時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(三百三十)

2008-12-25 22:47:00 | 蒲殿春秋
天皇、後白河法皇ー治天の君たる院、そして摂政。
この方々を奉じて西国に下るという平家の思惑は思わぬところから破綻をきたそうとしていた。

寿永二年七月二十四日深夜、後白河法皇の元に密かにある知らせをもたらすものがいた。
治天の君である後白河法皇と平家との間には微妙な距離がある。
法皇には翌二十五日に都落ちするという話は一切伝えられなかった。

が、何者かが法皇に翌日の都落ちを密かに申し上げた。
深夜のことで目を覚ましているものも殆どいない。
法皇は信用できるごく少数のものだけを召され、御所とされている法住寺を密かに抜け出された。

法皇は七条京極へ向かわれその後鞍馬山に入られた。しかしそのまま鞍馬山にはお留まりにならずに山伝いに輿を歩ませ横川へと入られた。横川はもう比叡山の領域の中にある。今の平家には比叡山に強硬な申し入れをできる力は無い。

翌朝になって法皇がいないことを法皇にお仕えする女房達が知ることになる。
法皇のこの一連の行動をこのとき誰も知ることは無かった。

仰天したのは平宗盛らの平家一門である。
彼らは当然法皇も奉じていくつもりであった。
しかし、法皇はおわすはずに法住寺にはおられない。
法皇がどこにおわすかを探そうにも御所に残るものすら御幸先を知る者がいない。

こうしているうちに、七月二十五日の朝は空け日が段々と高く立ち上る。
近江には反乱勢力があり南からは源行家らが迫ってきている。淀川口の動きも活発になってきている。
平家はこれ以上出立を遅らせるわけには行かない。
法皇の御幸を諦め、平家は安徳天皇そして三種の神器を奉じて都を後にした。

六波羅、西八条といった平家の邸宅から火の手が登る。
都に一時激しい炎が巻き起こる。
平家が自らの屋敷に火をかけていったのである。

法皇を奉じるのを諦めたものの平家は天皇を奉じることによって正統性を主張しようと図った。
しかし都からの出立直後またもや平家の思惑は打ち砕かれることになる。

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