【涼宮ハルヒの憂鬱】佐々木ss保管庫

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佐々木スレ5-804 二人三脚(2)

2007-05-04 | その他中学時代ss

808 :5/9:2007/05/04(金) 02:50:48 ID:YZ/Hx3xq
さて、明くる週の月曜日の朝。
「キョンくーん、おヨメさんが迎えにきましたよー」
無邪気な妹のその一言に俺は飲んでいた茶を盛大に噴き散らかし――そうになったところを必死に
堪えたが、その結果として喘息患者のごとく咳をまき散らかす事となった。
「ゲホッ……馬鹿な事言ってないでお前は自分の支度をしなさい!」
「あらあら、いいじゃないの。佐々木さんがあんたのお嫁さんになってくれたら、母さん感激だわ」
母さん――あなたまで俺をからかうのはやめてくれませんか。
朝からこんなダメージゾーン――何でそんなものが自分の家になきゃならんのか――に居たのでは
今週どころか今日の俺の身も持たん。とっとと家を出るに限るぜ。
「よ、おはよう」
玄関を出て開口一番、俺はそう言った。
「おはよう、キョン」
そう挨拶を返してきた佐々木はいつものシニカルな笑みを浮かべていた。
先週と比べて顔色も随分と良くなっているようで、何よりな事だ。
「調子はどうだ?」
「おかげさまで。体育祭の練習も参加できそうだよ。――しかし、キミの家は賑やかだな」
喉の奥で笑う佐々木。
「まさか僕がお嫁さん、なんて言われてるとは想像もしていなかったよ。
 キョン、一体キミは僕の事をキミの御家族へ何と話しているのかな?」
やれやれ、その話かよ……正直俺も勘弁して欲しいんだがな。
別にお前の事を彼女だ何だと吹聴したりしてるわけじゃねえから、安心してくれていいぜ。
「そうかい――」
佐々木はふっと短く息を吐いて微笑した。
それが何となく憂いを帯びたものに見えたのは、俺の錯覚だろう――


809 :6/9:2007/05/04(金) 02:52:10 ID:YZ/Hx3xq
その日の放課後、体育祭の練習時間。
「佐々木、お前本競技はジャージ禁止って憶えてた?」
俺の隣で準備運動をやっている佐々木へそう問い掛けてみた。
「愚問だね、それは。――過去二回も体育祭をやってきて、よもやそれを忘れている三年生が居るとは
 微塵にも思っていなかったが、まさかキミがその想定外だったとはね」
呆れ果てたような口調で返されてしまった。
んな事言ったって、年に一回の行事の事なんてろくに憶えちゃいねえよ。
「まあいい、記憶力の悪いキミの為に練習もジャージ無しでやろうじゃないか」
言って、佐々木がジャージを脱ぎだした。余り日焼けしていない、均等の整った健康的な脚が露になる。
くそ、須藤の野郎、余計な事を――
大体何でうちの学校は未だに男子短パン女子ブルマーなんだよ。おかしくねえか?
「――ほらキョン、キミもとっととジャージを脱ぎたまえよ。脚を結べないだろう」
「あ――ああ、悪い。ちょっと待ってくれ」
急いでジャージを脱ぎ、校庭の隅へと投げ捨てる。
差し出した左足を、佐々木が自分の右足と括り付ける。随分と手際が良くなったな、こいつ。
「――じゃあ、とりあえず歩いてみようか。
 ああそうだキョン、僕なりに二人三脚というものについて調べてみたのだがね」
言って、佐々木は右腕を俺の腰へ回してきた。
「わっ、ちょっと待て佐々木、何してる?!」
「こうやって相手の腰へ手を回して、腰部周辺の衣服の余りを掴むのが良いんだそうだ。
 確かに肩を組むと言うのは身長差のある相手には適していないだろうし、この方が合理的だろう。
 競技上の規定でもこの辺は明記されていなかったし、僕達はこの方法で行こうと思うが、
 異議はあるかな、キョン?」
「い――いや、お前がその方が良いってんなら、異存はない」
「そうかい、ならば結構。――次は掛け声だな。定番の掛け声と言えばイチニイ、イチニイだが
 まあこれはそのままで問題ないだろう。どのように掛け声を使うかの方が問題でね。
 どちらかをリーダーとして、その一人が掛け声を担当する方がいいようだ」
イチニイ、タンタン、イチニイ、タンタン、こんな感じかな――と手拍子を交えながら説明する佐々木。
「下手に順番に声を掛け合うよりも、予め分担しておく方が混乱が少ないと言う事だね。
 それに掛け声を出す者がペースメーカーになると言う点を考えても、理に適っていると言えよう。
 さて――」
と佐々木は一旦言葉を切り、
「――キミと僕、どちらがリーダーになるべきかな?」
「ふむ――」
と考え込むフリをしてみたものの、これは考えるまでもなく自明であるように思えた。
「俺はお前がやった方がいいと思うけどな」
ペースメーカーになると言う点を考慮すれば俺よりペースの劣る佐々木に合わせるのが適当であると
思われたし、また正確さと言う点についても俺よりこいつの方が優れているだろうからな。
しかし佐々木は俺の回答を受けて、くつくつと笑い出した。
「なるほどね――キミはエスコートするよりされる方が性に合っていると、そういう事かな?」
「なっ――そんな事言ってないだろ?!」
「冗談だ」
相変わらず低く笑い続けている佐々木だったが、やがて真顔に戻ると、こんな事を言ってきた。
「キミの言い分も尤もらしく聞こえるが、反論の余地もあるようだね。
 まず、何も遅い方の者に合わせるからと言って、それが遅い方の者がペースメーカーをやらなければ
 ならない理由にはならないと言う事。速い方の者が遅い方の者へペースを合わせる事は何ら問題では
 ない。ならば速い方の者が落としたペースを作る事も問題ないだろう。
 次に、今回のケースではペースメーカーの作るペースにはそれ程の正確さは要求されない。
 要は足を出すタイミングの目安になればいいのだから、さほど神経質になる事も無い訳だ。
 最後に、なるほどキミの言う通り、僕の方がリーダー的資質には恵まれているのかもしれない。
 だがそれは通常時の事だ。今回のように肉体的な運動を行っている状況下でも、それが適当なのかは
 僕には疑問だ。そしてキミは男子で僕は女子――体力的にはキミの方が優位だろう? 先に挙げた
 正確さと言う点を取っても、この条件を加味すれば僕がやるべきと言う理由は消えてしまうと、
 そう思うがね。どうかな?」
ぐうの音も出ないとはまさにこの事だ。
俺が漠然と思っていた佐々木がやるべきと言う意見を理屈で以って完璧に潰しちまいやがった。
まったく、こいつには敵わないな――仕方ない、掛け声は俺が担当するか。


810 :7/9:2007/05/04(金) 02:53:34 ID:YZ/Hx3xq
さて、そんなこんなで体操着姿の中学生男女が互いの腰へ手を回しイチニイ、イチニイと掛け声を
上げながら二人三脚で競歩状態と言う、表現するだに恐ろしく恥ずかしい絵図で練習していた俺達
だったが、効果の程はそこそこあったようで、先週の練習時よりも大分上手く歩けるようになって
きていた。
「――そろそろ走ってみるかい? どんな感じなのか、まだ試していないからね」
そうだな――と、トラックを見てみたが、短距離競技の連中で見事に埋められている。あれで練習する
のはダメだな。その辺の空地でやるしかないか。
ちなみに二人三脚のコースはトラックを左回りに半周余り、と言うものだった。弧の部分がそれなりに
長く、厄介かもしれない。まあ、曲がる練習よりも先に真っ直ぐ走る練習だよな。
三十歩程度のダッシュを五往復程度やり、大体走るコツが判ってきたところで、またしても佐々木が
こんな事を言ってきた。
「あとはスタートだな。如何にして他競技者に先んじ、先頭に立つか――他の短距離競技でもそれは
 同様だろうが、殊にこの二人三脚という競技ではそれが重要なようでね。先んじた他競技者を抜こう
 にも幅は倍、こちらは加速が付け難いときている。それに集団に飲まれては埒が開かないのは目に
 見えているし、次第によっては自分達より遅い者の後塵を拝す事にもなりかねない。
 と言う訳で、スタートダッシュは戦術的にかなり有効であると言う事だ。これの練習も後日でいい
 からやっておくべきだろうね」


――とまあ、かように練習を重ねて準備万端、機は熟したとばかりに迎えた肝心の本競技だが、実は
よく憶えていないのだ。
スタートダッシュで頭一つ飛び出した俺達はその後ひたすら全力疾走、無我夢中でコーナーを回り
二位以下に結構な差を付けて見事一位でゴールラインのテープを切ったものの、勢い余って停止に
失敗。ゴールから数メートル先で俺と佐々木は盛大にすっ転んだ――


811 :8/9:2007/05/04(金) 02:55:02 ID:YZ/Hx3xq
「――――き、おい佐々木、大丈夫か?」
自分の名前が呼ばれている事に気付き、私ははっとした。誰――キョン?
「う……ん?」
私の、まさに目の前にキョンの顔があった。一体これは――ああそうだ、二人三脚でゴールした後で
彼と二人して盛大に転倒したのだ。
キョンの向こうにグラウンドが見えると言う事は、きっと彼が私を庇ってくれたのだろう。
「キョン、すまない、今どくから――」
「ちょっと待て、動くな。お前の右手がどうやら俺の体の下に潜り込んでる」
あ、そうか――彼の腰へ手を回していたからだ。
「体操着汚しちまって悪いが、一旦地面にうつ伏せになるように降りてくれないか?
 俺も体捻ってお前の手の上からどくから――」
「判った、そうしよう」
彼の機転により、特に混乱なく私達は互いに縺れた状態から通常に校庭へ座った姿勢へと復帰できた
のだが――
「痛――」
右手が痛む。やはりあれだけ派手に転んで無傷と言う方がおかしいだろう、見れば軽い擦過傷が
右手甲に出来ていた。
「大丈夫か、佐々木? って血が出てるじゃねえか、おい」
「これはただの擦り傷だよ、大した事はないさ。――っ」
鈍い痛みが走った。この様子だと打身か。思わず顔を歪めてしまったのだろう、キョンが心配そうな
面持ちで私の顔を覗き込んでいる。
「やっぱ保険医に診て貰った方がいいと思うぜ。立てるか?」
「ああ――大丈夫だ。しかしキョン、僕達の足は結びっ放しだったと思うが」
「そうか、そっちを解く方が先だな」
キョンはそう言って結び紐へと取り掛かったけれど、余り芳しくないらしく、苦戦している。
「佐々木、これ解けねえんだけど――どんな結び方したんだ、お前?」
「確か解け難いように8字結びにした上で止め結びをしていた筈だ――まさかこんな事になるとは
 思っていなかったし、競技本番での解け難さを優先したのが仇になるとはね。想定外だな」
「何だそりゃ、また面倒臭い事を――ああもう、こりゃ解くのは後の方が良さそうだな。
 悪いけどもう少し二人三脚に付き合ってくれ」
「あ、ああ――ひゃあっ?!」
膝立ちになった彼が急に私の腰を取って立ち上がるものだから、我ながら素っ頓狂な声を上げて
しまった。恥ずかしい――
「――しかしキョン、キミこそ大丈夫なのか? 僕を庇って下敷きになっていただろうに」
「ああ、お前よりは頑丈にできてるからな。大した事ねえよ。女子一人の下敷きになったくらいじゃ
 どうって事無いって――」
そう言って、キョンは顔を背ける。照れているのだろうか?
何か可笑しくなって、私はくっくっと喉の奥で笑い声を上げた。


812 :9/9:2007/05/04(金) 02:56:31 ID:YZ/Hx3xq
「お疲れさま、佐々木さん――右手、大丈夫?」
体育祭の後、顔を洗っている時に岡本さんからそう声を掛けられた。
「お疲れ様。着替えたらもう一度保健室で診てもらうつもり」
「そう、大した事ないといいね――」
私の隣に来た岡本さんは、くふふ、と可笑しそうに笑い出した。
「――ごめん。二人三脚の事、思い出してね。あんなに息の合ってるペア、見た事ないよ。
 ベストカップル賞なんてのがあったら満場一致だったのにね」
――その時の私の顔を鏡で見られたならば、まず間違いなく苦虫を噛み潰したような表情をしていた
事だろう。が、この手洗場には生憎と言うか幸運な事にと言うか、鏡は据え付けられていなかった。
「その手のからかいにも、もう慣れたけどね――でもそれに対する答えは変わらないよ、岡本さん。
 キョンとはそういう仲じゃ無いんだから」
「ふーん? じゃあどういう関係なのかしら? 今更友達なんて言ったって誰も信じてくれないよ」
顔をタオルで拭いながら、私はしばし回答を考える時間を作る。
「――親友、かな」
私はそう答えた。キョンと一緒の時間は私に他では得難い安らぎを与えてくれる――
確かに今となってはただの友達ではない。もっともっと貴重な存在だ。
「親友、ね――まあ、そういう事にしておきましょうか。
 どちらにしても、あなた達の間には当分誰も入れそうに無いわね」
顔を拭いながらそう言った岡本さんは、タオルで口元を押さえてくすくすと笑う。
それにつられてか、私も短く笑った。

「――擦り傷の方は浅く擦っただけだから大丈夫だとは思うけれど、打身と言う方が問題ね。
 骨折の可能性も無いわけじゃないし、明日の朝はお医者さんに診て貰ってから登校しなさい。
 担任の先生には私から伝えておきますから。あとそうね、炎症の可能性もあるから今日は入浴は
 控える事。体育祭の後で埃っぽいでしょうけれど、我慢してね」
「はい――ありがとうございました」
はあ――入浴禁止とは。年頃の女子としては相当に厳しい仕打ちだ。
保健室のドアを開けて廊下に出ると、少し離れたところに落ち着かない様子でキョンが立っていた。
「やあ、待たせてしまったかな」
「佐々木――大丈夫なのか、右手の怪我は?」
「生活に支障は無さそうだがね。箸も持てるし、字も書ける。ただ念の為に医者へ行って来いと
 言われてしまったよ。明日は遅刻だな」
「そうか――良かった」
キョンがほっと胸を撫で下ろす。そんなに心配してくれていたのだろうか、私の事を。
「キョン、別に今日の事でキミがそんなに心労を背負い込む事は無いんだ。
 あれは事故の様なものだったし、だからどちらが悪いと言う事も、責任を感じる事も無い。
 もう少し気を楽にしたまえよ」
「責任なんて感じてねえよ。俺はただ――」
強い意志を秘めた彼の視線が私の視界を射抜く。
「――大切な友達だから、心配するんだ。お前の事を、さ」
――ああ、そうだ。彼はずっとそうだった。常に韜晦しているように装っていて、その実真剣に
相手の事を思っていてくれる。そんな彼だから、私は――
「ありがとう、キョン」
キミと言う友人が居てくれて、本当に嬉しいよ――


815 :10/9:2007/05/04(金) 03:03:56 ID:fqGbUUyN
おまけ:その帰り道
「打身になったところが炎症になっている可能性があるから、入浴は控えろと釘を差されてしまったよ。
 年頃の娘には酷な話さ」
「そりゃ厳しいな、俺ですらとっとと帰って一っ風呂浴びたいところだぜ」
「そこでキョン、相談なんだが――この埃っぽい身体を拭ってはくれないかな?」
「ばばッ馬鹿言ってんじゃねえよ?! 何で俺がそんな――」
「くっくっ、冗談に決まってるじゃないか。本当にキミはからかい甲斐があるね」

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お粗末さまでした。さるったorz
1~7がキョン視点で8,9が佐々木視点。
ただ二人三脚をやらせてみたかっただけなのに何でこんな……佐々木さん大変な事になるし。
何だか須藤が谷口みたいなキャラになってしまって申し訳ない。

ちなみに、二人三脚については以下を参考にしました。
ttp://oshiete1.goo.ne.jp/qa362185.html