【涼宮ハルヒの憂鬱】佐々木ss保管庫

2chの佐々木スレに投稿されたssの保管庫です

佐々木スレ2-134 「世界と君の手」 (1)

2007-04-11 | 佐々木×キョン×ハルヒ

134 :理系:2007/04/09(月) 23:35:04 ID:RERBtoXM
「キョンくん電話だよ~」
風呂の扉が遠慮なしに開かれる。
妹よ、いい加減恥じらいくらいは覚えてくれないか。
湯船に浸かっているからまだよかったものの、まったく。

それ以前に、なんでどいつもこいつも俺が風呂に入っているときに限って電話がかかってくるんだか。
「はい、キョンくん。」
あぁ、サンキュー。で、用が終わったのなら早く出て行ってくれないかな、妹よ。男の肉体の神秘を知るにはまだ君は早い。
「は~い。」
あまりにも幼すぎるわが妹の将来に不安になりながら、電話に耳を当てた。
あ、いけね。誰からかかってきたか聞くのを忘れた。
古泉あたりだったら問答無用で切って、風呂から上がるまで待たせよう。

「もしもし。」
「やぁ、キョン。こんばんは。」
この声は―


135 :2:2007/04/09(月) 23:36:30 ID:RERBtoXM
「佐々木?」
「声だけで電話の主が僕であると言うことを看破してくれたのはうれしいが、そんな素っ頓狂な声を出されると思わずこちらも狼狽してしまうよ。」
うそこけ。お前の狼狽した姿など見たこともないし、想像もつかん。
ちょっと見てみたいが。

しかし、俺が驚いたのは事実だ。
対となる宇宙人に未来人に超能力者、あの一件があったからな―

「で、何のようだ?」
思わず声に警戒心がこもる。
「君は今お風呂に入っているようだね。よかったら、またあとでかけ直すが―」
「いや、かまわない。話してくれないか。」

悪いが、のんびりバスタイムを楽しめるほど悠長な気分にはなれない。
「そうか、わかった。この間話した、例の須藤の言っていたクラス会の件なのだが―」
「おい、ちょっと待て。」
思わず佐々木の言葉をさえぎってしまった。

「クラス会の話はこの間話しただろう?」
それは、そうだが。あんなぶっ飛んだ電波話を聞いた後だ。てっきり、もっといかれた話が来ると思っていた俺は大いに拍子抜けした。
「そのクラス会の下見をしたいのだが、キョン。
今度の土曜日、君も候補地探索に同行していただくことをお願いできないだろうか。」

不思議探索よりかは見つかる確率が高そうだな。
しかし―


136 :3:2007/04/09(月) 23:38:10 ID:RERBtoXM
「悪いが、例の連中らが一緒だとしたら、俺は拒否させてもらう。
待ち合わせ場所であいつらの姿を見かけたら、俺は迷わず帰るからな。」
我ながらつっけんどんな返事だ。
連中に会うことが怖いわけではない。
ただそんな嘘をついて俺を引っ張り出そうとしているなら、それが気に食わないだけだ。

「大丈夫だよ、キョン。彼らは来ない。神に誓ってもいい。僕らだけだ。」
俺は少し罪悪感を抱いた。
そうだ、こいつはそんな嘘をつくような人間ではなかった。
「わかった、いいぜ。ただし、二人だけで、だ。」
そう、二人だけがよかった。
これ以上、余計な人間が加わって話をややこしくしたくなかったし、
それに佐々木と二人で話したかった。

「ありがとう、キョン。」
そして、少し間を空けて、佐々木がつぶやくように言った。

「―僕も君と二人だけで会いたいんだ。」


137 :4:2007/04/09(月) 23:40:25 ID:RERBtoXM
翌日、放課後の部室にてSOS団恒例不思議探索を土曜日にやると大声で宣言したハルヒに、
俺はその日は用事があって行けないことを伝えた。

「ちょっとキョン、あんたそれでも栄光あるSOS団の団員としての自覚あるの!」
近隣の高校にまで名を轟かすSOS団の軍功は身にしみて存じ上げてはいるのだが、
それを人は栄光と呼ぶかどうかは知らん。
とまあ、予想通り怒鳴られたが仕方がない。

アヒル口で、団長席に胡坐をかいたハルヒはそっぽ向きながら
「まぁ、仕方がないわね。
 私もものわかりのいい団長だから、団員の都合は考えてあげるわよ。
 土曜日の不思議探索は残念ながら中止、決定!」
予想外にあっさりと俺の欠席届けは受理された。

「悪いな、ハルヒ。」
「ふん。」
機嫌悪そうにいつものアヒル口。

ふと振り返ると古泉が俺になにやらアイコンタクトをとっている。
やれやれ。


138 :5:2007/04/09(月) 23:41:32 ID:RERBtoXM
学校からの帰り道、いつもどおり最後尾を男性陣が歩く。

「まったく、やっかいなことをしてくれましたね。」
古泉がいつもの微笑みを絶やさず、軽く肩を上げた。

「土曜日の探索を断ったことか。」
「それもそうですが、どちらかというとその断る原因の方ですね。」
よく俺の行動をご存知なこった。

「現在我々『機関』の一番の懸案事項ですから。
 あなたが、彼女と二人で会うことを僕は責めるつもりはありませんし、
 それは誰にも責める権利などないことでしょう。」

だったら、これ見よがしに嘆息するのはやめてくれ。

「彼女とあなたはそうやって話し合わなければならなかったでしょう。
 それについては僕も全面的に賛成です。ただし―」
古泉は大げさに間を置いた。



「事の成り行きに世界の命運が握られているということを忘れないでください。」


139 :6:2007/04/09(月) 23:44:23 ID:RERBtoXM
そして土曜日の朝が来た。
午前11時の待ち合わせだったが、7時にはもう起きていた。
なぜか、落ち着いていられなかった。
一体何を恐れているのか、そして期待しているのか。
自分でもわからない。

約束の30分前に駐輪場に着いた。
待ち合わせ場所はいつもSOS団が使うあの駅前で、クラス会もその周辺でやるつもりだった。
繁華街を歩くなら自転車はないほうがいい。
自転車を駅前の駐輪場の有料スペースに置いて振り返ると、
あいつがいた。

「やぁ、キョン。おはよう。」
両手を後ろで組んで佐々木がドッキリに成功したように、悪戯っぽく笑っている。
なんで毎回毎回俺を驚かせる登場の仕方をするんだ、お前は。

「よう。」
俺は片手を上げて応える。
って、待ち合わせ場所はいつもの駅前じゃなかったか?

「僕も君もここには自転車で来るだろう?
 人通りの多い煩雑としたあの駅前で待つよりも、ここで待つほうが確実だと思ってね。」

それはそうかもしれないが―
「それに、何よりここで待つほうが少しでも早く君に会えるだろう。」

佐々木は喉を鳴らすように笑った。


238 :7:2007/04/10(火) 20:20:15 ID:zQ4mMPa8
俺と佐々木は駐輪場を出て、駅前を歩いていた。
あくまで本日の目的はクラス会の下見だ。
クラス会の人数や一人当たりの予算、連絡方法などを話しながら、辺りを散策する。

相変わらずの佐々木の小難しい話に俺が相槌を打つ。
たわいもない雑談、懐かしい光景。
そうあるようにお互い意識していただけかもしれない。
でも、あの頃とは変わらないまま。
そう、思わずあのいかれた非日常を忘れてしまうくらいに。
この瞬間がいつまでも続けばいいと思わなかった、と言えばきっと嘘になる。

ほんの少しだけ俺の前を歩く佐々木も、少しだけはしゃいでいるように見える。
少しずつ高度を上げていく太陽に照らされた佐々木の笑顔が時々俺を振り返る。
あいつの顔が輝いて見えるのは、きっと太陽のせいだろう。

そうこうしているうちに手帳にメモを取っていた佐々木が話しかけてきた。
「さてと、キョン、キャンディデイトはいくつか挙げられたね。
次なる課題としては、だ、僕らはここからベストキャンディデイトを選ばなければならない。
ここはやはり実際に食事をしてみるのが早いかな?」
佐々木は俺の目を見ながら悪戯っぽく笑う。

「昼前に待ち合わせているんだ。もともとそのつもりだったんだろう。」

くっくっと佐々木は笑った。
「それはよかった。君の懐事情を僕は知らないからね。
 先立つものがない場合はファーストフードでも致し方なしと思っていたのだよ。」

お前がどこぞの団長様のように「罰金!」とか言い出さなけりゃ大丈夫だ。たぶん。

「っても、候補の店を全部食べ比べるのは無理だぜ。」
リストアップされた店は十軒程度に上っていた。

佐々木は風を受けて揺れる髪を払いながら言った。
「これから毎週末に二人で食べ歩けばいい。
そうすれば半年くらいでこの辺りの飲食店をコンプリートできるかな。」

おいおい―

「冗談だよ、キョン。」
そう言って佐々木は首を少し傾げて、愉快そうに笑った。

「そんな困った顔をしないでくれよ―」

そして、目線を俺からはずして佐々木はつぶやくように言った。


239 :8:2007/04/10(火) 20:22:03 ID:zQ4mMPa8
結局、候補に選んだ店から一軒選んで実際に食事をしてみて、
よっぽどひどい場合だけ考えようという話になった。

さすがに俺と佐々木が一時間ちょっと歩き回って探しただけあって、
店内の雰囲気はおしゃれな落ち着いたイタリアンレストランだった。

二人でそれぞれ千円ほどのパスタセットとピッツァセットを頼んだ。

「まぁ、コストパフォーマンスは上々といったところだろう。」
佐々木はピザを一口一口ゆっくりと食べながら、ひそひそ声で俺に話しかけてきた。
その食べ方は、豪快極まりないハルヒとも、また別の意味で豪快な長門とも、
おっとりとした朝比奈さんとも違って、新鮮な感じがした。
まるで食べるところを人に見せたくないような食べ方は、
なぜか妙に佐々木に似合っているような気がした。
今まで知らなかったな―

「そうだな、悪くないんじゃないか。会費も一人二千円程度だしな。」
俺は適当な相槌を打った。
中学のクラス会程度にご馳走なんか期待してはいけない。

「よし、会場はここで決定としよう。次に同窓会の連絡についてだが、
 ここは順当で凡庸なアイデアで申し訳ないが、女子は僕が、男子ということでいいかな?」

そうだな。

「それとも、もし誰か君の心の中に想う女子がいるなら、
 その子に招待状を送るという役は君にお任せしてもいいのだが。
 どうかな、キョン?」
両手に顎を乗せて佐々木が偽悪的な笑いを浮かべながら俺を見る。
佐々木のどこか深い色に染まった瞳が俺を覗き込む。

そんなのがいないことぐらいお前は知っているはずだろう―

「そうだったね。
 ―少なくとも中学時代の僕の知る範囲ではそうだったね。」

佐々木の瞳の中に、まるで深海に取り込まれたような俺の姿が見えた。
その中で、何かを見透かされたような気がした。
続く言葉が出ない。
俺はどこか、なにか見つかってはいけないものを見つけられてしまったように目をそらしていた。
それがなにかはわからなかったけれども。

佐々木は唇を結ぶように笑った。
一瞬、どこか寂しげに見えたのは気のせいだったのだろうか。


240 :9:2007/04/10(火) 20:23:15 ID:zQ4mMPa8
それからは、お互いクラス会についての事務的な話を進めていって、キリのいいところで店を出ることにした。
食事代をワリカンだ。
しかし、悲しきはパブロフの犬並みに染み付いた習慣かな。
条件反射で思わず伝票を手に取っていた。

「女性と食事する際のマナーはきっちり教育されているようだね。」

クラス会の会場も決めて、連絡係も決めて、今日やるべきことは終わった―
はずだった。
店を出てとりあえず駅前の方へ歩いていると、突然佐々木の足が止まった。
見てはいけないものを見てしまったような佐々木の顔から、その目線の先に目を向ける。
涼宮ハルヒ。
そこには涼宮ハルヒがいた。

ハルヒは目を見開いて立っていた。
その表情からはSOS団をサボって女の子とデートしている団員に対する怒りは感じられず、ただ驚愕の一言あるのみだった。
一瞬時間が止まったようだった。
何もやましいことはないはずだ。
なのに、なぜ俺は言い訳を必死で考えている?
なのに、なぜ俺は逃げ出したいような衝動に駆られている?
なのに、なぜ―

古泉の言葉が頭に響く。
俺はどうすることもできず、そこにいた。


「世界と君の手」 (2)に続く