いくさの支度は慌しい。
武具馬具、馬、そして兵糧と馬のえさ。
戦のいく先が遠くになればなるほど多くの支度が必要である。
今回の行く先は都である。
東国から都は遠い。
しかもここ数年の飢饉と戦乱の結果都や畿内には物資も食糧も不足している。
なるべく都や畿内から食糧や物資の挑発をしないために
従軍する御家人達は数十日分の兵糧等を持参するように頼朝から命じられている。
大軍が畿内や都から兵糧を挑発したならば義仲の二の舞になるからである。
その為、此度の出陣の支度はいつもより大掛かりなものとなってしまう。
それは大将軍源範頼とて例外ではない。
いや、大将軍だからこそ忙しいというべきか・・・
彼や、彼の従者に必要な支度の多くは範頼が本拠地を置く三河において既に行なわれている。
三河には範頼の長年の郎党当麻太郎と舅安達盛長が使わした郎党がいる。現地ではかれらが采配をふるっている。
そして主がいる鎌倉の範頼屋敷において差配を振るっているのが妻の瑠璃。
範頼の屋敷の蔵や財物の全ては瑠璃が差配しており、三河や瑠璃の領地のある武蔵からの支度の進捗具合も瑠璃の耳に届くようになっている。
範頼が土肥実平らと共に出陣に関する詳細を詰めている間も瑠璃は支度に余念が無い。
その瑠璃がここのところ凄くくたびれきった顔をしているのである。
自分の支度で精一杯だった範頼はここにきてやっと妻の異変に気が付いた。
「大丈夫か?」
「大事ございませぬ。」
と瑠璃は言うが、どうみても大丈夫には見えない。
二言三言言葉を交わすと瑠璃はそそくさと次の動作に移っていく。
その夜範頼は妻の異変の理由に気が付いた。
寝所においては出陣も近いということもあってここのところいつもより激しい求め合い方をしている。
その後範頼はくたびれて眠った。
だが、出陣に対する興奮もあってすぐに目が覚める。
ふと見ると隣にいるはずの妻がいない。
音を忍ばせて妻の行方を捜す。
すると持仏堂から明りが漏れているが見てとれた。
そっとのぞいてみると
御仏に向かって二人の女性が一心に祈っている。
妻の瑠璃と侍女の志津である。
普段なら扉が少し開いたことに気が付くはずであるが、それにも気が付かぬほど一心に祈っている。
「なにとぞ、殿に御武運を。」
「出陣するもの皆をお守りください、できましたら藤七も。」
彼女達の口からそのような言葉があふれ出てくる。
皆が寝静まった後、瑠璃と志津は毎晩こうして遅くまで戦に行くものの無事をこうして祈っていた。
ここ数日ろくに寝ていないはずである。くたびれるはずである。
範頼はそっと扉を閉めた。
夜はもうかなり更けているはずである。
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武具馬具、馬、そして兵糧と馬のえさ。
戦のいく先が遠くになればなるほど多くの支度が必要である。
今回の行く先は都である。
東国から都は遠い。
しかもここ数年の飢饉と戦乱の結果都や畿内には物資も食糧も不足している。
なるべく都や畿内から食糧や物資の挑発をしないために
従軍する御家人達は数十日分の兵糧等を持参するように頼朝から命じられている。
大軍が畿内や都から兵糧を挑発したならば義仲の二の舞になるからである。
その為、此度の出陣の支度はいつもより大掛かりなものとなってしまう。
それは大将軍源範頼とて例外ではない。
いや、大将軍だからこそ忙しいというべきか・・・
彼や、彼の従者に必要な支度の多くは範頼が本拠地を置く三河において既に行なわれている。
三河には範頼の長年の郎党当麻太郎と舅安達盛長が使わした郎党がいる。現地ではかれらが采配をふるっている。
そして主がいる鎌倉の範頼屋敷において差配を振るっているのが妻の瑠璃。
範頼の屋敷の蔵や財物の全ては瑠璃が差配しており、三河や瑠璃の領地のある武蔵からの支度の進捗具合も瑠璃の耳に届くようになっている。
範頼が土肥実平らと共に出陣に関する詳細を詰めている間も瑠璃は支度に余念が無い。
その瑠璃がここのところ凄くくたびれきった顔をしているのである。
自分の支度で精一杯だった範頼はここにきてやっと妻の異変に気が付いた。
「大丈夫か?」
「大事ございませぬ。」
と瑠璃は言うが、どうみても大丈夫には見えない。
二言三言言葉を交わすと瑠璃はそそくさと次の動作に移っていく。
その夜範頼は妻の異変の理由に気が付いた。
寝所においては出陣も近いということもあってここのところいつもより激しい求め合い方をしている。
その後範頼はくたびれて眠った。
だが、出陣に対する興奮もあってすぐに目が覚める。
ふと見ると隣にいるはずの妻がいない。
音を忍ばせて妻の行方を捜す。
すると持仏堂から明りが漏れているが見てとれた。
そっとのぞいてみると
御仏に向かって二人の女性が一心に祈っている。
妻の瑠璃と侍女の志津である。
普段なら扉が少し開いたことに気が付くはずであるが、それにも気が付かぬほど一心に祈っている。
「なにとぞ、殿に御武運を。」
「出陣するもの皆をお守りください、できましたら藤七も。」
彼女達の口からそのような言葉があふれ出てくる。
皆が寝静まった後、瑠璃と志津は毎晩こうして遅くまで戦に行くものの無事をこうして祈っていた。
ここ数日ろくに寝ていないはずである。くたびれるはずである。
範頼はそっと扉を閉めた。
夜はもうかなり更けているはずである。
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