうな」
「もちろんですよ。家族連れでしたので、野球の見方を教えてあげたり、サインの見破り方まで教えちゃいましたよ~」
「お、お前ってやつは……」
にこやかな表情から一転、急に魔理沙さんは沈黙してしまった。
「へ、何?」
疑問を口にする。
確かに、選手たちが試合をやっている中、女性たちと話をしていたのは良くないと思うが、本職をサボってはいなかった……はずだが……。
「お前も、お前も中国と同じ罰だ!」
「え、うっそおおおおおおおおおお、なんでだあああああああああああああ」
その後、試合中に話をしていた親子連れの正体を聞きました。異変解決の妨害者だったのね……。
結論。
このチームにいる以上、迂闊に他の女性へと近づくのは死亡フラグです。
~~ここまで
終わった!!!
色々と展開はひどいけれど、これでEXにまで及ぶ壮大な戦いの全貌が(ry
次は残りを終わらせなくちゃ
リンクリストへ
web拍手を送る
ここから~~
忠実のサイン見破り講座が終ってから数分後――。
彼は既に紙に何かを書きとめる作業に戻っており、早苗は早苗で先ほど彼から教わった見破り方を実践していたようだった。
忠実もあまり意味はないとは言ったが、どのタイミングで動くのか知ることができるのは参考になるからと、その後にフォローを入れており、早苗も気を取り直して、タートルズの視察をしているようだ。
「…………」
「どうかしたの?」
そうした2人とは別に、諏訪子は黙り込んでグラウンドを眺めている神奈子に気付き、声をかけた。
どうも一生懸命に野球を観ているようには見えなかったのだ。
「いや、ね。惜しいな~、って」
やはり、神奈子は何か考え事をしていたようで、諏訪子はさらに「何が?」と深く掘り下げてみた。
「彼を今回の話に巻き込ませる事はさせたくなかったけれど、私たちの方で保護していたら面白いことになっていただろうな、ってさ。彼、野球に異常なほど詳しいし」
「元の世界で野球をやっていたらしいしね」
諏訪子も同意はしておく。特に神奈子は年期の入った――特に戦前と呼ばれた時期の――プロ野球ファンだし、彼は神奈子にとっても良い話し相手になってくれそうだしねと心の中で呟いておく。
「ま、少なくとも早苗には同世代くらいの友人ができたようだし、今日は来てよかったよ」
神奈子一人で納得しているようであったが、諏訪子は改めて忠実たちの方を見て、「ねぇねぇ、神奈子。あれ見てみてよ」と声をかけた。
「ん?」
「仲の良い兄妹にも見えない?」
ちょうど、早苗が見つけたサインを忠実自身に確認しているようで、二人、顔を近づけて話をしている様子は、諏訪子の言うように兄妹にも見えた。
神奈子は思わず、「ほ~」と声を出した後に、「そうだね。つくづく既に連中の知り合いだというのが残念だ」と言った。
しかし、そんな呟きは近くにいた諏訪子に辛うじて聞こえたくらいで、歓声にかき消されてしまっていた。
◇
魔理沙が選手の交代を審判に告げに言った際、ある風景が見えた。
「ん、あれは?」
山にある神社の連中と忠実が仲良くしゃべっているのが見えたのだ。
「あ、あいつ……」
しかも、彼は鼻を伸ばしていた。事情を知らないためか色々としゃべってそうな気がする。勘とかは巫女の領域だが、魔理沙でもピーンと来るものがあった。
(試合後にでも呼び出して、とっちめてやるか)
などと考え、ベンチまで戻ると、投手用にアイシングの氷を持ってきたチルノが視界に入ってきた。魔理沙はコイツを忠実を呼び出す用のパシリに使うことを閃いた。
「お~い、チルノ、ちょっとお願いがあるんだ」
で、早速、用を伝えるため声をかけた。
これからただのパシリに使われるだけなのに何も知らず、「なに~、あたいにできることなら何でも任せなさい」と、呑気に返事をする氷精。これに対して魔理沙は「ああ、お前にしかできないことだZE☆」と、作り笑顔を浮かべていた。
◇
試合終了だ。
結局、8回裏の美鈴さんのタイムリーヒットが決勝打となって「3-2」で紅組が勝利した。接戦だったため、途中で席を立つ人も少なく、試合終了をもって一斉に観客が帰宅の途につく。
私もスコアブックの整理が終わり、そろそろ席を立とうかなと思い、なんとなく観客席にある出入り口の方に目を移す。すると、見たくない人(いや、厳密には妖精)が見えた。
「お~い!」
チルノさんだ。
その見たくなかった妖精がこちらに声をかけてきたが、うん、アレは無視しておこう。気づかなかったことにしておけば、何とかなりそうだ。
あの妖精は他の妖精と比べて、格別頭が悪いので大丈夫だろうと高を括った。
「ところで『楽天』ファンなのですか?」
「えっ、どうしてそれを?」
「今日の試合は『楽天のために』とかしゃべっていたのが聞こえてしまいまして」
「そ、それは……ええっと……」
私が正直に話すと、なぜか向こう側――3人が3人とも――が急に慌て出していた。
しかし、この時はその様子に気付かず、私はそのまま自分が話したいことを続けた。
特にここ(幻想郷)では貴重な楽天のファンだというのだから、その楽天ファンがしゃべりやすい話題で会話を盛り上げたいという思いが働いたのだった。
「いいですよね、楽天! 実は私、楽天の監督を尊敬してまして」
「え? そ、そうなんですか?」
ということで、監督ネタを喋り始めた頃、この時には既に3人から動揺の色は消えていた。今にして思えば、私自らが話を逸らしてしまい、自分たちの事情を話さなくてもよくなったからだろう。
「ええ。そうそう、ここの楽天は首位を走っているらしいじゃないですか? 監督さんが好きで気にかけていたから何だか、すごく嬉しくって」
ちなみに、厳密に言えば古田さんが球団設立に関わったから、それよりも前から気にかけてはいるのだが、ここでは説明が面倒だから私がヤクルトファンであることは言わなかった。
「そのよう……ですね。私も楽天を『応援』してますから――」
とここで話は中断してしまう。
「返事しろよ、忠実」
チルノさんが声をかけに来たからだ。しかも直接服を引っ張って――。やめろ、服が伸びる。
「…………。おう、どうかしました?」
私はこれ以上無視ができなくなったため、仕方なく反応する。
大方、試合も終わった事だし、片付けを手伝うようにとか言われるのであろう。ああ、もう少し話をしておきたかったな~。
「魔理沙がね、聞きたいことがあるからすぐ来て欲しいって」
「ああ、はいはい。すぐ、行くと伝えて」
私の予想は呼び出し相手から確信へと変わった。ま、いい。スポンサーさんの方々ならまた会えるだろう。とりあえず適当にあしらって、この場から去らないと……。
「あの~」
早苗さんが私に呼びかけた。「はい」と返事をする私。
「タートルズの監督の知り合いだとは伺っていたのですが、他の選手とも知り合いだったのですか?」
私の正体に関する核心に触れる質問。心の中で「うっ、まずい」と呟いた。
「ええっと……」
などと答えに窮していたら
「こいつはあたいらのスニーカーなんだよ」
と勝手に答える妖精が一匹。言わずもがな、チルノさんである。
「スニーカー?」
首を傾げる早苗さん。
チルノさん、スニーカーちゃうスコアラーや。「ス」しか合ってないぞ。
「あ、スコアラーだった。ま、あたいの手下みたいなもんだよ」
(お前はーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!)
自分の間違いを察し、訂正したのは頭が良いと思うが、ここで間違いを訂正し、正しい情報を与えるのは、どう考えても、身分がばれるタイミングが最悪すぎる。これではわざとやったとしか思えないぞ。
聞いていなかったとは思うが、楽天ファンなんて言っている人たちにタートルズの身内だなんて言ったらダメだろう。
「え、連中のスコアラー?」
ほら、早苗さんがドン引きしてるぞ。
「…………」
もうここで変に誤魔化すのはやめよう。こうなってしまった以上、ちゃんと挨拶しておくしかない。
「…………改めまして、タートルズの専属スコアラー尾張忠実と申します。早苗さん、ごめんなさい。別に騙すつもりはありませんでしたが、結果的にはそうなってしまいました。本当にすいません」
「まさか、私たちの計画を邪魔しようとスパイを」
「いえ、そんなつもりは……」
ああ、フラグが折れる音がした。
ん、ちょっと待って。計画って何よ? いや、それは置いといて、とりあえず、今後の怨恨を残さないようにしないと。
私は自分の誠意を見せることに。
「こんな形にはなってしまいましたが、私としては敵味方関係なく、野球好き同士仲良くやっていきたいと思いますので、よろしくお願いします」
ひどく自分勝手な言い草であり、自己嫌悪に陥るが、ここで敵を作るわけにはいかなかった。
すると、ここでまたもや妖精が口を挟む。
「おい、ストーカー。早くしろと白黒に言われてんだから、急ぎなさいよ」
(このKYがーーーーーー!)
あくまで、心の中での叫びである。
「ああ、じゃ、すいません。また会うと思いますので、今日はこれで失礼します」
被っていた帽子を取り、頭を下げた。そして、スコアブックや撮影機器を素早く片付け、移動するための準備を整える……。
『…………』
背後にいるはずの3人が沈黙している中、私は足早にその場を後にしたのだった。
◇
(まさかチーム関係者だったとはね。確かに、そう言われれば納得できるね)
せっかく仲のいい友人ができたと思ったら、ああいう立場の人間だったとは……。早苗もショックだろうと神奈子は気遣った。
「早苗……」
「はい」
諏訪子も声をかける。
「大丈夫?」
「はい。気にはしていません。スパイ映画とかだったら、よくある話じゃないですか。親切だったり、主人公の味方だった人に限って、敵の大本だったみたいなオチが」
「早苗……」
やけに饒舌なのが、無理している感じを強調しているように見えた。
さすがに、神奈子もかける声をなくしていた。だが、彼もそうだと察する情報もあったし、私たちの正体も知らず、色々と連中の情報を教えてくれたじゃないか。ただ、ここに至るまでに見破ることができなかったのが悔しかった。
そして、何よりも早苗に大きな傷を――、
「尾張忠実……。ふふっ、覚えましたよ。あの人が連中の団結に一役かっていたのですね。わかりましたよ。連中がチームとしてまとまり始め、勝ち続けている理由が……」
残していなかった!
「おーい、早苗戻ってきてーー」
「ありゃ、ダメだね。水を得た魚状態になっている。改めて連中の様子がわかったことで、やる気に火がついてしまったようだね~」
「神奈子様、諏訪子様――」
「?」
「これでやっと敵の正体がはっきりしました。こうなったら何が何でも楽天を日本一にして、信仰を集めましょう。連中に勝って、彼の鼻をあかしてやるんです」
『ええっ!?』
突拍子のない発言に驚く2人。
だが、その様子に気づかず、早苗は続ける。
「こうなった、毎回試合を観に行って、連中のことを研究しないと。後半戦の開始からまた忙しくなりますよ~」
『…………』
構図としては、俄然やる気を出し始めた少女とそれに置いてけぼりを食らう保護者たち……。
「ショックを受けてなさそうなのはよかったが、何でまた……」
神奈子が頭を抱え、そう呟くのがやっとだった。
◇
人々の帰宅へと向かう流れに逆らって、私はダグアウトへと続く廊下まで歩いていった。
「お疲れさま~」
「お疲れ様ッス」
入り口に立っていた椛さんと挨拶を交わし、奥へと歩いていく。
「…………」
少しずつ冷静になってなってくると、あの家族に関して、話をしていた時に考えもしなかったことについて考えが及ぶ。
そう言えば、あの家族自体のことについて何も聞かないまま分かれてしまったな、とか……。スポンサーをやっているなんて余程の事だし……。
ま、スポンサーだし、いつか知る機会も来るだろう。そう結論付け、ダグアウトの入り口に手をかけた。
「――チルノに氷付けにされる権獲得だぜ。さ、逝こうか……」
「ぎゃ~~~~~っ! 殺される~~~」
「…………」
指示通りダグアウトまで戻ると、どうやら今現在お取り込み中だったようだ。
物凄いタイミングに来てしまったようで、美鈴さんが他の選手たちによって問答無用に連れてかれる。
すれ違いざま美鈴さんは私に助けて下さいとアイコンタクトを送ったが、私にはどうすることもできず、ただただ見送るばかり。
「忠実さん……」
涙目で訴えてくるが、その惨状っぷりに、私はとうとう顔を背けてしまった。
ごめんなさい、美鈴さん。後で何かフォローしておきます。ナムナム。
「おっ、お前も来たか」
やっと私の存在に気付いたようで、声をかけてきてくれた。私が無言のまま何度も頷いた。魔理沙さんが……怖い。
ただ、さっきまでと同じく、私にも笑顔を見せていたので、これは何か怒られるとは思っていた。
「な~、忠実」
「は、はい?」
私の声が震えていた。やばい、今日は敗軍の将でもあるので、機嫌がさらに悪いそうだ。
「ベンチから見えていたんだが、一緒に居た人たちはどうしたんだ?」
しかし、そんな私の不安とは裏腹に比較的穏やかに聞いてきたので、私は嘘偽りなく答えてしまった。
「ああ、スポンサーの方々ですよ。いや~、女性なのに野球が詳しい人ばかりでしてね~。色々と野球談義に華を咲かせてしまいましたよ~」
「ふんふん、それで? スポンサーには失礼がないようにやったんだろうな」
「もちろんですよ。家族連れでしたので、野球の見方を教えてあげたり、サインの見破り方まで教えちゃいましたよ~」
「お、お前ってやつは……」
にこやかな表情から一転、急に魔理沙さんは沈黙してしまった。
「へ、何?」
疑問を口にする。
確かに、選手たちが試合をやっている中、女性たちと話をしていたのは良くないと思うが、本職をサボってはいなかった……はずだが……。
「お前も、お前も中国と同じ罰だ!」
「え、うっそおおおおおおおおおお、なんでだあああああああああああああ」
その後、試合中に話をしていた親子連れの正体を聞きました。異変解決の妨害者だったのね……。
結論。
このチームにいる以上、迂闊に他の女性へと近づくのは死亡フラグです。
~~ここまで
終わった!!!
色々と展開はひどいけれど、これでEXにまで及ぶ壮大な戦いの全貌が(ry
次は残りを終わらせなくちゃ
リンクリストへ
web拍手を送る