時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(四十三)

2006-09-13 00:54:35 | 蒲殿春秋
「私の娘です」
と、屈託なく義経は言う。
その表情の中に時折少年っぽさがのぞかさせられる。
「どうです、この子私に似ているでしょう」
自分の心の中では赤ん坊だった弟がすでに「自分の娘」を抱いて座っている。

一方自分は二十五にもなって未だに一人身・・・
そう思っても範頼はこの弟に負の感情を抱くことはなかった。
さわやかで、屈託がなく可愛げのある弟。

この弟はある種の輝きをもっている。
かつて、いや今でも憧れ続けている兄頼朝とはちがう輝きをこの弟は持っている。

さて、なにゆえ、この弟義経は子持ちとなって都からはるか離れた奥州で範頼の前に現れたのであろうか。

義経の母常盤は今若と離れた後、一条長成と再婚した。
手元に残った乙若と牛若(後の義経)は長成の子として育てられた。

しばらくして、乙若は後白河上皇の皇子八条宮円恵法親王に殿上童として仕えることになった。
けれども、童とはいえ、実父が「謀反人」義朝であることが知れると色々と不都合が生じてきた。
段々と宮の側にいることが難しくなっていった。
その状況を知った八条宮は乙若に出家を勧めた。
出家をすれば多少は、俗界のしがらみから開放される。
現に保元の乱の後に実力を振るった信西入道も
俗体の頃の彼を苦しめていた出自の低さから
法体になることによって開放され、それが彼の権力掌握の一つの手段となったのである。

乙若も宮の好意うけ、すぐに出家した。
八条宮円恵法親王から「円」の一文字を賜り円成と名乗った。
宮も乙若を気に入っていたのである。

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