時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(百七十二)

2007-09-23 05:46:30 | 蒲殿春秋
一通りの儀礼が終わると、頼朝が退出し次いで範頼も席を立った。

大広間から離れると
「次は、北の対までお越しくださいませ。
鎌倉殿の御台所様と姫君がお待ちになられております。」
と、江間四郎がささやいた。

北の対に到着すると女房が出迎えにやってきた。
それを入れ替わりに小山七郎は「では私はここで失礼します」
と行って去って行ったが
江間四郎はそのまま範頼と一緒に女房についていった。
奥まった一室へと通された。
「どうぞ、お入りくださいませ」
と、中から女性の声がした。
範頼は一瞬躊躇したが
江間四郎は「では」といって何の遠慮も無くすぐに入っていく。
つづいて範頼が入っていくと
「おじちゃま!」
と小さい女の子が声を発した。

「?」
一瞬範頼は戸惑った。
「おじちゃま、このひとだあれ?」と女の子は江間四郎に向かって尋ねる。
「このお方は、お父上の弟君ですよ。このお方も姫のおじちゃまなのですよ。」
と江間四郎は女の子に向かって微笑んで言った。
女の子は不思議そうな顔をして、はじめて会った背の高い叔父上を見た。
どこか納得がいっていないというような顔をしている。
次に奥に座る母親の膝に座り、母の胸にひしっとしがみついた。

「蒲殿、驚かれますな。姫君は多少人見知りするところがございまして。
お気を悪くなさりませぬように。」
と小声でささやいた。

ちょっとした騒動の後
「ようこそお越しくださいました。」
と兄の妻が声をかける。
「姫が失礼を致しました。お詫び申し上げます」
と深々と礼をされた。
あわてて範頼も頭を下げる。

━━ 若いな ━━
これが、範頼が兄の妻に対して抱いた最初の印象だった。
恐らく自分よりは年下だろう

数刻の間、御台所、姫、そして御台所の弟である江間四郎義時と歓談した。
御台所は勝気さが感じとれたが、闊達できさく、そして賢くて
北の対では時が経つのを忘れるほどの楽しい時間を過ごすことができた。
しかし、姫はずっと母の側から離れず、新しく現れた叔父上に対する警戒を緩めない。
なかなか手ごわいお姫様である。
━━この姪と打ち解けるにはしばらく時間がかかりそうだ。
と、兄の家族に対してはこの点が懸案になりそうである。

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