原題: Blancanieves
監督: パブロ・ベルヘル
出演: マリベル・ベルドゥ、ダニエル・ヒメネス・カチョ、アンヘラ・モリーナ
第10回ラテンビート映画祭 公式サイトはこちら。
映画『ブランカニエベス』 公式サイトはこちら。(2013年12月より新宿武蔵野館ほかにて日本公開)
人気闘牛士の娘カルメン。彼女が生まれると同時に母は亡くなり、父は意地悪な継母と再婚。カルメンは邪悪な継母に虐げられる幼少を過ごす。ある日、継母の策略で命を奪われかけた彼女は、“こびと闘牛士団”の小人たちに救われ、「白雪姫(ブランカニエベス)」という名で彼らとともに見世物巡業の旅に出る。そんな中、女性闘牛士として頭角を現したカルメンは、行く先々で圧倒的な人気を得るようになるのだが…。
2013年ゴヤ賞作品賞・主演女優賞等最多10部門受賞したほか、世界の主要映画賞を50部門以上受賞した傑作ダーク・ファンタジー。衣装デザイン賞受賞のパコ・デルガドは『レ・ミゼラブル』の衣装も手掛けたスペイン屈指のデザイナーである。(LBFF2013 公式サイトより)
もうこれを先行でご覧になった方もちらほらTwitterのTL上に散見されて、評判もよく結構期待してました。
やっぱりスペイン映画には自分的に期待する部分が多いんですよね。
(以下所々ネタばれあります。読む方は自己責任で)
冒頭からモノクロームの無声映画、しかも舞台は1920年代。闘牛にフラメンコ、ここまででますます期待値がUPしてしまう。
白雪姫をベースにしているだけに、悲劇のヒロインの虐げられっぷりもいじらしく、そして出会うべくして出会う魔女の底意地の悪さも徹底的。カルメンにもアントニオにも何の落ち度もないのに、裕福で恵まれているからというだけで一方的に恨まれてしまうのもまた運命なのか。
生まれて以来続くカルメンシータの苦渋の日々、そこにわずかながらも入って来る飛び切り明るいフラメンコのシーンが、彼女に流れている正統の血筋を物語っている。世知辛い世を照らす一輪の真紅の薔薇のような存在だった亡き母カルメン、その亡き母カルメンに血を吹き込んだと思しき祖母もまた華麗なフラメンコで若き日を偲ばせ、孫のカルメンシータも幼いながらその片鱗を見せる。フラメンコとは人間の生身の感情をダイレクトに表す舞踊、3人の女たちのひたむきな踊りの中に、彼女たちが送って来た人生の無念と、少しの喜びやきらめきを感じさせる。この物悲しさを引き立てる役割をしているのが、バックに流れるパルマのリズム。ここまで来るともう、完璧なまでの物語の運び方。
ここまでに血とか血筋という言葉を多く使ってしまったけど、本作には随所に「赤」を連想させる場面が出てくる。
例えば闘牛士のマント、闘牛士やカルメンに投げられる一輪の薔薇、流れ出る血液、フラメンコの衣装、真紅の唇。
情熱の色であると共に、時として制御の効かない例えにも使われる赤。これらは容易に映像から推測はされるものの、モノクロームであるがために、決してスクリーンで色が見えることはない。むしろ色を見せないことで赤という色の持つパワーと魔力を感じさせている。このあたり、邦画だが『海と毒薬』を思い出した。あれもモノクロの作品なれど十分に血の恐ろしさが伝わってきた作品だった。
色が見えない、そして無声映画なので声も聞こえない、これらは全てカルメンが望むように生きられないことと関連している。どんなに叫んでも訴えても、父母から受け継いだ血筋を持ってしても叶わない人生。真紅の呪いに縛られたカルメンは、望まずして転がり込んだ白雪姫として生まれ変わりたかったのかも知れないが、一度赤く染まった人生を白く塗り替えることは容易ならざることだから。
カルメンと相対する継母(=魔女)のマリベル・ベルドゥもまた、ブランカニエベスの「白」に対しての「黒」を見事に演じている。この世にこれ以上の意地悪はないんじゃないかと思わせるのはさすが。
「こびと闘牛士団」の面々も実際に低身長の俳優が起用されており、そして王子様にもちゃんとその役割にふさわしい俳優が起用されているところも、ダークファンタジーなのに細かい所の辻褄をきっちりと合わせてきた節が窺える。王子様かと思いきや・・・というところも、本作が一筋縄ではいかない伏線となっていて素晴らしい。あるいは勘のいい人ならば、カルメンの母が闘牛場で「ある物」を取り損ねた所からもうそれを感じているのだろう。
モノクロームの無声映画といえば、最近では何と言っても『アーティスト』なのだけど、あちらが明るくテンポのある作品なのに対して本作はどこまでもダークファンタジー。それでいて両者とも無声映画へのリスペクトを忘れてはいない。しかしながら全ての映画が同じような結末を迎えることはなく、そして既存の白雪姫のステレオタイプに縛られないといけない規則もなく、逆転の発想で新しくダークな「ブランカニエベス」を生み出した手腕には脱帽させられる。スペイン映画独特の、人生観への恨み節はここでも見事に花開いた感がある。
★★★★★ 5/5点
roseさんもだいぶ気に入られたみたいですね~。
モノクロなのに赤を感じる、私も同感で全く同じことを書きましたよ。
『海と毒薬』もそうと聞いて気になります。私あれ小説しか読んでないので。今度機会があったら見てみようかな。
でも楽しみな1本
Roseさん、評価高いねー!
公開までまとうっと。
だってすごいよかったもんね~。
あの終わり方がよいのですよ。
モノクロなのに血の赤の気味悪さを感じさせるのはさすがですよ。『海と毒薬』もそう。
この雰囲気が出せるからこその、話の不安定さというか、そこがよかったのです。
きっとmigちゃん気に入ると思うよ。
感想聞かせてねー
それは同時にモノクロ無声映画という手法にも言えて、別にカラートーキーより劣るものではなく、作り方によってはこれでしかありえない映画もあるのだという事も雄弁に伝えてくれました。
大変な意欲作ですね。
斬新でしたねえ。しかも途中から古典じゃなくなってる。
現実世界なんですよね。そこがもうたまらなくよかった。
>作り方によってはこれでしかありえない映画もあるのだと
オリジナルが古典ものなので、余計にそう感じますよね。モノクロ無声がどんぴしゃ来てました。
「赤」ですか…。
モノクロ映画の中にその“色”を見たrose_chocolatさんの
審美眼に感服です。
「モノクロームに赤」といえば『海と毒薬』を思い出したんですよね。
あの強烈な赤。どんなにか凄みがあったことでしょう。もちろん本作もですが。
確かに、白黒の奥行きや広がりを感じる作品でした。
隠れ「赤」も納得です!!
roseさんのベストに背中を押され、おかげさまで楽しめました♪
いい作品なのになあ。
劇場でご覧になれたとのことで、よかったですね。
赤はよかったでしょう~?
あれが凄みの秘密なんでしょうね。