時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(五百四十四)

2011-01-16 22:31:32 | 蒲殿春秋
範頼の答えを聞いて範季の表情が緩んだ。

その表情を見て範頼は安堵した。
先年亡くなられた参議殿とは院近臣藤原光能のことである。

範頼は思った。養父範季の思惑を。
範季は範頼の婚儀を一応は祝した。だが、手放しで喜んでいたわけではなかった。
その理由は妻瑠璃の実家の家格の低さである。
瑠璃の父安達藤九郎盛長はその祖が誰であるかも定かではない家系に生を受けた。
鎌倉殿の側近、そして鎌倉殿の乳母子の夫━━それだけが盛長のよるべき基盤である。

一方の範頼は左馬頭義朝の子。
そして範頼の兄頼朝は此度従四位に叙された。

つまり範頼と瑠璃の実家は家格の釣合いが取れていないのである。

そのことを恐らく養父範季は気にしているのである。
範季は瑠璃を範頼の家の「主婦」として認めていないかもしれない。

だが、今の表情でその危惧が薄らいだ。

盛長の甥足立遠元の娘の一人が都で院近臣の妻の一人になっている。勿論正室ではないが。
それが盛長の家の格を少しは上昇させている。

そのことで範季は範頼の現在の婚姻を少しだけでも認めようとしているのではないだろうか。

養いの父と子の宴は暫く続く。
そのような中範季はふと範頼に尋ねた。
「そなた、これからいかがする?」
「は?」
範頼は養父の不意の問いに戸惑った。

「この後鎌倉に戻るのか、それとも三河に腰を据えるのか、
それともこのまま都に留まり官位を望むのか?」

範季はのどかな物言いながらも得体のしれぬ威圧感をにじませながら範頼に問うた。

その問いに対して範頼は無言を貫いた。

しばしの沈黙がその場を支配した。

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