時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(五百七十八)

2011-09-16 06:07:25 | 蒲殿春秋
寺院からの借財は避けたい、
けれども現在どうしても財は必要であるが財は無いという状況に範頼夫妻は追い込まれていた。

話し合った結果夫婦が出した結論は、とりあえず鎌倉殿頼朝に状況を話て相談するということと、瑠璃の実家を通して比企尼と、瑠璃の叔父河越重頼を頼ってみるという結論に達した。

翌日瑠璃は母と供に御台所政子を訪ねた。
政子と瑠璃の母とは伊豆からの付き合いがある。
瑠璃は範頼の家の内情を話し鎌倉殿からの支援を願った。
政子は即答せず鎌倉殿に話しをしてみると言った。

政子から範頼の家の内情を知った頼朝は満足と困惑を抱えた。

満足は内情が苦しいことを相談した範頼夫妻の行動に対してである。
自分に支援を求めたということは範頼が自分の影響下にあるということである。

困惑は支援を求められても充分な支援ができるだけの財政力が頼朝にないということである。
この時期頼朝は自身の荘園をさほど所有していない。
御家人達の中には荘園の管理をしているものが少ないが、この御家人達の荘園の所有者は都の貴族であり寺社である。
御家人達には荘園領主に年貢を納めさせなければならない。
荘園や公領の年貢をつつがなく納入させることによって頼朝の坂東の支配権は認められているのである。
御家人達が集めた年貢等は納められるべき人の手に渡り、頼朝の手元には入らない。
その納入をさせなければ頼朝の東国支配権は剥奪されかねない。

鎌倉における臨時役の出費は御家人自身がしてくれるが頼朝の恒常的な収入はあまりない。

しかも木曽攻め、福原攻め、甲斐信濃侵攻と兵役が多かったこの年は御家人達も戦にかかる費用で窮乏しており、あまり御家人達に負担をかけるわけにもいかない状況だった。
この時期頼朝の内情も厳しかったのである。

範頼からの支援の願いを嬉しく思いつつ、充分な支援ができないであろう自身の境遇に当惑していた。

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