小林紀興の「マスコミに物申す」

第三の権力と言われるマスコミは政治家や官僚と違い、読者や視聴者の批判は一切無視、村社会の中でぬくぬくと… それを許せるか

昨日(6日)のNHKスペシャルは面白かったが、なぜか原爆投下の真相には迫れなかった。

2016-08-07 08:22:36 | Weblog
 昨日(6日)のNHKスペシャルはかなり衝撃的だった。広島・長崎への原爆投下を巡って米政権と米軍部が対立していて、米陸軍がトルーマン大統領を騙してまで広島・長崎に原爆を投下した理由をアメリカ陸軍やトルーマンの手記などの公文書を根拠に明らかにした。が、軍や政府の内部資料の調査まで努力を重ねて入手しながら、米軍部が強引に広島・長崎に原爆を投下した理由は、NHKスペシャルでは明らかにしなかった(できなかった?)。
 私は先の大戦における日本の戦争政策を支持するつもりはまったくない。日本は石油資源を求めて中国から東南アジアにまで軍事支配を拡大しようとしていた。日本がアジアの資源支配権を獲得するとアジア諸国を植民地支配していた西欧強国にとっては重大な国益上の問題が生じる。やむを得ず西欧諸国はモンロー主義(孤立主義)を伝統的に守ってきたアメリカに「一緒に日本をけん制してほしい」と頼み込んだ。その時点ではアメリカはヨーロッパ戦線には見向きもしていなかった。あくまで孤立主義を維持するつもりだった。
 第2次世界大戦の始まりは1939年9月1日のドイツ軍によるポーランド侵攻とされているが、ドイツはポーランド侵攻に先立つ8月23日にポーランド分割の秘密条項を含む独ソ不可侵条約を結び、ドイツがポーランドを侵攻した直後の9月3日に英仏がドイツに宣戦布告、一方ソ連は9月17日に東からポーランドに侵攻し、ポーランドは独ソによって分割支配された。
 さらにソ連はドイツが英仏と戦火を交える間隙を縫って、もともと狙っていたバルト3国とフィンランドへの侵攻を始め、40年3月にはフィンランドから領土を割譲させ、バルト3国も支配下に置いた。そして日本もまた9月27日、ベルリンで日独伊3国同盟を締結し、アジア侵攻への足掛かりをつかむ。が、それだけでは安心できないと考え、ソ連とも41年13日にモスクワで日ソ中立条約を締結した。
 これで日本は後顧の憂いを取り除いたと錯覚して対中戦争、英仏オランダなどが植民地化していた東南アジアへの侵攻を加速させていく。
 その後の第2次戦争の経緯をこのブログで書くことはあまり意味がない。ただ当初モンロー主義を貫いてヨーロッパとアジアで燃え広がっていた戦争にアメリカが参戦することにしたのは、フランスがドイツに占領され、イギリスもドイツの空爆で危機的状況に陥り、イギリスのチャーチル首相の懇願によって米ルーズベルト大統領が連合軍の盟主になることを承知したことによる。
 ヒトラーの失敗は、不可侵条約を結んでいた「友軍」のソ連を突如攻撃し始めたことだ。歴史に「もし」はないが、あえて「もしドイツ軍がソ連軍に勝っていたら」という仮定を立てれば、アメリカはこの戦争に参加しなかったかもしれない。
 当時のドイツ軍は精鋭ぞろいで軍事技術も世界で群を抜いていた。イタリアと手を組んでほぼ西欧を席巻したヒトラーは、いつ寝返るかもしれないと危惧を抱いていたのかもしれないが、不可侵条約を締結していたソ連に侵攻を始めた。最初はドイツ軍が優勢だったが、スターリングラードの戦いで「冬将軍」を味方につけたソ連軍の反撃にあって大敗した。
 これで漁夫の利が得られることを確信したアメリカは英仏ソと連合軍を結成して第2次世界大戦に本格介入する。その第1弾がノルマンディ作戦で、一気にドイツ軍を撃破、ヒトラー・ドイツは自滅の道をたどっていく。
 この時期、日本はまだ友好的関係にあったソ連に戦争終結のための仲介を頼んでいれば、みじめな敗戦に陥らなかったかもしれない。ソ連軍はドイツ降伏後の東欧諸国を支配下に置くためヨーロッパ戦線にくぎ付けになっており、日本が餌として樺太を差し出せば話に乗ってきた可能性はあったと思う。
 が、日本軍は目先日本と戦っている米軍の戦力しか考えなかった。あるいはドイツを降伏させた米軍は戦後処理のためヨーロッパ戦線に足止めされるだろうと考えていたのかもしれない。
 が、こうした甘い目論見はすべて外れた。ヨーロッパ戦線で大勝利を収めた米軍は意気揚々と太平洋戦線に加わってきた。さらに最後の頼みの綱であったソ連の仲介による戦争終結の期待も水の泡となった。日ソ中立条約を締結していても、米ルーズベルト大統領から「連合軍の1員として日本に開戦してくれ」と頼まれたら、どっちについた方が得かは子供にでも分かる。

 さて昨日のNHKスペシャルの話に戻る。ルーズベルト大統領が急死したため、急きょ大統領に昇格することになったトルーマンは、原爆開発のことも対日戦争をどうやって終結したらいいかという外交手腕に疎かった。ために原爆開発の責任者だったグローブズのウソと口車に乗せられて広島・長崎への原爆投下を止めることが出来なかった。NHKスペシャルは米政府と軍とのやり取りを初めて公開された資料などを材料に、これまで隠されてきた事実を明らかにした。それはそれでメディアとして「よくやった」と、感服した。
 が、米政府はどうやって戦争を終結させようとしていたのか、一方米軍は最後の地上戦となった沖縄戦で米軍自身も大きな打撃を受けたが、沖縄戦以降米軍は戦略を空襲作戦に転換した。地上戦は犠牲者も大きいから本土攻略作戦は地上戦ではなく、もっぱら空爆に頼ることにしたのである。実際、沖縄戦以降、米軍兵士の犠牲者はほとんど出ていないはずだ。

「戦争を早期に終わらせ、米軍兵士の犠牲者をこれ以上出さないため」

 トルーマンが苦し紛れに原爆投下の正当性をラジオ演説でしゃべったとき、米ジャーナリストは「沖縄戦以降、米軍は地上戦で血を流していない。原爆を投下するまでに原爆投下を正当化できるだけの米軍兵士の犠牲者は何人いたのか」と、誰も疑問に思わなかったようだ。
 これはすでにブログで書いたことだが、原爆投下を正当化した二つの理由のうち一つは間違いない。
 その一つは「戦争を早期に集結するため」という理由である。
 ルーズベルトはポツダム宣言を作成する際、ソ連はまだ日本との中立条約が有効中であることを承知の上で、スターリンに「日本との中立条約を破棄して対日参戦してくれ」と頼んでいる。が、ソ連軍は東欧諸国を支配下に置くためヨーロッパ戦線にくぎ付けになっていた。ソ連は広い。そう簡単に大軍を東の端から西の端に移動することは不可能だ。
 が、奇跡的とも言える速さでソ連軍は主力を東方に移動させた。米軍にとっては予想外のことであり、もし日本に壊滅的打撃を与えずにソ連軍に日本侵攻のチャンスを与えてしまい、日本が共産圏に組み込まれるようなことがあったら取り返しがつかない…と米軍司令部は考えたに違いない。「戦争の早期終結のため」という口実は、そう考えたら納得できる。
 が、もう一つの理由である「米軍兵士の犠牲をこれ以上出さないため」というのは、真っ赤なウソだ。これはNHKスぺシャルでも解説していたが、沖縄戦終結後日本の主要都市の大多数は空襲によって焼け野原になっており、地上戦で米兵と戦うすべを日本軍は持っていなかった。「米軍兵士の犠牲者をこれ以上出さないため」というのは、真っ赤なウソである。
 
 もう一つNHKスペシャルが、あえて取り上げなかったことがある。NHKスペシャルは原爆投下の目的の一つに、原爆の効果を確かめるためという意図があったことは明らかにしたが、それを決定づける事実を番組ではネグった。
 番組ではトルーマンが広島への原爆投下の『効果』を写真で知ったのは投下の2日後の8月8日だったという。なぜ9日の長崎への投下にストップをかけられなかったのか。
 実は広島に投下された原爆はウラン分裂型であり、長崎に投下されたのはプルトニウム分裂型だった。つまり原爆開発の責任者グローブズは二つの原爆開発プロジェクトを走らせていたのだ。そしてどちらの原爆のほうが「費用vs効果」の面で有利かを確かめたかったのだ。これが長崎投下にトルーマンが目を瞑った真相である。