げんかつぎ

急いでいた。
歩を早める。流れに乗ってスムーズに上昇。
しかし、順調に進んでいたはずの右側の流れが止まる。
片足を上げたまま、釈然とした気持ちを持て余す。

なぜだろう、世のお年寄り諸君。
なぜエスカレーターを降りる間際になって、その歩みを止めるのだ。
落着き払ったその態度は、暗黙のうちに何か語りかけてくるが、聞く耳を持てない。
急いては事を仕損じる？　踏み外すことはないはずだ。
人の道を踏み外してもいいとは思えても……

慎重に踏み出す一歩の位置とタイミングを定めている、そう考えれば、いたわる気持ちがないでもない。
しかし、私が密かに抱いている疑念は、左足で着地することを心に決めています！といった「げんかつぎ」や「ジンクス」ではないか？というものだ。
そう考えると、腹立たしくありませんか？
……え？…そう考えることが、腹立たしい？

そうですね。

お年寄りと地球にはやさしくありたい。
つまり弱っているものを大切に。
　「これからは自分に厳しくありたいです」


【豆知識】
「げん」は「縁」と書き、「縁起（えんぎ）」を逆に読んだ「ぎえん」　の略語である。