時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(五百四十九)

2011-02-06 23:20:55 | 蒲殿春秋
一方範頼はやや重い足取りで姉の邸へ戻った。
養父との再開は嬉しいことであったが、この先自分がどのように生きるべきなのかを選ばなければいけないという
事実を突きつけられたことが彼の足取りを重いものにしていた。

その範頼を一人の男が姉の邸で待ち構えていた。
その男は藤原範資ーー養父範季の実子である。
「六郎久しぶりだな。」
「これは、義兄上久しぶりで・・・」

この範資は範季の実子である。父によく似て学者としては優秀なのであるが、
どうも出世ということに関しては上手くいかない男である。

学者の家に拾われた範頼は、いやおう無く学問をさせられた。
しかし、幼少時から本格的に学問を仕込まれた範季の家の子たちに比べると物覚えが悪く、酷く苦労した。
この範頼の学問を助けてくれていたのが範資である。
もっとも範資はその頃出仕して忙しく学問以外の交流があまりなかった為兄弟の思いを抱く程親しいというわけではなかったが・・・

「何ゆえに高倉の家の顔をださぬ。そなたが来るのを父上や紀伊守(範季の甥藤原範光) が楽しみにしていたのに・・・」
「申し訳ありませぬ・・・」
「今日、父上に会うたそうじゃな。それを聞いてわしもそなたの顔を見たくなった・・・元気そうでなによりじゃ。」
範資はとりとめのない話をして範頼の前を去っていった・・・

それから、暫くの間範頼の元には養父の関係者がしばしば現れた。
そのなかでとりわけ多く足を運んできたのが例の範資。
その範資がよく一人の男を連れてきていた。
中原重能という人物である。
院近臣中原康貞の弟で文官として優れた能力を持っているが現在官職がなくこれといった主もない状態だという。
文を書かせてみると見事な文章を書いてみせる。筆跡も見事なものである。

「どうじゃ。使えそうな男だろう。」
と範資は言ってのける。

そのような日々を過ごしていたが範頼は少しこの時期考え込むことが多かった。

自分はこの先どうしたいのだろうか・・・
都には養父もいるし、姉もいる。
しかし鎌倉に妻を残してきている。そして自分を引き立ててくれる兄がいる。
そして三河には自分が築き上げた地盤がある。

どれも大切なものであるし、手放すことなど考えられない。

範頼の脳裏に浮かんだのが、父義朝の姿であった。
東国と都を往来し、その各地に自分と縁を結ぶものを置いていた父。
だが、都に比重を置くようになった父は遠江にいた自分とは疎遠になっていった。

どれも大切にする、けれどもどこに重きを置くべきなのか、範頼はまだ答えを出せずにいる。

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