時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(五十八)

2006-10-29 13:53:30 | 蒲殿春秋
範頼が義経の寝顔を見入っているのに気が付いたのか義経はふと目を覚ました。
「兄上」
「すまぬ、起こしてしまったな」
「そなたはたいしたやつだ。そなたの策は全てあたったぞ」
そこまでいうと義経は少し困った顔をした。

「兄上、実は私には武門の血が負担になることがあるのです」
「なにゆえじゃ。そなたのその策、馬の乗りこなし武門そのものじゃ」

義経はまだうつむいている。

「兄上」
思い切って義経は顔をあげた。
「私は、弓がうまく引けぬのです。それに、体も小さい。
一軍の指揮をとるには貫禄が足りぬのです。」
「何を申す」

あれだけ見事な策を考えながらこの弟はまだ自らに不足を感じているのか・・・
「私は兄上がうらやましい。
強い弓を見事に引くし、立派な体をもっておられる」
義経はつぶやく。

そんな弟を範頼はやさしく見つめた。
「私は、そなたのような見事な策は思いつかぬ。
馬もそなたほどうまくのりこなせぬ。
確かに弓はそれなりに引ける。
されど、叔父の鎮西八郎殿(為朝)ほどの強弓はひけぬし
狙いを外すこともある。
そんなに私を買いかぶるな」
範頼はやさしく義経につぶやいた。

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