原題: Populaire
監督: レジス・ロワンサル
出演: ロマン・デュリス 、デボラ・フランソワ 、ベレニス・ベジョ
映画『タイピスト!』 公式サイトはこちら。 (2013年8月17日公開)
【フランス映画祭2013】『Populaire(原題)』 ページはこちら。
世界がドラマティックに変化した、1950年代末。女性たちは自由を求めて社会へ飛び出し、夢に向かって羽ばたいた。スターになれる道は色々あったが、今では想像もつかないのが、〈タイプライター早打ち大会〉。オリンピックさながらの各国代表による激戦を勝ち抜いた女王は、国民のアイドルだった。そんな時代のフランスを舞台に、早打ち以外は何ひとつ取り柄のない女の子が、世界大会を目指す姿を描くサクセス・ストーリーが完成した。(フランス映画祭2013 公式サイトより)
本作は『アーティスト』や『オーケストラ!』の制作陣と同じだそうで、言われてみればサクセス・ストーリー的な展開なども似ている。ベレニス・ベジョも出ているしすぐ気がつく人も多いことだろう。
1950年代と言えば、女性たちは社会進出はしたものの、社会的な地位としてはまだまだ低く見られていた時代。第2次大戦が終わって社会に飛び出したとしても女性の職種は少なかっただろうし、例えそれ以上の社会的な地位の向上は望めず、いずれは退職するとわかっていたとしても、女たちはタイピストに憧れて志願が殺到した、そんな時代のお話。
タイピストという職業は今ではほぼなくなったはずだが、昔はこれは女性の職業という暗黙の了解があり、「タイプをする人=秘書」を兼務することも多かったのだろう。ボスは男性、秘書やタイピストは女性という区分けがきっちりとついていた時代だけど、この名残は今でも何となく残っている。ITが発達した60年後の今ではタイプ専門職は極めて限られているし、必ずしも秘書やタイピストでなくても女性の職業は多様にあるが、1950年代はタイピストが最も華やかで最先端の職業だったのかもしれない。
なのでタイプライター早打ち大会で優勝することは当時のトレンドだったのだろう。優勝すれば何と言っても話題になるし、同じ職業の女性たちの中では目立つし、タイプライター会社のコマーシャル的な要素でも使ってもらえる。稼げるし、ひょっとしたら玉の輿にも乗ったりできるかもしれない。今でいう所のセレブ扱いに近そう。こんな大会が、しかも世界大会レベルで存在したこと自体が驚きだが、スターに憧れる女子の気持ちと、スキルアップを組み合わせたこの大会は当時はそれはそれは華やかだったことだろう。原題の"populaire" は、劇中のタイプライターにも使われるが元々は「人気」という意味。有名になって人気が出て・・・という流れがちゃんとできてしまっている。
とはいえ、そんな女性も当時はあくまで男性に従属する立場としてしか存在しなかったし、採用する側もそれ以上のことは求めていないのは、本作からもよくわかる。あくまでも補佐役としての有能な女性の採用。その求人に殺到する女性たちの中から何を基準に先行するのか、それは言わずもがななのは、冒頭ルイが応募した女性たちをぐるりと眺めまわすシーンからもよくわかる。仕事ができることは当たり前、要するにそれ以外の要素が必要になって来る。分かりやすく言えば「好み」「自分のタイプ」「雰囲気がよさそう」そんなところ。
最初から秘書を自分の引き立て役として採用することに加えて、ボスと秘書が恋愛関係にあることは珍しくはなかったし、逆にそれが玉の輿への近道なので望む女性も多かった。ウーマンリブの前の時代は、募集する側も応募する側もギブアンドテイクの関係を利用していたようにも思える。
ローズもまさしくそんな女性たちの中の1人で、淡い気持ちで応募してみたら奇妙な癖がルイの目に止まって採用されることになった。しかしタイプライター早打ち大会までは考えてなかったに違いない。次第にルイに惹かれるにつれて大会への特訓も激しくなり注目も浴びる、しかし仕事も恋も順風満帆と行くのはなかなか難しい・・・単なるスキルアップではなくてそこには昇進や生活の変化や、今以上に多くのものがかかっている。そしてできれば恋(社内恋愛?)も成就させたい。昔も今も変わらない「働く女子の悩み」がそこにある。
デボラ・フランソワは自分の中では『踏めくりの女』の印象があって、内に秘めたるものを持つ女優というイメージだったが、本作ではそのイメージからは全く違う彼女を発見することができる。「マリリン・モンロー+オードリー・ヘップバーン÷2」という印象。ブロンドの髪はマリリンのコケティッシュな雰囲気を思わせて、顔立ちはオードリーのいたずらっぽい雰囲気に似ている。どこまでもポップなストーリー展開と50年代のオールディーズな映像にもよく合っている。サクセス・ストーリーにふさわしく芯が強い所も忘れてはいない。
ロマン・デュリスも、ローズを想う気持ちと自分が抱える過去との板挟みになるルイを好演している。そしてベレニス・ベジョはローズのお姉さん的な目線であくまでも優しく支える役目。全てがさりげなく、夢心地のようなタッチで展開される本作は、観終わった後にテンションが上がって心から楽しめる要素がたくさん。ラブシーンも美しく、50年代ファッションも素敵なので、女子の口コミも広がりそうで共感も多いことだろう。
★★★★ 4/5点
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上映後、トークショーがありました。
登壇者はレジス・ロワンサル監督、デボラ・フランソワ。主演女優が来ると華やかです。
このようなコンクールは、1920年代~30年代くらいにタイプライターの会社の宣伝で始まったそうです。この話を聞いた時、監督は「ロッキーみたいなスポ根にラブストーリーを埋め込みたかった」と感じ、それが本作の元となっているようです。
「脚本を読んだ時、これは絶対に私がやりたいと思った」と振り返って語るデボラの想いも見事に通じている作品ですね。
・タイプシーンのスタントは一切なく、6ヶ月くらいひたすら特訓した。タイプを打つ癖でPCを触っていて壊してしまったこともあった。
・当時のタイプライターを世界中から探すのは本当に大変な作業で、壊れた時の予備も用意しないといけないため、同じものを用意するのは至難の業でした。タイプライターを塗り直してもらったりそれはそれは大変な作業だった。
などなど、裏話もたくさん披露してくれました。デボラはお茶目なトークもたくさんしてくれてとてもリラックスした様子でした。本作で日本でも知名度は上がることでしょう。
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昔、手動のタイプライターを使ったことがあるのでわかるんだけど、あれって今のPCキーとは違って1つ1つの打刻がとっても重たいんですよね。キーパンチャー病なんていう職業病もあったくらいなので、タイプをあれだけ早く打っていると手首に支障が出そうで。
それでも昔の女性たちは自分の名誉のため、将来のために打ち続けたのかと思うとなんだかいじらしくもあり、それも「女子力」のなせる技なのかなと妙に感心したりします。まあとにかく楽しかった。そんな気分になりたい方はおすすめです。
ご一緒だったのですね~
やっぱりこの映画祭は映画好きが集まりますね♪
とても重かった「母の身終い」を観た後だっただけに、楽しさも倍増でした。
デボラ・フランソワはこういう可愛い作品も似合いますね。
これからも活躍を期待したい女優さんです☆
nonさんも映画祭お好きなのですね。きっとたくさんニアミスしていることでしょう。
これはとても可愛らしくて明るい気分になるので、女性には人気が出ると思います。
(『母の身終い』もよかったけどね・・・)
デボラは役の幅が広がってよかったと思いました。
わたしのへっぽこブログへの訪問者はやはり♂が多く、予想通りタイピスト!<ホワイトハウス・ダウンという結果になっています。
♂でも楽しめる作品だと思うので、ぜひおっさん達にも観に行って欲しいものです。
本物を拝見させていただいたので余計にそう思うのかも。
これは男性の方が好きなんじゃないかという気がします。
この映画、古き良き時代の映画を
観せられたような印象でした!
デボラ、飛び抜けて綺麗というわけでなないですが、
キュートでカワイくて良かったです~♪
フランス映画、ここのところ巻き返しをはかっているようですね(笑)
最近50年くらい前の時代を舞台にした映画が多いですね。
アメリカ映画もだけど、フランス映画にも多くなってきてます。
これはキュートで楽しい作品でしたね。
フランス映画なのにシアターがほぼ満席でびっくりしました。宣伝が行き届いたのでしょうか?
ロマン&デボラ、コンビも素敵でしたし、とても素敵映画でした。
最近こういった映画が少ないので久々に楽しめましたね。
口コミ効果もきっとあるんじゃないかと思います。
フランス映画であっても、いいものにはお客さんがちゃんと来るっていうことでしょうか。昨年の『最強のふたり』もそうでしたしね。
こちらの『タイピスト!』も素敵でした。
「メモリーズ・コーナー」の時は、暗すぎて、どうにかなるんじゃないかってなくらいでしたが、今回のこれはとってもいい感じ。
時代もいい塩梅に出てて、お気に入りとなりました。
『タイピスト!』とはまた違う緊張感のある役でした。機会があったらご覧くださいね。