放送作家村上信夫の不思議事件ファイル

Welcome! 放送作家で立教大大学院生の村上信夫のNOTEです。

犯罪心理学者花見小路珠緒の不思議事件ファイル♯127「木々 奔(はし)る!」

2008年09月30日 00時23分07秒 | Weblog
2000年から書き出したJFNのラジオドラマ「アナザーワールド」シリーズの原作も、もうう8年になる。僕が書いた原作を、萩原和江、錦織伊代の2人の女流脚本家と僕の3人が交代で、脚本に直しドラマ化している。
 放送は『ウェルカム・アナザー・ワールド』シーズン2『犯罪心理学者花見小路珠緒の不思議事件ファイル』全国JFN系列(月~金 24:55~25:00)として、放送中。
 主役の花見小路珠緒=田丸麻紀、劇団扉座の山中崇史(「相棒」のトリオ・ザ・捜一)・鈴木あずさ=高橋麻理・折口信夫=犬飼淳治・佐野紀久子=仲尾あづさ 他のメンバーが出演している。お時間、あれば。

  番組公式サイト(http://www2.jfn.co.jp/horror/)
  田丸麻紀(http://www.oscarpro.co.jp/profile/tamaru/)
  劇団扉座(http://www.tobiraza.co.jp/)
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犯罪心理学者花見小路珠緒の不思議事件ファイル ♯127
「木々 奔(はし)る!」  作 村上信夫

【登場人物】

花見小路珠緒
鈴木あずさ
犯罪心理学教室の学生たち

千秋(せんしゅう)修(52)東都大学ロッジの管理人

板橋寛治(30)
板橋祐子(ゆうこ)(27)

松本(40)強盗殺人の凶悪犯

【原作】

 植相を見ると、ある時期、突然、すべてが変わっていることがある。
例えば、北の樹木である杉は、氷河期のある時期、驚くほど南にまで進出するのだが、氷河期が終わると、あっという間に北へ戻ってしまう。後に、残されたのは、例えば、屋久島の縄文杉。その仲間は、1500キロほど北に見える。その植相の移動は実に短期間に行われ、まるで、木々に足が生えて溶けかかった氷河を渡り、日本列島に避難したように思える。気候の変化、火山爆発などによる急激な環境の変化に対し、動くことができないはずの樹木はいかにして、その変化に対応するのだろうか・・・。

花見小路珠緒や鈴木あずさの“東都大学犯罪心理学教室”は、クリスマスムード一色の街を後に、奥多摩山中の大学のロッジに向かった。ロッジで過ごすクリスマスイブを迎えるためである。
ロッジはブナ林に囲まれ、林を抜けると湖。その美しさに、皆、大喜び、早速、湖にボートを漕ぎ出そうとしたあずさたち。
だが、管理人の千秋(52)は、「湖に近づくな」とあずさをボートから強引に降ろすと、斧でボートを壊してしまう。
それでも、小屋のそばのもみの木をみつけ、ツリーの飾りつけをするあずさたち。

翌日、イブの朝は白い雪が舞い、一面、銀座世界。
ラジオは強盗殺人の凶悪犯が現金輸送車を襲い、金を持って逃亡中と伝える。
珠緒たちは、ロッジから外に出て、銀世界の中、ぶなの林の中を散歩するが、いつかしら、ぶな林が白い霧に覆われ、迷子になってしまう。
そこへ、急に雨が降ると、ドドドーッという音が遠くに聞こえ、あっという間に、大水が珠緒たちに迫る。湖の堤防を破り、溢れた水が襲ってきたのだ。
珠緒は、必死で学生たちを避難させる。
「あっ!あずささん」
 しかし、あずさが一人、流れに取り残される。
 それを見た珠緒は、流れに飛び込み、激しい流れの中、二人は戻ろうとする。 しかし、途中、珠緒が足を滑らせ、あずさとともに流される。 あわやの寸前、2人は千秋に助けられ、3人は向こう岸へ渡る、そこは一層、濃い霧に包まれ、不気味な様相を見せていた。
 千秋の案内で、湖近くの小屋へ避難する珠緒たち。
 
 だが、小屋には先客がいた。
 板橋寛治(30)と祐子(ゆうこ)(27)の若い夫婦である。2人は、クリスマスに結婚式を挙げるために、ここに来ていた。この山の奥にある銅山オーナーの娘夫婦だった。
 さらに、もう一人。松本(40)である。
さらに、珠緒たち3人が加わり、6人の男女が同じ小屋で雨宿りすることになった。

雨はいつまでも降り続き、6人は段々苛々していく。
松本は、無口で陰気な男だった。大きなボストンバックを抱きかかえ、ひと時も放そうとしない。
「そのボストン、大金が入っている・・・なんちゃって」
 あずさの冗談にジロリ、松本は、睨みつける。 板橋たちがいちゃいちゃつくのをみると殴りかかり、千秋と珠緒に止められる。
「バカヤロウ、いつまでここに閉じ込められているんだよ」
 松本が小屋から飛び出そうとすると、もう一度、千秋が止めた。「森に食われてしまうだ」謎のような言葉を呟く。
 
 ラジオから「強盗殺人犯、逃亡中」のニュースが流れ、皆の目が、松本に注がれる。
 緊張が走る。
 だが、その瞬間、男はボストンから人形を出すと腹話術を始めた。
「ショージ君、こんにちは!」
 ほっとした空気が小屋に流れた。寛治は、しばらく人形と遊び、松本と話し込む。

「かばん!かばんがない!」
 翌朝、松本の絶叫で、珠緒たちも目を覚ます。
 それと同時に、松本は家の外に飛び出そうとするところを、千秋に止められる。
 あまりの剣幕にたじろぐ松本。一瞬即発の様子を呈する。珠緒とあずさが割って入ると、千秋は渋々、話し始めた。「この森は生きているだ」
 この地の奥にある銅鉱山の排水で、湖もブナ林も死に掛けていた。
 しかし、それとともに怪しいことが続いていた。湖の水面が急に盛り上がったり、森からラップ音が聞こえる。「湖の水が洪水するなんて、今までなかったことだ」
 窓の外から、ラップ音が聞こえ、近づいてきた。
 すわっ!
 皆が聞き耳を立てているその瞬間、悲鳴が聞こえ、血だらけの寛治が戻ってくる。
祐子とはぐれてしまったという。だが、松本に意味ありげな視線を投げかけるのを、珠緒は見過ごさなかった。
「お願いします。妻を探してください」
「オレのバックはどこだ?」千秋と珠緒、松本が、外へ出かけることになった。

「あれ?」珠緒は首を傾げた。
 小屋の周囲の景色が変わっているのだ。前日。やっとの思いで辿り着いた小屋は、木々に覆われ、うっそうとしている。
「たった一日で?」 だが、珠緒の疑問は、さらに大きくなった。
 珠緒たちは寛治を探し、奥へ入っていく。
・・・助けて!
 そこで見たのは、木の枝に磔にされた祐子だった。木の枝を払い、助け出そうとすると、枝が珠緒たちに襲い掛かる。
「えっ?なんでえ!」
松本は、バックを探し続ける。バックがあった!中の人形を放り出すと、バックを抱きかかえ、走り出した。
「そっちは危ない」千秋の声を無視して走り出す松本。
 だが、「ギャァ!」すぐに悲鳴を上げた。枝と根に捕まり、磔にされた。木は松本を自分の中に取り込もうとする。松本を飲み込み、力を増した木は、珠緒と千秋を弾き飛ばし、
今度は、祐子を取り込む。「助けてください。松本と夫に騙されて!」絶叫しながら、祐子は飲み込まれていった。
・・・ 助けてくれ!
 珠緒が周囲をみれば、気がつけば、松本や寛治だけではない、木に飲み込まれ、一体となった人間が大勢いる。
「いいから 逃げよう!」 珠緒と千秋は小屋を目指した。
 一方、小屋に残ったあずさも、小屋を飲み込もうとするような木々に襲われていた。木々は小屋を持ち上げ激しく揺らす。巨人が小屋を抱きかかえ揺らしているようにさえ思える。
 あずさと寛治は、床をごろごろ転がって、息も絶え絶えだった。
「こいつら、意思があるのか」 やっとのことで窓に辿り着いたあずさは、小屋を揺らせているのは、木だということに気がつく。小屋から飛び出したあずさを枝が追う。
「珠緒さん!」
 珠緒たちと合流した。
 祐子が木に呑みこまれたと聞いても、寛治に感慨はない。
 ・・・ おや? 珠緒はその冷静さが気になった。

 大地が震える。
 いや、震えているのは大地ではない。森が大勢の人間を飲み込み、その力を得て、歩き出そうとしているのだ。
「この地を捨てようとしているんだ」
 千秋が言った。 木々の呼吸で森はますます霧が濃くなり、それを利用して逃げる珠緒たち。 やっとの思いで、湖まで逃げる。
「みろ、この色。ここは死の湖だ」
 千秋が言った。「あいつ等の親父の会社がやったことだ」
 銅鉱山は祐子の父親がオーナーだった。
 森が大きな緑の影となって、押し寄せてくる。珠緒は死を覚悟し、あずさの手を握った。
「珠緒さん!」
 水辺まで押し詰められた珠緒。その瞬間、3人を庇うように小さな男の子が現れ、立ちはだかる。クリスマスツリーがかけられ、もみの木だと知れた。
 もみの木と森のにらみ合い。突然、口笛のような悲しげな音が一斉に聞こえた。
「木たちが故郷を離れるのが悲しいと泣いている」
 もみの木がそれに応えるように口笛を吹くと辺りは霧に包まれた。

 霧が晴れるとそこは、木の一本も生えていない森だった。
 大地は枯れ、その上に大勢の男女が倒れていた。
 森は移動する前に、人間たちに警告を残して消えた。
「ねえ。ツリーが落ちている」
「あのもみの木も一緒にどこか遠くへ言ったんだよね」 <END>

犯罪心理学者 花見小路珠緒の不思議事件ファイル (グラフ社ミステリー)
村上 信夫
グラフ社

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犯罪心理学者花見小路珠緒の不思議事件ファイル♯128「母を殴るいい子は、ゴースト」

2008年09月29日 04時17分48秒 | Weblog
2000年から書き出したJFNのラジオドラマ「アナザーワールド」シリーズの原作も、もうう8年になる。僕が書いた原作を、萩原和江、錦織伊代の2人の女流脚本家と僕の3人が交代で、脚本に直しドラマ化している。
 放送は『ウェルカム・アナザー・ワールド』シーズン2『犯罪心理学者花見小路珠緒の不思議事件ファイル』全国JFN系列(月~金 24:55~25:00)として、放送中。
 主役の花見小路珠緒=田丸麻紀、劇団扉座の山中崇史(「相棒」のトリオ・ザ・捜一)・鈴木あずさ=高橋麻理・折口信夫=犬飼淳治・佐野紀久子=仲尾あづさ 他のメンバーが出演している。お時間、あれば。

  番組公式サイト(http://www2.jfn.co.jp/horror/)
  田丸麻紀(http://www.oscarpro.co.jp/profile/tamaru/)
  劇団扉座(http://www.tobiraza.co.jp/)
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犯罪心理学者花見小路珠緒の不思議事件ファイル♯128
「母を殴るいい子は、ゴースト」  作 村上信夫

【登場人物】
花見小路珠緒
斉藤結城(ゆうき)(37)
斉藤加奈子(14)
斉藤哲輔(41)
山路(40)加奈子の担当医(心療内科)

【物語】
珠緒のもとに、従兄弟の斉藤結城(ゆうき)(37)が、訪ねてきた。彼女の一人娘で、中学2年生(14)の加奈子の頭痛の薬がほしいという。話を聞き、珠緒が大学病院の医者を紹介し、検査を薦めると、突然、「病気なんてとんでもいない」と怒り出す。心のバランスを崩したのだ。
しかし、このことで、実は、親戚中でも評判の美少女で、とても良い子と、結城自慢の娘が、母親に暴力をふるっていることを、珠緒は知る。 家庭の問題に関わろうとしない、留守がちの夫、哲輔(41)に不満を感じ、専業主婦の生活にも不満を持つ結城。その心のギャップは、すべて娘に向かっていることが原因だと、珠緒は判断した。
少し落ち着いた加奈子に向かい、「結城さん、加奈子ちゃんを頼り過ぎです。加奈子ちゃんが重荷に感じてしまうほどのゆがんだ愛情を注いでしまっています」
子供を愛するあまり、または自分の心の傷のために、子供に最善の人生を歩ませようとして、生き方を押しつけてしまうことがある。でも、子供であっても、自分の人生は自分で選びとらなくてはならない。「彼女の人生は彼女だけのもの」
 珠緒の言葉に嗚咽する結城。
その瞬間、痛みが脳裏を走り抜け、一瞬、垣間見た景色は真っ黒な闇だった。
(・・・一体、何が結城さんに起こっているの?)
 闇の中から小さな目が光、珠緒を睨んでいた。

翌日、珠緒は加奈子を見舞う。
結城は、珠緒と加奈子の前でも夫の愚痴を言い出す。
「あの人、<ピーターパン・シンドローム>なのよ。男尊女卑、感情的に怒るし、大人の男としての義務や責任を果たそうとしないじゃない。そりゃ、仕事は有能かもしれないけど、家庭の問題に深く関わることは、恐くてできない男なの」
その挙句「この子だけよ、私の気持ちをわかってくれるのは」、そして、べたべたと「二人で生きていこうね」という。
だが、その言葉に加奈子が切れ、珠緒の前にもかかわらず、母親に暴力を振るう。
ずっと耐えて、母親の結城の愚痴の聞き役になり、母親に合わせてきた加奈子だった。
(・・・ゆがんだ愛情への反発が、家庭内暴力という形で爆発。)
珠緒は、結城を殴ろうと上げた加奈子の腕を取ると、頬を張り、暴力を止めた。だが、逆に結城に「これは私の家の問題なの」とくってかかられる。
さらに、「痛い・・・」と腹痛を訴える結城を、珠緒はソファに休ませる。
その隙に自分の部屋にこもる加奈子。
「私は、あなたを責めに来たのじゃないんですよ」
 家庭内暴力のような反社会的な行動や、不登校などの非社会的行動に対して、人はそれを責める。でも、その原因が心の病ならこのままでは解決しない。責めただけでは解決しない。珠緒はドアの前から語りかける。
「ママ!ママ!」
 そのとき、激しい痛みと共に、珠緒は小さな男の子の声を聞いた。

 珠緒の言葉に、病院を訪ねた加奈子。
「わかっているけど止められない」
 自分を抑えきれないと言う加奈子は、入院を希望する。しかし、駆けつけた結城と哲輔が、珠緒が止めるのを押して、強引に連れ帰ってしまう。
その夜、再び家庭内暴力を振るう加奈子。その挙句、亮輔ともみ合い、その拍子にケガをして、珠緒の東都大学付属病院に運ばれる。
「珠緒さん、アタシを止めて」
 病室から珠緒に救いを求める携帯をかける加奈子。
珠緒はそのまま入院させ、自分のカウンセリングと心療内科での治療を行うことにする。たがて、加奈子は少しずつ自分の気持ちを話し始める。
「ママのようになりたくない。」
しかし、結城は珠緒が自分と加奈子を引き離そうとしているように感じて、不満だった。
「娘を返せ」と四六時中、携帯にかけてくる。大学に、病院に押しかける。それに対し、珠緒は強硬だった。
 斉藤家は、京都御所の医療・薬を司る宮廷医の家柄。亮輔は医学ではなく、一流商社の商社マンだが、一族には医者も多い。東都大学の心療内科にも圧力がかかった。
 担当医の山路から呼ばれて、研究室を訪ねると、そこに結城がいた。
結城から訴えがあったと切り出した山路は、加奈子を退院させようと考えているという。それに反発した珠緒と山路は、激しい言い合いになる。
「加奈子さんの場合、精神分裂病、境界例性格障害などの精神障害の傾向も見られるようだね」
「ならば、なお更、退院など」
山路は、加奈子の家庭内暴力は、軽い精神障害のせいだと言った。家庭内暴力のタイプには、本人に原因がある場合、「精神分裂病、境界例性格障害などの精神障害によるもの」、「非行児の乱暴な行為が家庭内にも現れたもの」、「不登校児の経過としての家庭内暴力・発達障害としての家庭内暴力」、「親からの<巣立ちの病><挫折症候群>」などが考えられる。日本では、一般的に、「思春期の子供が親に向かって持続的に振るうかなり激しい暴力」のことが多いが、欧米では、夫から妻への暴力や幼児虐待、老人虐待などの暴力の方が問題になっている。
「彼女が境界例の場合、今、花見小路先生が行われているカウンセリングが有効とは思えない。一旦、退院し、投薬中心の治療に切り替えようと思う」
境界例は、「人格障害」という、心の病の中の性格の病の一種。人格障害の中でも重いもので、扱いが難しい障害である。境界例人格障害者は、衝動的な自己破壊行動、不安定で強烈な人間関係、不適切で激しい怒り、自己同一性の障害、感情の不安定性、慢性的な退屈感、みんなに見捨てられるのではないかという強い不安などの症状がみられる。
「あのタイプの患者は、いろいろな方法を使って周囲の人間を操ろうとするので、周りの人間が振り回されてしまいます。今の治療法じゃない」
「いえ、加奈子ちゃんは、正直に言えば、両親に原因があると思います。父性欠如、影の薄い父親。母親からは過干渉、過保護で教育熱心な期待過剰の母親、さらには、夫との生活に幻滅するなど<不安の強い母親>の投射」
 その言葉を聞きながら、結城の目は憎悪の炎が燃えていた。
(・・・なぜ、結城さん、あんな風になったのだろう?)
 一瞬、激しい痛みと共に、また闇が脳裏を駆け抜けた。闇は、死んだ人間の思い、最後に見た景色。
(・・・あなたは何を伝えて欲しいの)

 珠緒の実家からも電話があった。
しかし、珠緒は「今は無理やと思います」と断固として断る。珠緒は、結城の母親としての姿勢に問題がある。と言った。健康な家庭は、夫婦の結びつきが強く、子供のことを深く愛してはいても子供との適切な距離を保てるものだ。しかし、夫の関心が仕事や愛人に向いていると妻は不安になり、子供との関係を病的に深くしてしまう。存在感のない父親と干渉しすぎる母親という、「結城さんの家は、心理的に問題の生じやすい一つの典型的なケース。心理学者としての私の判断を信じてください」

 珠緒は、賭とも言える治療方法に出た。
診療室の隣の部屋に結城を呼ぶと、加奈子の本音を聞かせようというのだ。珠緒自身が母親役を演じ、加奈子と対峙する。最初は、ふざけていた加奈子だったが、やがて真剣になり、珠緒を殴りながら、自分の気持ちを叫ぶ。
「私がずっと無理して合わせてやったんだ!」
「私がママのカウンセラーをやらされてきたんだよ!」
「私の子供時代を返して!」
激しく感情をぶちまける早紀だった。 ショックのあまり倒れて運ばれる結城。結城は激しく腹痛を訴え、腹を抱きかかえる。「ママ!」ハッとして、後を追おうとした加奈子を珠緒は、止める。
「加奈子ちゃん、あなたの子供時代、もう戻って来ませんよ。そんな過去にしがみついて、愚痴る人生おくりますか? あなたが言う、ママやパパから受けたという傷を、今度は、あなたが他の人に塗り付ける人生おくるの?」
「珠緒さんから、そんな言葉を聞くなんて。冷たい」
「何、甘えているの。あなたもママと同じ」確かに、過去は変えられない。だから、その過去にいつまでも縛られている必要はない。過去は変えられなくても、過去の出来事の解釈は変えることができる。過去は変えられなくても、過去の影響は変えることができる。珠緒はそう言った。
「今まで、ずっと<良い子>だった。良くがんばってきました。加奈子ちゃん、あなたの家庭を支えてきたのかもしれません。でもね、もう、いつまでも<良い子>を演じ続けることはないのです。母親にしばられ続けることはありません。あなたの親もあなたの幸せを願っているはずです」
そう語っている最中に、珠緒の脳裏に傷みが走り、また闇が浮かんだ。闇の奥に光る眼差し。珠緒はハッ!とした。
(・・・生まれてくることができなかった、子どもがいる!)
泣き声を聞いた。
「あなたが本当に何をしたいのか。ずっと抑え続けてきたあなたは、もしかしたら自分でもわからなくなっているかもしれません。もう一度、自分の心を見つめ、本当にやりたいことを考えて下さい。それが親の望みにあっているかどうかは、そんなに大切なことではありません。あなたは、あなたの人生を歩み始めていいのです」
 闇が少しずつ薄くなり、白い光に包まれた胎児が見えた。
「親に手を上げる前に、自分が本当にやりたいこと、言ってみればいいじゃない。」

 一週間後、小さな葬儀が行われた。かつて、結城が流産した男の子の葬儀だった。3ヶ月生まれることもできないまま心臓の音を停めた息子。その子が忘れられず、遺骨を墓に入れないままにいた。その子に、結城は亮(りょう)と名づけた。
(・・・ずっと名前もないままだったんだよね。)
 大人は、大人の言うことを聞く、手のかからない子供が良い子だと思いがちである。でも、良い子を演じ、自分の本当の感情を押しつぶしたままの子供は、いつか爆発するかもしれない。子供は子供らしく育つ必要があり、親の愚痴の聞き役や慰め役では、心は健康に育たない。そのため、自分の気持ちを言葉に表すことができなくて、非行などの反社会的な行動に現してしまう。
(・・・あなたと加奈子ちゃんの兄弟は、一緒。我慢し、我慢し、ついに我慢できなくなった)
親に愛してほしい、振り向いてほしいと思っても、素直に言えないとき、万引きや暴力で、自分の気持ちを伝えようとする。ただし、それを自分で意識しているわけではない。
加奈子の治療は進み、結城も自分を見つめ直し始めている。
                            <END>

犯罪心理学者 花見小路珠緒の不思議事件ファイル (グラフ社ミステリー)
村上 信夫
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池田貴族さんが亡くなった頃の思い出。

2008年09月28日 06時04分25秒 | Weblog
 先日、池田貴族さんを「新・温故知人」で紹介したせいで、当時、仕事していた何人かの方から、久しぶりの連絡を頂き、懐かしかった。
 池田貴族さんが亡くなったのは、1999年12月25日。前に書いたが、池田貴族さんと僕は直接の縁はなかったが、池田貴族さんのマネージャーだったF氏とは縁があり、「池田で仕事、考えて」と言われて企画したこともあった。池田貴族さんを思うとこの事を思い出す。さらに、その一年ほど前に父親が亡くなっている。
 池田さんの本にも、F氏の名前は出てくるが、この人、父親の死んだ日、・・・父親が亡くなったのでと連絡を入れているにも関わらず、「xxxの原稿、いつになります?」という電話を寄越した。もう一度、事情を話しても動じる風もなく、「で、いつ?」当時、F氏にはお世話になっていたが、この人、時々、そういう所がある。池田さんの本にも、癌を告げる電話口で「お前の言葉じゃわからん。医者に確かめる」といい、「週末のイベントは大丈夫か」と鬼のような発言をしている。僕にも、花一つ、送って来ないのに、原稿の催促。「絶対、殺してやる」正直、そう思った。
 父親は突然、死んだので確かに迷惑をかけているのだが、「他の場合ではない」、と怒鳴りそうになるのを必死で抑え、議論もうっとうしくなってきたので、「2日後」と約束した。
 それからが大変。長男の僕は喪主。これが結構、あれこれ用事があるのだが、合間を見ては原稿を書くという状態になり、徹夜になった。そのせいで、蝋燭の火を絶やさないように交代でお棺の傍についたときに、一口飲んだ酒でダウン。今だに、弟や叔父に「通夜で酔っ払って寝た」と責められる。
 父親が亡くなった前後に、社長をしていた会社を辞め、フリーになった。9月だったので、改編期だった。僕も、丁度、深夜の学園ドラマと情報番組の新番組が決まっていた。フリーになる置き土産として、前の会社をテレビ局・代理店に紹介して制作を発注してもらい、台本は僕が書く事になっていた。しかし、父が急死のため、新たに前の会社の社長に就任した人間に事情を説明して、後を頼んだ。父の葬儀やその後のあれこれが落ち着いたら、当然、復帰するつもりでいたが、結局、叶わなかった。仕事はあっちにいったまま、僕は仕事にもお金にもならなかった。ついでに、その番組に携わった人々との人間関係も。
 組織を辞めるときに、多かれ少なかれ経験することだが、組織に残った人間は辞めた人間に対し、驚くほど残酷なことを平気でする。僕は、フリーになった早々、仕事をなくした。
 亡くなった父親の「そんな仕事はやっても大変なだけだよ」とそんな意思があったと思うことにしたが、通夜の席にまで「原稿を催促する」F氏と「引き受けました。ご安心を」と言って僕の仕事を取った人たち。死は突然だけに、色々な人の本質が見事に現れる。

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村上 信夫
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来週の「新・温故知人」は夏目雅子さん。

2008年09月28日 05時51分49秒 | Weblog
 来週の「とくダネ」(MC:小倉智昭 笠井信輔 佐々木恭子)「新・温故知人」(プレゼンター:柳家花緑)は、今年、写真展「女優」でも評判だった夏目雅子さん。夏目雅子さんが亡くなったのは、1985年9月11日。僕はまだテレビの仕事をしていなかったので、亡くなったと聞いても、遺作となった「瀬戸内少年野球団」や「鬼龍院花子の生涯」、「西遊記」、「ザ・商社」での、清楚で綺麗な女優さんというイメージだけだった。が、放送作家になり、テレビの台本を書くようになって、夏目雅子さんのドキュメンタリーをこれまで4本、書いている。
 改めて、写真を見たが、オーラが伝わる稀有な女優さんだった。

犯罪心理学者 花見小路珠緒の不思議事件ファイル (グラフ社ミステリー)
村上 信夫
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尾崎豊さんは好きですか? (宗由) さんへの返事

2008年09月28日 05時15分33秒 | Weblog
「とくダネ」(MC:小倉智昭 笠井信輔 佐々木恭子)「新・温故知人」(プレゼンター:柳家花緑)で17回忌を迎えた尾崎豊さんの回をご覧頂いた宗由さんから
下記のようなコメントを頂いた。
 ありがとうございます。
 確かに、柳家花緑は尾崎豊さんの大ファンで、稽古と思い入れから、独演(短い落語の手法で、人生のある場面を表現する部分)では、一瞬、次の言葉が出なくなった。多くの人たちは「間」だと思ったようだが、実は、尾崎豊さんが抜けなくなったらしく、今も、花緑さんは大反省している。
 すぐれた表現者にはよくあることで、<説明をなさった方が大好きな様子でしたので見ていて気分良かったのですが>と受け取って頂きまさにその通りです。
 僕も3度、尾崎豊さんのドキュメンタリーを書きましたが、一瞬、一体化し書けなくなったことがあった。
 尾崎豊さんの歌詞は、今も切なく心に響くが、ご指摘のように、その作品と時代は、実は無関係。尾崎さん自身、「若者のカリスマ」と呼ばれることを嫌がった時期があり、「俺の歌を歌うな」とステージから怒鳴ったことさえあった。
 しかし、時代の象徴となったのは間違いなく、ビートルズや矢沢永吉さんも、本人の意思や音楽性とは無関係に、時代や彼を支持するあるファンの代弁者の位置に置かれる。カリスマの宿命かもしれない。
 次に尾崎豊さんを書く時に、ご指摘頂いた部分、充分に配慮します。

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尾崎さんは好きですか? (宗由)

尾崎さんの番組を拝見いたしました。
説明をなさった方が大好きな様子でしたので見ていて気分良かったのですが 尾崎さんの若い頃の時代の荒れていたことの全部は尾崎さんには関係が無いはずと思っています。
尾崎さんファンとしては 愛と自由を求めていた尾崎さんの高尚な面を今度の時には期待していますので宜しくお願いいたします。

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村上 信夫
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犯罪心理学者花見小路珠緒の不思議事件ファイル♯130「学校の怪談・看護婦幽霊の謎」

2008年09月27日 07時31分51秒 | Weblog
2000年から書き出したJFNのラジオドラマ「アナザーワールド」シリーズの原作も、もうう8年になる。僕が書いた原作を、萩原和江、錦織伊代の2人の女流脚本家と僕の3人が交代で、脚本に直しドラマ化している。
 放送は『ウェルカム・アナザー・ワールド』シーズン2『犯罪心理学者花見小路珠緒の不思議事件ファイル』全国JFN系列(月~金 24:55~25:00)として、放送中。
 主役の花見小路珠緒=田丸麻紀、劇団扉座の山中崇史(「相棒」のトリオ・ザ・捜一)・鈴木あずさ=高橋麻理・折口信夫=犬飼淳治・佐野紀久子=仲尾あづさ 他のメンバーが出演している。お時間、あれば。

  番組公式サイト(http://www2.jfn.co.jp/horror/)
  田丸麻紀(http://www.oscarpro.co.jp/profile/tamaru/)
  劇団扉座(http://www.tobiraza.co.jp/)
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犯罪心理学者花見小路珠緒の不思議事件ファイル♯130
  「学校の怪談・看護婦幽霊の謎」 作 村上信夫

 珠緒は必死になって逃げていた。
 その後から、キーコキーコ 鈍い音を立てて車椅子が後を追いかけてくる。
 珠緒は、真夜中にここに来たことを後悔していた。
 昼、校舎の近くで老いた警備員・杉浦博通(67)に呼び止められ、「立ち入り禁止」:だと警告を受けた。校長の許可を得たと言うと、憎々しげな表情を浮かべた。
「・・・ここにはその昔、陸軍病院があって、多くの兵士が死んだ。便所の下には、空襲のときに死んだ。何百という遺骨が埋まったままになっていて、誰も供養しようともしない。そのままにするがいい」
 この言葉が頭の中で反響する。耳を澄ますと大勢の兵士のうめき声が聞こえる気がする。もう少し詳しく話を聞こうとしたら、もう老人の姿はなかった。
(・・・看護婦さんでしょうか?しかし、何か違います)
 珠緒は走りながら、手に持っている手鏡を後ろにかざし、自分を追う物を見ようとした。
 だが、何も写らない。しかし、うぉーっ!!・・・ 獣の吼えるような声とともに、まるで新幹線か、ジェット機のような轟音が聞こえ、手鏡に激しい衝撃を感じ、手鏡ごと身体が引きずられていくのを感じた。それが、どんどん加速する。
 手鏡に引きずられるように見えるかもしれない。
「あっ!」加速に足がついていかなくなり、珠緒が倒れると、鏡は弾け、珠緒の上を轟音が通り過ぎ、廊下の行き止まりにぶつかった。
「鏡が!」・・・だが、鏡との衝突音は聞こえず、鏡を通り抜けたのか何事もなかったかのように静かになった。
 コツコツと革靴の音がして、懐中電灯の明かりが近づいた。
「誰かいるのか?」
 警備員の声だった。昼間、出会った老警備員だった。ふいに、珠緒は姿を見られない方がいいと感じ、教室に隠れた。
「誰かいるのか。いたずらは許さんぞ!」そう怒鳴りながら、教室を一つ一つ点検し始めた。珠緒は隠れたことを後悔した。見つかれば面倒なことになるかもしれない。いっそ、先に出ようか。足を踏み出そうとした瞬間、1階から大きな音が聞こえた。
「くそ、下だったのか。悪がきども!」
 はき捨てるように言うと、警備員は慌てて階段を下りていった。

 翌日、珠緒とあずさは、同じ校舎を尋ね、廊下を歩いた。
戦前からの古い建物で、今は誰も使わないせいか、この校舎の空気は澱んでいる。
廊下のはずれには、かつてバレエの稽古場だったという名残りで、鏡張りになっているのは、昨日、確かめた通りだった。
「ここからまっすぐに、反対側の窓まで見渡せるのに、暗いですね」
 珠緒は思う。
 人が集まるところに、さまざまな怪談が生まれる。学校には、多くの人の思いが集まる。それはときに楽しくもあり、哀しくもあり、甘酸っぱくもあれば、無惨であったりもする。憎しみや、怨念が漂う。それが、兵舎の凄惨な記憶と出合ったときに何かが生まれることがあるのかもしれない。そしてその怪談は、その土地の古い記憶をよみがえらせることがある。兵士の幽霊が出るという伝説を持つ学校は多いし、事実、兵舎の跡地に建った学校は少なくない。
「何をしていますか?・・・また、あなたですか」
 杉浦だった。
「えっ?・・・先生、ここで」
 あずさが在籍していたころ、杉浦は、中等部の校長だった。だが、その風貌はあずさが覚えている杉浦とは一変し、剣が現れている。
「定年退職になりまして、でも、この学校を離れがたくて警備員になりました。あなた方は、この校舎で何をしているんですか」有無を言わさぬ言い方だった。
「アタシたち、この校舎で幽霊を見たのです!」
 だが、杉浦はあずさの話を一笑にふした。
「この中学校の敷地が戦時に陸軍病院だったという事実はありませんよ。ここが戦時に空襲されたという事実もありません。昭和20年、東京は米軍の空襲を受けましたが、幸いにもここは、爆撃を免れています。つまり、噂は、まったくの事実無根です」
「しかし、アタシ、校内を追いかけられました。珠緒さんだって、見たって!」
「この校舎は、私が担当していますが、別に不信なことはありません。根も葉もないことで中等部の生徒たちを混乱させないでください」
 杉浦の肩がガタガタ震えていることに珠緒は気がついた。何かに怯えている。その瞬間、珠緒の頭にツーンと痛みが走り、思わず座り込んでしまった。
(・・・死者からのメッセージ。)
何か暗い場所が見える。若い女の苦痛の声が聞こえた。
「珠緒さん、どうしたの?何か見えるの?」
「若い女の人が、何かを訴えている。暗い場所で」
 うぉー!途端、杉浦は奇声を発し、駆け出した。
「なんだ、アイツ」

 数日前の真夜中、鈴木あずさは学校にいた。
 教育実習で、付属中学に来ていた鈴木あずさは、生徒たちに煽られ、夜中、学校に出るという看護婦の幽霊の正体を確かめに行く羽目になる。
このところ、中等部の使用禁止の校舎で、幽霊騒動が起こっている。
矢島優(14)と速水もえ(14)と一緒に、噂を確かめるために、夜の学校に乗り込んだのだった。
 生徒たちの間に広まっている噂は、真夜中、午前0時の時計の音が聞こえると、長い廊下で車椅子を押す看護婦の幽霊が現れるという話である。学校が、戦時中に、陸軍病院のあった跡地に建っているからだというのだが・・・。

 真夜中 午前0時を告げる時計の音が一際大きく響いた。
 その瞬間、キーコ……キーコ……という軋んだタイヤの音が、長く暗い廊下の反対側に聞こえ、それがゆっくりと近づく。「幽霊が現れた!」と怯える生徒たち。 あずさは生徒たちに残るよう指示し、音のする方向へと向かう。近づき、眼を凝らすと、古ぼけた白衣を着た看護婦が、誰も乗っていない車椅子を押しながら、廊下を歩いてくる。
 きゃー!!
 あずさは悲鳴をあげて、生徒たちのいる方へ戻ろうとするが、後ろから車椅子を押しながら、看護婦が近づいてきた。
「こっちに来ちゃだめ!逃げなさい!」
 生徒たちに危険を知らせる大声を上げながら、それでもあずさは、生徒を守ろうと幽霊を自分の方にひきつけ、逃げる。
 幽霊に追いかけられるあずさ。
 やっとの思いで、トイレに駆け込んで、個室に入ってカギをしめた。しかし、だんだん足音が近づいてくる。ギィ~と音がして、少しずつ影が迫ってきた。必死になって珠緒に携帯メールを送る。
 その間も、キーコ・・・キーコ・・・ と、車椅子を押す音が近づく。
(見つかる……)
 うずくまり、息を殺す。・・・が、まもなくして、音はあずさの隠れた個室の前を過ぎ、遠ざかって行った。

 あずさは床の冷たさを感じていた。
 水滴が一つ、あずさの思いを現実に引き戻した。
 あずさは思い出していた。この校舎に近づいた途端、死んだはずの担任、杉浦が姿を現した。杉浦はこの校舎に近づくことに対し、怒りをみせた。それは異様なほどだった。
(何かあるんだ。この下!)
 そのとき、遠くで「あずさ先生!」とあずさを探す生徒たちの声が聞こえる。
(あの、馬鹿たち、逃げろと言ったのに)
 車椅子の音が止まり、生徒たちの方へ行こうとする。
 悩んだ末、あずさが思い切ってドアを開ける。
「待って!私はここにいる」
 だが、誰もいない。しばらくして様子をうかがうと、あたりはしんと静まり返っている。幽霊がいる気配は、どこにもない。ほっと胸をなでおろした途端、音が鳴り響き、驚く。珠緒からの返信メールだ。
 ホーッ、大きなため息をつき、メールの返信をしようとすると、寒いものを感じた。振り返ると、看護婦の姿があったのだ。
 ギャー!
 夢中でドアを開けると、あずさは必死で逃げた。逃げて、逃げる。その後をキーコ・・・キーコ・・・ と、車椅子を押す音が追う。
「トイレだ!」
 悲鳴が聞こえ、生徒たちはトイレに走った。あずさの姿を探すがいない。
 女子生徒矢島優(14)と速水もえ(14)が互い押し合うようにしながら先頭に立ち、女子トイレの中に入り、個室の扉を開けて確かめた。
 水滴がゆっくり、不気味に響いた。
恐る恐る中に入る優、もえ、それに続く生徒たち。そのとき、携帯の着信音が鳴った。慌てて自分たちの携帯を確かめるが違った。その時、床で光る携帯を優が見つけた。
「あずさ先生のだ」
 恐る恐る、出る。・・・珠緒だった。

 あずさは、やっと玄関まで逃げ、ドアを開けようとするがドアに鍵がかかって開かない。後ろから、車椅子を押す音が近づく。
 あずさは目を瞑った。力が抜け、その場にへたりこんだ。
 突然、外が明るくなった。ライトを持った珠緒と生徒たちだった。
「珠緒さん、助かった・・・」
 そう思った途端、鍵が開いた。
 あずさが、気がついたときには、珠緒の車の中だった。
「遅いから、生徒さんたちは帰しましたよ」
 そう言う珠緒の身体をあずさは何度もひっぱったり、障ったりした。
「どうかしました?」
「珠緒さん、幽霊じゃないよね?」
 珠緒だと確認し、「珠緒さん、怖かったよお!」大声で泣き出した。
 あずさの話を聞いた珠緒が廊下まで確かめに行くが、誰もいなかった。
「その話、小池壮彦(たけひこ)さんの<幽霊は足あとを残す>で読んだことありますが、1990年代のはじめ、埼玉県の上福岡市にある中学校から始まった話なんだそうです」
 夜の校舎を、人知れず歩き回る看護婦の幽霊。そのシチュエーションは、なかなか恐ろしい。だからこの怪談は、多くの子供たちの心をとらえ、全国に広まった。
「でも、まったく根拠なく、噂が起こるわけはないでというんでしょう。でも、絶対、何か理由があるんだと思う。それに、アタシ、本当に見たんだから」
 亡くなったはずの杉浦と出合ったことも話した。だが、杉浦は幽霊ではなく、警備員として中等部に勤務していることは確かめられた。しかし、あずさが幽霊と出合ったことで、幽霊話はあっという間に学校中に広まった。

 珠緒は、中等部の校舎の歴史を図書館で調べていた。
 戦後、中等部のキャンパスには、昭和40年代ごろまで、戦時の防空壕がそのままの形で残っていた。そこはゴミ捨て場として使われていたが、大きな深い壕だったため、中から幽霊が這い出してくるという噂が流れたらしい。おまけにそのあたりには、うっそうとした松林があった。怪談の舞台としては、うってつけだったわけである。
「これがきっかけかあ」
 謎を解く手がかりは、忘れられた歴史にあった。このエリアには、陸軍病院もなければ、空襲された事実もなかったが、戦時には、巨大な軍需工場がそびえていたのである。その工場の建物を借りる形で、戦後に学校が開校した。そしていまも、同じ敷地に学校はある。つまり「看護師婦霊」の怪談は、何らかの戦時の記憶を伝えている可能性がある。もしかするとそれは、戦時の秘密、軍需工場内で起きた何かしらの悲劇をもとにして、立ち上げられた噂……?
「今も、ここを守っているのよ。幽霊たちは」
 あずさが、肩越しに声をかけてきた。そのあずさが、優、もえはもう一度、校舎に入ろうと言っていると伝えた
「アタシのこと信じてくれているのよ、あの子達。で、どうよ。珠緒さん!」
 そう顔がくっつくほど迫られ、珠緒も協力を約束した。
 
 幽霊騒動は思いもかけぬ方向に発展した。
 長らく使用禁止のままになっていた校舎の建て直しが決まったのだ。
 そもそも使用禁止になった経緯がはっきりしない。7年ほど前に、2代前の校長が危険だからと突然、使用禁止にしてしまった。ちょうど補修工事をしていたのだが、工事はうやむやに中断され、コンクリートで塞がれたまま使用禁止となった。そのまま放置されていたのだが、今回の幽霊騒動で改めて、校舎が建て直しされることになった。

 そんな経緯があって、今、珠緒は校舎の中にいる。
 だが、あずさたちとはぐれてしまい、2階の廊下で激しい勢いで走り抜ける何かを目撃した。物音に気がついた杉浦が探しにきたが、下の階で起こった物音に気がつき、杉浦は階段を駆け下りていった。
(・・・何を慌てているのかしら)

「珠緒さん、どこ!」
 一階では、珠緒を探しながら、あずさ、優、もえが廊下を歩いていた。その時、二階から降りてくる車椅子の音を聞いた。
「デタあ!早く逃げなきゃ」
 あずさたちは大声を上げると走り出した。あずさたちは学校中を逃げ回り、その後を、車椅子を押した看護婦が追いかける。そのスピードは、驚くほど速かった。
教室に逃げ込み、ドアに鍵をかけてほっとする。何度かドアがガタガタ揺れるが、必死で押さえるあずさ。やがて、収まり、ほ~っと、窓の外に顔が浮かんだ。
 ギャー。
 再び、悲鳴を上げると、鍵を開けて、廊下に飛び出すあずさ。廊下に誰もいないことを確認し、安心して歩き出す、と、突然、廊下の角から白い服を着た看護婦が車椅子を押して姿を現した。ゆっくり近づいてくる。
 あずさは優、もえを庇いながら逃げた。
「珠緒さん!たすけて」
 女子トイレに逃げ込んだ。ドアに鍵をかける。身障者用の大きな個室が目に付き、その床が、壊されていた。
「誰かが床を剥がそうとしたんだ!」
「ここだ」
 優、もえは床のコンクリートをどけた。その音に気づいたのか、外からトイレのドアノブをガタガタ揺らす音が聞こえた。すぐに鍵が外れ、車椅子を押す音が続いた。車椅子は、一つ一つの個室のドアを開け始めた。
 ・・・ 最後の一つに迫った。
「早く出ておいで。出てこないと死ぬよ」
 不気味な女の声がした。あずさは覚悟を決めた。優、もえは、まだ床のコンクリートをどけている。あずさは外に向って声をかけた。
「出ます。出るから、幽霊さん、この子達は助けて!」
 そう言いながら、夢中でコンクリートの床を剥がす優、もえに「私が体当たりするから、その間に逃げなさい」と囁いた。
 あずさは、個室の鍵をはずし、ドアを開けようとした。
「あずさん 用心してください。幽霊なんかじゃなくて、杉浦さんです!」
その時、珠緒の声が廊下から聞こえた。その声に応え、ドアを再び閉め、鍵をかけた。
「姉さん!」
 優、もえ悲鳴が起こった。その声が響くと、ああ・・・っ!うう・・・っ!と幽霊が唸り声を上げた。あずさが2人を見ると、床のコンクリートの間から、夜目にも白い、人の手が見えた。
「杉浦さん、あなた」
 ドアが開き、珠緒の声がした。白衣を着た看護師だと思い、怯えた幽霊の正体は、杉浦だった。
「珠緒さん、床に死体、白骨死体がある!」
 あずさが外に向って怒鳴った。
「姉さん!姉さん!」
 優の声が泣き声に変わった。
 杉浦は、珠緒の方に近づいてきた。その頬はこけ、幽鬼のようだ。その瞬間、珠緒の頭が痛んだ。女が最後に見た風景は、自分の首を絞める杉浦の顔だった。
「杉浦さん。女の人を殺しましたね」
 図星だったのか、杉浦は車椅子を珠緒にぶつけ、その勢いに、珠緒は弾き飛ばされた。

 逃げる珠緒たちを杉浦が追ってくる。
「あの女が悪いんだ。私のことを馬鹿にして。あの女が悪いんだ」
 逃げ場を失った珠緒たちは、階段を伝って2階へ逃げ込んだ。しかし、珠緒は轟音に気がついた。さっき珠緒を襲った轟音がまた聞こえた。
「待ってください。二階は・・・」
 杉浦が近づいてくる。追い詰められた珠緒たちは、思い切って階段を駆け上がると、「伏せてください!」珠緒は、怒鳴ると同時に廊下に転がった。
「できるだけ低く!」
 続いて、あずさ、優、もえ。珠緒たちを追った杉浦は勢いを止められず、立ったまま廊下に踏み出した。その瞬間、
 ぎゃー!
 杉浦が絶叫を上げ、すぐに轟音とともに遠ざかった。恐る恐る、珠緒が目を開けると、杉浦が引きずられていくのが見えた。
「助けてくれ!」
 その轟音の正体は、百鬼夜行。化け物どもが騒ぎながら、走っている。その真ん中にいる女の口が杉浦をしっかりと咥えていた。
 そのまま、百鬼夜行は鏡の中に飛び込んでいった。
 
 トイレで発見された白骨死体は、優の姉、矢島奈緒子だった。新任教員だった奈緒子は、ある日、学校から帰って来なかった。失踪の動機もなく、事件に巻き込まれた形跡もないまま、ついに行方が知れなかった。
 矢島優は、姉が校長の杉浦に言い寄られて困っているとこぼしていたことを覚えていた。
 その頃は幼すぎて何もできなかった、中等部に入学したあと、もえという友人の協力を得て調べていたのだ。
 一方、奈緒子を殺してしまった杉浦は、補修工事中の校舎に埋めてコンクリートを流し込んだ。その後、校舎は使用禁止にした。しかし、それでも不安で退職後、警備員となって見張っていたのだ。
 幽霊話は、誰も近づけないために杉浦が広めた噂だった。
 
 数日後、珠緒とあずさは中等部にあった軍需工場に勤めていたという老人と会った。当時、工場内で何が起きていたのかをつきとめることにしたのだった。軍需工場(通称「火工廠」)に勤務していた老人は、戦時の状況について語った。
「看護婦さんは、4、5人ぐらいいましたかな。白衣は着てないです。もちろん最初は着ていましたよ。でもね、昭和19年あたりからは、カーキ色って言ってね、みんな国防色に変わっちゃったんです。当時は予防着と言っていました……」
「工場では火薬を扱ってたから、爆発事故があったでしょ。怪我人は医務室に運んだんです。何人ここで亡くなっているかは、当時の秘密だったからわかりません。しかし、私は現実に見ていますからね……それは悲惨なもんです。空襲も悲惨だけど、火薬が爆発して死ぬっていうのは、本当に悲惨な死に方でね……」
 身体中に鉄片が突き刺さる。そんな瀕死の重傷者を医務室へ運んで輸血し、死んだ者からは残存血液を抜きとる。怒号の中で軍医や衛生兵が走りまわる様子は、戦場さながらの光景だったという。
「中等部の古い校舎がその建物ですよ」
 窓と鏡が一対になっている場所は、霊の通り道になるという。事故で死んだ兵士たちの霊がこの道を通って現れたのだろうか・・・。
 珠緒は老人の話を聞きながら、そう思った。<END>
犯罪心理学者 花見小路珠緒の不思議事件ファイル (グラフ社ミステリー)
村上 信夫
グラフ社

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犯罪心理学者花見小路珠緒の不思議事件ファイル♯131「古寺の結界」

2008年09月27日 05時56分29秒 | Weblog
 おはようございます。
 2000年から書き出したJFNのラジオドラマ「アナザーワールド」シリーズの原作も、もうう8年になる。僕が書いた原作を、萩原和江、錦織伊代の2人の女流脚本家と僕の3人が交代で、脚本に直しドラマ化している。
 放送は『ウェルカム・アナザー・ワールド』シーズン2『犯罪心理学者花見小路珠緒の不思議事件ファイル』全国JFN系列(月~金 24:55~25:00)として、放送中。
 主役の花見小路珠緒=田丸麻紀、劇団扉座の山中崇史(「相棒」のトリオ・ザ・捜一)・鈴木あずさ=高橋麻理・折口信夫=犬飼淳治・佐野紀久子=仲尾あづさ 他のメンバーが出演している。お時間、あれば。

  番組公式サイト(http://www2.jfn.co.jp/horror/)
  田丸麻紀(http://www.oscarpro.co.jp/profile/tamaru/)
  劇団扉座(http://www.tobiraza.co.jp/)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
犯罪心理学者花見小路珠緒の不思議事件ファイル♯131「古寺の結界」 
     作 村上信夫

 珠緒の菩提寺の改修工事が進んでいた。それに立ち会った珠緒と紀久子は、本堂の下に人骨を埋めた大きな壷を発見する。
 警察も来るが、百年以上前の古いものだとわかり、引き上げる。そのとき、珠緒は悲鳴を聞いた。紀久子は、嫌な予感がすると住職の源堂に言う。源堂も実は、同じ想いをしていた。
 本山に電話するが、生憎、担当者はいない。
 骨壷を廊下にならべ、その日の作業は中止になった。

 珠緒と紀久子は、勧められるまま寺に泊まるが、異変はそのときから起こった。
 床を走る音。天井を伝わる足音。
 寺の人々は居間に集まった。
 珠緒が、源堂、裕康と一緒に古文書を調べると、戦国時代、この村の近くで合戦があり、落ち武者が逃げ込んだ。落ち武者たちは、悪さをするため村人たちは協力して、落ち武者たちを退治した。
 だが・・・、紀久子は骨の置かれた形が北斗星を模したことに気がついた。
「本当は惨殺した武者たちの亡霊を鎮めるために・・・」
 今回の改修工事で、封印を取りはなってしまったのだ。
「元へ戻しましょう!」
 慌てて、壷を元へ戻そうとする。だが、そのときには、武者の霊が裕康の妹直美にとりついていた。直美は、封印をすべて解放しようとし、止めようとする裕康や珠緒と激しく争った。
 源堂と紀久子は、寺の境内に札を張り結界を張った。悪霊たちが境内を出ないようするためだった。怒り狂う悪霊たち。珠緒と裕康が闘う間に、紀久子と源堂は再び封印しようと試みた。

 珠緒の脳裏に浮かぶ武者たちの怨念。
 武者たちは姫を守り、この村に辿り着いた。村人は歓待したが、それは姫の美しさと着物の豪華さに目がくらんだだけだった。村人たちは能を舞い、その歓待に心を許した武者たちは、鎧も武具も解いた。姫も村の若者たちの能に魅了された。
 だが、能の最中、姫は連れ去られ、武者たちは惨殺される。
「小夜姫!」
 武者たちの恨みの声が響く。
 武者の怨霊の妨害と闘いながら、北斗七星の形に壷を戻す。
 最後に残ったのは小夜姫の壷だった。だが、小夜姫の霊は直美にとりつく。
「なぜ、裏切った・・・」
 小夜姫は、若者の一人に心を奪われていた。激しい闘いの中、やっと辿り着いたこの村。村人たちは優しく、父や親族を失った恨みも薄れた。それだけに裏切られた恨みは深い。
 小夜姫の霊は、裕康と珠緒をその若者と妻だと誤解していた。小夜姫の霊がとりついた直美は、2人に迫り、鎌を振るう。珠緒に向かって直美が釜を振り上げた瞬間、裕康がその身を投げ出した。裕康の肩に食い込む鎌の鋭い刃。
「小夜姫、すまなかった」
 源康は直美を抱きながら、壷へ飛び込む。
 小夜姫の悲鳴が上がった。
 壷は転がりながら、元の穴へと戻っていく。その瞬間、直美がはじき出される。火花が立ち上り、その中に小夜姫と裕康がしっかりと抱き合う姿が見えた。源堂と紀久子の呪文が響く。他の壷がガタガタと揺れる。
「このまま 封印を!」
 裕康が叫んだ。
 源堂が最後の壷の蓋をした。
「小夜姫、お供をします!」
 裕康の声が聞こえ、小夜姫の絶叫がもう一度、聞こえた。

 翌朝、瀕死の裕康が小夜姫の墓の前で見つかった。小夜姫の着物がかけてあり、小夜姫が最後に裕康を守ったのだった。<END>
犯罪心理学者 花見小路珠緒の不思議事件ファイル (グラフ社ミステリー)
村上 信夫
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佐伯祐三の未公開作品見つかる 没後80年ぶり。

2008年09月24日 18時45分38秒 | Weblog
 好きな画家の一人、佐伯祐三の未公開作品見つかった。日本で才能を謳われながら、パリで叩きのめされ、かの地で客死した夭折の画家。繊細さの中に、大胆な線使いで、パリのメトロの壁とそこに張られたポスターを描いた作品はグッと来る。スケッチしながら何を考えてたのか。
 音楽をやりたいとNYに渡った日本人ロックシンガーがいた。だが、「この街で俺の才能はちっぽけ過ぎる」と叩きのめされ、クスリに手を出す。尾崎豊である。佐伯祐三と尾崎豊、時空を超え、僕の中では重なり合う。

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【佐伯祐三の未公開作品見つかる 没後80年ぶりに故郷大阪で初お目見え】
      (09/01 00:42更新)
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/books/art/174689/

 30歳の若さで早世した大阪出身の天才画家、佐伯祐三(1898~1928)の未公開作品が、終焉の地・パリで21年前に見つかり、同地在住の日本人が保管していたことがわかった。パリの街角に広告の文字が躍る“佐伯芸術”確立の契機となった時期の貴重な作品という。没後80年を経て9日から、大阪で初公開される。
 作品は、大きな黄色い日よけのカフェを大胆な構図で描いた「カフェ・タバ」(縦54.5センチ、横65.1センチ)。1927年の制作年と自筆サインがあり、大阪市立近代美術館建設準備室が真作と確認した。
 遠くの木立から日よけの文字、地面に至るまで、画面全体を飛び跳ねるような曲線が覆う独特の表現は、この時期の佐伯の特徴。赤や緑の略筆で描かれた道行く女性や木立は、代表作の1つ「リュクサンブール公園」(1927年)と共通する点が多く、「近い場所で同時期に描かれたものと考えられる」(熊田司・同準備室研究主幹)という。
 所蔵者はパリに長年住む日本人の美術愛好家。1987年にパリの古美術・小道具商のウインドーに置かれていた絵を偶然発見して、「最初は目を疑ったが、サインなどを確認して佐伯の絵だと確信した」という。
 極めて保存状態が良く、修復の手が入っていない状態で見つかったのも画期的。現存する佐伯の絵は、日本に持ち帰るために巻いた状態で長期間、高温多湿の空気にさらされ、亀裂が入るなど損傷しているものが多い。熊田研究主幹は「ずっと家に飾られていたか保管されていたのではないか。制作時のままのうぶな状態を伝える作品で、今後の佐伯研究の貴重な資料」としている。
 9日から、大阪市立美術館(同市天王寺区)で始まる「佐伯祐三展」(産経新聞社主催)で展示。所蔵者は「(公開を)迷ったが、やっと作品を日本に持って帰ることができ、心の重荷が取れた」と話している。

                  ◇

 佐伯祐三(さえき・ゆうぞう) 明治31(1898)年、大阪生まれ。実家は大阪市北区中津の光徳寺。府立北野中学(現北野高校)卒、東京美術学校(現東京芸大)西洋画科卒。1924年に渡仏、画家ブラマンク、ユトリロなどの影響を受ける。一時帰国の後、27年再渡仏。パリの街並みを描いた独自の画風を確立した。翌28年パリで没。

犯罪心理学者 花見小路珠緒の不思議事件ファイル (グラフ社ミステリー)
村上 信夫
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「事故米偽装」の陰になった「環境(ビジネス)偽装」

2008年09月24日 06時58分08秒 | Weblog
「事故米偽装」の陰になった今年の不祥事に、「環境(ビジネス)偽装」がある。1月の再生紙メーカー各社のインチキ露見から始まり、プラスチック、インクなど相次ぎ(と、いうことは、他にあるはずだが、その後、報道は止まっている)、消費財ではなく素材ということで視聴者、読者の関心が高まらないままでいるが、国民が税金で払った未来へのコストで儲けに走った<環境ビジネス>メーカーの罪は深い。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【続発する「環境偽装」 メーカーに世間とズレ】
       02/16 03:16更新

http://209.85.175.104/search?q=cache:DObZxAolwAQJ:www.iza.ne.jp/news/newsarticle/natnews/environment/123152/+%E7%B4%A0%E6%9D%90%E3%83%A1%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%83%BC%E7%92%B0%E5%A2%83%E5%81%BD%E8%A3%85&hl=ja&ct=clnk&cd=2&gl=jp

素材メーカーによる環境偽装の発覚が後を絶たない。製紙に始まり、インク、プラスチックと、偽装は底なしの様相をみせる。顧客からの要望とコストの板挟みで、安易な偽装に手を染めた製造の現場。国民の環境意識を裏切っただけでなく、経済成長と折り合いをつけて拡大してきた環境ビジネス自体の信頼を揺るがしかねないが、肝心の業界の危機感は十分とはいえない。(吉村英輝)
 製紙業界幹部は15日早朝、東京・銀座の日本製紙連合会事務局がある紙パルプ会館に集まり、再生紙の古紙配合率問題のあり方を検討する第3回会合を開いた。この日の会合では、問題の再発防止と信頼回復策として、再生紙の配合率を今後は実数表示と、割合に幅をもたせた段階表示の是非を協議した。
「再生紙のあいまい定義が偽装を招いた」との反省を受けた検討会のはずだが、「努力して1%配合している企業もある。少ない実数表示では再生紙を売りにくく、古紙利用推進にも逆効果」(梅村美明・製紙連理事長)との意見が通り、厳密な実数表示の一本化を見送った。顧客視点よりも、供給者側の論理に立った横並び体質の強さが通ったかのようだ。
 偽装発覚連鎖の発端となった年賀はがき古紙配合率偽装問題で、製紙大手首脳は謝罪会見で基準の配合率について、「そもそもあんな高水準は不可能」と開き直った。
 これには発注元の日本郵政幹部が、(1)再生はがきの古紙配合率を40%と定めた公社時代の委員会には製紙連幹部も了解していた(2)古紙100%の私製はがきでも、製紙各社が偽装理由にあげる郵便番号の自動読み取りは機能している-などと反論した。製紙側の「他社があの程度の配合率なので、うちもならってしまった」との弁明を紹介し、受注とコスト競争が偽装の温床と示唆する。
 2月に入り、偽装問題は他にも飛び火した。大豆油インクの使用を表示する「ソイシール」や、環境配慮製品を認定する「エコマーク」での不正が発覚した。その後さらに、三井化学子会社が事務用ファイルの表紙向けに製造する再生樹脂シートで、平成8年の製造開始直後から環境偽装があったと発表。納入先の文具大手コクヨは、再生紙ノートに続き名刺ファイルなど環境配慮製品の生産中止に追い込まれた。
 三井化学は「古紙偽装問題を知った工場幹部から、同様の問題があるとの告白を受けて判明した」と説明。再生樹脂を混入すると色合いなどの品質維持が難しく、工場幹部は「基準通りの混入率では歩留まりが2割程度に落ち込んだ」と弁解したという。
 偽装問題の業績への影響を「全製品に占める割合は少ない。軽微」(王子製紙の篠田和久社長)と応える業界。製紙業界団体が第三者機関として設置した検証委員会の大江礼三郎委員長(東京農工大名誉教授)は「技術の問題でなく、心の問題」と指摘する。国民の環境意識の高まりと大きく隔たる意識の低さ。消費者からの苦情が直接届かない素材メーカーだからこそ、自らを律する厳しい姿勢が求められる。

犯罪心理学者 花見小路珠緒の不思議事件ファイル (グラフ社ミステリー)
村上 信夫
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事故米事件の陰になったもう一つの食品偽装「サンライズフーズの鰻産地偽装」

2008年09月24日 06時33分19秒 | Weblog
 おはようございます。
 昨日の「新・温故知人」(フジテレビ「とくダネ」)は、千葉と福岡の幼児殺人事件の進展などで急遽、休止になった。期待された方、すみません。次週は、女優・夏目雅子さんです。(深浦加奈子さんは、10月7日予定しています)
 
 さて、三笠フーズにいよいよガサ入れのようだが、事故米偽装事件の規模には及ばないが、・・・そのため、報道されないのが残念だが、実は、下記、サンライズフーズの鰻産地偽装も拡大しつつある。台湾産を宮崎産に偽装した「宮崎産うなぎ偽装」(6月)、中国産うなぎを人気産地の愛知県の一色産に偽装した「一色うなぎ認証シール」(11月)「一色フード事件」(‘08年8月)などが相次いでいるが、中でも、サンライズフーズは同種の事件を繰り返し、摘発されると関連会社を解散させてきた。とはいえ、手口の類似性といい、サンライズフーズ以外にもまだまだ、特に、輸入鰻の一部は抗生物質や残留農薬の心配もあり、こちらの「食品偽装」も注目したい。

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【(8/30)愛媛の業者、ウナギ全量産地偽装か 330万匹、生産実態なし】

http://www.nikkei.co.jp/sp2/nt217/index20080922NTE2INK0522092008.html

 水産加工会社のサンライズフーズ(愛媛県伊予市)が産地不明のウナギかば焼きを「愛媛県産」と偽装していた問題で、同社が昨年3月から今年5月までに出荷した約330万匹のすべてについて産地を偽装していた疑いが強いことが30日、農林水産省の調べで分かった。同社工場での生産実態はほとんどなく、実際は中国産などのウナギを使っていた可能性が高いという。
 これまでに産地偽装が確認されたウナギかば焼きは、昨年3月―今年5月にエスケイ養鰻場(松山市)から仕入れたかば焼き約330万匹のうち約2800匹。これらのウナギは高知県または宮崎県産だったが、製品に「愛媛県産」と表示して販売した。

犯罪心理学者 花見小路珠緒の不思議事件ファイル (グラフ社ミステリー)
村上 信夫
グラフ社

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