時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(百七十)

2007-09-21 05:39:55 | 蒲殿春秋
兄頼朝と対面する日が遂に訪れた。
その前夜範頼の元に安達盛長の妻小百合が男物の装束を一揃え抱えてやってきた。
「蒲殿、よろしければ明日はこの装束をお召しになられて下さい」
「かたじけない」
そういってありがたく借りることにした。

翌朝、頼朝が住む大蔵御所から迎えがきた。
範頼は、当麻太郎と連れて大蔵御所へとむかう。
鎌倉の町は意外と狭かった。
町はずれと言ってもよい甘縄から馬に乗っていくとすぐに大蔵御所に到着した。

大蔵御所の門をくぐり、建物に入ると控えの間に通された。

━━ やっと兄上にお会いできる
そう思うと、期待と不安に包まれる。
兄には十年以上会っていない。

やがて、元服したてといった感じの少年が現れた。
「鎌倉殿がお待ちです」
その少年の先導で頼朝の居室へと向かう。

長い廊下を歩くと奥まった一室の前へとやってきた。
「こちらです」と少年は小声で範頼にささやく。
「御舎弟蒲冠者殿ご到着です」
と部屋へと呼びかけた。
「入られよ」
中からやや低い声がした。

範頼は少年の先導で部屋の中へと入っていった。

部屋の奥には、鎌倉殿である兄頼朝がいた。
兄の傍らには二十歳頃の若い男が控えている。

十数年振りにあう兄の外見は変わっていた。
以前伊豆の配所にいた頼朝は細身で多少頬のこけた青年であった。
しかし、目の前にいる人はやや太っている。
口元には髭を蓄え、年相応の貫禄がある。

範頼は兄に一礼した。
兄も礼を返した。

「六郎、よく参られた。」
そういった頼朝の顔には笑みがたたえられていた。

そして、兄は弟を凝視する。
しばらくして
「六郎本当に大きくなったな」
と、しみじみ言った。

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