時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(五百五十一)

2011-02-10 06:39:45 | 蒲殿春秋
そしてもう一つ重要な嫡女の役割がある。
それは、霊的に男の兄弟を守ること。
古来この国では「妹の力(いもの力)」というものが信じられていた。
これは姉妹が(妹はかならずしも年下の女兄弟を意味しない)男兄弟を霊的に守るということ、とそう信じられいた。
女兄弟が男兄弟を見えない力で守る力があると信じられていた。
特に最初にその家に生まれた女子などがその力が強いとも言われてきた。
ゆえに、父親は息子を守るべき存在を息子の女兄弟から選び取る。大姫と呼ばれる最初に生まれた女子が「嫡女」と定められることが多い。
選びとられた娘はその家の嫡女となる。

そして源義朝が嫡女として選んだのが、義朝の大姫であり嫡子頼朝の同母の姉、つまりここにいる坊門姫なのである。

その姉は嫡女としての役割を忠実に果たそうとしている。

姉は弟達を必死に霊的に守ろうとしている。

恨みを呑んであの世に旅立っていったものは、恨みの想いを捨てきれずあの世から怨霊となって、自分を苦しめた者達に復讐をする。

当時はそのように信じられていた。

源頼朝、そしてその代官として派遣された彼の弟達は戦いにおいて多くの者達を死に追いやった。
敗れ去った者達は何の恨みも抱かずに潔くあの世に旅立っていたものもいただろうが、恨みを残して死んでいったものも少なくない。
必ずやあの世から頼朝らに復讐をするはず、と、この時代を生きるものの人々の多くは感じていただろう

その怨霊を防ぐ有効な手立ての一つが、怨霊を供養することだった・・・・

もっとも、供養しても怨霊の活躍が封じ込まれるとは限らないのだが、何もしないよりはいいと考えられていた。

そして姉は大量の殺戮を行なった源頼朝とその弟達に復讐するであろう怨霊をなだめようと日々供養している。この家の嫡女として。

姉の供養は真剣そのものだった。
何しろ姉自身二十年以上も前の平治の乱で敗者の苦しみを味わいつくしている。
戦で敗れたものの無念さを誰よりも知り尽くしている。

この姉は弟達に襲い掛かるであろう敗れ去った者達の怨念の深さを身にしみて感じているであろう。

だから姉は必死に供養する。弟達を守る為に。

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