【涼宮ハルヒの憂鬱】佐々木ss保管庫

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佐々木スレ5-804 二人三脚(1)

2007-05-04 | その他中学時代ss

804 :1/8:2007/05/04(金) 02:44:42 ID:YZ/Hx3xq
「――じゃあ、二人三脚の組はこれで決まりですね」
学級委員が黒板へ書き出したその一覧を見て、クラス中で嘆息と忍び笑いが巻き起こっていた。
まったく、飽きもせずに他人の関係をよくよく観察したがる連中だぜ。
思春期だとかそんなもん知ったことか。迷惑を被る俺達の立場にもなって欲しいというものだ。
「まあ、決まってしまったものはしょうがない。お互いベストを尽くそうじゃないか、キョン」
忌々しげに顔を歪める俺に、隣の席の佐々木がくつくつと笑いながら、そう声を掛けてきた。
――そう、俺の相棒は誰あろう、こいつなのである。

放課後の体育祭の練習などかったるいにも程があるが、本番で醜態を曝す嗜好なんぞもさらさら無く、
またペアの佐々木の事もあるしで、渋々ながらも参加せざるを得ない。一体全体、何故に二人三脚
などという競技が三年の全員参加競技なのか理解に苦しむ。うちの学校はアホか?
などと準備運動をしながら漠然とした不満を練り上げるのに勤しんでいると、俺の二人三脚の相棒が
こっちへ寄ってくるのが目に入った。
「どうした、随分と不満そうじゃないか?」
皮肉めいた笑みを浮かべた表情から投げかけられたその問いへ、俺はこう返したのだった。
「なに、お前とはよくよく一緒になる事が多いなと思ってな」
こうもよく重なると、クラスの連中が俺達を担いでるんじゃないかってな気分にもなってくるぜ。
「――まあ、キミの言いたい事も判らないではないがね、キョン。しかしペアの相手を前に、
 それは随分と失礼な物言いだとは思わないのかな? 僕と組む事はそんなに不満か?」
その口元こそは笑みを浮かべているが、まなじりをキリキリという効果音付きとも思える勢いで
吊り上げながら佐々木が答えた。
「――不満なんて、そんな事思ってねえよ。お前に迷惑なんじゃないかと思って、な」
「迷惑? ――ああ、そういう事か。半年間も揶揄されてれば、もう慣れっこだ。今更気にする事
 でもあるまい。それはキミとて同様だと、そう思っていたがね」
それはまあ、そうだけどな。今更クラスの連中がどう言ってるのかなんて気にしてたら限が無い。
正直なところ、俺は佐々木とのペアになった事は前向きに考えている。
他の女子連中じゃ恥ずかしさを覚えない訳じゃないが、気のおけないこいつとなら安心というものだ。
「――ふん、そうかい。所詮キミにとっての僕の役割なんてそんなものなんだろう」
そう吐き捨てて、佐々木は俺に背を向けてしまった。今日は随分と情緒不安定だな。
「……今日は随分と絡むじゃないか。何かあったか?」
そう言った俺の言葉に佐々木は首を回し、顔だけをこちらに向け、責めるような憂いたような、
何とも言えない複雑な視線で俺を見つめてきた。
うーん……やり辛いな。
しかしそれも束の間、佐々木は何事かを僅かに呟いた後、
「――まあ、僕としてもキミとのペアなら気兼ねなく、容易いがね。結構な事だよ。
 いつまでもこんな事をやってても時間の無駄だ、練習を始めようじゃないか」
そう言った佐々木の顔はいつものそれへ戻っていた。やれやれ。女心と秋の空――か。


805 :2/9:2007/05/04(金) 02:47:07 ID:YZ/Hx3xq
それにしても、だ。
二人三脚の効率的な練習方法など知る訳も無く、どうしたもんかね、と俺は頭を掻いていた。
「佐々木は何か知ってるか? 二人三脚の練習法とか」
「さて、ね。生憎とそっち方面の知識は持ち合わせていないんだ、家に帰ったら調べておくよ。
 とりあえずは皆と一緒の練習をするしかないのではないかな?」
一緒の練習ねえ――
校庭を見回すと、なるほど、既に脚を結び付けて歩く練習をしているのが結構いるようだ。
「まあ、あれをやるしかないわな」
「そうだね――ほらキョン、左足を出したまえよ」
紐を携え、右足を出した姿勢で屈み込んだ佐々木が言った。すまんな。
「別に気にする事でもないさ――さて、僕達も歩いてみようか。
 取り敢えずは結んでいる方から踏み出してみよう、キミは左足からだな」
「よし、判った」
せーの――
最初の数歩の内は割と上手く歩けていた俺達だが、十数歩目辺りから佐々木が段々遅れ始めてきた。
歩幅の差を俺がすっかり失念していたせいだ。無理させちまったかな――
「すまん、大丈夫か?」
「ああ――気にしないでくれたまえよ。しかし最初から結んで歩くよりは、解いた状態で歩調を
 合わせる練習をした方が効率的かもしれないね」
そう言って佐々木は、顎に手を当てしばらく何やら考えていたようだが、やがて
「よし」
と呟いたかと思うと、俺にこんな提案をしてきたのである。
「キョン、歩調同期の練習を兼ねて、しばらくは一緒に登校しよう。僕達には自主練をやってる
 時間も余り無い。ならば練習に使えそうな要素は須らく練習へ取り込むべきだ。そうだろう?」
まあ、そりゃそうだろうが――
「佐々木、お前って何時くらいに学校来てたっけ?」
「大体8時15分には校門をくぐれるようにしているかな。なに、毎日10分程度早出するだけだ、
 簡単な事だろう?」
10分か――かなりきついな。朝の10分は夜の1時間に匹敵する貴重さだ。もうちょっと遅くならないか?
「やれやれ、何を言っているんだキョン。キミの生活改善にもなって一石二鳥じゃないか。
 それじゃ明日の朝からキミの家へ寄らせてもらうから、よろしく頼むよ」
もはや断れる段階に無い事に俺は気付いた。ただ佐々木の言葉に頷くのみである。
やれやれ、妙なことになっちまったな。


806 :3/9:2007/05/04(金) 02:48:15 ID:YZ/Hx3xq
「キョンよ」
練習後、顔を洗っている時に須藤の奴が話し掛けてきた。
「お前らジャージ着て練習してるけどさ、競技本番はジャージ着用禁止だぜ」
はああああああああ?! おいちょっと待て須藤、何だそのルールは。
「冷てえよ、バカ。水が跳ねてる。落ち着けって。
 ――キョン、お前も三年なんだ、これが初めての体育祭ってじゃないだろう。
 まさかお前、全競技がジャージ禁止ってルールを忘れてた訳じゃないよな?」
忘れてたどころか忘れてる事すら忘れてた。そういや三年の連中が妙にむず痒そうに二人三脚を
やっているなあと言う記憶が今になって思い起こされてきた。
マジかよ――
「ま、俺としては羨ましい限りだがよ」
呆然としていた俺に須藤がそう言ってきた。
「羨ましいって、何が」
「お前ね」
俺の言葉を受けた後、須藤は悟りを持たぬ衆生を哀れむ禅僧のような憐憫の情を浮かべた表情で
俺にこう言ってきたのだった。
「あの佐々木との二人三脚のペアなんだぞ? あの白く美しいおみ足と正当に密着できるんだぞ?
 それなのにお前って奴は……とてもじゃないが同じ男子とは思えんね」
俺にはお前の言ってる事はさっぱりワケ判んねえよ、須藤。と言うか何だお前、佐々木のファン
だったのか? 隠れファンが多いとは国木田から昔聞いていたが――
「まあ好意が無いと言えば嘘になるわな。言動はちょっと変わってるし理屈っぽくて取っ付きにくい
 ところはあるけど、それも彼女の魅力さ。第一あの容姿に目を惹かれない男子がいるかよ」
そういうもんかね。しかしお前らが勝手に期待するような関係は俺と佐々木との間には無く、ならば
代わりにどんな関係なのかと言えばただの友達付き合いだ。妙な気を起こす方がどうかしてるという
ものだぜ。
「ふん――ぬかせ。まあお前以外の彼女のペアってのもピンと来ねえけどな。せいぜい頑張んな」
そう言ってタオルを片手に須藤は去っていった。くそ、何だってんだ、あいつ――


807 :4/9:2007/05/04(金) 02:49:50 ID:YZ/Hx3xq
翌朝の事だ。いつものように俺が朝食を摂っていると、ピンポーンと玄関の呼び鈴が調子外れの音で
鳴り響きやがった。こんな朝から誰なんだよ――
「あ」
佐々木だ――まずい、とっとと支度をして出なければ――えーとカバンは何処だ?
「キョンくーん、お姉ちゃんが迎えに来てるよー」
ああ妹よ、そんな事は判っている。押っ取り刀でカバンを携え玄関へ急ぐ。
「――行ってきます」
「行ってらっしゃい、佐々木さんによろしくね」
はいはい、覚えてられるか判りませんけど、判りましたよ。
ていうかオフクロのやつニコニコしやがって、何がそんなに可笑しいんだろうね。まったくよ。
玄関を出て真っ先に目に入ったのは、誰がどう見ても明らかに不機嫌そうな佐々木の顔だった。
「――すまん、本当にすまん」
あいつの口から何事かが飛び出るよりも早く、開口一番に俺は詫びた。今の俺は他に語るべき言を持たん。
「はあ――まったく、昨日の約束をもう忘れているとは、キミの記憶力は鶏にも劣るのかな?」
何やら芝居がかった仕種で大きく頭を振り、誰の目にも明らかな「やれやれ」というジェスチャーを
してみせた佐々木だったが、次の瞬間にはいつものこいつへと戻っていた。
「キミに対する不満は百万遍を以ってしてもまだ言い足りないところだが、そんな無為な事をしても
 建設的でないだろう。有り体に言えば時間の無駄、だからね。
 ――まあ、少しくらいは登校中にでも聞いてもらうとして、だ。さて、学校へ急ごうか」

「歩調を合わせるって言ってもな……いつも通りに歩くだけだろ?」
「まあ、そういう事になるだろうね。然るにキョン、昨日の練習の時にキミは前へと進む事へと
 意識の重点が置かれていたのではなかったかな?
 二人三脚と言うのは勿論団体競技ではないが、そうかと言って個人競技でも無かろう。
 身体能力の劣るパートナーの事を少しは気遣って貰えると有難いのだけれどね」
「――すまん」
よくよくお前には迷惑を掛けてしまっているな、佐々木。
「なに、迷惑なんてそんなのお互い様だろう。それにキミの言う迷惑にはもう慣れたよ」
そう言って唇の端を歪めて笑ってみせた佐々木だったが、次の瞬間
「――つ」
と、何かの痛みに顔を歪ませた。
「おい、大丈夫か?」
「――大した事は無い、ちょっとした頭痛だ。心配には及ばないよ」
何言ってんだ、よく見たら随分と顔色だって良くないじゃねえか。随分と青白く見える。
そんな顔してそんな事言ったって、ただの強がりにしか見えん、説得力の欠片もないぜ。
俺は左掌を佐々木の額に当て、もう一方を自分の額へと当てた。単純な体温の測定方法だ。
「――少し熱いな? 本当に大丈夫か」
「あうぅ……ああ、うん、どうか気にしないでくれたまえ、本当に大した事じゃないんだから」
「そうか――でもしんどかったら言えよな、俺が肩を貸す位なら安いもんだ」
「ああ、申し訳ない――まったく、キミときたら妙なところで優しさを見せるものだから」
頭痛に眉間を歪めながらも、何か楽しそうにくすくすと佐々木が笑う。
俺の前ではまるでした事の無い、珍しい笑い方だった。

その日、佐々木は体育の授業を見学した。
――くそ、俺と言う奴は。

「キミには済まない事になってしまったね――しばらくは放課後の練習も無理そうだ」
放課後、どことなく気だるそうな様子で佐々木が俺に言ってきた。
お前のその体調不良だって、何もお前が悪いわけじゃないだろう。
佐々木から済まないと思われる事なんて、俺には微塵も覚えがないがね。
「そうかい、キミがそう言うのなら、まあそういう事だと捉えておくよ」
くっくっと笑ってみせる佐々木だったが、やはりどこか力ない印象だ。
「――辛そうだな。そういや今日は塾があったはずだが、大丈夫なのか?」
「ああ、体調自体は問題では無いんだ、給食の後で薬も飲んだしね。今こうしているのは
 症状緩和後の精神的な余波のようなものでね。幻症、とでも言ったところかな」
そんなら良いけどな。友達の調子の悪いところを見るのは、正直あまり気分のいいもんじゃないぜ。
「そうだね――まあ来週あたりには回復していると思う。それまでは我慢してもらうしかないな」


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