relaxin's

思いついたままに。気が向くままに。

若気の至り 2

2005年12月04日 03時12分35秒 | こらむ
「無関係」

頭が重い。
電車の振動がやけに響く。やけに鈍く。
車内には、運命のギロチンを首から下げた背広たちが、群れのように犇めき合っている。
皆、一様に無表情だ。それはもちろん生きるためだ。死んだように生きるためだ。
瞼を重みにまかせて閉じていき、半眼のところで支える。現実から焦点をぼかすことで、バランスをとる。流れては消えていく窓の外の風景を追いかけたりはしない。
すべての意識を曖昧な領域へと追い込み、漂わせる。ふいに、昨晩見た夢の断片が脳裏に浮かび上がったが、焦点は合わない。
眠ってはいない。目覚めてもいない。ただ曖昧な領域に漂っているだけ。ゆっくりと息を吐き出す。

新宿、のアナウンスの声で目を開く。殺伐とした現実がまた始まる。人の波に押されて改札を出たものの、目的地がない。探す気もない。
世界中の何処にも目的地がない状態って一体なんだろう。――そこまで考えて止めた。
ひとまず居場所だけは確保したい。居場所があるなら、さしあたって自殺する理由はない。新宿の息づかいを感じる。まだ大丈夫だ。出口を目指す。

出口はまた入り口でもある。混沌とした世界への入り口。そこには、あらゆる刺激を促すイメージに溢れている。だが、イメージが重なり過ぎてイメージにならない。心音と雑音との波長の緊張関係が、重なり合い、均衡が乱れはじめる。軽い目眩を覚えながら歩き出す。

新宿という街は、五感の中でも特に臭覚を刺激する。得体も数も知れない様々なものが交じり合った臭いの中に、人間のそれは感じられない。人間が生きるための目的を探す街ではない。手段を探す街だ。
信号待ちをしながら、ビルに囲まれた狭い空を見上げる。やけに遠くに感じる。
意識しないままに人並みに呑まれている。歩き続ける理由はないが、立ち止まる理由もない。そもそも目的がないのだから、理由などないのだ。ただ流されていけばいい。思考を停止させ、感覚を研ぎ澄ませて。

すれ違う人間はすべて、もう二度と会うことはない。それが運命というものだ。
関係性を断たれた接近と離別、関係のない商品の山、無関係な快楽への誘い。孤独を実感するのにこれ以上の街はない。ビルの窓ガラスに反射した夕陽の光が視界を奪う。影を見失う。

一人の浮浪者が、口笛を吹きながら目の前を通り過ぎていく。音は掠れていたが、曲は「ふるさと」だった。よれた背中を目で追いかける。あの男は死に場所を探している。

「これからどこに行くんだ」
信号を待ちながら、隣にいた女子高生に話しかける。お互い信号機の赤い光を見つめたまま、視線は動かさない。
「別に」…あんたに関係ないじゃん。
横顔に一瞬触れた女の視線を無視する。クチャクチャとガムを噛む音が耳に障る。
「いくらだ」
横目だが確かな視線になる。顔から着ている服へと動く。靴まで下りる。
「三万」
信号が青に変わる。


最新の画像もっと見る