時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(二百四十九)

2008-04-27 08:44:15 | 蒲殿春秋
「では、六郎ではなく藤九郎の娘を使えと?」
「さよう。蒲殿ご内室となられれば、遠江の住人との接点も増えましょう。
藤九郎殿やその娘御ならば殿より安田殿を重んじるということは考えられませぬゆえ。」

主従は静かに見つめあい、お互い不敵な笑みをこぼした。

「ならば安心して伏見を遠江に戻すとするか。」
「それがよろしゅうございまする。ところでもう一つ気がかりがございまする。」
「木曽か?」
「はい木曽殿の動向にございまする。ここのところ坂東ものの中にも木曽へ心を寄せるものが増えているように思われまする。」
「そうだなそのことも気がかりじゃ。ならば今のうち駿遠に対する手を打たねばならぬな。」
「それならば、蒲殿の婚儀の支度を急がねばなりませぬ。
その為には殿と御台さまは仲睦まじゅうあらねばなりませぬ。
御台さま抜きにこの婚儀は進みませぬゆえ。」

その言葉に頼朝は何も答えない。困惑の表情を浮かべている。

「今宵、藤九郎殿の御内室が御台さまのもとに赴かれておりまする。
御内室は殿と御台さまの縁を結ばれた方。
今でも、お二人が仲睦まじく生きていかれることを真に望んでおられまする。
あのお方ならば御台さまの殿に対するわだかまりをぬぐうことができるやもしれませぬ。」
頼朝は沈黙したままである。

そこへ一人の男が現れて「御台さまがお越し願いたいとの事です。」
と口上を述べた。
頼朝は戸惑いの表情を浮かべている。
そこへ景時が頼朝の背中を押す一言を述べた。
「殿、是非お渡りになるべきです。この仲直りには駿河、遠江、三河の三国の行く末がかかっておりますぞ。
今宵を逃してはなりませぬ。」

その夜頼朝は重い腰を上げて政子の住む対へと向かった。

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