日本の外交というと、最近どうも「東アジア」と「アメリカ」関係で騒ぎが多いので、他の地域のことを忘れがちですが、そんな中面白い記事を見つけました。
経産相とウズベキスタン首相が声明、資源開発で関係強化へ
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20070428i112.htm?from=main1
--------以下引用--------
ウズベキスタン訪問中の甘利経済産業相は28日、同国のミルジヨエフ首相と会談し、ウランや石油、天然ガスなどの資源開発や技術協力の面で関係強化することを明記した共同声明を発表した。
声明では、日本企業によるウズベキスタンへの投資を促すため両国官民による「ビジネス・投資環境改善ワーキンググループ」を設けることを盛り込んだ。
一方、独立行政法人の石油天然ガス・金属鉱物資源機構とウズベキスタン政府がウランなどの探査・開発で協力を進めることなど、3件の覚書を両国の官民が交わした。
甘利経産相は29日、ウラン埋蔵量で世界第2位のカザフスタンを訪れ、同国のナザルバエフ大統領と会談する予定だ。
--------引用以上--------
「ウズベキスタン」「カザフスタン」という、おそらくみなさんに耳慣れない国名が登場しました。
上の二カ国はいわゆる「中央アジア」に位置する国です。
この地域の特性を簡単にまとめると、二つのポイントがあります。
1.トルコ系のイスラム教徒が多数派である
2.かつてソビエト連邦の一部だった
この地域は8世紀半ばにイスラム王朝であるアッバース朝の支配を受けて以来、支配的宗教はイスラム教でした(1.)。ところが、1552年にロシアがカザン・ハン国を併合して以降、ロシアの勢力が拡大し、それがそのままソビエト連邦に受け継がれたわけです(2.)。
ソ連は社会主義国家であり、社会主義(マルクス・レーニン主義)の中核思想は「無神論」でした。当然中央アジアにおける教育にもこの考えが持ち込まれました。今でも他のイスラム教国、たとえばサウジアラビアやイランに比べて、社会全体の宗教色は薄いです。
この地域は、1991年のソ連崩壊以降、一貫してロシアの影響から抜けだそうとしています。その際、国策として天然資源開発が組み込まれており、欧米の企業がたくさん進出しています。
今回の甘利大臣の訪問も、当然日本の資源戦略の一環でしょう。
では、日本は中央アジアでの資源開発に成功するでしょうか。
結論から言えば、あまり期待しない方がいいというのが私の考えです。
ところで、中央アジア二カ国の特性として、上で私が触れなかったことがあります。それは、
3.内陸国である
という点です。
そんなの地図を見りゃあわかるだろ、という声が聞こえてきそうですが、これは決定的に重要なことなのです。
上の地図で、もう一度ウズベキスタンを見てみて下さい。隣接している国全てに、ある特徴があります。何だかわかりますかね?
アフガニスタン、カザフスタン、トルクメニスタン、タジキスタン、キルギスタン・・・スタンスタンうるせえと言いたくなります(ちなみに「スタン」はペルシア語起源の単語で「国・地域」という意味)が、ここに挙げたのは全て内陸国です。つまり、ウズベキスタンは内陸国に囲まれた内陸国なのです。
ここから、日本にとって非常に重大な問題が持ち上がるのです。それは、資源をどうやって日本に運んでくるかというものです。
ウランや石油、天然ガスなどの資源を、飛行機に乗せて運んでくるわけに行きません。そんなことをしたら、運ぶ度に損失が生じてしまいます。
それなら、陸路で輸送して、船に乗せようということになるわけですが、これが非常に困難な方法なのです。
一番近いのは、ウズベキスタンからアフガニスタンを通り、パキスタンの「カラチ」という港まで運んでくるルートです。
アフガニスタン・・・何年か前にたびたび耳にした国です。今あの国はどうなっているんでしょうか。
アフガニスタンの治安現況
http://www.jiji.com/jc/c?g=saf2&k=2007042600654
--------以下引用--------
(1)アフガニスタンについては、首都カブール、ジャララバード、ヘラート、バーミアン、マザリ・シャリフ各市内に対して危険情報「渡航の延期をお勧めします。」を、これらを除く全土に対して危険情報「退避を勧告します。渡航は延期してください。」(「退避勧告」)を発出するとともに、スポット情報において、累次にわたりテロや誘拐の脅威について注意を促しています(2007年4月19日付けスポット情報「治安情勢」等)。
(2)3月4日にヘルマンド県でタリバーンに拉致されたイタリア人ジャーナリストが同月19日に解放されましたが、同解放は、アフガニスタン政府に拘束されていたタリバーン関係者の釈放と引き替えに行われた旨報じられました。さらに、4月3日にはニムローズ県でフランス人NGO活動家2人とアフガン人職員3人がタリバーンに誘拐されました。今後、タリバーン等の反政府勢力が、被拘束者の奪還に向けてさらに外国人を誘拐する可能性が指摘されており、日本人を含む外国人が誘拐の標的になる可能性は排除されないことから、特に東部については、より一層の注意が必要です。
(3)また、昨年の事例を踏まえれば、アフガニスタンでは雪解けが始まる春以降にテロリストの活動が活発化しており、今後は治安がさらに不安定化することも懸念されます。さらに、これまで外国人を標的とした誘拐事件や、日本のNGOのアフガニスタン人職員が搭乗した車両に対する銃撃事件が発生しており、日本人も誘拐やテロなどの標的となる可能性は排除されません。首都カブールにおいても多くのテロ事件が発生しているほか、昨年以降、全土で自爆テロ事件の発生が顕著になっており、本年1~3月期に発生した自爆テロは昨年同期の約4倍に当たる41件にのぼりました。
--------引用以上--------
>1~3月期に発生した自爆テロは昨年同期の
>約4倍に当たる41件
こんなところで、石油パイプラインを建設したり、ウランを輸送したりしたら、何が起こるかは、小学生でも想像できます。
かりに、アフガニスタンが何とかなったとして、パキスタンはどうでしょうか。たとえば、こんな資料があります。
中国とパキスタンの反テロ合同軍事演習「友情2006」
http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2007/01/post_2651.html
もう、タイトルだけで雰囲気が掴めますね。要するに、この国は中国の影響下にあるのです。
日本の資源外交を中国が助けてくれる、などと思っているお人好しは、訪日した温家宝の演説を「名前の通り温かい」だの「歴史的な名演説」だの、わけのわからないお世辞を言っている馬鹿共(●こちらのブログを参照)くらいでしょう。当然、横やりが入るに決まっています。
ところで、中国といえば、資源に飢えているとしかいいようのない行動を世界各地で展開しているのは有名です。
当然、中央アジアの石油・天然ガスも狙っており、すでに着々と地歩を固めているようです。
カザフスタン=中国間の原油パイプラインが建設開始(PDF)
http://oilresearch.jogmec.go.jp/enq/frame.php?lurl=/information/pdf/2004/0406_out_j.m_kz.cn_oil_pl.pdf
このニュースが出たのが2004年5月です。建設はかなり進んでいると思われます。
それ以上に、重要なのが以下のリンクの内容です。
中国と中央アジアを結ぶ「新シルクロード」建設
http://www.china.org.cn/japanese/244086.htm
--------以下引用--------
現在、中国国内では、連雲港から新疆ウイグル自治区のホルゴスまでの幹線道路がすでに全線開通しており、「新シルクロード」中国区間の整備はすでに完了している。中国とタジキスタンを結ぶ中国―タジキスタン自動車道路も開通しており、中国―キルギスーウズベクスタン自動車道路の建設工事もすでにスタートしており、タジキスタンーキルギス間およびタジキスタンーウズベクスタン自動車道路の建設および改造プロジェクトについても合意に達しており、カザフスタンを東から西へと横断する国際基準レール鉄道、中国―キルギスーウズベクスタン鉄道などのプロジェクトも前後して交渉のテーブルのテーマとなっている。
--------引用以上--------
この新シルクロードとやらが持つ意味を見逃してはいけません。
道路で国同士が結ばれるということは、両国の交流が活発になるということだけを意味していません。裏返しとして、有事の際に、隣接国に軍事力を投射できるという利点があるのです。
三つ前のリンクにある中国・パキスタン間の合同軍時演習の目的が「反テロ」であることを、みなさんはどう考えたでしょうか。
中国は、●「東トルキスタン」の分離独立問題を抱えています。
この地域を完全に中国に同化するために、女性は強制中絶、男性は政治犯として処刑しまくっています。そして、中国国内では、この問題にに起因するテロ行為や暴動が起こっているという話を聞きますが、中国当局は自分に都合の悪い情報は徹底的に握りつぶしており、日本や欧米には正確な情報が伝わってきません。
しかし、この問題は中国にとってはかえって「チャンス」でもあるわけです。なぜなら、東トルキスタンのウイグル人は「トルコ系イスラム教徒」であり、隣接国であるなんとかスタンに逃げ込んだテロリスト討伐という名目で、これらの国々に軍事力を差し向けることが可能だからです。反テロを錦の御旗にして世界中を荒らし回っている困った国が、こういう名目を使ってもいいよという風潮を作り出してしまったわけですが・・・。
つまり、仮になんとかスタンの国々が、中国と敵対する、もしくは、中国が敵対している国に協力するということになれば、「反テロ」を名目に人民解放軍が侵入し、権益の維持を図ることができるということです。
実際には、そのような中国による侵略の可能性があるというだけで中国には十分です。戦争を実際にやるのは下策(愚かな手段)です。むしろ、軍事力や経済力を使って相手国の意思をコントロールすることが重要なのです。
では、日本はウズベキスタンに対して、「意思をコントロールする手段」を持っているのでしょうか?
細かい周辺知識をいちいち挙げていると本質が見えなくなるのでズバリ申し上げますが、日本は内陸国に対して、意思をコントロールするための手段を何も持っていないのです。
ここで思い出してほしいのは、地政学の法則です。
日本は、対外的には「シーパワー」(海洋国家)であることは間違いありません。国境が全て海上に存在することがその根拠です。
それに対して、ウズベキスタンなどの中央アジア諸国は「ランドパワー」(大陸国家)です。
こういったランドパワーの国の意思をコントロールするための最も効果的な手段は、「陸軍力」です。要するに、言うことを聞かなければ、おまえの国を叩きつぶすと脅すことです。
航空戦力や核ミサイルでもいいのではないか、と思ってしまいそうですが、それは正しくありません。制空権を取り、大規模な爆撃を行っても、その国の生産手段や国民をコントロールすることはできません。核ミサイルを使っても、放射能汚染や諸外国からの非難というデメリットがあるので、同じことです。
当たり前ですが、陸軍力は、陸地を接していないと使用できません。その国との間に広大な砂漠や急峻な山脈があれば陸軍力を用いることが難しくなりますが、道路の拡幅や鉄道の敷設でかなりの程度カバーすることができます。だから、ランドパワーの国は鉄道や高速道路が大好き(ロシアとシベリア鉄道を思い浮かべればすぐにわかる)です。
これを上に挙げた中央アジアの状況に当てはめてみると、中国は中央アジア諸国をコントロールし、権益を維持発展させるための条件を満たしていますが、日本にはそれが全くないということは簡単にわかるでしょう。
日本が権益を持つべきなのは「海」や「港」です。そうしておいて、離れた地域同士を海運で結びつける、もしくは、自国に資源を導いて付加価値をつけて転売するというのが、シーパワーの王道です。ギリシャのアテネ、中世のベネチア、近代のイギリス・・・小さな国土しか持たない海洋国家が発展してきたことが、その何よりの証拠です。
その一番の障害になるのが、ランドパワー国家が遠隔地を一本の交通手段で結ぶことです。なぜなら、そういう交通手段が出来てしまうと、シーパワーの利益の源泉である、海洋経由の「中間マージン」(イギリス型)や「付加価値の付与」(日本型)が発生しなくなってしまうからです。
だから、シーパワーが取るべき戦略は、ランドパワーを分断しておき、そのような交通手段を作らせない・利用させないことです。
たとえば、第一次大戦前に、ドイツがオスマン・トルコ領内を通る「バグダード鉄道」を敷設しようとした時、イギリスは宿敵フランスと「英仏協商」を結んで、フランスとロシアにドイツを挟撃させようとしました。以前の記事でも書いたような、ランドパワー同士を相討ちさせるという戦略を見事に実行したわけです。
甘利大臣のウズベク・カザフ両国訪問が、中国に対する牽制であるという可能性はあります。しかし、それならばインドやイランを使った方が効果的です。むやみに中央アジアにお金を落とさない方がいいでしょう。現地に大規模な生産設備や日本人居留地のような「権益」を持つに至っては論外です。
日本企業が巨額の投資を行ったところを、根こそぎランドパワーに持って行かれるという失敗は、満州国がよい例です。
日本は、旅順という後背補給港があったにも関わらず、満州国の権益を守り通すことができませんでした。周りが敵だらけで、長大な国境線を守らなくてはいけない・・・周りが海しかない日本には、もともと向いていなかったのです。
もし、何とかして世界恐慌後の不況を脱したかったなら、同じシーパワーであるイギリス・オランダのアジア権益を狙った方が賢明だったでしょう。マラッカ海峡とマリアナ諸島だけ押さえておけば、この地域の権益は守ることができるからです。
この考えは、現代においても当てはまるはずです。ランドパワーが有利な土俵で戦いを進めてはいけません。
とりあえず原油や天然ガスを利用しながら、「風力発電」「太陽光発電」「波力発電」「海洋温度差発電」といった、シーパワーに有利な発電方法を発展させ、高度な技術が必要な燃料電池を実用化レベルに持っていき、内陸国の石油権益を相対化する方向へ向かわなければいけません。
そうすれば、おのずと道は開けるでしょう。政府やマスコミも、そういうことをもっと盛んに宣伝してほしいものです。そうすれば、日本国民ももっと未来に夢を持つことができると思うのですが・・・。
経産相とウズベキスタン首相が声明、資源開発で関係強化へ
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20070428i112.htm?from=main1
--------以下引用--------
ウズベキスタン訪問中の甘利経済産業相は28日、同国のミルジヨエフ首相と会談し、ウランや石油、天然ガスなどの資源開発や技術協力の面で関係強化することを明記した共同声明を発表した。
声明では、日本企業によるウズベキスタンへの投資を促すため両国官民による「ビジネス・投資環境改善ワーキンググループ」を設けることを盛り込んだ。
一方、独立行政法人の石油天然ガス・金属鉱物資源機構とウズベキスタン政府がウランなどの探査・開発で協力を進めることなど、3件の覚書を両国の官民が交わした。
甘利経産相は29日、ウラン埋蔵量で世界第2位のカザフスタンを訪れ、同国のナザルバエフ大統領と会談する予定だ。
--------引用以上--------
「ウズベキスタン」「カザフスタン」という、おそらくみなさんに耳慣れない国名が登場しました。
上の二カ国はいわゆる「中央アジア」に位置する国です。
この地域の特性を簡単にまとめると、二つのポイントがあります。
1.トルコ系のイスラム教徒が多数派である
2.かつてソビエト連邦の一部だった
この地域は8世紀半ばにイスラム王朝であるアッバース朝の支配を受けて以来、支配的宗教はイスラム教でした(1.)。ところが、1552年にロシアがカザン・ハン国を併合して以降、ロシアの勢力が拡大し、それがそのままソビエト連邦に受け継がれたわけです(2.)。
ソ連は社会主義国家であり、社会主義(マルクス・レーニン主義)の中核思想は「無神論」でした。当然中央アジアにおける教育にもこの考えが持ち込まれました。今でも他のイスラム教国、たとえばサウジアラビアやイランに比べて、社会全体の宗教色は薄いです。
この地域は、1991年のソ連崩壊以降、一貫してロシアの影響から抜けだそうとしています。その際、国策として天然資源開発が組み込まれており、欧米の企業がたくさん進出しています。
今回の甘利大臣の訪問も、当然日本の資源戦略の一環でしょう。
では、日本は中央アジアでの資源開発に成功するでしょうか。
結論から言えば、あまり期待しない方がいいというのが私の考えです。
ところで、中央アジア二カ国の特性として、上で私が触れなかったことがあります。それは、
3.内陸国である
という点です。
そんなの地図を見りゃあわかるだろ、という声が聞こえてきそうですが、これは決定的に重要なことなのです。
上の地図で、もう一度ウズベキスタンを見てみて下さい。隣接している国全てに、ある特徴があります。何だかわかりますかね?
アフガニスタン、カザフスタン、トルクメニスタン、タジキスタン、キルギスタン・・・スタンスタンうるせえと言いたくなります(ちなみに「スタン」はペルシア語起源の単語で「国・地域」という意味)が、ここに挙げたのは全て内陸国です。つまり、ウズベキスタンは内陸国に囲まれた内陸国なのです。
ここから、日本にとって非常に重大な問題が持ち上がるのです。それは、資源をどうやって日本に運んでくるかというものです。
ウランや石油、天然ガスなどの資源を、飛行機に乗せて運んでくるわけに行きません。そんなことをしたら、運ぶ度に損失が生じてしまいます。
それなら、陸路で輸送して、船に乗せようということになるわけですが、これが非常に困難な方法なのです。
一番近いのは、ウズベキスタンからアフガニスタンを通り、パキスタンの「カラチ」という港まで運んでくるルートです。
アフガニスタン・・・何年か前にたびたび耳にした国です。今あの国はどうなっているんでしょうか。
アフガニスタンの治安現況
http://www.jiji.com/jc/c?g=saf2&k=2007042600654
--------以下引用--------
(1)アフガニスタンについては、首都カブール、ジャララバード、ヘラート、バーミアン、マザリ・シャリフ各市内に対して危険情報「渡航の延期をお勧めします。」を、これらを除く全土に対して危険情報「退避を勧告します。渡航は延期してください。」(「退避勧告」)を発出するとともに、スポット情報において、累次にわたりテロや誘拐の脅威について注意を促しています(2007年4月19日付けスポット情報「治安情勢」等)。
(2)3月4日にヘルマンド県でタリバーンに拉致されたイタリア人ジャーナリストが同月19日に解放されましたが、同解放は、アフガニスタン政府に拘束されていたタリバーン関係者の釈放と引き替えに行われた旨報じられました。さらに、4月3日にはニムローズ県でフランス人NGO活動家2人とアフガン人職員3人がタリバーンに誘拐されました。今後、タリバーン等の反政府勢力が、被拘束者の奪還に向けてさらに外国人を誘拐する可能性が指摘されており、日本人を含む外国人が誘拐の標的になる可能性は排除されないことから、特に東部については、より一層の注意が必要です。
(3)また、昨年の事例を踏まえれば、アフガニスタンでは雪解けが始まる春以降にテロリストの活動が活発化しており、今後は治安がさらに不安定化することも懸念されます。さらに、これまで外国人を標的とした誘拐事件や、日本のNGOのアフガニスタン人職員が搭乗した車両に対する銃撃事件が発生しており、日本人も誘拐やテロなどの標的となる可能性は排除されません。首都カブールにおいても多くのテロ事件が発生しているほか、昨年以降、全土で自爆テロ事件の発生が顕著になっており、本年1~3月期に発生した自爆テロは昨年同期の約4倍に当たる41件にのぼりました。
--------引用以上--------
>1~3月期に発生した自爆テロは昨年同期の
>約4倍に当たる41件
こんなところで、石油パイプラインを建設したり、ウランを輸送したりしたら、何が起こるかは、小学生でも想像できます。
かりに、アフガニスタンが何とかなったとして、パキスタンはどうでしょうか。たとえば、こんな資料があります。
中国とパキスタンの反テロ合同軍事演習「友情2006」
http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2007/01/post_2651.html
もう、タイトルだけで雰囲気が掴めますね。要するに、この国は中国の影響下にあるのです。
日本の資源外交を中国が助けてくれる、などと思っているお人好しは、訪日した温家宝の演説を「名前の通り温かい」だの「歴史的な名演説」だの、わけのわからないお世辞を言っている馬鹿共(●こちらのブログを参照)くらいでしょう。当然、横やりが入るに決まっています。
ところで、中国といえば、資源に飢えているとしかいいようのない行動を世界各地で展開しているのは有名です。
当然、中央アジアの石油・天然ガスも狙っており、すでに着々と地歩を固めているようです。
カザフスタン=中国間の原油パイプラインが建設開始(PDF)
http://oilresearch.jogmec.go.jp/enq/frame.php?lurl=/information/pdf/2004/0406_out_j.m_kz.cn_oil_pl.pdf
このニュースが出たのが2004年5月です。建設はかなり進んでいると思われます。
それ以上に、重要なのが以下のリンクの内容です。
中国と中央アジアを結ぶ「新シルクロード」建設
http://www.china.org.cn/japanese/244086.htm
--------以下引用--------
現在、中国国内では、連雲港から新疆ウイグル自治区のホルゴスまでの幹線道路がすでに全線開通しており、「新シルクロード」中国区間の整備はすでに完了している。中国とタジキスタンを結ぶ中国―タジキスタン自動車道路も開通しており、中国―キルギスーウズベクスタン自動車道路の建設工事もすでにスタートしており、タジキスタンーキルギス間およびタジキスタンーウズベクスタン自動車道路の建設および改造プロジェクトについても合意に達しており、カザフスタンを東から西へと横断する国際基準レール鉄道、中国―キルギスーウズベクスタン鉄道などのプロジェクトも前後して交渉のテーブルのテーマとなっている。
--------引用以上--------
この新シルクロードとやらが持つ意味を見逃してはいけません。
道路で国同士が結ばれるということは、両国の交流が活発になるということだけを意味していません。裏返しとして、有事の際に、隣接国に軍事力を投射できるという利点があるのです。
三つ前のリンクにある中国・パキスタン間の合同軍時演習の目的が「反テロ」であることを、みなさんはどう考えたでしょうか。
中国は、●「東トルキスタン」の分離独立問題を抱えています。
この地域を完全に中国に同化するために、女性は強制中絶、男性は政治犯として処刑しまくっています。そして、中国国内では、この問題にに起因するテロ行為や暴動が起こっているという話を聞きますが、中国当局は自分に都合の悪い情報は徹底的に握りつぶしており、日本や欧米には正確な情報が伝わってきません。
しかし、この問題は中国にとってはかえって「チャンス」でもあるわけです。なぜなら、東トルキスタンのウイグル人は「トルコ系イスラム教徒」であり、隣接国であるなんとかスタンに逃げ込んだテロリスト討伐という名目で、これらの国々に軍事力を差し向けることが可能だからです。反テロを錦の御旗にして世界中を荒らし回っている困った国が、こういう名目を使ってもいいよという風潮を作り出してしまったわけですが・・・。
つまり、仮になんとかスタンの国々が、中国と敵対する、もしくは、中国が敵対している国に協力するということになれば、「反テロ」を名目に人民解放軍が侵入し、権益の維持を図ることができるということです。
実際には、そのような中国による侵略の可能性があるというだけで中国には十分です。戦争を実際にやるのは下策(愚かな手段)です。むしろ、軍事力や経済力を使って相手国の意思をコントロールすることが重要なのです。
では、日本はウズベキスタンに対して、「意思をコントロールする手段」を持っているのでしょうか?
細かい周辺知識をいちいち挙げていると本質が見えなくなるのでズバリ申し上げますが、日本は内陸国に対して、意思をコントロールするための手段を何も持っていないのです。
ここで思い出してほしいのは、地政学の法則です。
日本は、対外的には「シーパワー」(海洋国家)であることは間違いありません。国境が全て海上に存在することがその根拠です。
それに対して、ウズベキスタンなどの中央アジア諸国は「ランドパワー」(大陸国家)です。
こういったランドパワーの国の意思をコントロールするための最も効果的な手段は、「陸軍力」です。要するに、言うことを聞かなければ、おまえの国を叩きつぶすと脅すことです。
航空戦力や核ミサイルでもいいのではないか、と思ってしまいそうですが、それは正しくありません。制空権を取り、大規模な爆撃を行っても、その国の生産手段や国民をコントロールすることはできません。核ミサイルを使っても、放射能汚染や諸外国からの非難というデメリットがあるので、同じことです。
当たり前ですが、陸軍力は、陸地を接していないと使用できません。その国との間に広大な砂漠や急峻な山脈があれば陸軍力を用いることが難しくなりますが、道路の拡幅や鉄道の敷設でかなりの程度カバーすることができます。だから、ランドパワーの国は鉄道や高速道路が大好き(ロシアとシベリア鉄道を思い浮かべればすぐにわかる)です。
これを上に挙げた中央アジアの状況に当てはめてみると、中国は中央アジア諸国をコントロールし、権益を維持発展させるための条件を満たしていますが、日本にはそれが全くないということは簡単にわかるでしょう。
日本が権益を持つべきなのは「海」や「港」です。そうしておいて、離れた地域同士を海運で結びつける、もしくは、自国に資源を導いて付加価値をつけて転売するというのが、シーパワーの王道です。ギリシャのアテネ、中世のベネチア、近代のイギリス・・・小さな国土しか持たない海洋国家が発展してきたことが、その何よりの証拠です。
その一番の障害になるのが、ランドパワー国家が遠隔地を一本の交通手段で結ぶことです。なぜなら、そういう交通手段が出来てしまうと、シーパワーの利益の源泉である、海洋経由の「中間マージン」(イギリス型)や「付加価値の付与」(日本型)が発生しなくなってしまうからです。
だから、シーパワーが取るべき戦略は、ランドパワーを分断しておき、そのような交通手段を作らせない・利用させないことです。
たとえば、第一次大戦前に、ドイツがオスマン・トルコ領内を通る「バグダード鉄道」を敷設しようとした時、イギリスは宿敵フランスと「英仏協商」を結んで、フランスとロシアにドイツを挟撃させようとしました。以前の記事でも書いたような、ランドパワー同士を相討ちさせるという戦略を見事に実行したわけです。
甘利大臣のウズベク・カザフ両国訪問が、中国に対する牽制であるという可能性はあります。しかし、それならばインドやイランを使った方が効果的です。むやみに中央アジアにお金を落とさない方がいいでしょう。現地に大規模な生産設備や日本人居留地のような「権益」を持つに至っては論外です。
日本企業が巨額の投資を行ったところを、根こそぎランドパワーに持って行かれるという失敗は、満州国がよい例です。
日本は、旅順という後背補給港があったにも関わらず、満州国の権益を守り通すことができませんでした。周りが敵だらけで、長大な国境線を守らなくてはいけない・・・周りが海しかない日本には、もともと向いていなかったのです。
もし、何とかして世界恐慌後の不況を脱したかったなら、同じシーパワーであるイギリス・オランダのアジア権益を狙った方が賢明だったでしょう。マラッカ海峡とマリアナ諸島だけ押さえておけば、この地域の権益は守ることができるからです。
この考えは、現代においても当てはまるはずです。ランドパワーが有利な土俵で戦いを進めてはいけません。
とりあえず原油や天然ガスを利用しながら、「風力発電」「太陽光発電」「波力発電」「海洋温度差発電」といった、シーパワーに有利な発電方法を発展させ、高度な技術が必要な燃料電池を実用化レベルに持っていき、内陸国の石油権益を相対化する方向へ向かわなければいけません。
そうすれば、おのずと道は開けるでしょう。政府やマスコミも、そういうことをもっと盛んに宣伝してほしいものです。そうすれば、日本国民ももっと未来に夢を持つことができると思うのですが・・・。