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色んなことを投稿するブログ。現在は「東方野球の世界で幻想入り」を投稿したり、きまぐれに日々のことについて綴ったり。

第九話(9-2)「神々との邂逅」

2009-09-10 23:35:23 | 東方野球幻想入り物語
前回:第九話(9-1)

ここから~~


 …………。

 グラウンドでの野球を観ながら、小声でずっとぼやき続けていたが、ふとあの親子連れの様子が気になり、視線をそちらに移してみた。
何やら、話をしているようだ。周りのことを気にしているようで、随分と小声でのやり取りであったが、聞こえなくもなかった。
「大味なホームラン野球ね。これなら付け入る隙はありそうだわ」
「……ねぇ早苗、仮に『楽天』が勝ちあがったとしても4ヶ月先まで対戦のない相手の視察なんか意味あるのかい?」
 それぞれの声から判断するに、娘さんの問いかけに母親が受け答えをしているようであるが、気になる単語が私の耳に届いた。
――楽天のために相手を視察している。
 私には確かにそう聞こえた。ただ、それならわずか4試合のためだけにスポンサーになるようなもんだ。にわかには信じがたい。
「ま、いいじゃないですか。練習だから入場料タダだし」
 まるで、私の疑問に答えるかのように娘さんは話すが、スポンサー代だって馬鹿にはならないはずだが……。
 このあたりから少し自分のなかで色々と考え込んでしまったという事情も加わり、二人から聞き取れる会話は少し部分的になってしまった。だから、聞き取れた次の会話では他の話題になっていた。
「それにしても、あの白黒魔法使いは何で投手なのに外野でも出ているんですかね?ホームランは打つし、もうワケ分かりませんね」
 ただ、この感想に私は少し笑ってしまった。やはり、皆も似たような感想を持っているものだろう。私はニヤニヤしている顔を必死に隠しながら、そのまま耳だけをそちらに傾き続ける。
 この直後、話し相手である母親(らしき人)がもう一人の子との会話に移ってしまったようで、巫女衣装の子が途端にひとりぼっちになった。
私はそんな様子を見て、彼女に話しかけてみた。
「あの~。野球詳しいですね~」
「ああ、そ、そうですか? いろいろ勉強しまして」
 国語的にはよろしくないが、こうやってしどろもどろになっていく様子を見るのは、微笑ましい。
 というか、久しぶりに女の子の仕草にドキッとした。
いや、身の周りも人生の中で一番女性に囲まれている状況ではあるのだが……。
「野球はパワーだぜ」「巫女の勘よ」「逃げ足は速いですよ」「稗田なめんな」(中略)「モグモグ」「あなたには善行が足りません。いいですか(以下、略)」などなど一癖も二癖もある人たちばかりであって……。
 こういうのが女の子なんだよな~。
 久しぶりに、貴重な『乙女』を見た気がするのは、気のせいであろう。うん、そうだ。
「あの~、どうかしましたか?」
私の仕草が気になったのか、そう言って、私の方を覗き込む。やばい、距離が……近い。 整った顔がすぐにそこにあり、なんだか女の子特有のいい匂いが鼻の中を駆け巡った。
「なんでもないれす。らんでも」
 大丈夫なことを伝えたつもりだが、呂律がまわっていない。そして、顔とか耳とかが真っ赤なってきたような気もする。
「そうですか……」
 急に私の様子がおかしくなったのが、気になったのだろう。ただ、こちらも野球に集中したいのだが、さっきまで近くにあったきれいな顔とか匂いとかが頭の中を支配したままだ。そうやって、ますますドキドキしていく。これは精神的に悪い。
 ……話題を逸らそう。
「そ……そうだ、野球についてわからないところがあったら教えてあげますよ。これでも野球経験者なんで」
「え、本当ですか? あれ、でも最近までこっちでは野球なんて盛り上がっていませんでしたよね?」
「つい最近こっちに来たので……。こちらの世界では私の事を外来人と呼ぶそうです」
「あなたも外来人なんですか?」
「あなたも、ってことは……」
 その後、極上の笑顔で自分も外から来たことを教えてくれた。そして、改めて自己紹介し合った。母親から呼ばれていたように、彼女の名前は早苗と言うらしい。早苗さんか~、デレデレ……。

 ◇

「神奈子~、ビールとおつまみに八目鰻の串焼き買ってきたよ~。一緒に食べよ~」
 早苗との軽いやり取りがあった後、神奈子は諏訪子に呼ばれ、意識をそちらに移した。
 すると、球場内にある売店で買ってきた食べ物を神奈子の目の前に見せていた。
「お、すまないねぇ。ま、私らはのんびりと野球観戦としゃれこみますかね」
 神奈子は礼を言って食べ物を受け取ると、串焼きの美味しそうな匂いが拡がっていった。
「神奈子~、早苗と話をしているのは、誰?」
「向こうのチームの監督さんの知り合いだそうだ」
 それを聞くと諏訪子は忠実の姿をしばらく見つめてから小声で一言。
「熱心な人なんだね。ちょっと、普通のファンとは違うけれども」
「諏訪子もそう思うかい?」
 神奈子もそれに倣い、小声で話す。
 2人はそのまま視線を早苗と忠実の方へと向け、話をしている様子を眺めた。
 ここまで彼の様子を神奈子はちょくちょく見ていたが、プレイ中はひたすら何かを紙に書き取り、かと思えば、選手たちの動きに不満がるのか、事あるたびに色々と愚痴をこぼしていたのが聞こえた。
 一歩間違えれば、ちょっと危ない人でもある。
「あーうー? そう聞くって事は……」
「そうさ。何か引っかかるんだよ」
 ――彼は一体、何者なのか?
 気になることはあっても、突っ込んで聞くことができないため、話はここで立ち消えになった。しかし、2人にはこの男に違和感を抱かざるを得なかった。
 いや、2人はもしかしたらわかっていたのだろう、この男が今度も何度か顔を合わせる事になることくらいは……。それが自分たちの援助者たるのか、敵対者たるのかまではわからないにしても――
「神奈子様」
 とここで、考えた際に急に呼びかけられ、思考は一時中断する。神奈子は「ん?」と声に出し、呼びかけられた方向に首を向ける。すると、早苗がそれまで思考対象であった彼のことを手で差していた。
神奈子は自分に対し、彼を紹介してくれるものとすぐにわかった。
「紹介します。尾張忠実さんです」
そこで、神奈子も自己紹介をすると、早苗がとっておきのことのように「尾張さんも私たちが元いた世界から来たそうです」と教えてくれた。
 こうした早苗のやり取りを見ていて、神奈子は自然と笑みがこぼれた。
 早苗の口調から嬉しそうなことがわかったからだ。早苗にとって、自分と同じ外来人の知り合いができたこと、それが何よりも嬉しいことであろうことは、神奈子にとっても容易に想像できた。
神奈子はそのまま、忠実がどこで世話になっているのかと聞いてみると、彼は「紫さんのところです」と答えた。
「紫? あのスキマ妖怪かい?」
 彼は神奈子の質問に、はいと答えた。
 この時に何か引っかかるものを神奈子は感じたが、それが何かはっきりとはわからないまま途切れ途切れに世間話を彼と続けていた。時折、歓声など気にはなったが、聞き取れないというほどではなかった。

 そして、しばらくしてからである
「う~ん、何かやってくるな」
 と、いきなり神奈子の近くで大きな声を出した。何事かと思っていたら、その声の主は忠実だった。
「どうかしましたか?」
 あわてて早苗が様子を伺う。
 彼女も何事か思ったのだろう。すると、彼はとんでもないことを言い出した。
「攻撃側が何か仕掛けてくることがわかったんです。あいつら……じゃなくて、選手たちが調整する場だから簡単なサインでやっているだろうなと思って、ずっと見てたんですけれどなんとなくわかってきたんで……。すいません。つい、大きな声を……」
『…………』
 しばらく呆ける二人。ちなみに、もう一人は食べ物に夢中である。
「何かやってくる雰囲気ですか、神奈子様?」
「いや、特には……ね~」
 と、しばらく顔を見合わせていた早苗と神奈子だったが、次の一球でランナーが走ってきたことを確認できた。
『!!!』
 彼は本当に次の動きを読み切ったのだった。
「ど、ど、どうやって、見破ったんですか?」
 途端、早苗が忠実の腕を掴み、これに興味を示し始めた。
 一方で忠実はスコアブックをつけており、早苗の急な行動に驚いていた。
 そして、少し時間が経つことで心が落ち着き始め、質問の内容を理解すると一瞬だけスコアブックに目を落とした。だが、それも長くは続かなかった。すぐに彼は早苗の方に顔を向け、「ええっと、実はですね――」と戸惑いつつも少しずつ語りだした。
 そもそもサインとは何処かを触ったらバントとか、エンドランとかの作戦を敵にはばれない様、選手に送る手段であること。そして、それを受けた選手は必ず実行しなければならないことを、忠実は最初に教え始めた。そして彼曰く、サインとは相手にはわかりにくくし、一方で味方にはわかりやすいように「キー」というものが存在しているという。
「で、なんとなくサインを送ったベンチやそれを見ている打者とか走者とかの反応を見ていたら、これは何かあるなって……」
「サインを見破っていたわけじゃないんだね?」
 神奈子が確認すると、忠実は「見破れないわけではないですが……」とできないこともないとでも言いたげであった。すると、早苗が食いついた。
「教えてくれますか?」 
「え?」
 忠実は驚きながら、早苗の顔を見つめる。
「…………」
 その真剣な表情が忠実の眼を捉えていた。
(う~~~ん。ま、いっか)
 そう思って、忠実はボソボソとしゃべり始めた。
「さ、さっき言っていたように『キー』の看破が最優先です。たとえば……、『どこかを触った次』って言うサインだったとします。この場合、キーを触らない限り、そこを触ってもノーサインだということです」
 ここから彼の語りにエンジンがかかって来ると、彼の語りは流暢なものと変わっている。
「はい」
 早苗もここまでは理解できているようで、時折このように相槌をうっている。
 彼もこうした相槌を確認した後に、話を再開させている。
「となると必然的にサインを出すときには必ず「キー」を触らなければならないわけで、つまり、相手が何かかしら仕掛けたときのサインで一度も触ってない場所は、キーとして違うわけです」
「ま、当然といえば当然ですね」
「ここで注意しておく点として、監督が触りやすくかつ選手が区別しやすいところでなくてはキーが成り立たないわけです。帽子、胸、ベルトなどの体幹部、手、肘、肩などの分かりやすい部分を『キー』としやすいわけです」
 その間、彼の手は完全に止まっており、一方で観客はその直前にあった放たれた打球を追っている。
「たとえばバントされたときに肩→肘→手。エンドランのときに帽子→肩→手。このときにキーがありえないのは帽子と肘な訳で、多くのサインの時に共通して触っているところがキーとして濃厚というわけです。他のサインの出し方としては『○番目に触ったところ』があります。これは結構看破しやすい物。バントが二回来たとして、帽子→手→耳。二回目が肩→手→ベルトとなれば、かなり分かりやすいんです」
「それならわかりました~。バントのサインは手ですね」
 早苗は真剣に耳を傾き続けており、忠実の問題にも答えていた。
「そうです。他にも似たようなやつに『左手であるところを触ってる時に右手で触ったところ』があるんだけど、これが一番簡単。監督の挙動が明らかにおかしい。で、看破するのに監督を見るのも大事だけどサインを見てる選手を見るのも大事。出している最中に『分かった』という意味の行動を取ればそこがキーなりサインな訳です。目を切ってもまた然りと」
「なるほど~。でも、野球ってプレーとプレーの間が長いからかなり複雑なサインすることも可能だと思いますが」
「実際に意味のある動きはほんの少しだから複雑でも案外わかりますよ」
 彼はそう語る。そして、付け加えるかのように、さっきの例題にもあったようにバントを示すのは手を触った時、その時だけでしたでしょ、とまで言ってみせた。
「…………」
「これらはたとえ看破できたとしても看破したと悟られない事が一番大事。あくまでこっそりとやるのが大事。試合中に変えられちゃお話になりませんからね~」
 彼は笑顔で答えた。
「纏めますと、サイン見破るのはひたすら見ていくしかないってことですか?」
「ま、そうなりますね。でも、基本ができてくれば『キーでサンドイッチしたところ』とか『キーの次の次』とかでも慣れてくれば次第にできるはずです」
 こうやって、サインの見破り方を教えていくと、最後に早苗の方から質問があった。
「一番難しいのはって、何ですか?」
「各部位に数字つけといて、触ったところの和で決まるとかだとキツイな~」
 答えにくい質問に、忠実はただ苦笑いを浮かべる。ただ、最後に一言。
「ま、サイン盗み自体、プロ野球では禁止されていますから、あまり意味がないんですけれどね」
「意味……無いんですか?」
「ええ。選手への伝達行為とかも禁止されていますから~って、あれ? 早苗さん?」
「…………」
 真剣に耳を傾けていた作業が徒労に近いことを知ると、早苗は椅子から崩れ落ちたのだった。


~~ここまで


これで終わらなかった……。 orz

続きます

第九話(9-3)

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