時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(百九十八)

2007-10-28 13:49:25 | 蒲殿春秋
範頼の様子がおかしいという館の噂を聞いた小百合は
菓子を持って範頼の部屋へやってきた。
小百合は一連の不審な行動の原因が例の話であることを察していた。

範頼に菓子を勧めた。
いつもならば直ぐに菓子に食いつくところであるのだが
中々菓子に手が伸びない。
やはり、おかしい。

その様子を見て小百合は安堵した。
今日話題になった範頼の一連の行動は小百合の夫安達藤九郎盛長がかつて一時期
とっていた行動に似ている。
そしてその不審な行動が究極に達した日、盛長は小百合に求婚した。
━━ そういえば、わざわざ武蔵国比企にいる母に自分との結婚を願いにいった
藤九郎は母の勧める菓子に中々手を出さなかった。今の蒲殿のように。
そんなことを思い出していた。

瑠璃も瑠璃で決して範頼のことを嫌っているわけではないのに
不自然な態度をとる。
これも父盛長とまったく同じである。

━━全く不器用なんだから。
心の中で渦中の二人に毒づきながら、小百合は娘の婿になるかも知れない男を
好ましく思っている。

範頼はといえば、姑になるかも知れない女性を目の前にして緊張し
まだ菓子に手を伸ばしていない。
この前まで当たり前にすぐ食べていたのに。

「御内室」
不意に範頼から声がかかった。
「この縁談はどこまですすんでいるのでしょうか?」
「はい?」
「私は鎌倉殿から何もこのお話を聞いていないのですが。」
「さようですか。
何しろ、先日私も鎌倉殿からお話を伺ってばかりです。
恐らく我が夫の返事を待ってから蒲殿の元にお話を進めるご存念かと・・・」
「安達殿の?」
「はい、今三河にいる夫に書状が行っているはずです。」

「ご内室、率直にお尋ねします。
娘御を私のようなものが妻に頂いてよろしいのですか?」
「といいますと」
「私は既に三十になってしまいました。娘御はまだお若い
年の離れた私に娘御を嫁に出すのは惜しくはないのですか?」

小百合はまじまじと範頼の顔を見つめた。
範頼が言った言葉は紛れもない真実である。
この言葉をどのように受け取ればよいのであろうか?

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