307 :1/2:2007/05/06(日) 17:27:25 ID:Ug7C8G1J
小ネタ投下します、2枚ほど。
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「凄いな――」
春休みに招待された時も同じ感想を抱いたものだったが、本当に良い物と言うのは何度観た所で
その良さが損なわれる事など無く、やはり今俺の見上げた先にある咲き誇る八重桜もそれは変わり
ない。お世辞にも園芸関係に造詣が深いとは決して言えない俺ですらそう思うのだから、誰にだって
それはきっと同じ事だ。美しいものは美しい。鼻から息を吸えば咲き誇る花と芽吹いたばかりの
新緑の香りとが鼻腔をくすぐる。おそらく楽園とはこのような所に違いない――
「まったく、見事なものです。とても個人の邸宅にある景色とは思えませんね」
せっかく詩的な気分に浸っていた俺を現実へと引き戻した気障ったらしい声。
そうだ、こいつが居たのを忘れていた。我らがSOS団副団長殿こと古泉一樹。
「失礼、あなたの気分を害してしまいましたかね。しかし僕とて、感慨深いのはあなたと同様ですよ。
いや、もしかしたらあなた以上かもしれない。何しろあんな事があったのですから――
こうしてまた鶴屋家の花見大会へ参加できるのは奇跡的な事です」
「――そうだな」
確かに今、こうして平和な時が過ぎているのは奇跡的な事だった。分裂した世界の事、宇宙人達の事、
未来人達の事、超能力者達の事、そして――
あの二人の事。
全ての事には一応の決着は見られたが、それでもまだこの先においては何が起こるのかなど未知数だ。
ならば今は、例え束の間であっても与えられた平穏な日常を満喫するべきだろうし、そうしたい。
まあそんな訳で、俺達は今鶴屋家大花見大会第二ラウンドへ参加している真っ最中というところだ。
招待主の鶴屋さんは突然の参加者増にも嫌な顔一つする事無く、それどころか
「いい衣装があるよんっ!」
と言って、女子連中を掻っ攫って行ってしまった。一体何を着せられているのやら。
「ここに居たのか、キョン」
不意打ちのように俺の背中から声が浴びせられる。その声に振り返った俺の視線の先には
――桜の精とか木花咲耶姫が現世に居たらきっとこんな姿をしているのだろうか――
「……? どうした、僕の顔に何か付いているのかな?」
桜色の振袖を纏い、やはり桜花の意匠を施したかんざしを差した佐々木がそこに立っていた。
頭の中が真っ白だ。言葉が出てこない。今俺は一体何と言えばいいのだろう――
「――馬子にも衣装、ってところか?」
結局口をついて出た言葉はそれだった。違う、俺はこんな事を言いたい訳じゃ――
しかし俺の言葉を受けた佐々木は呆れたように微笑み
「相変わらずだな。キミなりの褒め言葉として受け取っておくとしようか」
なんて返してきたのであった。
「しかし凄いな、この家の桜は――正しく壮観だ。なるほど園芸品種とは違った趣があるね、生命の
息吹のようなものを感じるよ。鬱金に普賢像、関山――選り取りみどり、だな。
しかしこれが個人的な土地の中にあると言うのだから。昔から大きなお屋敷だとは思っていた
けれど、想像以上だよ」
まったく同感だ。鶴屋さんとの付き合いもそろそろ一年になるが、驚かされる事は未だに尽きない。
これからももっともっと驚愕するような事柄を持ち込んでくるのだろう、あの人は。
308 :2/2:2007/05/06(日) 17:29:13 ID:Ug7C8G1J
「――キョン」
俺の隣で、俯き加減の佐々木から呼び掛けられる。気が付けば古泉はどこかへ姿を晦ましていた。
「キミには本当に感謝している。キミのおかげで、こうしてキミとこの美しい花々を鑑賞できるから。
こうして――またキミと話せているから」
佐々木が言葉を切り、桜を見上げる。
「――それに、涼宮さんにもね。彼女の言葉は、とても嬉しかった」
ハルヒの言葉。あの時の佐々木へとハルヒから贈り付けられた言葉。
一方的にライバル宣言された佐々木も気の毒な事だ。これでこいつも晴れて我らがSOS団団長様の
ワガママ放題に付き合わなければならなくなってしまったって訳か。
「そうかな。僕自身は楽しみに感じているようだよ、これからの事を」
くっくっと笑いながら佐々木が話す。
「涼宮さんは実に魅力的でユニークな人だ、同性の僕から見てもね。彼女とは良い友人関係を築け
そうに思うよ。それに――くく、実に愉快な事じゃないか。キミを争奪する恋のライバル同士とは」
やめてくれ、そいつは極力考えないようにしていたのに――ハルヒの奴め、適当な思い付きで
とんでもない事を提案しやがる癖だけは何とかして欲しいものだぜ。
「彼女が思い付きでああ言ったのか、そうでないのかは僕には量りかねるがね。真意など意外と
発言した当人にも判らぬものさ。だが、例えそれが思い付きから出たものであっても、この勝負、
僕は敗北に甘んじる気など更々無い」
どこか吹っ切れた様な精悍な笑みを浮かべて、佐々木は言う。
「きっと彼女も私も、今まではスタートラインにも立っていなかった。でもこれからは違う。
涼宮さんもきっとこれまでとは違った接し方をキミに対してするだろうし、求めてくるだろう。
それに私も――」
そこまで言って、佐々木は俺の肩にその小さな頭をこつんともたれ掛らせてきた。
「お、おいおい」
「先制点、というところかな――今までキミとは離れっ放しだったのだから、これくらいさせて
貰ってもバチは当たらないだろう」
――そうだな。
「佐々木」
「何かな?」
「似合ってるぜ、とても」
「そうかい――」
俺の傍らで大輪の花を咲かせる桜の精。とても綺麗だ――ただひたすらにそう思う。
これからまた慌しい毎日に戻るに違いない。学校の事。SOS団の事。新しい関係の俺達の事も。
だからせめて今くらいは、こいつとの一緒の、水入らずの時間を楽しんだっていい筈だ――
そうだろ?
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何かのSSのオチに使おうと思ってたネタを加工してでっち上げた
こうなったらいいね的『驚愕』エピローグ捏造版。
>>175の『いろがみ』と状況が似通ってしまった、どうもすみません
お目汚し失礼しました